3 猛将たちの確定申告 〜帳簿の槍で敵を突け〜
墨俣での「低コスト・高効率」な築城が信長様の逆鱗……ではなく、琴線に触れた結果、俺の机の上には山のような書状が積まれていた。
それも、ただの報告書じゃない。織田家宿老たちの「領地経営の赤字報告」だ。
「おい、小一郎! お前、算盤の化け物なんだろ? 俺の領地の年貢が、どう計算しても合わねえんだ。なんとかしてくれ!」
土足で部屋に踏み込んできたのは、織田家筆頭家老、「瓶割り柴田」こと柴田勝家様だった。
戦場では無敵の鬼柴田も、複雑な「石高」と「蔵米」の計算の前では、ただの困り顔のおじさんである。
「勝家様、失礼ですが帳簿を拝見します。……ふむ、なるほど。これはひどい」
1. 柴田領の「在庫管理」デバッグ
俺は勝家様が持ってきたボロボロの台帳を、一瞥しただけで問題点を見抜く。
問題: 兵糧の「腐敗ロス」が全体の20%を超えている。
原因: 湿気の多い場所に米を積み上げ、先入れ先出し(FIFO)ができていない。
解決策: 床高式の倉庫建設と、搬入日を記した「木札」による管理の徹底。
「勝家様。これをやるだけで、来年の戦費が二割浮きます。浮いた分で、新しい馬が買えますよ」
「な、なに……!? 槍を振らずに馬が手に入るというのか!?」
勝家様が感動に震えていると、背後から別の影が忍び寄る。
柴田勝家様が「在庫管理」の重要性に開眼して去っていった後、入れ替わりで執務室に入ってきたのは、信長様の厚い信頼を受ける重鎮、森三左衛門可成様だった。
「小一郎殿……折り入って、耳に入れておきたい儀がある」
普段は戦場で「攻めだ、攻めろ!」と豪快に吠える三左衛門様が、なぜか消え入りそうな声で、風呂敷に包まれた大量の竹札を差し出してきた。
2. 森三左衛門の「福利厚生費」パンク事件
「……これは、森家軍団の『負傷者リスト』と『見舞金』の記録ですか?」
俺が中身を確認すると、三左衛門様は苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。
問題: 森軍団は「攻めの三左」の異名の通り、常に最前線。必然的に怪我人が多く、その治療費と、戦死した家臣の遺族への扶助(現代でいう遺族年金)が家計を圧迫。
現状: 三左衛門様の個人資産(知行)では、これ以上の「アフターケア」が不可能になり、精強な森軍団が破綻の危機にある。
「槍を振るうことなら誰にも負けぬ自信がある。だが……倒れた部下たちの家族を養えぬとなれば、俺は主君として失格だ。小一郎殿、俺の槍を売ってでも、奴らに金を回したい。どうすればいい?」
武士の鑑のような言葉だ。だが、武器を売るのは本末転倒である。
3. 小一郎の解決策:「共済制度」と「リハビリ雇用」
俺は三左衛門様に、新しい「組織運営」の形を提案した。
「三左衛門様。個人で抱え込むのは限界です。まず、森家独自の『傷痍軍人共済』を設立しましょう」
積立制度の導入: 平時から家臣たちの禄高から微量を積み立て、有事の際の見舞金原資とする。
リハビリ雇用の創出: 前線で戦えなくなった負傷者を「物流拠点の管理者」や「新兵の教官」として再雇用し、労働力として循環させる。
医療のバルク買い: 薬草の仕入れを一括で行い、コストを削減する。
「戦えない者を捨てるのではなく、別の『職務』を与えるのです。事務や教育なら、片腕を失っても勤まります」
「……職務、だと? 戦えぬ者に、新たな役割を……。そうか、小一郎殿、それは『慈悲』ではなく『合理』なのだな!」
三左衛門様の目が、戦場でのそれと同じ鋭さを取り戻す。
彼は算盤の仕組みを理解したのではない。「数字を使えば、部下を救える」というロジックを理解したのだ。




