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第3話

次に連れていかれた店は、さっきの居酒屋よりも明るかった。

パステル色の照明に、やけに前向きなBGM。

明るさが少しだけ無理をしている。


大輔は遠慮なく扉を開け、そのまま俺の背中を押した。


甘い匂いが重い。

バニラと花の香り。人工的な甘さだ。


女の子たちは整然と並び、

スカートはきれいに広がり、

笑顔は整っていて、どこか脆い。


カフェというより、丁寧に陳列された空間だった。

柔らかくて、少し壊れやすい。


「リラックスしろよ」

大輔が振り返る。

「ただのコンカフェだ」


俺はまだ納得していない。


奥の席へ通される。

大輔は慣れた様子で手を振る。常連なのだろう。


周囲では女の子たちが身を寄せ合い、低く甘い声で話している。

一人はパフェをかき混ぜ続けていた。食べるためではなく、崩れていくホイップを眺めるために。

黒いサテンのリボンで結んだツインテール。

ピンクのアイシャドウと赤いラインで縁取られた目は、泣いた後にも、これから泣く直前にも見えた。

たぶん、その曖昧さが正解なのだ。


別の子はレースの袖口を整えながら、

友達の笑い声に一拍遅れて笑う。

合図でもあるみたいに。


壁の鏡がすべてを拾い上げ、

角度を変えて返してくる。

親密さまで、きちんと包装されている。


「……どこ連れてきたんだ」


「コンカフェだって。心配しすぎ」


大輔がソファへ押し込む。


「コンセプトは?」


「まだ模索中らしいぞ」


コンセプトのないコンカフェは、ただの迷子だ。


やがて、一人の女の子がテーブルに近づいてきた。


「いらっしゃいませ」


練習された笑顔。

努力は見えないようにするタイプのやつだ。


「りかです」


二十歳前後。

柔らかいアッシュブラウンの髪。

制服は体の線を少しだけ強調する。

ストッキングは膝のあたりがわずかに伝線していた。

気づいていないのか、気にしていないのか。


名乗ると同時に、自然な動きで隣に座る。

膝が触れ、そのままだ。


大輔が肘で小突く。


「東京から戻ったばっかなんだ。優しくしてやってくれ」


何か耳打ちして、さっさと立ち上がる。


「壊すなよ」


肩を叩き、消える。


りかはそれを見送り、ゆっくりこちらを見る。

笑顔が変わる。消えたわけじゃない。

少しだけ、選び直された。


「東京なんだ」


「まあ」


「楽しくなさそう」


即答。


「そんな顔してるか」


「してる」


さらりと言う。


距離がさらに縮まる。

香水の甘さが近い。


「仕事は?」


「医者だった」


「へえ」


上から下まで一瞬で見る。


「医者っぽくない」


「どんなふうに見える」


首を傾ける。

じっと見る。


「正直? 不安定」


少し笑う。


言い返せない。


「健一」


名乗るのが遅れる。


気づけば、おしぼりをねじっていた。

慌てて置く。


彼女は見ていた。


「力入りすぎ」


手首に軽く触れる。

止めるだけ。


「ここに来る人、だいたい何か隠してる」


肩をすくめる。


「あなたは、隠すの下手」


それからは、軽い話題。

好きな音楽。

写真のためだけに頼むスイーツ。

この町の狭さ。


笑うとき、少し体が触れる。

離れない。


時間が溶ける。


「学生なのか」


「うん。バイト」


「専攻は」


「未定。帰宅部部長」


少し笑う。


気づけば大輔がいない。


「トイレ……じゃなかったのか」


「とっくに帰ったよ。二十分くらい前」


グラスは空。

曲も変わっている。


「ちゃんと聞いてくれた」


彼女が言う。


「珍しい」


耳元に近づく。


「だから、もう少し一緒にいよ」


閉店の声が流れる。


「気づかなかった?」


気づいていなかった。


立ち上がり、袖を引く。


「行こ」


「どこに」


笑う。


「落ち着けるとこ」

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