6・薮坂光
朝10時原宿側の鳥居に立っていると、おかっぱボフで色白、猫目顔系の垢抜けた女性が近づいて来た。
「工藤さん、おはようございます」
「あぁ、あなたが薮坂光さん?」
「ひかりです」
「すみません、男性かと思ってました」
「どっちにも使える名前ですからね」
「先日はお世話になりました」
「あぁ、どうでした?」
「麺も奥が深いですね。凄く凄ぉーーく勉強になりました」
ついこの前の事だ、大手うどんチェーン店の優秀な社員5人が、その道で有名な工藤製麺所に5日間勉強しに来た。他の4人は親父に付いていたが、この子はラーメン長寿庵の麺を全て担当している工藤に、5日間フルに食らいついていたので覚えている。
(確か「北目黒店長」っと呼んでたっけな?そう言えば名前聞かなかったな・・・)
確か独立して店を持ちたいと話していたかな?
勉強家らしく、毎週欠かさずラーメン長寿庵に行っていると言う事だった。
あのグリーンラーメンが衝撃で素晴らしかった。っと熱く語っている。
「ラーメン長寿庵の店主が求めている塩ラーメンを、ぜひ一緒に探させて下さい!」っと熱いラブコールを受けてしまった。
彼女は独立しようと決意しつい5日前に退職し、現在は有給休暇消化中なので時間はたっぷりあるそうだ。
「急に独立しようと決意したんですか?」
「30歳までには絶対に独立しようと思っていたんです。28歳になったので、もうここで踏み出してみようと思いました、ダラダラ伸ばしても意味は無いですから。まぁ、これから店舗探しですけど・・・何とかなります!たぶん・・・」
「なるほど。でも実家はうどん屋って言ってましたよね?」
「はい、そっちは兄が継ぎます。私は自分の店を開きたくてチェーン店のうどんを勉強しました」
「チェーン店のうどん・東京の駅蕎麦・駅うどんは馬鹿に出来ないレベルですからね。とても勉強になりますよね」
「そう!そうなんですよ!機械を上手く使えば身体に負担も掛からず安定して安く美味しい物が出来ますからね。もちろん古いやり方を否定するという事ではありませんよ?」
「うちもかなり機械化してますからね。でもノウハウは大事ですね。まぁそれも標準化すれば良いんですけどね」
「ちょっと入力データが多いですよね。気温湿度などもありますから。人間はそういう膨大な情報を一瞬で判断しますからね。職人の感覚って凄いですよね」
「そんなデータベースは私の代には作りたく無いかなぁー」
「ところで工藤さんはいくつですか?」
「何が?」
「歳ですよ!歳!女性の歳を聞いといて自分はナイショとかありえないんですけど?」
(光さんの歳は俺から聞いていないけど?)
「今年30歳になりましたよ」
「あぁ、じゃあピッタリですね!問題ありません!」
「ん?」
「こっちの話です。あっ連絡先交換しましょう!スマホ良いですか?」
「あっ、はい」
何か光のペースに引きずられてしまう・・・
連絡先を交換し朝食がまだと言う事なので渋谷公会堂方面に歩き、ハンバーガーショップに入る。
さすがにこの時間は空いている。
「幸子さんですが、財産を全部処分して小田原のお高い施設に入居しています。ちょっと最近は認知が入っているらしいです」
「子供は居ない?」
「辛一さんだけみたいです」
「認知か・・・でもとりあえず会ってみないとな」
「15時に面会予約済みですよ」
「えっ!?、じゃあこれ食べて向かおうか?」
「小田原は近いからそんな急がなくても良いですけどね。車出しましょうか?」
「じゃあお願いするよ」
「ちょっと助手席狭いですけど我慢して下さい。MTは1名乗車ですけど、ATは2名なんですよー!凄いでしょ?」
「えーっとミゼット2カーゴでしたっけ?」
「はい!」
「・・・自分が車を出しますね」
「そおですか?」




