4・196X年
タンブリンオーイェー♩
ユーキャンジャイブ♫・・・
2階の大学生の男の部屋のラジオから洋楽が聞こえている。
いつも何とか主義など、よく分からない事を言っている男だ。洋楽は好きらしく良く聞いているようだ。
部屋のドアからは音と共に寒い風が入ってくる。
僕は部屋の隅で毛布を抱えてうずくまっている。
学校も行かなくなった。
僕は何をしているんだろう。
誰なんだろう?
佐々木・田中・佐藤・・・何年かごとに住む場所と母親の男と共に変わっている。
辛一って名前は変わらないから、たぶん僕はシンイチなのだろう。
ドアが開く音がする。
女の嬌声と共に音の太い声がする。
「寒いから今すぐ作りますね!」
ガタッ!
襖が開き派手な女が俺を見下げている。
「ほらよ!」
女が何かを投げた。
僕はそれを見て急いで拾った。
あんぱんと大好きなクリームパンだ。
三角の牛乳もこれまた大好きなアルファベットチョコが3粒ある。
さすが母さんだ俺の好きな物を知っている。
俺はそれらを味わって食べた。
2日ぶりに食べた食べ物は直ぐに栄養になって行く感じがする。
頭がすっきりして身体が暖かくなり力が湧いてくる気がする。
クリームパンとチョコは本当に美味しい。
でも、僕はもっともっと美味し物を知っている。
母さんの塩ラーメンだ。
男に鍋を出した次の日には必ず僕に作ってくれる。
母さんの得意メニューだと思う。
今日の夜、母さん達は鍋だから明日はラーメン作ってくれるかな?
◾️◾️◾️◾️
「幸子行ってくるぞ!」
「タキさんほら、朝はせめてお茶漬けでも食べないと!」
「時間無いから要らん、じゃあ行ってくる」
「はぁ〜い頑張ってくださいね」
タキと言う男が出かけたようだ。
(先週はあーさんとか言う人だったな)
しばらくすると襖が開く。
母さんが俺を見て「早く食いな!」っと怒鳴る。
ラーメンだ!
伸びたら不味いから早く食べなきゃ!
ちゃぶ台に乗った丼を覗く。
透き通った塩ラーメンだ。ちょと上に乗ったすりごまがとても良い匂いだ。
「いただきます!」
夢中で食べた。
お店じゃないから毎回全く同じ味って訳じゃ無いけど、とにかく凄く美味しい。日本一いや、世界一、宇宙一美味い!
お腹がいっぱいになったから、また毛布に丸まって寝ることにする。
ぐっすり寝れそうだ。
◾️◾️◾️◾️
男女の怒鳴り声で目が覚める。
窓の外を見ると暗い。もう夜みたいだ。
2人の男が母さんに何か言っている?
「幸子は俺と一緒に行くのか!こんな無職の若造が良いのか?」
「もちろんヤブサカさんと行きます!」
「おい、幸ふざけんなぁ!」
「何が活動家よ!スターリンだかノータリンだか知らないけど、私は分から無いのよ!思想で腹は膨れないの!わかる?金稼ぎなよ!」
「行きましょうヤブサカさん!」
「アカのにいちゃんまたな!せいぜい夢を語っててくれ!」
「何だと!セクトのソルジャーを舐めるな!」
カッ!ガッ!!ドッザッ・・・
何かが激しく打ち付けられる音がした。
暫くすると静かになったので覗いてみると、若い男が血を流し倒れていた。
そのポケットを探り財布を取り出し、中から青白い顔のおじさんの絵の500円札を、3枚抜いて財布を男に戻した。
警察に電話をして、部屋の奥に入り毛布を被って寝た。
朝起きると児童養護施設に居た。
朝ごはんにサッポロ一番塩ラーメンを食べたが、母さんの塩ラーメンの方が美味かった。
僕はそのまま高校まで、施設で暮らすようになった。




