11・泡沫
辛一さんの外出許可が出た。
車椅子に乗った辛一さんを、借りた介護車両に乗せ長寿庵に向かう。
駐車場に着き、携帯で光に到着の連絡をする。
辛一さんを店の中に入れ、テーブルの椅子をどけ車椅子を入れる。
光がラーメンを持って来る。
コトッ
テーブルに置く。
「どうぞ」
「この香りは!?、いただきます!」
辛一さんがフォークで麺を取り口へ運んだ。
「うっ!」
目を見開いた!
「美味い!これだっ!はっ、箸をくれ!箸だ!」
フォークを置き、箸を受け取るとものすごい勢いで食べ始めた。
食べ終わると車椅子で放心している。
「工藤ちゃん、光ちゃんこれは?」
「お母さんにレシピを聞いて私が作りました」
「お母さんは高齢で体調が悪くすぐに小田原の施設に帰りました、辛一さんにお引き合わせ出来ず申し訳ありません」
俺は辛一さんにフォトフレームを差し出す。
「?」
「お母さんから預かりました」
フォトフレームを受け取る。
「おっ!?、こりゃ小学校の入学式だな!母さんも若いなぁ」
写真を見て泣きながら笑っている。
心から嬉しそうだ。
ただ、さすがにラーメンの正体は分かったようだった。
俺たちもそれには触れない。
もう、どうでも良い事だからだ。
◾️◾️◾️◾️
それから3日後、辛一さんは息を引き取った。
弁護士が公正証書に基づいて遺産の処理をした。
店の痛んでいるところは全て改修し、他の財産と共に工藤に全て贈与となった。
辛一さんの遺骨だが、光のお爺さんが引き取り幸子さんと一緒に納骨した。
お爺さんには本当に心から感謝をしている。
俺と光はその後結婚した。
俺は相変わらず製麺所で麺を作っている。
光は例の場所でうどん屋をやっている。
木製の金文字長寿庵の看板はそのままだが、のれんは「うどん」になっている。
うどん屋長寿庵だ。
赤いキツネうどんはチリペッパートマト味。
緑のたぬきうどんは豚骨グリーン味。
大きなキツネうどんは、デカい揚げにうどんが入ったメニューで、餅が入った力うどんとカレーが入ったカレーうどんと、揚げ玉入りのタヌキツネの3種がある。
うどん長寿庵は超繁盛店になっている。
が・・・
毎月23日は、うどんの暖簾がラーメンの暖簾になる。
ラーメン長寿庵だ。
偶数月はグリーンラーメン、奇数月はチリペッパートマトラーメン。
いずれも限定60食のみだ。
価格はご苦労さまで596円!
辛一さんの月命日の23日に心を込めて作っている。
『辛一さんとの出会いに感謝しています、ありがとうございます』
END




