ヤンキーLOVE〜奇跡の恋〜
今日は七月一日。
最近は晴天ばっかりで寝るには絶好の日が続いている。
今日も晴天。
二度寝をするには最高の日だ。
「…ね……お……」
「…ねぇ……おきて…」
誰かがオレの体を揺すってる…
「……起きてってば…」
誰かがオレを起こそうとしてる…
だが起きたくない。
オレは二度寝がしたいのだ。
そしてオレは体を横にして「まだ寝たい」アピールをした。
「…ん〜‥ねぇ!早く起きなさーーい!!!」
ボコッ!!
「んぎゃぁ!!」
オレの脇腹にボコッと強烈パンチが炸裂した。
その瞬間、布団から跳び上がり、同時に思い切り目が覚めてしまった…
「…痛ぇなコラ!!何すんだよ!!」キレたような口調で叫んだ。
「何すんだって…お兄ちゃんが全然起きないんでしょ!!だから実力行使で起こしたの。」
とハキハキとした口調で堂々した態度で叱ってきたのは、
オレの妹の楓だった。
「なにも脇腹をパンチすることはないだろ!!」
寝起きを襲われたため通常よりダメージが大きかった。
「お兄ちゃん…まさかまた遅刻する気だったの?」
楓が冷たい目線でオレを見る。
「うっ‥い、いや今日は良い天気だから二度寝日和かなぁ〜って…」
オレは楓から目をそらした。
「はぁ…もうしっかりしてよ〜。これで何日連続で遅刻してんのよ。」
土日を入れなければ九日連続で遅刻中。
「今日は遅刻しないでちゃんと学校へ行ってよね。」
まるで母親のような雰囲気を出してる楓。
といっても家には両親がいない。
両親二人とも海外赴任で留守にしているのだ。
両親が帰ってくるのはお盆と年末年始ぐらい。
なのでほぼ1年中、楓と二人暮らしをしている。
主に家事全般は楓に任せっきり。
兄のオレが言うのもなんだが…
よく出来た妹である。
楓はオレの1歳下でまだ中学生。
ましてオレ、神谷竜司は高校1年だが、兄としての威厳は全く無い。
妹に世話をかけっぱなしだからだ。
「じゃあ早く支度してね。」
と言ってオレの部屋から出ていき一階へ下りて行った。
「…ふぅ、支度するかな。」
着替えるためにクローゼットへ向かおうとした時、
コツン!
「ん?」窓に何かが当たった音がした。
コツン!
コツン!コツン!!
コツン!コツン!!コツン!!
確実に石が窓に投げ付けられていた。
…こんなことをするのは奴しかいない。
ガラッ!!
窓を勢いよく開け下を見ると、道路で次の石を投げ付けようとする奴を発見した。
「秀虎〜、何してんだテメェ…」
「よう竜司!!おはよ〜ん。」
お気楽な態度で挨拶をしてきたこいつは西城秀虎。
小学校の頃から一緒の奴で、いわゆる悪友である。
その秀虎は手にハンドボール程の大きさの石を持っていた。
「テメェ…次はその石を投げようとしてたのか?」今にも窓から飛び降りてブン殴りたいオーラを満々に出して聞いてみた。
「ま、まさかぁ〜。さすがにやらねぇよ〜。冗談、冗談。」
秀虎はすぐに石を後ろに隠した。
ウソだな。
オレは一瞬で見抜いた。
こいつならやりかねない。
今まで何度家のガラスを割られたことか‥
「それより竜司〜、早く学校行こうぜ〜。」
「!?」
何をおっしゃってるんだコイツは?
まさか秀虎からそんな言葉を聞くなんて!!
秀虎はオレと同じ遅刻常習犯なのに…
…今日雪でも降るんじゃないかと思いつつ、窓を閉め登校の準備を始めた。
クローゼットを開け、学ランに着替えて頭をボリボリとかきながら一階へ下りて行った。
一階に下りると楓はすでに朝食を食べている最中だった。
テーブルにはトーストと目玉焼き、そして牛乳が置かれていた。
「…質素やな。」
ボソッと呟いた。
すると前の方から殺気を感じた…
前を見ると楓が鋭い目線でオレを睨みつけてた…
「…嫌なら……食うなーーーー!!!」
楓は目の前にあるトーストをフリスビー感覚で投げ付け、見事オレの口の中に入れた。
…天才かコイツ。
妹の新たな才能を発見したところで、足早に家を出て行った。
あのままあそこにいたらボコボコにされそうだったから…
家を出ると秀虎が待っていた。
「遅いぞ竜司!」
なんだかウキウキしている秀虎。
「なんだよお前、なんか今日変だぞ?」
ウキウキしているこのバカに聞いてみた。
「竜司知らないのか〜?」
「何が?」
「今日から新しい保健の先生が来るっては・な・し。」
「…は?」
なにを突然言い出すんだコイツは‥
「噂では超美人な先生なんだって!!‥楽しみだなぁ。」…そういえば秀虎は教師好きだった。
美人の先生がいればその先生のプロフィールやら何やらを徹底的に調べる奴だったな。
つまり美人教師フェチというやつだ。
「知らんかったな、新しい先生が来るなんて。」
そもそもオレには教師なんてまるっきり興味はない。
「まぁ竜司はヤンキーだからね〜。学校自体興味ないっしょ。」
「別に…」
「竜司は今や超有名ヤンキーになったからな。てか竜司に逆らう奴ってこの町にもういないんじゃない?」
「全然嬉しくないね。」
…そう
オレは世間一般では不良という部類に入っている。
昔から背が高く、目つきも悪かったらしく
小学生の頃からよく中学生や高校生から絡まれていた。まぁ全て返り討ちにしてやったが…
ちなみに現在の身長は187㎝。目つきは自分ではそんな悪くないと思っているが、周りは思ってないらしい…
「それにしても竜司のあだ名ってすごいよね〜。」
「…やめろ。」
「あだ名が『ヘルドラゴン』、直訳して『地獄の竜』だもんね〜。一体誰が付けたんだろ?」
「知るか!」
訳のわからないあだ名を付けられ、それが町中に広がり、みんなから恐れられるようになってしまった…
「竜司の通った道には屍しか残らないって噂もあるし。」
「なんだよそれ…マジ意味分かんねぇよ。」
「そんな噂があるから誰も竜司に近づかなくなっちゃったよね〜。」
高校に入学したら少しは平穏に暮らしたいと思っていたのに…
「…お前が入学式の日にオレのこと言い触らしたおかげで全てがパァーになったんだぞ!!!」
道の真ん中で怒鳴り声を発してしまった…
近くにいる人全員がこっちを向く。
「近所迷惑だぞ竜司。」
すぐさま秀虎がオレにふざけて注意をする。
しかし、それが無性に腹が立った。
「秀虎…テメェ…」
「わりぃ〜」
危険を察知した秀虎は一目散に逃げていった。
「待てコラァーー!!秀虎ーー!!」
オレもダッシュで秀虎を追う。
オレたちが通う高校は
平和町にある
「平和高等学校」
自宅から徒歩30分で行ける1番近い高校だ。
偏差値もさほど高くない高校である。
平和高校は8時45分までに登校しなけければならない。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
秀虎は以外に足が早い…
もともと陸上の推薦で平和高校に来たぐらいだ。
「ふぅ〜‥ギリギリ間に合ったね竜司。」「ハァ、ハァ…も、もう無理…動けん‥」
通常徒歩30分で着くところ今日は10分で着いた。
最高記録だ。
まず学校まで走ったことなかったけど‥
「ん?珍しいなお前らが遅刻せんとは。」
この上から目線で喋ってる奴は体育教師の墨田だ。
毎朝校門の前に立って遅刻者がいないかチェックしている。
墨田は今どきパンチパーマで結構似合ってない。
自分ではカッコイイと思っているらしいが…
周りからは「ダサ田」と陰で言われている。
「神谷に西城!やっと真面目になったのか〜?」
「たまたまだよ。あのバカを追いかけてたら間に合っただけ。」
「まぁなんにせよ間に合ったんだ。これから毎日間に合うようにしろよ!!」
「あぁ…んじゃな。」
墨田の話は軽く聞き流して教室へ向かった。
オレと秀虎の教室は1年5組。
1年は全部で7組まである。
7組ある中で秀虎と一緒のクラスなんて腐れ縁もいいとこだ。
教室に入るとまずみんながオレを見る。
いつもそうだ。
だがオレは気にしない。
オレの席は窓側の1番後ろ。
その前には秀虎。
ここでも一緒である。
「なぁ竜司。後で保健の先生見に行こうぜ!!」
目をキラキラさせて誘う秀虎。
「やだよ。めんどくせぇ。」
即答で答えた。
「えぇー!!!なんでぇ!?」
秀虎は悲しそうな顔をちかづけてきた。
「教師に興味ないって言ってんだろ。」
「ちぇ!つまんねぇ!!」
ふてった顔で秀虎は前を向いた。
すると前の席から一人の女がオレに向かってきて、
オレの前に立ち、口を開いた。
「あんたたちが遅刻しないって珍しいじゃない。」
ああ…もう一人腐れ縁の奴がいたな…
「今日氷でも降ってくるんじゃないの?」
「降るわけねぇだろバカ。」
小バカにした言い方でそいつに言った。
「なっ、た、たとえよバカ!!」
恥ずかしかったのか顔を赤くして声を抗える。
こいつは相川奈々(あいかわなな)。
秀虎と同じく小学校の時からの腐れ縁。
いつも強気でしかも運動神経抜群。
男には厳しく女には優しい。
世間的には奈々のことを「ツンデレ」と言っているが、オレは奈々の「デレ」のところを見たことがない。
けど奈々はルックスが良いということで男子からの人気が高い。
「……ねぇ、聞いてる?!」
「‥え?わりぃ聞いてなかった。」
「呆れた…ちゃんと聞きなさいよ!!」
ボーッとしてたから全然聞いてなかった…
「…で何?」
「だから七月七日の校内七夕祭についてよ!」
この学校は毎年七月七日に七夕祭という行事を行うらしい。
その際、各クラスで七夕にちなんだ出し物をやる。
でもぶっちゃけ七夕にちなんだ出し物なんて限られてる。
絶対他のクラスとかぶるね。
「竜司、あんた何かやりたいものある?」
奈々は座ってるオレを見下ろして問いかける。
「う〜ん………月見団子とか?」
パコーン!!
「あでっ!!」
「バカ!!月見は八月と九月よ!!」
オレの隣の席にあった筆箱で奈々はオレの頭を叩いた‥
筆箱の中には文具が沢山入ってるため結構固いから痛い。
「痛えなアホ!!」
「なによ!!あんたの頭の方がアホでしょーが!!」
「うるせーな!オレだって少しは真剣に考えたわ!!」
「少しって何よ!?本気でかんがえなさいよ!!」
…オレと奈々の口論が始まった。
まぁいつものことだからみんなは見慣れてる。
「まぁまぁ、お二人さん落ち着いて。」
秀虎が止めに入る。
「うるせぇ!!!」
「うるさい!!!」
バキッッ!!!
「ごう゛ぁ…」
秀虎がWパンチをくらう。
そのまま秀虎はKO…
これもいつもの風景。
キーンコーンカーンコーン…
口論している間に授業開始のチャイムが鳴り響いた。
「‥竜司!!放課後までにちゃんと考えときなさいよ!!」
「へいへ〜い…」
オレは軽い返事をした。
…そういや秀虎は?
「りゅ、竜司…」
まるでゾンビのようにフラフラに這いつくばっていた。
「…竜司‥頼みが‥ある‥」
「なんだよ」
「…保健室に連れて行ってくれ‥」
「勝手に行け。」