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宝箱の罠、そして肉


「あっ、宝箱がありますよ神様!」

「……なるほど、こういうパターンの部屋もあるのか」


 ユナとのダンジョン攻略が始まり、いくつか部屋を進むと、金・銀・銅の三つの宝箱が並ぶ部屋へと到達した。


 この部屋の扉には複数の数字が浮かんでいたので、複数のモンスターがいる部屋かと思って警戒していたが、宝箱だったとは……ボーナス部屋のような感じか?


 ……いや、ボーナスとは言い難いな。それぞれの宝箱に浮かんでいる数字は【50】【-10】【+10】の三つだ。三分の二がハズレなので、例えるなら運試しの部屋ってところか。


「ふふ……しかし敏腕サポーターであるこの俺の前では無力!」


 数字が見える俺の前ではどんな罠も無意味。やはりただのボーナス部屋として扱っても問題ないな!


「わーい! 金ピカの宝箱だー!」


 ――と、得意気にしている俺をよそに、ユナは真っ直ぐに金色の宝箱へと向かっていく。

 その宝箱に浮かぶ数字は【50】。プラスやマイナスの表記がないことから、おそらくは宝箱に擬態したモンスター、ミミックだろう。


 現在のユナのレベルは【32】と、最初より十数倍強くなってはいるが、それでも敵わないモンスターだ。開けてしまえば、当然その先にあるのは――


「待てユナ、落ち着けって! どうどう」

「銅、ですね。わかりました!」

「いや違っ――」


 じゃじゃ馬をなだめるような感じで「どうどう」と言いながらユナを止めてしまったため、ユナは銅の宝箱へも進路を変え、間違いを訂正する間もなく箱を開いてしまう。


 すると、宝箱の中から紫色の煙がぼふっと軽く爆発し、あっという間にユナを包み込んでしまう。


「ふええぇ……なんか、体がしびれますぅ……」


 ユナはへなへなとその場に尻餅をつき、虚ろな目で頭をふらふらとさせている。

 銅の宝箱に浮かんでいた数字は【-10】。今のは、弱体化させる毒ガストラップだったのだろう。


 ……まあともかく、レベルが下がるだけで命に別状はないはずだ。宝箱選びには失敗したけど、最悪の事態だけは免れたな。


「……すまんユナ。今のは俺の言い方が悪かった。開けるべきは銀の宝箱だ、絶対に金は開けるなよ?」

「はひぃ……」


 数十秒後、ようやく立てるまでに回復したユナに、謝罪の言葉と指示を同時に告げる。

 まだ若干足取りが怪しいユナだったが、今度はちゃんと銀の宝箱を開くのだった。


「――っ!! これはっ!?」

「ど、どうしたユナ! 何が出た!?」


 宝箱を開けた瞬間、急に大声を出すユナに驚き、俺は慌て彼女の元へと駆けつける。


「見てください神様、とてもおいしそうなお肉ですっっ!!」

「…………お、おう」


 目を輝かせながら肉を掲げるユナの口元からは、ヨダレが垂れていた。心配して損した気分だ。

 

 ……しかし見事なマンガ肉だな。確かに美味しそうだが……ずっと宝箱に入っていたわけだし、衛生的に問題ないのだろうか?

 まあゲームでも宝箱に食材が入ってるのはよくあることだし、大丈夫か。


「……ん? どうした、食べないのか?」


 すぐにでもかぶりつきそうな喜びっぷりだったが、ユナは肉を片手に固まったままだ。さっきの毒ガスで腹でも壊したか?


「いえ……その、こんないいお肉なので、どうせなら神様といっしょに食べたいなぁと思いまして」

「そんなことか。まあ気にするな、俺は肉に触ることができないから、食うこともできない。ユナが全部食べていいぞ」


 ……などと軽く返事をしたが、実際、食事することができなくなるのかと思うと、正直しんどい。

 こっちの世界に来てからそこそこ経つが、腹が減る気配がない。おそらくこの体は食事の必要がないのだろう。

 便利といえば便利なのだが、この先、食事を楽しむ機会が一切ないというのは、想像以上の苦行だろう。

 いや、食事どころか三大欲求のどれも満たせない体になってしまった可能性すらある。


「……わかりました。今度はいっしょに食べられるように、ここから出たら神棚を作りますね!」


 神棚……か、俺は神様じゃないんだが、もしかしてお供え物としてなら何かを食べれる可能性もあるのかもしれない。そう考えると、少し心が軽くなった。


「……わかった。そのときを楽しみにしているよ」

「はいっ!」


 ()()()()が来るのを信じて疑わないユナの笑顔を見て、俺の中にある不安は吹き飛び、心が救われた。

 彼女を助けるつもりが、逆に助けられてしまったようだ。

 

 より一層、彼女を死なせるわけにはいかない。そう強く思った瞬間だった。

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