9
刹那、遺跡の空気が変わった。
影が膨れ上がり、無数の手が伸びる。
「くそっ!」
レオンが剣を振る。斬撃は確かに影を裂いた。だが、傷口はすぐに塞がる。
その間にも、黒い手が彼らを包もうとしていた。
「レオン!」
ミアが詠唱を始める。
炎が再び燃え上がる。だが、影はそれすら呑み込もうとする。
リリィが祈りの言葉を紡ぐ。
次の瞬間——
「……祓われなさい」
リリィの指先から光が溢れた。
その光が影に触れた瞬間、影が悲鳴を上げる。
消える。崩れる。霧散する。
影は、跡形もなくなった。
静寂が戻る。
リリィはそっと手を降ろした。
ミアが息をつきながら、彼女を見た。
「……さすがね」
「これは……ただの亡霊じゃないわ」
リリィの顔に、うっすらと陰が差す。
「これは、この遺跡自体が“封じているもの”の一部……」
「つまり、俺たちが封印を解きかけたってことか」
レオンが剣を収めながら言う。
「……そうね」
ミアが静かに呟いた。
「それに……ここに来る前から、誰かがこの遺跡に入っていたわよね」
そうだった。
遺跡の扉は、すでに誰かの手によって開かれていた。
「誰かが、先に封印を解こうとしている?」
レオンの言葉に、ガルドが低く笑った。
「面白くなってきたな」
ミアがそっと前を見た。
闇の向こう、長い回廊の奥に、かすかな光が揺れていた。
誰かが、そこにいる。
「行くわよ」
彼らは、進んだ。