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あぶれ者たち  作者: 冷やし中華はじめました
1回限りのクラン

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9/14

9

地響きは、足の裏から内臓を揺さぶるような不快な振動へと変わった。  天井からパラパラと砂塵が落ち、数秒前まで戦場だった広間を白く煙らせる。


「……おい、マジかよ」


 ガルドが祭壇から後ずさる。  目の前で、宝珠が悲鳴を上げていた。不規則な明滅。ガラスの表面を走る亀裂が、まるで血管のように赤く脈打っている。


 パキリ。ミシリ。  限界だ。


「……壊れる」  ミアが、焦げ付いた手を押さえながら呻いた。 「最初から……中身が腐り落ちてたのよ。あの男が指を突っ込んだのは、ただの引き金……。もう何百年も前に、ここは死んでたんだわ」


 彼女はガリリと歯を鳴らし、恨めしげにガルドを見た。  (アンタが薬を盗まなければ、結界くらい張れたのに……!)  だが、罵倒する気力も残っていない。


 ガルドはミアの視線を無視し、乾いた音を立てて手を叩いた。  パン、パン、パン。  場違いな拍手が、崩壊寸前の広間に響く。


「ハッ、傑作だぜ」


 ガルドの顔に浮かんでいるのは、恐怖ではなく、底冷えするような嘲笑だった。


「なんで正規の騎士団が全滅したのか。なんで俺たちみたいな『替えのきくクズ』が選ばれたのか。……やっと腑に落ちた」


 彼は祭壇へ侮蔑の唾を吐きかけた。


「回収なんて建前だ。ギルドの連中は、このゴミ箱の蓋が閉まらなくなったから、俺たちを『重石おもし』代わりに投げ込んだだけだ。……中で潰れようが、知ったこっちゃねえってな」


 レオンは奥歯を噛み締めた。  怒りが腹の底で渦巻く。だが、今はその感情すら贅沢だった。


「……文句は生きて帰ってから言え。逃げるぞ!」


 レオンが叫び、出口の回廊へ走ろうとする。  だが、リリィの声がその足を止めた。


「無駄です」


 彼女は祭壇の前から動こうとしない。  その顔は死人のように蒼白だが、瞳だけは異様なほど澄んでいた。


「リリィ! 何をしている!」


「……音が、止まりました」


「あ?」


「外からの風の音。……森の気配。すべて消えました。……蓋が、されたんです」


 その言葉を裏付けるように、遠くの回廊からドズン、ドズンと重い岩戸が落ちる音が響いてきた。  退路は断たれた。  完全な密室。そして目の前には、孵化寸前の「災厄」がある。


「……詰み(チェックメイト)、ってわけか」


 レオンが剣を下ろした。  戦う相手もいない。逃げる場所もない。  ただ、天井が落ちてくるのを待つだけの処刑台。


 パリンッ――。


 硬質な音が広間に響き渡る。  ついに、宝珠が砕け散った。


 中から溢れ出したのは、先ほどの比ではない量の「闇」だった。  黒い泥が噴水のように噴き上がり、天井を打ち、雨のように降り注ぐ。それは物理的な質量を持って、レオンたちの肌を焼き、骨を軋ませる。


「……来るぞ」


 レオンが剣を掲げる。  絶望的な状況。体力も限界。魔力もない。  それでも、彼らは武器を構えた。  英雄的な使命感じゃない。「ふざけるな」という、理不尽な世界への最期の意地だけが、彼らを突き動かしていた。


 降り注ぐ黒い雨の中、リリィだけが、悲しげに自身の胸元を握りしめていた。


「……ごめんなさい」


 誰にも聞こえない声で、彼女は呟いた。  それは謝罪ではなく、これから犯す「罪」への懺悔のようだった。

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