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あぶれ者たち  作者: 冷やし中華はじめました
1回限りのクラン

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8/14

8

轟音と共に、石畳が粉砕された。  影の巨腕が叩きつけられた場所には、クレーターのような亀裂が走り、爆風がレオンの身体をボロ布のように吹き飛ばす。


「ぐっ……!」


 レオンは瓦礫の上を転がり、壁に激突して止まった。  肋骨が数本逝った感触がある。口の中に広がる鉄錆の味。  だが、休む暇はない。影の腕はすでに液体のように形を変え、次の獲物――頭を抱えてうずくまるリリィへと鎌首をもたげていた。


「チッ、好き放題やりやがって!」


 横合いからガルドが跳ぶ。  彼が狙ったのは怪物本体ではない。天井を支える梁から吊り下がっていた、巨大なシャンデリアの鎖だ。  ナイフが一閃する。金属音が響き、数トンの鉄塊が影の頭上へ落下する。


 ズドンッ!


 怪物は一瞬押し潰された。だが、物理的な衝撃など意に介さないように、影はその鉄塊すら飲み込もうとうごめき、表面から黒い泡を噴き出した。


 だが、その一瞬の隙で十分だった。


「――寄るな! 入ってくるな!」


 リリィが顔を上げ、絶叫した。  それは祈りではない。自分の領域を侵す者への、生理的な拒絶反応。


「消えろぉぉぉッ!」


 リリィを中心として、空気が爆ぜた。  魔法のような光線ではない。波紋のように広がる、透明な「斥力せきりょく」。


 波動が影に触れた瞬間、怪物が音のない悲鳴を上げた。  ジュワワワッ……と、強酸で肉を焼くような音が響く。  物理攻撃も魔法も無効化した黒い粘液が、リリィの「拒絶」に触れた部分から白く泡立ち、強制的に分解されていく。


「中身が見えたぞ!」


 レオンが血を吐きながら叫ぶ。  崩れ落ちたヘドロの奥。再生しようと蠢く闇の中心に、赤黒く明滅する心臓のような「核」が露出している。


「ミア! やれ!」


「ッ、……ふざ、け……!」


 ミアが膝をついたまま、悪態をついた。  (やれ? 簡単に言ってくれるじゃない……!)  魔力は空だ。さっきの一撃で、生命力すら削り取った。  ――ああ、あの薬さえあれば。  ポーチから消えた青い小瓶。あれ一本あれば、こんな苦労もなく吹き飛ばせたのに。


 視界が霞む。血管が焼き切れそうだ。  だが、ここで撃たなきゃ全員死ぬ。あのコソガルドも、薄汚い自分も、ここで肥料になるだけだ。


「……持ってけ、ドロボウ!」


 ミアは自身の杖を握りしめた。  媒体にする。杖に込められた魔石ごと、自分の指の毛細血管を破裂させて、無理やり魔力をねじり出す。


 バヂィッ!  杖が砕け散ると同時に、彼女の指先から血飛沫が舞った。


穿うがてェェェッ!」


 放たれたのは、血の色が混じったどす黒い炎の槍。  それは悲鳴のような風切り音を上げ、露出した「核」へと一直線に突き刺さった。


 ドォォォォォォン……!


 断末魔。  影が内側から爆ぜる。  飛び散った黒い飛沫は、床に落ちる前に霧となって蒸発し、鼻をつくオゾン臭だけを残して掻き消えた。


 あとには、荒い呼吸音だけが残された。


「……ハァ、ハァ……ッ」


 ミアが前のめりに倒れ込む。  手は炭のように黒く焦げ、指の感覚はない。  (……最悪。赤字もいいとこだわ……)  彼女は霞む視界で、無傷で立っているガルドの背中を睨みつけた。あの男が懐に入れている薬があれば、指を犠牲にすることはなかった。殺意が湧く。だが、声を出す気力すらなかった。


 レオンは剣を杖にして身体を支え、脂汗を拭った。


「……終わった、のか?」


 誰かの呟きが、広間の空虚さを際立たせた。


 祭壇の上には、ひび割れた宝珠がまだ浮いている。  だが、それを見守っていたはずの黒衣の男――アーロンの姿は、どこにもなかった。


「逃げたか……」  レオンが舌打ちをして周囲を睨むが、足跡ひとつ残っていない。まるで最初から幻影だったかのような消え際だ。


「おい、これ」  ガルドが祭壇に歩み寄り、顔をしかめた。「本当に持ち帰っていい代物なのか? どう見てもガラクタ寸前だぞ」


 リリィがふらりと立ち上がり、うつろな目で宝珠を見た。 「……封印は、維持されています。でも、もう限界です」


 沈黙。  持ち帰れば金貨五十枚。だが、ちょっとした振動で砕け散りそうな代物だ。


 レオンが、決断を下そうと口を開きかけた、その時だった。


 ――ピキッ。


 硬質な音が、静寂を切り裂いた。  全員の視線が祭壇に釘付けになる。


 ――パキキキキッ……。


 宝珠の表面に、蜘蛛の巣のような亀裂が走った。


「……おい、嘘だろ」  ガルドが一歩後ずさる。


 ドクンッ。  遺跡全体が、心臓の鼓動のように大きく跳ねた。


「なっ……!?」 「倒したはずでしょ!?」


 ミアの悲鳴を打ち消すように、亀裂の隙間から、ドロリとした「本物」の闇が溢れ出した。  さっきの影は、ただの「殻」に過ぎなかったのだ。

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