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森の中は静かだった。
いや、静かすぎた。
枝が揺れる音も、鳥の鳴き声もない。風すら吹いていないように感じた。
「……気味が悪いわね」
ミアが呟く。
「生き物の気配がない」
ガルドが辺りを見回した。盗賊の目には、この静寂が異常に映ったのだろう。
リリィは目を細め、ふと足を止めた。
「祈りの気配が、ない……」
「何だって?」
「この森には、長い間誰も祈りを捧げていない」
「それがどうした」
「人が住まなくなった土地でも、誰かが通れば痕跡は残るものよ。だけど、ここにはそれがない。まるで……」
リリィは言葉を切った。
「まるで?」
「……長い間、誰も“帰ってこなかった”みたい」
その言葉に、空気が変わった。
ミアが眉をひそめ、ガルドが舌打ちをした。
「縁起でもねえこと言うなよ」
「……すまないわ」
リリィは静かに目を伏せた。
レオンは、剣の柄を握る手に力を込めた。
何かが、おかしい。
ここには何かがいる——そう、確信せざるを得なかった。