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あぶれ者たち  作者: 冷やし中華はじめました
1回限りのクラン

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4/14

4

ドォォォォンッ!


 背後で空気が爆ぜるような轟音が響き、強烈な風圧が四人の背中を叩いた。  レオンが即座に振り返る。だが、そこには先ほど開けたはずの重厚な扉も、外の夕暮れも見当たらなかった。  あるのは、冷たく湿った、継ぎ目のない石の壁だけだ。


「……ハッ、やっぱりな」


 ガルドが壁に歩み寄り、コンコンと短剣の柄で石面を叩いた。  焦る様子はない。むしろ、「予想通りで清々しい」とでも言いたげな薄ら笑いを浮かべている。


「おい、どういうことよ!」  ミアが悲鳴に近い声を上げる。 「出口がないじゃない! これじゃ完全に……」


「閉じ込められたんだよ。鼠捕りにかかった鼠と同じだ」  ガルドは肩をすくめた。 「『回収』なんて建前だ。入ったら最後、死ぬまで出られない。……ま、最初から片道切符のつもりだったんだろ?」


 ミアは唇をわななかせ、青ざめた顔で自身の二の腕を抱いた。  閉塞感。逃げ場のない石の棺桶。  彼女の呼吸が荒くなる。禁断症状による震えと、閉所恐怖が混ざり合い、理性を削り取っていく。  (……薬。薬を飲めば落ち着く……)  彼女の手が腰のポーチへと伸びかけるが、ギリギリで止まった。まだ早い。ここで使えば、肝心な時に足りなくなる。彼女は爪が食い込むほどポーチを握りしめ、脂汗を流して耐えた。  その中身がすでに空っぽであることも知らずに。


「進むしかねえな」  レオンが低い声で唸る。  退路確認などしない。どうせ帰る場所などない連中だ。前に進んで死ぬか、ここで餓死するかの二択しかない。


「リリィ、前はどうなってる?」  レオンが問うと、リリィはビクリと身体を震わせた。


「……五月蝿うるさい……」


 リリィは両手で耳を塞ぎ、うずくまるようにして震えていた。 「……壁の中に、溶けてる。さっきの騎士たちが……まだ、死にきれずに……」  彼女の瞳孔は開ききっている。 「『痛い』『熱い』『出してくれ』……何十人も、何百人も……私の脳みそに直接、叫んでくる……ッ!」


「チッ、役に立たねぇな」  ガルドが舌打ちをする。「おい、そこの狂人レシーバー。敵はいんのかいねぇのか、それだけ言え」


「……きます」  リリィが虚空を睨みつけた。 「吐き出されます。……消化しきれなかった、汚物が」


 その言葉と同時だった。  フッ、と。  回廊の空気が凍りついた。


「ッ! 構えろ!」  レオンが剣を抜き放つ。


 回廊の奥、光の届かない闇の深淵から、それは滲み出るように現れた。  足音はない。気配もない。  ただ、そこにある闇そのものが質量を持ち、人の形を模して立ち上がったようだった。  輪郭はあいまいに揺らぎ、まるでインクを水に垂らしたように不安定だ。だが、その頭部と思わしき部分には、眼球の代わりに虚無のような暗黒が二つ、ぽっかりと空いていた。


「……なんだ、ありゃ」


 ガルドが短剣を握り直す。その手にはじっとりと脂汗が滲んでいた。  魔物ではない。亡霊でもない。  もっと根源的な、生理的嫌悪感を催す「泥」の塊。


「ヒッ……」  ミアが喉の奥で悲鳴を漏らす。  本能が警鐘を鳴らしていた。あれに触れてはいけない。あれは、魔法使いにとっての猛毒アンチ・マナだ。


 影がゆらりと動いた。  人間には不可能な速度で距離を詰め、実体のないはずの腕が、鎌のようにレオンの首を刈り取りに迫る。


 問答無用。  遺跡という巨大な胃袋が、異物を消化するための活動を開始した。

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