2
馬車は南へ向かっていた。
ギルドを出た四人は、カランの遺跡へ向かうため、街道を行く商隊の荷馬車に乗せてもらっていた。
レオンは荷馬車の端に座り、剣の柄に手をかけたまま、ぼんやりと前方を見つめていた。荷馬車はがたつき、車輪が石を踏むたびに軋む音を立てる。
横目で見ると、ミアが荷物の上に寝そべり、指先で宙をなぞっていた。詠唱の練習だろうか。彼女はときどき何かを呟いていたが、それが魔法の言葉なのか独り言なのか、レオンには判然としなかった。
ガルドは反対側の端に座り、足を組んでナイフを弄んでいる。刃先を爪に当て、わずかにこすりながら、その様子をじっと見つめていた。
リリィは馬車の中央に座り、静かに祈っていた。膝の上に両手を置き、目を閉じている。彼女が動くと、白い法衣がさらりと波打った。
どこか妙な空気が漂っていた。四人とも互いを意識しながら、誰も口を開かない。
やがてミアが小さく笑った。
「なんだか、変な旅だね」
レオンは視線を向けなかった。
「何がだ」
「私たちみたいな連中が、こうしてまとまって旅をするのがね。普通、パーティっていうのは信頼で成り立つものなのに」
ガルドが鼻で笑った。
「信頼? 冗談だろ」
「まったくね」
ミアは腕を枕にしながら、仰向けになった。
「どうせ、すぐに解散するパーティ。気楽でいいじゃない」
「俺は気楽には見えねえけどな」
ガルドは刃先をくるりと回し、鋭い目でリリィを見た。
「なあ、あんた。神の声が聞こえるんだって?」
リリィはゆっくりと目を開けた。
「ええ」
「それ、本当か?」
ガルドの声には、露骨な猜疑が滲んでいた。
「信じるかどうかは、あなたの自由よ」
リリィは表情を変えずに言った。その声には感情がなかった。まるで、長年同じ言葉を繰り返してきたかのように。
「ふうん」
ガルドはそれ以上追及せず、再びナイフに視線を落とした。
沈黙が落ちる。荷馬車は進み続け、やがて街道を外れた。
森が見えてきた。