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あぶれ者たち  作者: 冷やし中華はじめました
1回限りのクラン

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2/14

2

車輪がわだちに嵌るたび、商隊の荷馬車は悲鳴のような軋みを上げ、乗員たちの尻を跳ね上げた。  幌のない荷台は居心地が悪く、積荷の獣臭さと、隣に座る「同業者」たちの体臭が混じり合って鼻をつく。


「……おい、聖女様。いい加減にしてくれねぇか」


 ガルドが苛立ちを隠さずに吐き捨てた。  向かいに座るリリィは、出発してからずっと耳を塞ぎ、小刻みに震えている。


「……聞こえる。……痛い、頭蓋骨の裏側を、爪で引っ掻いてる……」


 リリィの瞳孔は開ききっていた。焦点は誰にも合っていない。  彼女は時折、何もない空間を目で追っては、ビクリと身体を強張らせる。 「……何百人も、います。怨嗟、悲鳴、呪詛……この風の中に、ぎっしりと……」


 それは「神の啓示」を受ける聖なる姿には程遠かった。まるで重度の妄想に取り憑かれた患者そのものだ。  隣にいたミアが、汚いものを見る目で露骨に距離を取る。


「気味悪いわね。アンタ、本当に神官なの? ただのイカれ女じゃないの」


「人のこと言えるのかよ、ヤク中」


 ガルドが鼻で笑った。  ミアの指先が、小刻みに震えているのを彼は見逃していなかった。魔力欠乏による禁断症状。彼女は数分おきに腰のポーチをまさぐり、精神安定剤代わりのポーションの瓶があることを確認せずにはいられないようだった。


「……うるさいッ!」


 図星を突かれたミアが、ガルドを睨みつける。  彼女の手が杖を鷲掴みにした。杖の先端に、赤い火の粉がバチリと弾ける。  ただの威嚇ではない。その瞳には、理性を焼き切る寸前の殺意が宿っていた。


「焼くわよ。……私を馬鹿にする奴は、全員灰にしてやる」


 杖の切っ先が、狭い荷台の中でガルドに向けられる。


「やめろ」


 ドゴッ、と鈍い音がした。  最後尾で沈黙していたレオンが、鞘に収めたままの剣でミアの手首を強打したのだ。


「あぐっ!?」 「同士討ちがしたいなら他所でやれ。……ガルド、お前もだ。余計な口を叩くな」


 レオンの低い威圧に、ミアは涙目で手首を押さえ、ガルドは「へいへい」と肩をすくめて視線を逸らす。


 だが、ガルドの手は止まっていなかった。  全員の注意がミアの癇癪かんしゃくに向いた、ほんの一瞬の隙。  ガルドは蛇のような手つきで、無防備になったミアのポーチへと指を滑り込ませていた。


 指先が触れたのは、冷たいガラスの感触。  高純度の魔力回復薬マナ・ポーション。市場で売れば金貨数枚にはなる代物だ。


 (へッ、チョロいもんだ)


 ガルドは音もなく小瓶を抜き取り、自身の懐へと滑り込ませる。  こんなクズどもの命より、この青い水の方がよっぽど価値がある。  彼は舌なめずりをし、何食わぬ顔で景色を眺めるふりをした。


 連携も、信頼もない。  あるのは互いへの侮蔑と、自分の利益だけを掠め取ろうとする卑しさだけ。  車輪の音が、不協和音のように彼らの沈黙を埋めていた。


「……森だ、降りろ!」


 不意に、御者の叫び声が響いた。  街道の先、鬱蒼とした影を落とす森が、巨大な獣の口のように彼らを待ち受けていた。

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