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あぶれ者たち  作者: 冷やし中華はじめました
廃墟の入口

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13/14

13

アーロンを飲み込んだ泥が崩れ去ると同時に、遺跡の鳴動が激しさを増した。


 ゴゴゴゴゴ……!


 天井から巨大な石塊が落下し、床を砕く。  だが、恐ろしいのは物理的な崩壊ではなかった。  広間の端、壁の向こう側から、景色が「白く」なり始めているのだ。


「おい、ありゃなんだ!?」


 ガルドが指差して叫ぶ。  壁が崩れた先には、闇も、岩肌もなかった。  ただ、何もない「空白」が広がっていた。触れた瓦礫が音もなく消滅していく。


「……空間が、削り取られてる」  ミアが絶望的な声を絞り出した。 「封印の宝珠は、この遺跡という『亜空間』を維持する要石キーストーンでもあったのよ。それが砕け、代わりの魔力も失われた今……この場所自体が世界から切り離されて、消滅しようとしているんだわ」


「消滅って……俺たちもか!?」


「そうよ! 出口なんて探しても無駄。この空間ごと『無』に還るのが先か、私たちが押しつぶされるのが先か……どっちにしろ終わりよ!」


 ミアは杖を投げ出し、髪をかきむしった。  勝利の余韻など微塵もない。あるのは、遅効性の死刑宣告だけだ。


「……まだ、手はあるはずだ」


 レオンは、腕の中のリリィを抱き締め直した。  彼女の身体は、抱きしめている感覚がないほど軽くなっていた。  指先だけでなく、足元から、衣服の端から、光の粒子となってサラサラと解け始めている。


「リリィ、しっかりしろ! お前、一体何をしたんだ!」


 リリィは虚ろな瞳をレオンに向け、弱々しく微笑んだ。  その頬に触れようとしたレオンの手が――彼女の肌をすり抜け、空を切った。


「ッ……!?」


 レオンが息を呑む。  ガルドとミアも、言葉を失ってその光景を見つめていた。


「……代償、です」  リリィの声は、鈴の音のように透き通って響いた。


「あの影は、人の力で消せるものではありませんでした。だから……私自身を『聖なる供物』として捧げ、一時的に世界のルールを書き換えたのです」


「供物だなんて、そんな……」


「私の命を燃やして、光に変えた。……だから、もう私の身体は、この世に留まることができません」


 彼女の告白は、あまりに残酷だった。  皆を守るために使った奇跡が、彼女自身を殺す毒だったのだ。


 白い浸食が迫る。  広間の半分がすでに消失し、絶対的な「無」がすぐそこまで迫っていた。


「嫌だ……」  レオンは首を振った。幼子のような拒絶だった。 「こんな結末があるか。お前を守って、生きて帰るんじゃなかったのかよ!」


「レオンさん」  リリィは、透き通りかけた手で、レオンの震える手をそっと包み込んだ(ふりをした)。触覚はない。けれど、温かさだけが心に伝わってくる。


「このままでは、全員が消滅します。……でも、一つだけ方法があります」


「なんだ、言ってみろ! 俺の命でも何でもくれてやる!」


 リリィは首を横に振った。


「封印を、再構築するのです」


「宝珠がないのにか!?」


「ええ。宝珠の代わりに、私が『新しい核』になれば」


 その言葉に、全員が凍りついた。


「核になる……それって」  ガルドが掠れた声で言う。「お前が、あの石ころの代わりになって、永遠にここに閉じ込められるってことかよ?」


「閉じ込められるのではありません」  リリィは静かに、けれどはっきりと告げた。


「私はもう、肉体を維持できません。だから、残った魂を使ってこの空間を安定させ、あなたたちを外へ弾き出します。……それが、私に残された最後の役目」


 彼女はゆっくりと、レオンの腕から離れようとした。  その背中には、もう迷いはなかった。  死ぬための歩みではない。仲間を生かすための、誇り高い一歩を踏み出そうとしていた。

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