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午後のギルドは、ひどく蒸し暑かった。
石造りの建物は古く、壁の隙間から入り込んだ熱気が淀んでいる。外は夏の盛りで、広場には果物売りの声が響いていた。甘い果実の香りと、日陰でくすぶる獣脂のにおいが入り混じる。
受付嬢は帳簿を閉じ、目の前に座る四人を見回した。
レオンは壁際に立ち、腕を組んでいる。表情に乏しい男だった。剣士のはずだが、どこか粗野な雰囲気がある。鋭い目つきと、無造作に伸ばした黒髪。鎧は手入れがされておらず、肩当てに剥げた血の跡がこびりついていた。
ミアは、机に肘をつきながらぼんやりと宙を見ていた。魔法使いらしいが、どこか覇気がない。淡い赤毛がうねり、着ているローブはところどころ焼け焦げていた。爪の先で机の端を叩いている。
ガルドは皮の外套に身を包み、椅子を傾けて脚を投げ出していた。痩せた男だ。黒い指輪を弄びながら、受付嬢を値踏みするように見ている。指の動きが早い。盗賊だとひと目でわかった。
リリィは膝の上に両手を重ね、静かに目を閉じていた。神官のはずだが、妙な雰囲気がある。純白の法衣は薄汚れ、僧侶が持つべき厳かさがない。そのかわり、どこか世間離れした静けさがあった。
四人とも、どこにも属していない。
ギルドの正式なパーティには加われず、かといって個人で生計を立てるほどの実力もない。つまりは、あぶれ者。
受付嬢は唇を歪めた。
「さて。あんたたちに回す仕事がある」
レオンが無言で眉をひそめる。ガルドが片眉を上げ、ミアは机に頬杖をついたまま「へえ」と息を漏らした。
「カランの遺跡。そこに眠る封印の宝珠を回収する依頼よ」
「報酬は?」
「成功すれば、金貨五十枚」
「破格だな」
ガルドが嘲るように笑った。
「つまり、それだけ危険ってことか」
「察しがいいわね」
「それで、俺たちみたいな奴らに回ってきたってわけか」
受付嬢は肩をすくめた。
「受ける? 受けない?」
沈黙。
レオンは天井を見上げ、ひとつ息を吐いた。
「……行こう」
それは義務でも責任でもなかった。ただ、自分がここにいる理由が必要だっただけだ。