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不可避の死亡エンド

信じられないかもしれないが、俺はゲームの中のモブに転生した。


この世界は【Love or Dead】と呼ばれるギャルゲーの世界だ。俺はその世界のモブ、入谷聡(いりやさとし)に転生した。


といっても、この世界が【LoD】の世界だと気付いたのは高校入学時だ。転生したことは生まれた瞬間に分かったが、この世界は現実と何ら変わらない。受験もあるし、選挙もあるが、魔法はない。


それならと俺は勉強にスポーツ、そして、株などで密かに前世の知識を駆使して静かに暮らしていた。


では、なぜこの世界が【LoD】の世界だと気付いたのか?


それは俺の視線の先にいる集団が【LoD】の登場キャラだと思い出したからだ。


「優斗君にとって私は、私たちは一体何なのかな?そろそろはっきりしてほしいな」


「ま、待って。落ち着いてよ。桜月(さつき)


冬の空気はどこか軽やかで、冷たさが薄れ始めていた。街路樹の枝先には、まだ固いつぼみがついているが、その中に少しずつ春の兆しを感じさせられた。


そんな中で、高校生の男子を女子四人組が囲んでいた、ハーレムといえば、羨ましいと思うかもしれないが、そんな甘酸っぱい青春の様子は感じられない。むしろ、修羅場と言った方がいいかもしれない。


詰められている彼の名前は佐野優斗(さのゆうと)。【LoD】の主人公だ。見た目や性格は一般的で、ただ、『優しい』だけの人間だ。困っている人がいたら、誰であっても手を差し伸べる……といった設定のキャラだ。


一応……


そして、鬼の形相で詰めているのが、西園寺桜月(さいおんじさつき)。長くて綺麗な桃色の髪と誰彼構わず惹きつけてしまう笑顔がトレードマークだ。グラビアアイドルもやっていて、スタイルも抜群で学校で彼女にしたい女ナンバーワン。そして、【LoD】のヒロインの一人だ。


普段からニコニコ接するので勘違いする男子が多く、告白は後を絶たなかった。そんな桜月が他人には見せられないほどの恐ろしい形相で佐野を詰めていた。


黙って見ている他の三人の美少女たちも【LoD】のヒロインだ。彼女たちも桜月と同じような視線を佐野に送っている。


「優斗君言ったじゃん。受験が終わったら、私たちの中から付き合う人を選ぶって」


「ま、まぁそうだね」


「卒業式も終わったんだよ?私たち、もう待ちきれないよ……」


桜月の眉は少し寄って、口元が微妙に震えていた。


「分かってるよ」


「本当……?」


「……ああ。俺ももう逃げるのはやめようと思ったんだ。ちゃんと誠実に向き合うよ」


「……ッそうなんだ。それじゃあ教えてくれる?私たちの中で誰を選ぶのかな?」


佐野の真っすぐな視線が彼女たちを射抜くと、息を吞む声が聞こえた。スカートを掴む手に力が入ったり、忙しなく視線が泳いだりと、不安と期待が態度に現れていた。


「━━━みんな、俺とセフレになろう」


佐野は笑顔で言い切った。まるでこれがすべてを丸く収める最高の案だというように。


「何を言ってるの……?」


あまりにもあまりな発現に桜月の声は震えていた。


「何って、みんなでセックスしようって言ったんだけど?」


「ふざけないでよ……!そんな提案を飲めるわけないじゃん!」


佐野はハアとため息をつき、そして、面倒くさそうに頭を掻いた。


「いいかい、桜月。そもそも俺は一人を選ぶなんて嫌なんだ」


「え……?」


佐野は大まじめに言い切った。そして、ニコリと笑った。


「それぞれいいところがあるんだ。誰か一人を選ぼうと思って頑張って考えたけど、どの子も捨てがたいんだ。だからさ、まずはみんなで裸の付き合いをしようよ。そうすれば、みんな仲良くなれるし、意外と悪くないかもよ?」


酷すぎる言い分に桜月たちは開いた口が塞がらないようだった。


「もういい……もういいよ。優斗にとって私はその程度のものだったんだね。よくわかったよ。━━━さよなら」


「あ、桜月!?それにみんなも!?」


桜月は静かに顔を伏せ、佐野を残して足早にその場を後にした。そして、桜月の後を追うように、他の三人も顔を伏せて歩き出した。


彼女たちの進行方向に信号があるが、既に点滅していた。渡れるかどうかギリギリのところだと思うが、涙で前が見えていないようだった。


━━━良かった。これなら、助けられるかもしれない。


「ごめん。ここから先には行かせるわけにはいかない」


「え?」


信号の前で構えていた俺は一番先頭を行く桜月を全力で突き飛ばした。そして、後ろから来る他のヒロインたちを巻き込んだ。何が起こったのか分からない彼女たちがボーっとしながら、俺を見上げてきたので精一杯の笑顔を向けた。


「さよなら。長生きしてくれ」


耳を突き刺すようなブレーキ音が耳元でなると、振り返る間もなく身体が宙を舞い、すぐに地面と衝突した。身体のあちこちに熱がこもり、液体が身体を撫でる。これが自分の血だと気付くのに少しだけタイムラグがあった。


頭に急激に頭にモヤがかかり、視界もだんだん狭くなってきた。俺の意識はもうすぐ落ちるのだろう。


「あいつらは……」


痛みで気絶しそうな身体を無視して、首を動かす。最近まで受験でお世話になっていたノートや参考書がそこら中に散らばっていたが、そんなものはどうでも良かった。


その奥で呆けている五体満足で無事な桜月と目が合うと、俺の身体を安堵感が支配した。


「はは、よかっ……た」


桜月たちが無事ならそれでいい。そして、仰向けに倒れると憎たらしいほど綺麗な青空が見えると、拳を突きあげて、ニヒルな笑みを浮かべた。


━━━お前が考えたシナリオを覆された気分はどうだ?


内心で天に中指を立てると、俺の意識が奈落に落ちていった。


ざまぁ見ろよ、クソ野郎。

『重要なお願い』

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これなら別に巻き込まれる事無く助けられたんじゃないかと
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