自殺の証明
「自殺―――ってのは自分を殺した、ってことだろ」
「そうじゃな」
若干偉そうな少年に老人は気のない返事をした。
「その手段はたくさんある。ナイフで自分の首をかき切る。川に入っておぼれる。練炭を車の中でたいて一酸化中毒になる。どれでも死ぬ。ナイフで手首を切るのもアリだ」
「そうじゃな」
「しかし、だ」
少年は老人の気のない返事を気にせず語り続ける。
「それはナイフが殺したといっても過言じゃない、と言えないか? ナイフがなければ少年は死ななかったし、思いとどまる事も出来たかもしれない」
「じゃが、死を選んだのは少年じゃ。ナイフは少年の自殺を止めることはできないのじゃから、それは自殺じゃ」
「じゃあ、意思を持たないように育てられた人間がいるとしよう。親の言う事のみを聞いて自分では何も考えない、忠犬というより機械みたいな人間だ。そいつが親に殺せと言われて殺したら他殺か?」
「ふむ……………それは自殺じゃろう。もしその人間に意思があったなら別じゃが、意思が育たないように教育された人間を人殺しと責めるのは酷じゃろうて。それに本人も人を殺したという理解はできておらぬじゃろう」
老人は静かにそう言う。少年はまだ語る。
「今度は逆に、相手に敵意があったら?」
「それは明確な殺人じゃろ」
「殺される人間がわざと殺されたら? 銃弾を避ければ死なないけど、ここで俺が死ねば周りの人間は助かる、みたいな状況で自ら死を選んだら?」
「それでも殺人じゃ。本人に死ぬ意思があったとしても、相手は銃弾があたれば死ぬと知りながら、相手に敵意をいだいて撃ったんじゃからの。殺意や敵意が一片でもあれば、それは殺人じゃ」
その言葉を待ってたとばかりに若者は嬉しそうに言う。
「という事で俺は自殺したんじゃない。彼女が俺をフったから俺は死んだ。付き合ってくれなきゃ死んでやるとまで言ったのに彼女は、
『死んで私の前に二度と現れないで』
とまで言った! つまり俺は彼女によって殺されたんだ!!」
「何だかんだ言っても自殺は罪じゃからの。地獄行きじゃ」
十分前に失恋で自殺した少年は神様の一言で地獄に落とされた。
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『ネコが勇者の異世界召還論』連載中。こちらも読んでみてください。
~あらすじ~
私(ネコ。超賢い)と飼い主(あるじ。超ヘタレ)が異世界に召還されてしまった。
ついにあるじも勇者デビューか出世したなあ、と思っていたのだが【魔法】が使えたのは私で、つまり猫である私が勇者!?
それなりに本格な異世界召還ファンタジー!