79 王城での仕事(マリア視点)(前)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
今回は時々入る別視点のお話です。
ゆっくり書き進めていますので、お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
王城の文書室で文書の整理をしていると、陛下の従者が呼びに来た。
私の上司である文官副長に『あ、いつものね』という感じで「マリア君、いってらっしゃい」と送り出される。
陛下の我儘に付き合うのは私という図がすっかり定着してしまっている。
仕事として登城するようになって1ヶ月。
一通り王城内の文官の仕事のすべてを研修として回ったのだが、配属されたのは文書整理室だった。
重要な仕事ではあるのだが、部屋に籠って取り組まなくてはいけない地道な仕事だ。
しかし、これは陛下からの要望だったことが徐々にわかった。
いつでも私を呼ぶことができるという、配慮(私にではなく自分へのということね)だったらしい。
いつもの様に従者のアレジに付いて行くと今日は執務室ではなく客間に通される。
『あら?』と思っていたら、ドアの向こうには懐かしい友人達が並んでいた。
大好きなネモがいる。私は思わずにっこりする。
「まあ!」
「うれしいだろうマリア」と陛下のしてやったりの声に仕事に引き戻され、「お呼びでしょうか」と一礼した。
「今年の学校の花祭りを観に行きたいのだが、調整と付き添いをマリアに頼みたい」
また無茶なことを言い出した!!
でも私も興味はある。
「今年の花の女神はどなたに?」
ネモが答えてくれる。
「4年生のノンナです。そして私とアリスが付き添いやります!」
驚いた。ネモは付き添い2年連続?! しかもアリスも?!
アンドレアスがノンナが平民のために貴族令嬢達が付き添いを断ることが続いたことを説明してくれた。
「それでアリスとネモがやることにしたのね……」
経緯はわかった。それで引き受けるのもネモらしい。
「なるほど、その点も気になる。身分ではなく能力で入学した生徒達が、身分のことでいがみ合うようなことは学校の在り方として見過ごせない。
学校長とも話をせねば。それに実際の学校の様子を見てみたいな……」
陛下のいつもの我儘だけど……、これは学校のためにもなりそうな案件だわね。
ネモと目が合った。私は肩をすくめて軽くため息をついて見せる。
「よし! 隠密作戦だ! 私は変装して参加するぞ!」
陛下がとんでもないことを言い出した。これ以上困らせないで欲しい。
「えっ! 変装って無理だろ! 周りは生徒ばっかだぞ!! おじさんがいたら目立つって!!」
エドワードが呆れながら言う。
そう、その通り!
「うむ、先生のふりならできるだろう!!」
あ、それならいけるか……。
私はどう学校と話をしてどのような流れで動こうと考え始める。
陛下とエドワードが婚約者候補について話していたが、言いたいことを言えたようで陛下はご機嫌で退出して行った。
エドワードが婚約者候補のひとりで、学校で付きまとわれ悩まされているアルテイシア嬢のことを説明してくれた。
「エドワード大変そうね。
でもウォロまで? それでネモが気分を悪くするなんて……意外ね」
私がそう言うと、「ネモ、やっと成長したんですよ」と面白そうにランスが言った。
「成長?」
聞き返すとアンドレアスが答えてくれた。
「初めてウォロに近付くアルテイシアに対して嫉妬したんだそうだ。
あまりいい感情でないとネモは悩んだようだが、それは普通のことだと思うし、心の成長だと思うんだ。恥ずかしいことではないよ、ネモ」
なるほど。しかし、今まで嫉妬したことないって……。
「そうなんだ……。ネモ、幸せな子どもだったのね」
「そうなんだよ。好きになったのがウォロが初めてで、最初から両想いだったそうだ」
ランスが面白くなさそうに言った。
あれ、ランスって……。でも、このふたりには付け入る隙は無いわよ。
「まあ、ふたりなら前世で恋人同士だったって言われても納得できるけど……」
私はランスを牽制するように言った。
「やっぱりそれ本当のことなの?!」
エドワードが叫んだのでびっくりした。
「……んなわけないよな~!」とランスが笑う。
「そっか……。そう、ネモと自分は前世で会ってた。ネモが先に生まれ変わって、あわてて追いかけたから……」
ウォロがそう言って、みんな静かになる。
ウォロが冗談を言う子ではないことはわかる。ということは本当のことだ。
「本当なの?」「小説みたいな話ね! 素敵!」「ほんとかよ?!」
急に騒がしくなる子達を制して、アンドレアスがまとめてくれた。
「……まあ、そういうことにしておこう。前世のことはこれ以上聞かない方がいい。
このことは口外しないように。父の耳に入ったら、さらにややこしいことになる……」
確かにその通り。これは陛下には内緒にしなければ。
花祭りは1週間後。
私は陛下の希望を叶えるべく学校との交渉に入った。
しかも、お忍びで、変装で……。
こんな交渉をするために文官になったわけじゃないんだけどなと思いながら、やるからには陛下を大満足させてやろうじゃないの!! という気持ちになるのが我ながら恐ろしい。
花祭り当日、私と従者のアレジと陛下はこっそり食堂上階の客間に入り、そこでオーサム先生と合流。
陛下とアレジはそこで先生風の変装をする。
アレジは服を着替えるだけだが、陛下にはカツラとメガネを用意した。
陛下は鏡を見てご満悦だ。
思った通りのリアクションに私は笑いそうになるのを懸命にこらえた。
私は学生の中に紛れ込めるようにおとなしめのドレスに淡い色の花飾りを少しつけた。
部屋の窓から花祭りの準備を眺めていると、ネモやアンドレアス達が食堂の方にやって来るのが見えた。
他の寮の友達もいるのか20名くらいの大きなグループになっている。
私達も食堂に降り、そのグループの少し離れた所に席を取り様子を窺う。
「エドワード様!!」
ひとりの少女の声が食堂内に響いた。後から慌てたようにレイモンドが来たので、彼女がアルテイシアなのだろう。
「アルテイシア、ここはもう席も空いていないし、向こうへ行こう!」
「嫌よ! やっとエドワード様にお会いできたのに!!
この後のパレードご一緒に見学しませんか?」
エドワードが思ったより落ち着いた感じで対応している。
「俺は友人達と過ごす予定なので、申し訳ないがお断りするよ」
突然アルテイシアが泣き出し、オーサム先生が席を立つ。それを見て、陛下も立ち上がり付いていく。
ちょっと!! 何やってんの?!
アレジを見ると慌てて追ってくれたので、私はまた様子を窺う。
「どうした?!」
オーサム先生の言葉にアルテイシアは「私とは一緒にパレード見学できないって!! うわーん!」と
泣きながら訴えている。
えっと……。貴族令嬢よね? それも入学テストを受けて合格した貴族令嬢よね?!
「友人と過ごす約束をしているのです」とエドワードがはっきりと宣言した。
「その友人の中に彼女を入れることはできないのか?」
オーサム先生が聞く。まあ、大人はそう考えるわよね……。
「無理です。彼女は俺の友人、特にセレナとネモに対して無視したりひどいことを言ったりしています。
そんな人物を友人にする気はありません」
エドワード、よく言った!!
エドワードの言葉を聞いたアルテイシアが近くにいたセレナに掴みかかろうとし、たまたまセレナのそばにいた陛下がセレナの前に立ちはだかってくれた。が、それはまずいんじゃない?!
私は思わずた立ち上がり駆け寄ろうとする。
アルテイシアが平手打ちをしようとしてバックスイングをしている段階でアレジが腕を掴んで捻り上げてくれたと思ったら、苦しそうな声を上げうずくまったのはアレジのほうだった。
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




