74 体力作りと魔道具
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくりと書き進めていますのでおつきあいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
王城からの帰りの馬車の中。
オードリーはもじもじしていたが思い切ったように話し始めた。
「アンドレアスには聞くなと言われたけれど……、ウォロはネモに出会うために追いかけてきたんだよね。それは生まれた時から覚えていたの?」
ウォロはちょっと困った表情をしたけれど、頷いて「そう」と言った。
「あ、いいの! 前世のことは聞かない! それは守る。
ただ、私、ウォロが子どもの時のこと思い出して……。まだ出会っていない少女に恋をしてるのかな?って、そんな気がしてたから……。
うん、私の勘が正しかったってことだけで、うれしい。
それに、ふたりにそんなつながりがあって、ちゃんと出会えて良かった!!」
「ありがとう、オードリー」
私はお礼を言った。
「さ、来週はもう花祭りよ! 頑張ろう!」
オードリーが何だかやる気になっている!
◇ ◇ ◇
「とりあえず言われた通り木剣持ってきたけど……」
月曜日の放課後、ミカが2-1寮の前まで来てくれた。
私はミカから荷物を預かり「寮の中で保管しとく!」と置きに行った。
エドワードとティエルノが「何?」と聞いてきたので「ミカとウォロと体力作りをする」と言うと「俺達もやる!」と出てきた。
「ふたりも参加したいんだって、いいかな?」
ミカに聞くと、頷いてくれた。
少しストレッチしてから、ここから運動実習棟まで行って戻って来るコースで走ることにする。
図書館だと近すぎるし、食堂だとたくさんの人に会いそうだしね。
ティエルノとエドワードが先を行き、私とミカ、そしてウォロみたいな並びで走り出す。
ミカと私が先に疲れてきた(ま、だから体力作りなんだけど……)。
「もうばてたのか!」とティエルノに言われる。
悔しいけど……。
「ちょっと休憩! ティエルノ達、先に行ってもいいよ。戻ったら素振りしてて」
私とミカは少し立ち止まって息を整えた。
「いいよつきあう」
エドワードに言われて、ミカがちょっとムッとしたのがわかった。
「ネモ、もう行こう!」
走り出すミカを追って私もあわてて走り出す。
折り返して……、私の足はかなり遅くなった……。
「先に行っていいぞ! エドワード、ティエルノ! ミカを頼んだ!」とウォロ。
「わかった! ほら、ミカ、行くぞ!」
ミカは懸命について走って行ってしまった。
大丈夫かな。
私は立ち止まり息を整えてから、また走り出す。
「やっぱり、休みの間に少し体力落ちてるな」
ウォロが心配そうに言った。
「うん、素振りとか打ち込みとかしてたけど……、持久力……。走るのは大事だね。
毎日少しずつでも、やっときゃ良かった……」
寮の前まで戻ると、もう3人は木剣を出して素振りをしていた。
ミカも大丈夫みたい。
私も素振りをして、それでもうばてた……。
ウォロ達は打ち込みまでやっておしまいにすると言う。
ミカもかなりばてているように見えた。
「ミカ! 今日は初めてだから私達はここでやめておこう!」
声をかけるとちょっと考えていたようだが、木剣をしまって私のところに来た。
「お疲れさまでした! 最初は無理しないで、回数を重ねていこう!
次はどうする?
明日も私とウォロできるけど?」
「じゃあ明日も来る」
「うん。ちょっと手を出して」
ミカの手を握って光魔法をかけた。
「光魔法?」
「うん、急に無理させてごめんね。もっとゆっくりペースで走るつもりだったんだけど……。
今日は寝落ちしちゃわない程度に回復しとく……」
「ありがとう。足と腕の痛みがよくなった」
「うん、できる時にこうやって体力つけよ!」
自分の寮に戻るミカを見送っていたら、ちょうど打ち込みが終わったところだった。
「ミカ、けっこう根性あるな」とティエルノ。
あ、けっこう気に入ったな、ミカのこと。
「面白そうな奴だよな。体力ついたら強くなりそう」
エドワードも楽しそう。
「次はいつ? これはダリルも呼ばないとすねるかもな」
ティエルノが笑った。
「いやいや、私達の体力づくりなんで! 明日もやるけど、ミカに無理させないでよ!」
火曜日はエドワードとティエルノは生徒会で(花祭りがいよいよ今週末だからね)いなかったので、3人でゆっくりめに(あくまで私に合わせてもらって)休まず走ることを心掛けた。
それから素振りしておしまい。
今週後半はもう花祭りで忙しくなるし、剣の授業もあるから各自時間がある時に素振りをしたり、学校棟を移動する時に走ることを意識したりして過ごそう! と話をした。
剣の授業ももう1回あるしね。
花祭りの話になり、ミカと同じ寮の子も付き添いをしてくれることを聞いた。
「その付き添いの子は寮で準備するの?」
私の問いに頷くミカ。
「そっか……」
その子だけ1寮に来て一緒に! というのも後で周りに何か言われちゃうか……。
あ、生徒会の相談室借りて、花の女神と付き添いの準備室にしたらいいんじゃない!
思いついてしまって、ミカと別れた後、ウォロとオードリーに相談し、付き合ってもらって生徒会室に行った。
ロバートに私の思い付きを提案する。
花の女神と付き添いの6人は生徒会室の相談室を借りて準備する。
オードリーがメイドのシーラと協力してくれるという。
アリスとアンもいるし、今回は平民でメイドがいない子も多いから、みんなで準備したら助け合えるよね!
ちょうど進行状況を心配してアンドレアスとアリス、ランスが様子を見に来ていたので提案するといいアイデアだと褒めてくれた。
ロバートにお願いして、当日の朝、ノンナや他の付き添いの子達に相談室でみんなで準備することを知らせてもらうことにする。
「そうよね。メイドがいるのが当たり前だったけれど、いない場合もあるのよね」
アリスがそう言ってアンドレアスを見た。
「私、最後にこの学校で付き添いを体験できて本当に良かったと思っているわ。
あのままだったら、他の生徒達のこと何も知らずに卒業していたかもしれない……」
「アリスはとても頑張っているよ。自慢の婚約者だ」
アンドレアスがやさしい表情でアリスを見る。
うんうん、提案して良かった!
花祭り前の剣の授業でミカに会った時、またノンナのことでお礼を言われた。
学年が違うのに仲が良いんだなと思ってそう言ったら、ノンナと話をしたというより、ロバートから聞いた話なのだそうだ。
ロバートも近所で(でもロバートだけ貴族で子爵家なんだそう)、幼馴染なんだと。
ロバートの子爵家の領地は王都に近いのだけれど小さく、商業で発展している地域なんだとか。
特に服飾関係が有名で、ノンナとミカの家は縫製や染色関係の仕事をしている職人の家なのだそう。
へー、そういうつながりもあるんだね。
「じゃあ、生徒会に入ってお手伝いすればいいのに!」
「いや、ふたりの邪魔になりそうだから……」
ミカがそう言って笑った。
放課後の聖魔法の教室にウォロと行くとアルテイシアがやけに私のことを見てくる。
なんだ?!
各自先生に自分の課題を話に行く時間になり、ウォロがカトレア先生と話すために私から少し離れた。
その時に急に私に近づいてきたので構えると「髪の毛にごみがついてるからとってあげる!」と言われる。
本当? とちょっと思いながら……。
「あ、そう? ありがとう」と言うと、私の後ろに回り「しゃがんでくださらない?」と言われた。
あれ、おかしくない?
そうだよ私の方が背が高いんだから……、見えたの?
……気に食わないからと言って疑ってはいけないか。
私は少ししゃがんだ。
髪の毛が引っ張られる感じがして「いたっ!」と声をあげたのはアルテイシアだった。
「?」
私は振り向いた。
「なんで?」
アルテイシアが頭を押さえて痛がっている。
カトレア先生がその様子を見て言った。
「ネモはウォロが作った倍返しの魔道具つけてるからね。
ひどいことしようとすると、倍返しになるわよ」
「……ひどいことなんて! ちょっと髪の毛を頂こうと……」
「髪の毛? なんで?」
「なんでもいいでしょ!!」
「課題に必要なの? それなら言ってくれればいいのに」
「もういい!! 体調が優れないので早退します!」
ぷいっと離れて教室から出て行くアルテイシア。
レイモンドがそれに気が付き、慌てて追って行く。
ウォロが近くに来て言った。
「髪の毛はむやみに人にやらない方がいい。魔道具に使われたら厄介なことになる」
「そうなの?」
カトレア先生も言った。
「特定の人物への効果を特定したいときに髪の毛は良く使われるわ。
痛みが返ったということは悪意があったということでしょう。
気をつけなさい」
カトレア先生は困ったような表情でアルテイシアが去って行った方を見た。
今日はウォロにあまり絡んでこず、ずっと私の動向を伺っていた感じだったので、それだけ私の髪の毛を手に入れたかったということなんだろう。
「アルテイシアも、レイモンドも魔道具作るんですかね?」
「そういえばレイモンドは作らないわね……。アルテイシアもまだそこまでの技術は持っていない」
カトレア先生が不思議そうに言った。
私の髪の毛を手に入れて誰に魔道具作らせる気だったんだろう?
読んで下さりありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。