61 冬の寮の怪事件
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますので、お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
ウォロが旅立って7日目、ミーア帝国領内に入ったとマッちゃん連絡が入った。
学校の方は終業式が終って3日目。
帰省した人が3分の2ぐらいかな。全体的に静かな感じだ。
その後、王宮に到着しダイゴと一緒に調べていると伝言が来て安心した。
そうそう、今回は総合1位はウォロの単独だった。
総合2位がエドワード。3位がライト。4位が私とセレナ。6位がオードリーとティエルノだった。
ライトすごく頑張ったね!!
今回はエドワードはウォロに負けたせいか、細かい順位とか教えてくれなかった。
ウォロにマッちゃんを通して伝言したら、すごく喜んでいた。
アンドレアスとエドワード、セレナなど実家が王都にある人は、ちょこっと帰省したりして(別に帰ればいいのに。帰れない私やオードリー、アリスに遠慮しているらしい……)、入れ替わりはあったが、12月31日は4-1寮の3人も1-1寮に集まって過ごそうということになった。
1-1寮の女子部屋1室空いてるし、ウォロとライトもベッドなら使っていいと承知してくれた。
12時を過ぎるまでみんなで起きていて年始を祝い、おしゃべりを楽しんでいたが、眠くなった私は自分の部屋に引き上げることにした。
女子の全員がそのタイミングで自室に戻ることになった。
ベッドに潜り込んですぐ寝てしまったが、窓を叩く音で目が覚めた。
部屋の明かりを点けカーテンを開けると、窓の向こうにアンが立って窓を叩いているのでびっくりする。
冬の寒い夜だというのに部屋着のまま上着も着ていない。
ぼーっとした表情をしていて、身体は時々震えたりして寒さを感じているようなのに、表情はそれに気が付いていないような不思議な感じがした。
私はあわてて窓を開けてアンに話しかけた。
「どうしたの?」
するとアンが私が窓を開けた手に右手を伸ばしてくる。
その指に大きめで太い指輪を嵌めているのが見えた。
私の左手が思わず引っ込む。
ライトの指に似たような指輪がザーレの時に……。
私が窓から後ずさりすると、アンが窓枠をがっと掴んだ左手にも見慣れない指輪をしているのに気が付いた。動きがまるでホラー映画の登場人物のようだ。
「えっ?」
思わずさらに後ずさりし、ドアに手を掛けてリビングの方に飛び出すのと、アンが窓から侵入してくるのと同じぐらいのタイミングだった。
リビングにはエドワードとランスとティエルノの3人がいて、上着も着ずに飛び出してきた私をびっくりして見た。
私は3人に駆け寄る。
すると私の部屋のドアから続けてアンが現れて、みんなはさらに驚く。
「窓から入って来て……」
ランスがアンに近付こうとしたので「右手には掴まれないように! ズールの薬の指輪と似てる!」と私は叫んだ。
ランスが少し距離を取り警戒しながら言った。
「操られてる?」
「うん、左手にもなんか指輪してる。それかも?!」
アンドレアスも気が付いて男子部屋の方からリビングに出てきてくれた。
私の隣の部屋のドアが開きセレナがリビングに出てこようとした。
「戻ってセレナ!」
私は叫んだが、セレナは大きくドアを開けてアンを見て「えっ?」と立ちすくむ。
私は反射的にアンの横をすり抜け、セレナの手をつかむ。強く引っ張り自分と場所を入れ替えるような遠心力でセレナをエドワード達の方へ突き飛ばした。私はよろけてセレナと私の部屋のドアの間の壁に軽くぶつかった。
セレナは無事にエドワードとティエルノに抱き留められた。
振り返ったセレナが「ネモ!」と叫んだ時に、左腕をアンに掴まれた。
やられた! と思ったが、痛みがない。
あれ?
するとアンが自分自身の左腕を抑えてふらふらしだした。
私はあわててアンの両手を確認し、左手の指輪を抜き取った。
ぐったり倒れこむアン。身体がすごく冷えている。
その時、カトレア先生と男の人が1-1寮の玄関から入ってきた。
「窓からの侵入者は?!」
「カトレア先生! メイドのアンがこれで操られてたようで……。
そしてこの注射の指輪はズールのやり方と同じです」
私の言葉の後にセレナが心配そうに伝えてくれる。
「ネモが掴まれて! でも、アンの方がぐったりして……。ネモ、大丈夫?」
カトレア先生が私の首元を見て微笑んだ。
「ウォロが守ったのね」
「あ。この倍返しのネックレス?!」
「操られてるメイドに悪意はないけれど、意識を乗っ取っていたズールの悪意に反応したんでしょう」
男の人がアンの指輪を渡せというように手を差し出してくるので思わず「誰?」と聞いてしまう。
「魔法研究所のクラウスよ。渡して大丈夫」
「あ、ごめんなさい」
私は指輪を渡した。
アンの右手の注射付き指輪もカトレア先生が外してくれた。
「体が冷えてるわね。ベッドに寝かせてあげて。ドクターを手配するわ。
それにしても、みんなでひとつの寮に集まってて良かったわね」
「私のベッドに!」
私がそう言うとアンドレアスとランスが運ぶのを手伝おうとしてくれる。
その時、アリスとオードリーが恐る恐る部屋のドアを開けた。
「何があったの?」
「アリス、オードリー! アンがズールに操られてたみたいで……」
アリスが運ばれているアンを見て「アン!」と叫ぶ。
「気絶する薬だと思うんだけど、アンが自分に使う感じになっちゃって……。私の部屋に寝かせておくから!」
「それにしても、どうやって学内に持ち込みを……」
クラウスが指輪を調べながら呟いた。
ドクターが診察に来てくれ、注射の指輪も調べてくれた。
推測通り気を失わせる薬だと。この量なら1~2時間で目が覚めるだろうと。
えっと1.2倍なんですけど……とは言えず「光魔法で治療は可能ですか?」と確認する。
大丈夫。しても良いと言われたので身体を温めるように意識しながら体力をあげるような光魔法をかけ続けた。
アンは1時間ほどで気が付き目を覚ました。
怯えたような表情をしている。
「私、なんでここに……」
起きたら自分の部屋じゃなかったら驚くよね。
「何も覚えていないの?」
アリスが聞いた。
「はい……」
「この指輪のことは?」
クラウスが指輪を見せて訊ねる。
アンは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「あ……、庭師だった彼にもらった指輪です。悪い人だったと聞いたけれど……。以前結婚の約束をして、指輪をもらっていました。年末に片付けをした時に処分を悩んで。
処分する前にもう一度だけ身につけてみようと思ってつけたら……」
「つけたら意識がなくなったんだね。何も覚えていない?」
クラウスの言葉に頷くアン。
「私、何をしたんですか?」
「右手に針のついた指輪をして、ネモの部屋に窓から侵入し、襲ったんだよ」
「ネモ様に?! なんてこと!」
私はあわててアンを宥める。
「私は無事だし、他の人も無事だったから気にしないで。でも、ドアの前でもみ合いになっちゃって、アンに薬が効いちゃったの。魔道具の指輪も針の指輪ももう外したから大丈夫だよ。体調はどう?」
「魔道具? 針の指輪?」
まもなくアンの部屋を調べに行ったオードリーとランスとカトレア先生が帰ってきた。
リビングで話を聞く。
「机の上にこれが」
ランスが指輪のケースが2重底になっているのを見せてくれた。
薬のアンプルが空になっているのが入っていた。
贈り物の指輪のケースに薬と針の指輪もセットにされてたということだ。
「警備が厳しくなる以前から贈っておいて、アンが学校内で指輪を嵌めるのを待っていたということ?!」
私が信じられないように言うと、クラウスとカトレア先生が頷いた。
「そうみたいね……。でも、それを感じてすぐに行動できるのはかなり近くにいる必要があるわね。まだ王都内にいるはず」
「でも、何でネモにこだわるんだ?」
アンドレアスが言って首をかしげる。
それは封印のせいだと思うけれど、将来国王になるであろうアンドレアスには気軽に言えないよ。
「そうだな……。もしリビングに俺達がいなかったとしても、アンひとりでは気絶したネモを運び出すことはできないだろうし。
襲ってどうするつもりだったんだ?」
ランスの言葉に私ははっとした。
耳飾りを狙っていたのかも?!
ズールからしてみれば、これが封印だと考えてもおかしくないか?
本当の封印は私の中で、耳飾りは古代魔道具の一部でウォロと共有してるって感じなんだけど……。
クラウスが私の左耳に目を留める。
「ネモ、それも魔道具ですか?」
「あ、これは古代の魔道具らしいんですが、その、壊れている状態で……」
これだけじゃ発動しないし、ね。嘘ではない。
「見せて下さい」
クラウスが左耳に触ろうとしたので、思わず手でガードしてカトレア先生を見る。
カトレア先生が『大丈夫』というように頷くので、観念して手のガードを外した。
「これは……、そうですね。魔道具の一部のようです。
これはザーレの遺跡で?」
「はい、ズールに襲われた後、左耳についてるのに気が付きました」
「封印された魔道具の部品なのかもしれませんね。これを狙っていたのかも……」
「でも、これ外せないんですけど……」
「引きちぎることはできるでしょう……。耳たぶごと切るとか?」
私は背筋がぞっとした。えぇーっ! そんな恐ろしい~!
「同じようなのウォロもしてるよな」
ランスが言った。
わー、言わんでいい!!
「ただのお揃いなのかと思っていたけど……、じゃ、あれも魔道具の一部なのか?」
読んで下さりありがとうございます。
ウォロがいない間に事件が起きましたが、アンだと思うとめったな攻撃できないですよね。
今日も午後投稿する予定です。
これからもどうぞよろしくお願いします。