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58 アリスの努力(後)

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。

ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

 アリシア夫人は意味ありげに頷いて言った。

「酷い女でしたよエレオノーラは……。

 確かに顔や姿は美しい部類に入るのかもしれませんが……。世の男性からちやほやされていましたからね。

 男性を誘惑することが楽しくて仕方がなかったんでしょう。

 あんな女性に育てられていたのですから、あの子もああなるんじゃないかと心配です。 

 ミーア帝国でも不貞を働かないようによーく監視なさるようにした方がいいと思いますよ」


 不貞って……。確かに愛人ではあるけれど……、そこを言われると弱いけど……。

 お母様はお父様と愛し合っていたし、そこまで非難されるようなことではない、けど……。

 正妻の立場なら、そういう気持ちになるのだろうか……。

 私の気持ちがふらふらし出したのに気が付いたのか、ウォロが強く手を握ってきて、我に返る。


「事故で怪我をして、苦しんで死んだそうで、最後はずっとローベルトもつきっきりで……。

 親子でさっさと死んでしまえばよかったのに……。あ、これはそうなれば苦しまずに済んだのに、という意味ですよ。

 娘のエミリアを庇って大怪我をしたそうで、残されたエミリアも辛いでしょうに。まあ自業自得ですけどね」

 私の視界が歪んだ。泣いてはいけない。お母様との最後が思い出された。


 アリスが急に立ち上がると、駆け寄って来て私の頭を抱きしめた。

「ネモ、泣かないで……」

 私の目から涙が流れ落ちていた。


「あら、ごめんなさい。私の話は若い女の子には刺激が強すぎたかしら。

 それだけのことをしているのです、あの親子は。ミーア帝国でも十分気をつけて下さいね」


 私は涙で歪んだ視界でアリシア夫人を見た。

 アリシア夫人の顔がひどく歪んでいる。

「大丈夫です。ミーア帝国はエミリアの本当の姿を知っていますから。

 エミリアを知っているからこそ、婚約を、結婚を申し込んだんですから」

 ウォロがそう言った。


「まあ、まるで婚約者のようなことを仰るのね」

「はい、自分はミーア帝国第3皇子モーリオン・ウォロ・ミーアです。

 エミリア・ネモフィラ・アリステラの婚約者です」

 アリシア夫人が息をのむ音が聞こえた。

 ウォロがテーブルの上に私とつないでいる手を乗せた。


「……その目、もしかして、ネモって……」

 アリシア夫人が慌てたように早口で呟いた。

「……はい、私がエミリア・ネモフィラ・アリステラです。

 お久しぶりです……」


「アリス、離れなさい!」

「嫌よ! ネモは私の大切な友達なの! お母様こそひどいこというのやめて!」

「アリス、私のアリス、何を言っているの?

 お前ね、その目。また私から愛する者を奪って行く……」

 

 アリシア夫人がどんな表情をしているのか私には歪んで見えなかったけれど、テーブルクロスを掴んで引っ張ったのはわかった。

 ウォロとアリスが私を守る様に椅子から立ち上がるのを助けてくれテーブルから離れる。

 すごい食器が落ちる音がして、みんなもあわてて席を立った。


 あまりのことに驚いて、私はあわてて涙をぬぐった。

 アリシア夫人がふらふらこちらに歩いてくる。

 

 近くにエドワードとランスとアンドレスも来るが、相手が女性のためか止めるのに躊躇している。

「ほら、やっぱり、エレオノーラの血よね。男をはべらして、たぶらかして……」

「お母様も私もそんなことしてない!!」

 私は夫人の言葉を止めたくて叫んでしまった。


「アリス、見なさい! こうやって、何もできない、か弱いふりをしてるのよ、この娘は!」

「ネモは弱くないわ。弱いふりなんてしなくてもいいくらい強い! 

 私を救ってくれて、許してくれたの。

 お母様、来ないで!

 私とネモをもう放っておいて!!

 ロイ、お母様を止めて!

 ここにいるのは王族と皇族の方々よ。何かあったら大変な事になるわ!」

 アリスが私を守る様に抱きしめながら叫んだ。


 執事や使用人達がアリスの言葉に我に返ったようでアリシア夫人を止めに来た。

 アリシア夫人が両側から腕を取られこちらを悔しそうに恨めしそうに睨みつけている。


「お母様、もうエミリアを、ネモを苦しめないで! もう噂や悪口を流したって無駄よ。

 学校の友達も、ウォルフライト王国の陛下や王妃様までみんな知ってるの!

 私達がネモにどんな酷いことをしてたのか……。

 お願いだから、エレオノーラとネモに謝って! そして、もうこんなことやめて!!」


「アリス!! 私のアリス!! 泥棒! この泥棒女!」

 アリシア夫人の叫び声に私はアリスをぎゅっと抱きしめ返した。


 執事と使用人が急いで夫人を連れ去った。


 アリスの身体から力が抜けそうになり、私が「アリス!」と叫ぶとアンドレアスがあわてて抱きとめに来てくれた。

 

「すごかったね……。私、あんな人見たことないよ。びっくりというか、怖いと言うか……。

 あれと比べたら、謁見の時のアリスなんてかわいいものだったね……」

 オードリーが呆然としながら、けっこうひどいことを言っている。

「なんだよ、謁見のアリスって?」

 ランスが聞き返す。

「うん、アリスはかわいいってこと」

 私はそう言ってため息をついてから、微笑むとアリスに話しかけた。


「アリス、私と母を守ってくれてありがとう。帰ろう、学校に」

「うん、もう帰りたい」


『ズールらしい気配がするぞ』

 マッちゃんが急に警告してきて、私とウォロははっとする。

 らしい?

『ズールだと思うんじゃが……、少し何か変わっていてな。ただ、ネモの光魔法の残滓が残っている。

 今まで光魔法を直接頭に打ち込んだのはズールだけだろ?』

 夏に打ち込んだ光魔法の残滓って、怖すぎるんだけど。

 でも、それのおかげでズールの居場所が判明しやすくなるなら良かったのか?


 この屋敷にということは、学校は侵入が難しいので、私の実家と考えてここに潜入してたとか?

  

 ウォロがエドワードに何か話しているのが見えたので、私はオードリーに知らせる。

「ここにズールがいる。気をつけて」

「ズール? どうしてここに?」

「ここは普通に考えたら私の実家ということになるもんね。だからじゃない?」

「早く出た方がいいね!」


 エドワードがアンドレアスとランスにも知らせてくれている。

 ふたりはザーラでのこと、どこまで知っているんだろう?

 でも、今は早くここを出ないと。


 アンドレアスがロイに帰ることを告げている。

 それをきっかけに私達は玄関ホールに移動し、そのまま外へ出て馬車に向かった。


 馬車に乗り込んでほっとしたら、ランスの馬車からランスが出てきてこちらに来た。

「アンが戻っていないんだけど?」

 アリスがあわててて降りようとしてアンドレアスに止められる。

 エドワードが降りて「俺とランスで探して戻るから、兄様達は先に出て」と言う。

 でも、ズールの気配がわかる(マッちゃんに教えてもらえる)のは私とウォロだけだ。

 ウォロが考えながら言った。

「オードリーとシーラにこっちに来てもらって。

 アンドレアスとアリス、ネモとオードリーとシーラと……アンドレアスの従者で先に帰ってて。

 ネモ、カトレア先生とギーマ先生に知らせて。

 残りでアンを探して連れ帰ろう。アンドレアス、学校までみんなを頼む」

「ああ、任せろ」

 

 ウォロが馬車を降り、オードリーとシーラが乗り込んでくる。

 シーラが「アンはメイドの友人が呼びに来て屋敷の中に入っていって……」と話してくれる。

「わかった。すぐ見つかると思うけど、ズールのこともあるから……」

 ウォロが言って馬車のドアを閉めてくれた。

「気をつけて!」

 私は馬車の窓からウォロ達にそう声をかけるしかできなかった。

 

 馬車の中でふと気が付いて頭の中でマッちゃんに呼びかけた。

 夏以降に新しく入った男性使用人を執事とかに聞いたら絞り込めない?

『ネモが、ズールを探すなら夏以降に入った男性使用人を聞いたら絞り込めるのではと言っておるぞ』

 すぐに返事が戻ってきた。

『わかった。アンは見つけた。庭で倒れてた。大丈夫、連れて帰るとのことだ』

 

 私達は無事に学校まで着き、カトレア先生とギーマ先生に辺境伯爵家にズールが潜んでいたことを知らせた。


 マッちゃん、学校に着いて、先生達に伝えたよ! って伝えて。

『ネモから学校に到着、先生にも伝えた』

 すぐ折り返しの返事がある。

『こちらももう馬車で帰っている途中。ズールは庭師だったようだ。逃げられた』


 私はズールのことを確認したかったので、アンドレアスに声をかけ、食堂で待つことにした。

 馬車を降りて寮に向かう時に必ず食堂の前を通るから。

 食堂でアンドレアスとアリスにズールのことを知っているか聞いた。

 アンドレアスは私とライトが、ザーレの遺跡で研究者だったズールの実験に誘拐されるように巻き込まれてケガをしたということまでは知っていた。

 

 そこでズールが古代魔法の封印を解くことにこだわっていたことと、贈名持ちの血が必要なので、私が怪我をさせられたことを説明し、アリスも気をつけるように伝えた。

 封印が私の中に移動したことはまだ伏せておいた。


 そんな話をしていると、帰ってきたのが見えたので、出迎えた。

 ランスの従者がアンを支えて歩いていた。

 アリスがアンに駆け寄る。

「すみません、アリス様。

 屋敷のメイドに話があると呼び出されて……」

 ランスがアンの話を遮り言った。

「話は馬車でも聞いたから俺達から話すよ。早く休んだ方がいい。頼むな」とそのまま従者に指示するとシーラが「一緒に戻ります!」と付いて行ってくれた。


 私達はランスとウォロとエドワードの話を聞くためにまた食堂に戻った。

読んで下さりありがとうございます。

言われるとわかっているとはいえ、悲しい言葉を聞くのは辛いですよね。

でも、突然の急展開でショックも飛んじゃったみたいです。

もうちょい先まで書き進めたいので今日の午後の投稿もお休みします。

これからもよろしくお願いします。

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