53 新学期の始まり
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めているのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
学校の授業が始まった。
私はできるだけ普通に過ごそうとしているが、エドワードの機嫌が悪いので必要最低限しか関わらないようにしていた。
機嫌悪いのは私のせいかもしれないけれど、機嫌悪そうにこっちを見てるってどういうことなんだ。
気に入らないなら見るな!!
ボランティアのこともあるので、どうしても話さなければならないこともある。
申し訳ないがそこのところはティエルノを頼らせてもらった。
学校長に孤児院の院長と話した内容とボランティアの募り方を伝えて、食堂に説明会開催のお知らせのポスターを貼らせてもらった。
ティエルノに「説明会までに仲直りしておけよ」と言われているが……。
なぜ私に言う。エドワードにも言え!
余計にイライラしてくる。
私も『エドワードらしくない』なんて決めつけるようなこと言っちゃったのはいけなかったな……なんて思わないでもなかったが、やはり最近のエドワードに対する違和感がぬぐえない。
本当はきちんとふたりで話し合えばいいのだろうが、学校で男女がふたりきりというのは難しい。ウォロのことでよくわかっている。
1-1寮が微妙な空気感でみんなに申し訳ないと思いつつ、毎日が過ぎていった。
説明会にも1年を中心に知り合いの上級生(マリアやアンドレアス達)も少し来てくれ、12人が登録してくれた。ここに1-1の7人が加わり合計19人。
9月中に1回、孤児院に行くことができた。
10月は1年生が野営実習2回もあることから、マリアとアンドレアスが中心にやってくれることになった。
中心になる人を持ち回りにして、参加できる人をその都度募るのは良い考えかも。
ミクラとジュンにも会いに行けてない……。
10月に入ると野営実習の詳しいことがわかり少人数グループの発表もあった。
まずすぐ寮グループでの実習が1日。
次の週に少人数グループの実習が1日なのだが……。
寮ごとに配布された少人数グループ発表を見て、愕然とした。
なんでエドワードとふたりグループなんだよ!
1-A ティエルノ セレナ オードリー
1-B ライト ウォロ
1-C エドワード エミリア
どう考えてもおかしくないか?
毎年貼り出しで全体発表だったらしいのに、今年は寮ごとに発表になってるし。
学校長とか陛下の思惑が思いっきり見えてる気がするんだけど……。
んー、逆に男女なのにふたりだから話しにくいことも話できる機会か? とも思った。
まあ、仲直りのきっかけになればいいか。
ウォロとオードリーには心配されたけど、まあ、何とかなるよ! と言っておいた。
寮での野営実習は練習していたこともあり、特に問題なく、エドワードもリーダーであるティエルノを補佐してちゃんと動いていて、夜の火の番も少しずつ時間をずらすことにより、しっかり次の人が目が覚めてから引継ぎしていくように工夫され、寝る時間を長めに確保できるようにしていてスムーズにできた。
ふたりの時はどうするんだ?
同じふたりグループのウォロとライトにも聞いてみた。
交代で休むけれど、様子を見てふたりで起きている時間を調整したりと寝不足になるのは覚悟のうえで臨機応変にやるしかないかなと言われた。
うーん。なるようにしかならないか……。
エドワードと特に相談できないまま、実習の日になってしまった。
午後3時に食堂に集合し、食材や調理器具と地図を受け取り出発。
各自の荷物は自分で背負っていたけれど、受け取った食材などはエドワードが持ってくれたので「ありがとう」と伝え、地図は私が受け取った。
食堂を出てから、荷物を確認する。
食材は肉と卵とカット済みの葉物野菜、パン、果物、お茶の葉、少量の塩。
これで夕食と朝食の2食か。フライパンとやかん、カップ、皿、フォーク。
ふたり分だからかなりコンパクトにまとめられている。
揃っているのでまとめ直して、一緒に地図を見た。
けっこう遠いな。運動実習棟の方だ。
あっちって林というか木が多いから燃やす枝の確保はしやすいかもな。
途中、荷物持ちを交代しようかと声をかけたけれど「大丈夫だ」と言われ、話が終わった。
「ここら辺じゃないか?」と言われて地図を確認する。
どこかに1-Cの紙があるはず。
木が多いところだから貼ってあるのかな?
探すと林の中に開けている場所があり、面した木の下にかまどに使えるブロックふたつと敷物とランプが置かれていて、その上に1-Cの紙が留めてあった。
紙はレポートと一緒に提出するのでしまっておく。
「枝拾ってくるから、ここの準備お願いしていい?」
声をかけると頷いてくれた。
王城の庭と違ってたくさん落ちてる。できるだけ集めよう。細い枝が多いからすぐ燃えつきてしまうし。
まず1カ所にたくさん集め、それを2回に分けて野営の場所に運んだ。
太い枝もけっこう見つけることができたので一晩持つかな?
「ずいぶん集めたな」
「途中で無くなっちゃうよりかはいいでしょ!」
「ああ、これだけあれば大丈夫そうだな。ありがとう」
ブロックが開けた場所に移動してあり、その近くにシートが敷かれ、すぐ使うものだけ出してあった。
「こちらこそ、準備ありがとう」
「ランプは一晩分しか燃料が入ってないのでぎりぎりに点けよう」
「了解!」
私はやかんを手に取ると水魔法で水を入れた。
食材を再確認して、夕食は肉と野菜を焼いてパンと、明日の朝は目玉焼きを作ってパンと分けた。果物は大きめの皮まで食べられる桃みたいなのがふたつなので、半分ずつ食べれば2食分。
まあ、お腹がいっぱいになることはなく、かなり微妙な量だな。
夕暮れになってきたので、まずかまどに枝を入れてエドワードに火魔法で火をつけてもらう。
やかんを火にかけ、まずお茶を入れた。
暗くなってきたのでランプに火を入れ、夕食作り。といってもフライパンで焼くだけだ。
すぐできたので、フライパンから直接フォークで食べることにした。
洗い物が少ないほうがいいだろ。
パンも木の枝に刺して炙ってみた。
うーん、ちょっと煙っぽいかも。熾火でやるといいのかもしれない。
フライパンとフォークだけ拭いてしまっておく。
果物は手でふたつに割れたのでそれを食べた。
特に話もせずに黙々と食べてしまったので、食べ終わると気まずい……。
お茶飲み過ぎるとトイレに行きたくなるだろうか?
そう思いつつもやかんに水を足して火にかけ、このまま焚火の前にしばらくいよーかな……と考えていた。
「あのさ……、ずっとイライラしててごめん」と後ろから謝られた。
びっくりして振り向く。
エドワードが謝ってきた!!
「……イライラして機嫌悪くしてるって自覚あったんだ……」
私のひとりごとのような言葉に頷く。
「うん、……ごめん」
私は短いため息をついてから言った。
「いや、私もエドワードらしくない、なんて言っちゃって。
人を決めつけるなんてだめだよね。それに私もイライラしてたし。ごめんなさい」
はあ、言えて良かった。でも、本当に聞きたいのはその前の話だ。
私は深呼吸すると心を落ち着けてから質問した。
「聞きたいことがある。夏休み最後の時のこと。
学校と孤児院と美術館に行ったよね。
孤児院では新聞の取材のこと知らなかったし、美術館は取材受けたからわかってたけど……。
どこまでエドワードは知ってたの?
それとも全部知ってて、もしかしたらチケットもシスターからじゃないとか?」
私はずっと聞きたかった、一番話したかったことをやっと言うことができた。
「そうか、あの時から引っ掛かってたんだ……、道理で……」
エドワードは手にしていたカップのお茶を飲み干すと立ち上がりこちらに来た。
「新しいお茶を入れよう」
私の手のカップを受け取りお茶を入れて渡してくれた。
シートの方に戻りながら「ちゃんと話すからこっちに来て座って」と言った。
私はエドワードの隣に座った。
かまどの炎とエドワードの足元のランプの光が暖かく揺れている。
エドワードが「持ってて」と私にカップを渡し、自分の荷物から毛布を出すとふたりの背中に掛けるようにした。
「冷えてきたから……」
「ありがとう」
カップを返しながらお礼を言った。
「孤児院に取材が来るのは知ってた。父が……王がネモの噂を打ち消すためにすると言ってた。それは黙っててごめん」
「そうか、わかった」
「それから美術館のチケットをシスターにもらったのは本当。
食事前に誘おうと思ったら、ネモがお茶で濡れちゃって着替えと言ってきたから……。
せっかくならかわいくしたネモと出かけたいと思って、店に連れて行った……」
「……わかった。で、食事して美術館に行ったんだもんね。
着替えのトラブルがなければ美術館で記者に会うこともなかったってことか……。
うん、納得できた。教えてくれてありがとう」
「じゃあ、俺も聞いていい? エドワードらしくないって?」
「あ、本のことだね。
私、ちゃんと理由を説明して今は借りるのやめておくと言ったのに、押し付けてくるし……。
あれ、もっとちゃんと人の話聞いてくれてたよな、と思ったの。
最後には怒ってベッドに本投げてたし、いつものエドワードらしくないって……。わかるかな?」
「うん、わかる。
恥ずかしいけど、俺、ネモに俺の本持ってて欲しかったんだよ」
「本を?」
「本じゃなくても、なんでもいいんだけど。なんか俺のことを思い出すものっていうか……」
「……同じ寮にいるのに?」
「あー、もうダメだ、ダメだ……」
エドワードが急に下を向いて呟いたので戸惑った。
「何がダメ……」と聞きかけた時、私の言葉に被せるようにエドワードが下を向いたまま大きな声で言った。
「好きなんだよ。ずっと好きだった。ネモのことが!!」
は?
えっと……?
私の頭の中でセレナのこと、ウォロのこと、ティエルノやオードリーの言葉がぐるぐるした。
「えっ? ちょっと待って。
エドワードは私がこの国を出るのをアリスと同じく望んでいたんじゃないの?
あれ、陛下は……、あれ?」
「混乱させてごめん。
俺はネモが好きだから、この国に縛り付けるようなことはしたくなかった。だから学校長の進言に反対した。アリスと同じ理由じゃない。
でも状況が変わった。
王はネモをこの国に引き留めようとしている。
兄様と王命で結婚するくらいなら俺と……」
「ちょっと待って! 私にはウォロがいるよ!」
「だから、俺を選べって!」
えー、なんだそれ?
「選ばないよ! 私はウォロと婚約してる。エドワードだって知ってるでしょが!」
「ああ、知ってるよ。嫌というほど!!」
なんか……、エドワードが怖い。
そういえば、ふたりきりだった。
この近くで誰か、他に実習しているグループいるのかな?
全然周囲に明かりは見えないけど……。
マッちゃん、どうしよう!
『ネモなら魔法で何とかできるだろう?』
友達に魔法で攻撃なんてできないよ!!
読んで下さりありがとうございます。
この野営実習の時にエドワードが直接告白できたらいいなとは思っていたので、何とかたどり着けた!
人に攻撃するのって怖いですよね。
私、初めて剣道で相手の面に打ち込み練習する時、大泣きしてしまいました。
自分が打たれるのは平気なのに、自分が相手を打つのがとても怖くて手が震えました。
そういう感覚がネモにもあるのかと思ってます。
これからもよろしくお願いします。




