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52 『王子』と『自分』(アンドレアス視点)

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。

今回は時々入る他の登場人物の視点の話です。

ゆっくり書き進めていますので、お付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。



 12歳の3月。魔法学校に入学する前に初めてアリスと会った時のことはよく覚えている。

 ピンクがかった髪色に最初は驚いたが、かわいらしいと思ったし、自分と同じ緑の瞳もいいと思った。


 表情がくるくる変わって、自分が好きなこと、嫌いなことがはっきりしているのも好感が持てた。

 私にはないものだったから。


 私は第1王子としていつも周囲の期待を感じ、それに応えなくてはと思っていた。

『自分』というより『王子』の方が主体であるような……。乖離感とでもいうのか?


 王子として、王子らしく、みんなに好かれるために『自分』を消すこともある。


 そんな時に、自由で、自分のことが大好き! と全身で言っているようなアリスにとても魅力を感じた。

 一緒にいると『自分』も強くなれたような気がして、『王子』と『自分』の境界が曖昧になるような不思議な感覚があった。

 だから、彼女がやりたいことはさせてあげたいと思ったし、やりたくないことはしなくてもいいと思った。


 2年生までのアリスは学校生活を楽しんでいるように見えた。

 大きな魔力を持ち、全属性、しかも聖魔法持ちの突出した力を持っていることも彼女の自信につながっていたはずだ。

 ただ、3年生の後半になると苛立ちや焦りを彼女から多く感じるようになった。


 彼女はもともとの能力が高いからか努力をすることが嫌いだ。

 3年生になったあたりから、コツコツ努力をしていた者が急に高度な魔法を使えるようになったり、アリスにはまだ使えない魔法をマスターする者が現れるようになった。

 その度に自分がどこまでできるのかを隠すようになった。

 今までアリスや私が、寮のみんなを助けたり相談に乗っていたはずが、いつも間にかアリスはその輪から外れ、学業や魔法についての話を全くしなくなった。


 心配した私やアポロが話をしたこともある。

 ここは学校なのでみんなと切磋琢磨するのが当たり前であること。


 彼女は自分がこのように不安な気持ちになっているのは違う理由からだと打ち明けてくれた。


 異母妹のエミリアが12歳になり魔法学校の入学テストを受けるのではないかということが気になるのだと。

 アリスから話は聞いていた。3歳年下の妹で1年ほど一緒に生活したことがあるのだが、大変我儘で乱暴で、やさしいアリスはいつも暴力を振るわれていたという……。


  見かねた父親がエミリアを辺境伯爵領に追い払ってくれたのだが、誰にも愛されないからあのような性格になってしまったんでしょうとアリスは同情していたほどだった。

 

 そんな乱暴で厄介者の異母妹が学校に入学してくるなんて、それは不安だよな。

 私達はアリスの話を聞いてアリスに同情し、守ろうと思った。


 私にも弟がひとりいる。エドワードという名で少し短気なのが玉に瑕だが、私より父によく似ている。

 姿も性格も。そんな弟を羨ましく思うこともあった。

 その弟はエミリアと同学年になる。

 1年生の様子はエドワードに聞いたらよくわかるだろう。


 入学テストの前にエミリアがミーア帝国第3皇子と婚約したことが噂になった。

 アリスから妹を将来的にウォルフライト王国から遠ざけるために辺境伯爵と国が動いたようだと打ち明けられた。

 入学テストの様子を見に行くというアリスを守ろうと一緒に行った時、初めてエミリアに会った。


 アリスから聞いていた話が信じられないほど落ち着いた少女がそこにいた。話もきちんとしている。

 婚約についてもアリスの言っていたこととは違うことを言っている。

 

 アリスが会わない間に人間として成長したのでは?

 アリスはそれを認めなかった。

 自分を羨んで憎んでいるはずだ、エミリアは嘘つきだと言うのだ。

 エミリアに同情していたのではないのか?


 まあ、姉妹、兄弟には一言で言えない愛憎や確執がある例もあるし……。


 私は時々エドワードにエミリアやミーア帝国の皇子の様子を訪ねた。


 最初はエミリア達を敵視していたエドワードだが、徐々にエミリアをネモと愛称で呼ぶようになり、認めるようになっていた。

 私もエミリアがアリスの言うような少女には見えず、戸惑うことが多くなった。

 しかし、私がアリスのことを信じてやらなくてどうする。

『王子』としてアリスの婚約者として、『自分』ではない者を演じているような違和感がさらに増えていった。

 

 アリスはますます苛立ちを隠さなくなり、エミリアに対して対抗するような姿をよく見せるようになっていた。

 それが周囲の人々の不信感をさらに煽る結果になっていることに気が付いていないのだろうか?

 何がアリスにそうさせるのだろう?


 姉としてエミリアの上にいたいという気持ちか?

 その気持ちなら兄の立場である私にも少しわかる気がする。


 しかし、花祭りでのアリスの行動は上級生としての常識を逸脱したものだった。

 エミリアを窮地に追い込むような嘘を言い、他の1年生を脅していたのだ。

 それはアリスも認め、罰を受けた。


 アリスはやりすぎてしまった。

 そして、以前のアリスの話が信じられないという者も現れてきた。


 確かにエミリアを貶めることに夢中になりすぎ、自分が周囲からどのように見えているか気が付いていないのだろうか?


 孤児院への慰問の時は本当に恐ろしい思いをした。  

 エドワードから1-1寮で行うようになった慰問の話を聞き、エミリアが昔はアリスの言うような少女だったとしても、今は違う、成長したのだということをわかって欲しくて話したのだが……。


 アリスは自分もこの目で確かめたいと言った。

 私はそれでアリスの気が済むならばと自由にさせ、見守ることにした。

 なにしろ、孤児院への慰問は悪いことではない。良いことだからだ。


 そしてあんな事故を引き起こしてしまったわけだが……。


 学校で事故のことを話し合った時に周りのせいにするアリスに対してエミリアが言った。


『あの事故はお店でも子どものせいでもない。アリスがやったことが重なって起きたことなんだよ!!

 第1王子! あなたもあなただ!

 子どもにただ物を与えればいいわけじゃない! 与える側の責任があるんだ!』


 アリスだけじゃなく、私の責任についても言及したその言葉に私は動揺した。


 私はアリスを守るために『王子』として行動したはずなのに、『王子』としての責任を放棄していたのではないか?!

 

 私はエミリアに興味を持った。『王子』としても『自分』としても。

 そんな感覚は久しぶりのことだった。


 学校長もエミリアの人格と能力を認め、国策として国から出すべきではないと王に進言するつもりだと聞かされた。

 アリスとエドワードが反対した。

 アリスが反対するのはわかるが、なぜエドワードが?


 剣術大会前には4-1寮の状態はひどいものになっていた。

 アリスはなにもかも周囲の者のせいにするし、同じ寮で一緒に過ごして4年目になるメンバーの結束もばらばらになってきている。

 幼馴染であるアポロとランスだけが、アリスの機嫌を取りながらも呆れているような感じであるが、とりあえず私を支えてくれようと離れずにいてくれるのがわかった。


 そして、夏休みになり、4-1寮は完全にばらばらになった。

 王城の離宮に来てくれたのはアリスとアポロとランスだけだった。

 他のメンバーは『アリスに話をした方がいい』『アリスの言うことはもう信じられない』と私に忠告しながら去って行った。


 ただ、私自身、国に決められたこの婚約をどうしたらいいのかわからなかったことは確かだ。

 

 父である王に話をされたのはそんな時だった。

 エミリアがミーア帝国皇子と婚約解消できたら、アリスとの婚約を解消して私の婚約者にすると。

 今までは『王子』としての私がアリスを守ろうとしていたのに、それがひっくり返った。

 これからの『王子』はアリスから離れなくてはいけなくなったのだ。


 私は了承した。

『王子』として王命に背くことはできない。


 その話がエドワードに伝わり、エドワードが血相を変えて王に直談判しに行ったと聞いた。

 

 エドワードが学校長の進言に対して反対していたのは、エミリアを、ネモを思うがゆえだったことがわかった。

 エドワードはネモのことが好きになり、思い続けていたのだ。

 婚約者がいるネモを思い続けることを決めていて、そこに国の意思や王命が絡むことが許せなかったのだという。

 しかし、そのために兄である私とネモが婚約する事態になるくらいなら、自分が! という思いを父に明かしたのだそうだ。


 やはり、私より『王子』らしい弟だ。エドワードは。


 おかげでアリスと私の婚約は、エドワードとネモの未来によって左右されることになった。


 エドワードとネモが婚約することになれば、私とアリスは婚約解消。

 エドワードとネモが婚約することにならなければ、私とアリスの婚約は継続。


 アリスは学校が始まるまで辺境伯爵家で過ごすことになり、王城を出た。

 王と王妃の前、アリスとネモの間で交わされた言葉と行動。

 アリスのことがわからなくなったが、今までのすべてが嘘であったわけではないと思う。

 アリスも何かを演じていたのではないだろうか?

 その中に本当のアリスは少しは存在していたんだろう。


 私としては少し考える時間ができてほっとしている。

 アリスは、本当のアリスは、私が王子ではなくなったらどうするだろうか?


 王がエドワードの告白を受けて、ネモとエドワードが一緒に過ごす時間を増やすためにいろいろ画策し始めているようだ。


 ただ、それに対してエドワードがとても苛立っているように見える。

 エドワードも『王子』と『自分』との乖離に気が付いたのかもしれないな……。

読んで下さりありがとうございます。

アンドレアス(黒髪緑目)、思ったよりやさしいというより、優柔不断なのかという感じでした。

エドワード(金髪緑目)は見た目も性格も陛下に似ています。


いろいろ周囲に言われちゃって『王子』を演じるようになったんだろうな、と思いました。


学校の新学期が始まります。

これからもよろしくお願いします。

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