45 母と父
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
母の名前を急に出されて私の表情が強張ったのに気が付いたのだろう。
陛下は微笑みながら言った。
「私は本当のエレオノーラを知っているよ。
つまりね、妻、王妃とエレオノーラは友人だったんだ」
……そうなんだ。ありえなくはないか?
お母様は男爵令嬢であったんだし。
噂以外のことで母の名を聞くのは王都では初めてかもしれない。
「あんな噂を流されているのに……という顔だね」
「いえ、そういう訳ではなく、母のことをそのように言ってくれる方と王都で会うのは初めてかもと思って」
「そうか、エレオノーラとネモには辛い思いをさせてしまったね。
エレオノーラの男爵家が傾いてしまったため、彼女が舞台俳優という仕事を選んだことは知っているね?」
「はい。母は女優の仕事に誇りを持っていたことも知っています」
「それでも彼女はローベルトと出会い、仕事から離れることになっても一緒にいることを選んだんだよ。
今のネモみたいにね。
ローベルトには本妻もすでにいたし、私達は反対したんだけどね。
で、あんな噂が流されることになったわけだ。
彼女の覚悟もあったので、見守るしかできなかったがね。
生まれた娘は贈名持ちでまた注目され、元女優の愛人ということばかり面白おかしく噂され……。
その後、王都を離れてダナンに住むと聞いた時には……、彼女達には良いことだと思いつつ、王妃は寂しがったよ」
そうか。ん、ということは私と母を重ねているのか?
だから、ウォロとの結婚に反対なのか?! 全然違うのにな。
でも、それなら何で11歳の時は婚約の許可が下りたんだ?
「その後、エレオノーラが事故の怪我で亡くなって、ローベルトがネモを王都に引き取ったことも聞いたが……、なかなか王城に連れて来ないし、その上、とんでもないできの悪い娘で、貴族としての教育を受けていない令嬢と呼べないような娘だという噂が流れてね……。
そのうち、またダナンに戻ってしまったと聞いた。いろいろあったようだね」
はあ、まあいろいろありましたけれど……。
お父様からそんな話を聞いたことないし、ちょっと信じられない。
「心配してくださっていたことは知りませんでした。感謝致します。
11歳の時にミーア帝国からの申し入れで婚約は許可されています。
私はミーア帝国へ行き、皇帝にも婚約と結婚を認められています。
今更、他の人と婚約をという発言の意味がわかりません。
アンドレアス王子には……、前にも言ったことがありますが、アリスが私に何かしてこないように、またこの国の王妃としてやっていけるようにしっかり見ていて注意してもらいたいです。
私が言いたいのはそれだけ」
王様は大笑いした。
「アリスが王妃になるのはいいんだね。面白いな」
「アリスは世間知らずなところがあります。
そして自分の思い通りにならないことがあると許せません。
でも、それはそのように育てられてきてしまっていることも大きいと思います。
もともと才能はあるし、努力もできるはず。
アンドレアス王子にはアリスを素晴らしい王妃にするために頑張って欲しいのですが……」
そうです。ヒロイン枠なので運命的にも恵まれているはず。
そのまま、まっとうなヒロインになって、私を自由にしてくれ!
「そうだね。アリスがアンドレアスの婚約者に選ばれたのはその突出した才能と贈名持ちということ。
まあ、アンドレアスとはうまくやっていると思っていたが……。
以前からちょっとアリスの考え方や行動に不審点を感じることがあってね。
魔法学校からのアリスとネモの話も聞いているし」
学校長の進言以外に花祭りのトラブルとかも聞いているのか?
「ネモが入学試験を受ける前からかなりの魔法の才能があることは予想はついていたが、同じ家からふたりも王家に嫁がせるのも国内的に問題があるので、ネモのことはその時一度諦めたんだよ」
噂のせいではなく、アリスがすでに婚約してたおかげだったとは!!
「そして、なぜかエドワードはネモとの婚約に乗り気ではないし……」
そうでしょう! セレナがいるんだから!!
「ならば、アリスに降りてもらい、ネモがアンドレアスと婚約し直せばいいのではというのが、私と王妃の考えだ」
えーっと?
私とウォロの意思は無視ですか?
アンドレアスだってそうじゃない?
「御希望には添いかねます。
私にもウォロと一緒にいるという意思があります」
「それはわかっているが……、考えてみてはもらえないだろうか?」
「無理だっての!!」
思わず素で返事してしまった。
陛下に対して不敬罪とか言われたらどうしよう?!
「申し訳ありません……、本当に無理です」
とりあえず謝っておこう。
「そうか、残念だ。しかし、学校を卒業するまで5年ある。
それまでにまた状況は変わるかもしれない。
この話は記憶に留めておいて欲しい」
それで陛下との話は終わり、またメイドの案内で最初のお茶会の場所に戻ることができた。
ウォロが私の姿を見るなり駆け寄ってきた。
私の疲れたような表情を見て「大丈夫か?」と労わってくれる。
「うん、とりあえず話を聞いただけ。断っても、考えてみてくれって言われて……」
「何を?」
「ここではちょっと……」
『儂が伝えようか?』
マッちゃん!!
いや、今は言わない方が!
『ウォロが話せというから言うぞ。アンドレアスと婚約しろと言われておった』
「は?」
だから、言うなって!
「どういうこと?」
「断ったから!」
『でも、5年あれば状況が変わるかもと言われたな』
マッちゃん! 今は話をややこしくしない!!
「なんで、アンドレアスと? ネモが言わないなら聞いてくるけど!」
ウォロが本気で陛下の所に行っちゃいそうだったので止めながら言った。
「同じ辺境伯爵家からふたりも王家に嫁入りさせるのはできないから、アリスに降りてもらってアンドレアスとって言われたんだよ。断ったから!
もう本気で断ったから! 落ち着いて!」
「兄様と?」
ぎょっとして振り向くとエドワードが近くにいた。
「何で兄様とネモが?」
「知らないよ! エドワードは断ってくれたんでしょ!
だから、アンドレアスって言われたけど、断ったから! 絶対ないから!」
エドワードが走って行っちゃったよ。
「エドワードは断った?」
ウォロが聞いてきた。
「そこ? エドワードは反対してくれてたみたいよ。
王様とどんな話をしたかは知らないけど、なんかどの様にするかいくつかパターンがあったんじゃない?
エドワードは乗り気じゃないからアンドレアスとって陛下に言われて…」
ウォロが「何やってんだあいつ」とぼそっと呟いた。
もう帰りたい……。
お父様はどこだ?
近くにいたメイドにそろそろお暇したいことを伝える。
お父様に伝えてきてくれるというのでお願いして、みんなに今日は疲れてしまったので帰ることを伝えた。
「あれ、エドワードは?」とティエルノがきょろきょろしている。
すまんね。走って行ってしまったよ。
「陛下と話があったみたい……。戻ってきたらよろしく言っておいて……」
頼んでいたメイドが戻って来て、玄関まで案内してくれるという。
「じゃあ、また!」
話を楽しんでいたオードリーには悪いけど、玄関でお父様と会って、馬車で王城を後にした。
あ、結局アンドレアスとは話してないや。
また、呼び出されるのかなあ……。
「そういえば、陛下と王妃様って、エレオノーラお母様の友達だったの?」
私は父に聞いた。
「聞いたのか?」
「うん、陛下に言われた。お父様との交際も反対してたって。
それでも一緒にいると言った母と私が似ているって」
「……なにがあってもウォロと一緒にいるって言ったんだな」
「うん、まあ似たようなことを……」
「そうだ。王妃様は伯爵家出身でそこまで裕福な家柄ではなかったので、お茶会などでエレオノーラと過ごすことが多かったらしい。
舞台女優になってからも親交はあって……、妻子持ちの私との交際は反対されていたよ……」
「本当だったんだね。そんな話聞いたことないから、信じきれなくて、失礼な態度を取ってしまったかもしれない」
「ネモがアンドレアスとの婚約を勧められたそうですが、そんな話が実際に?」
ウォロがお父様に聞くとオードリーが「えっ?」と声を上げた。
「……ネモにまで言ったのか。まあ、それだけネモのことが気に入ったんだな。
確かに打診はあったが、すべて断っている。安心しなさい」
そうだよね。
ん? ということはアリスが婚約者から降りるということも?
「アリスは? 婚約者やめさせられちゃうの? 大丈夫?」
「アリスの心配をしてるのか? まだそこまでの話にはなっていないから安心しなさい。
それより、王都にいた9歳のエミリアに対してのアリスとアリシアからの仕打ちの方が私には衝撃的だったんだが……」
「あー、人のいないところで蹴られるくらい普通だったよ。
それより、アリスの言うことがころころ変わってた方が私には衝撃だったけど。
早く自分で気が付かないと、信用失くして大変な事になると思うけどな……」
読んで下さりありがとうございます。
ウォルフライト王国の陛下はちょっと気を付けないといけない人物のようですね。
エドワードもどうするんでしょうね。
ブックマークや評価、どうもありがとうございます!
とてもうれしいです!
今日も午後の投稿をします。
これからもよろしくお願いします。




