40 古代魔法の封印(前)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
今回は転生物です。ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
夕食をご馳走になり別荘に戻ると、お父様が王都から到着していた。
早速話を聞くと、用件は私のことではなかったが、珍しく王妃様が同席され、アリスと私の話をされたという。
私の話をされたのは初めてで少し警戒(連絡しておいて良かった!)したが、ぜひ今度、妹の方と話してみたいので王城を訪ねるようにと言われ、今度招待すると言われたそうだ。
どうせ王城に行かなきゃならないんならエドワードの方にしときゃよかったか?
王妃様からの招待じゃ断われん。
こちらからは明日の午後、学校から先生がいらして一緒に遺跡に行くことを話した。
「その封印を解くとか、エミリアの血が必要とか……。
危なくはないのかね?」
「危なくならないように学校の先生に来てもらうので……。
でも研究のために封印を解くとかにはならないと思うんだけど」
「それに贈名持ちの血が必要なら、カトレア先生もそうだしな。
カトレア先生ならネモを危ないことに巻き込むことはしないと思う」
ウォロもそう言ってくれた。
次の日、午後に先生が来るから午前中はフリー!
ウォロとハロルドに剣の稽古に付き合ってもらう。
両手剣は素振りするくらいにして、長剣の練習をした。
ハロルドに「やはり長剣が基本なので、練習するのは無駄にならない」と言われたから。
確かに、出先で何かあった時に長剣が一番手に入りやすい武器ではあるよね。
魔法を纏わせるのもやりやすそうだし。
剣の練習を始めたら、隣からエドワードとティエルノが参戦してきた。
まあ、人数が多いほうが楽しいか!
ライトとセレナは古代魔法について本を調べているとのこと。
ライトの古代魔法への興味が急激に膨らんでいるのが心配。
興味を持つことは悪いことではないけれど、封印されているようなものに興味だけで手を出していいかということとは別だと思う。
体格的にウォロとティエルノが打ち合うので、私はエドワードと打ち合うことになる。
この正統派で隙のない卒なくまとめてくる……。
いくら身長が同じくらい……、あれ、エドワードの方が高い?!
くっ、抜かされた!!
打ち込んでも弾かれるのが悔しくて、何度も挑んだけれど、やっぱり長剣だと無理。
「あ”ー!! 悔しい!」
私が悔しがっているとハロルドが「まず体力と筋力をつけるように」と言う。
やってやろうじゃん!
見てろよ、エドワード!!
夏休み後には長剣で負かすまではできないだろうが、当たり負けしないぐらいにはしたい。
ふたりはそのままうちで昼食を食べて行った。
握力が……。
剣の握りすぎで握力がおかしいので、午後の外出は馬車に乗ることにした。
ウォロは馬に乗り、帰りに大丈夫そうなら乗せてくれると言う。
お父様達も馬に乗ると言うので、馬車は私とダイゴとオードリー。
なんかお邪魔ですまんね。
エドワード達と合流してマリアの別荘に向かう。
カトレア先生とギーマ先生がいて、挨拶して来ていただいたお礼を伝えた。
今日はマリアは馬車でふたりの先生と一緒に乗るそう。
私もどうかと言われたので、マリアの方の馬車に乗せてもらうことにした。
馬車の中で先生方の話を聞く。
魔法学校の図書館や資料で詳しく調べ、考えてきてくれたとのこと。
「たぶんだけど、『転移魔法』に関係するものかもしれない」とカトレア先生が言った。
転移魔法は今でも魔道具などを使って軽くて小さいものなら送り合うことができる。
役所の緊急連絡の時はこれを利用しているそう。
でも、大きなものや人は利用できない。
ただ古代魔法と魔道具を使ってサンマチネスが自然災害で壊滅しかけた街から人々を転移して避難させた伝説があるそう。それも何回か。
それを当時の王が戦争に利用したいと言い出し、断ったサンマチネス。
亡くなる時、自分の死後、悪用されないようにと、どこかに封印したという話もあるそう。
「じゃあ、自然災害の時のために封印しといたほうがいいんじゃないの?
悪用する人の手に渡ったら大変だし」
私の言葉にギーマ先生が頷く。
「その研究者と話をしてみよう。
話のわかる者ならば、必要な時というのが今ではないことがわかると思うのだが……」
研究所に行き、資料など見せてもらったカトレア先生とギーマ先生がズールとライトとそれから古代魔法に詳しいウォロと話し合っている。マリアも興味があるとそちらに参加していた。
かなり議論が白熱しているので、他のみんなは研究所の中を見学したりしていた。
魔法陣の資料があり、ファイリングされている。
見ていたら魔法陣の真ん中に△が描かれたものがあった。
今回の結界も△だったなと思って読んでいくと、魔法陣についていくつかわかったことがあった。
術の途中でも書き換えられたりすると違う効果が起きることがあることや効力が無効になることもある。
特にこの△は非常にシンプルで力強い古代神の力を表しているそう。
サンマチネスも好んで使用していたとか。
めくっていくと六芒星が中心に描いてある魔法陣もあった。
△ふたつ組み合わせ。
これは打ち消しとか効果を逆にするという意味があるらしい。
でもその時の条件によりどう発動するかわからないらしい。
それは使うの躊躇する記号だな?!
結局、カトレア先生とギーマ先生の主張にズールが折れ、今回はたまたまサンマチネスの血筋のライトと贈名持ちの私が同時に遺跡を訪れたが、特に自然災害の恐れもないし、啓示もないことから『その時ではない!』ということになったそう。
ライトも残念そうな表情だった。
その後、遺跡を散策した時にウォロに聞いた話だと、将来私がミーア帝国に行ってしまった後に『その時』が来てしまったらどうするのかとライトがとても気にしていたそう。
「贈名持ちならカトレア先生もアリスもいるじゃん!」
私は不思議に思って言ってみた。
カトレア先生も同じようなことを言ってくれたのだが、ライトは納得しきれていないようだったとのこと。
「自分に積極的に協力してくれるのはネモという意識があるんだろう。
その時が来て、自分ではない血筋の者に啓示が降りることもあるだろうし。
ライトにしてみれば古代魔法を自分が体得できるかもしれない千載一遇のチャンスではあったんだがな……。
ただ情報が不確かすぎるし、もし本当に悪用されかねない転移魔法だったら今度はライトが狙われることになるしな……」
ウォロが考え込みながら言った。
そうだね。国から利用されたり、誘拐されたり、暗殺されたり……。
嫌な想像をしてしまいぞっとする。
ズールがライトに話しかけて何かを渡しているのが見えた。
古代魔法についての資料かな?
その時、エドワード達に呼ばれてウォロと私はそちらに向かって歩き出した。
お父様と兄様は先に別荘に帰った。
私達はまたセレナの別荘に連れて行かれ、勉強……。
ウォロはライトに古代魔法のことで捕まってて、じゃあマリアは? と見るとカトレア先生とギーマ先生と話している。
なぜだ、なぜなんだ! じゃあ筆記2位のセレナでもいいじゃん!
オードリーはダイゴに、ティエルノはセレナに勉強を見てもらっている。
あそこに入れてもら……。
「ネモは俺と昨日の歴史の続きだ!」
やけにうれしそうなエドワードに声をかけられる。
朝に引き続き、何なんだよ!
ペンがうまく持てない。
字がゆがむ。まだ握力がいまいちだ。
それに気が付いてエドワードが私の右手を手に取った。
「午前の剣の練習か?」
頷く。
「わかった。書き取りはやめて教科書を読もう」
あれ、ちょっとやさしい。
私に教科書を音読させてる間、右手と左手を交互にマッサージしてくれた。
「よく見るとネモの手、小さいな」
「いや、普通サイズだと思うけど」
「いや、小さいというより細い」
「そりゃ、女だからね。
ウォロやティエルノの手みたいにごつくないよ」
手のひらの方は剣のマメとかタコとかできてるけどね。
「なんだよ、こんなに手首細いのか?!
よくこれで長剣振り回せるな。
手首折れないのか?」
「折れてたらここにいないわっ!!」
「小指、細っ!」
やさしい撤回。人の手に文句をつけるんじゃねぇ!
「……ちょっと教科書読めないんだけどっ!!」
声を荒げてしまい、気が付いたらセレナとティエルノとオードリーとダイゴに注目されてしまっていた。
「……うるさくして失礼しました」
4人にそう声かけると、ティエルノがニヤリと笑った。
面白がってんな。
確かに、人の手をまじまじと見てぶつぶつ言っているエドワードは子どもみたいだけどね。
教科書を1単元読んでから、その内容をエドワードと話す。
「だいぶ流れが理解できてきたみたいだね」
褒めてくれたのか?!
「物語みたいに思ったり考えたりできるようになってきた。
同時期の他の国の動きとかも原因とか理由があってなるほどと思うことが増えたよ。
エドワードが教えてくれたからだね。ありがとう」
エドワードがうれしそうに言った。
「でも、まだまだ。明日はちゃんと書き取りやるぞ!」
明日も歴史ですか……。
昨日ご馳走になったのに今日も夕食を用意したからとご馳走になる。
もうお父様へは事前に連絡してあると言われたらしょうがないよね。
マリアと先生方を送り出しお暇しようとするとセレナに言われた。
「今度泊りに来て!」
確かにずっと寮で一緒だったとはいえ、夜一緒に寝てたわけじゃないから、お泊り女子会とか楽しそう!
「うん、来たい!」
「じゃあ明日、仕度してきて! 楽しみにしてる!」
「わかった。ありがとう!
ごちそうさまでした。おやすみなさい!」
隣だし、馬車に乗らないで歩いて帰ることにした。
「エドワードって第2王子だっけ?」
ダイゴに話かけられた。
「うん、そうだよ」
「ネモにいつもあんな感じなの?」
「うん、まあ、あんな感じかな?」
「……ウォロは何も言わないの?」
「ウォロは……、うーん、油断はするなとか馬には一緒に乗らないように! とかは言うかな」
「あ、一応、気にはしているのね」
そう言うと、ウォロの方に行き何か話し出した。
自分の部屋に入り、風呂の用意をしていると服のポケットに手紙のようなメモが入っていた。
ライトからだった。
セレナのことで相談したいことがあるので、夜、10時にうちの別荘の裏で待っているとあった。
セレナのこと?
なんだろう、恋愛相談か?
これは他の人には言えないな……。
うーん、もう9時過ぎなので、風呂急いで入っちゃおう。
オードリーはまだダイゴと話しているからいいや。
さっと入浴を済ませ、部屋着の上に薄手のコートをひっかけてそっと部屋を出た。
別荘の裏口から出て、少し進んで行くとライトが近づいてきた。
「来てくれたんだね、ありがとう」
「相談って何?」
「ちょっとこっちに……」
ライトの後をついて行くと別荘からどんどん離れる。
急に、あれっ? という気持ちが大きくなり、立ち止まる。
「ネモ?」
ライトがこちらを見る。
「あまり別荘から離れたくなくて……」
その時、ライトが私の手をつかんだ。
手の甲に鋭い痛みが走る。
「何?」
何か刺されたような……。
「ライト、手に……」
急に視界が歪みだした。
気持ち悪い。
おかしい、ウォロに知らせないと。
光魔法を発動させようとして魔法がうまく使えないことに気が付く。
あれ? なんだ?
膝を地面についてしまう。
夜なので少ししか見えていない視界がさらに暗くなる。
「ネモ、ごめん」
ライトの声だけ遠くの方から聞こえた。
◇ ◇ ◇
身体が重い。どこか硬い床か地面のようなところに横になっている。
やっと上を見ると夜空に星が見えた。
外だ。
なんだか寒い。
腕をつっかえ棒のようにして上半身を起こすと、かがり火が焚かれ、その明かりで遺跡であの柱の前の広場だとわかった。
左手の甲を見ると小さな傷ができていてかさぶたになりかけている。
薬の針?
両足首が縄で縛られているのに気が付いた。
私は大きな魔法陣の上の中心にいるのだ。
「えっ?」
「ネモ気が付いた?」
後ろから声をかけられ、反射的に振り向こうとするが身体がゆっくりとしか動かない。
ライトとズールがいた。
「ライト……」
「ごめん、ネモ。
どうしても古代魔法を見てみたいし、自分のものにできるならしたいんだ」
「封印を……」
「うん、封印を解く」
ズールが近づいてきて私の左手を取ると魔法陣の真ん中に細いナイフで地面に固定するように突き刺した。
「!!」
特別に細工されてるナイフのようでナイフの真ん中に私の手のひらが固定された様になり、血がナイフの刃を伝わって下に流れ落ち溜まるようになっている。
私は痛みよりも驚きの方が大きかった。
魔法陣の真ん中は手のひらより少し小さな△の形に凹んでいて、そこに私の血が流れだす。
何これ?
必死に周囲の古代文字を読む。
どうやら、私は依り代というかそういう役目みたい。
この△を血で満たし▲にすると魔法陣が発動する、のか。
もうひとつ△が描かれている場所があって、そこにいる人で資格がある、つまりサンマチネスの血筋という人物がそこで封印を解除された『もの』を受けとる。
それが術式なのか、魔道具なのかはわからないけれど、そういう仕組みみたいだ。
左手の下の△にもうすぐ血が溜まりそう。
少しずつ血は止まってきているがナイフ突き刺さったままなんですけど。
ズールが何故かもうひとつの△の所に自分が立ち、ライトには関係ない場所に立って祈る様に指示している。
「ちがう、ライト……」
ズールの目がかがり火に赤く光った。
もしかしてライトみたいにはっきりとは容姿に出ていないけれど、ズールも血筋の者なんじゃ?
こんなことする人に封印が解かれたら大変な事になるんじゃ?
読んで下さりありがとうございます。
ブックマークと評価といいね、ありがとうございます!
とてもうれしいです!
午後の投稿もする予定です。
これからもよろしくお願いします。