後日談 エドワードとサーシャの結婚式(後)
後日談の最終話です。
楽しめて頂けていたらうれしいです。
しかし、ミーア大使館とは……。
学生の時なら学校でふたりきりになれる機会も場所もないし、ということで大目に見てもらえてたけど……。
皇太子と皇太子妃が抱き合うために大使館に数時間滞在ってどうなの?
「……大使館はちょっと。私達のことを知らない宿とかは?」
私が思案しながら言うとダーゼンに言われる。
「ここら辺の連れ込み宿はお勧めできないな」
「連れ込み、宿?!」
何だその、宿?
確かにちゃんとしたホテルとかに数時間ってのも変か?!
「ネモが言ってるのはそういうことだろう?」
ダーゼンに言われて、さらに真っ赤になり俯いてしまう。
ダーゼンのため息が聞こえた。
「なら、うちに来るか?」
うち?
「なんで?」とウォロが言ったのが聞こえた。
「転移魔法で私の屋敷の工房にしている離れに入れば、誰にも見られず、過ごせるだろ?」
ダーゼンのうち?
なら、まだアリステラの屋敷の方が……、あ、もう兄様が来ているかもしれない……。
ウォロの「ダーゼン、連れて行ってくれ」という言葉に驚いて顔を上げると言われた。
「ここで悩んで立ち話しているよりかはいいだろ。時間がもったいない」
まあ、そうか。
下町の路地を進み、人気のない所から、ダーゼンにつかまって転移する。
小さな一軒家の部屋みたいな所に出た。
「ようこそ、私の工房へ」
窓に寄ると見たことのあるお屋敷がある。
サボイ公爵の件で何度かネリーに変装して、来て過ごしてたことあるもんな。
「庭の離れを工房にしてるんだ!」
「ああ、静かでいいだろう。ここには週に1回、掃除に人が入るくらいで……」
ウォロと部屋の中をキョロキョロ見回してしまう。
魔道具の細工の道具、金属加工の道具など、棚やテーブルの上に並んでいて、お店というか、本格的な工房っていう感じ。
「いいな、宮を建てる時、宮の中ではなく離れの工房にしようかな……」
ウォロが呟いた。
「2階に資料というか図書室があって、その向かいが客間になってる。
自由に使っていいぞ」
ウォロが工房の棚の置物に気が付いた。
「これが転移の目印?」
ダーゼンがウォロに頷き、私にも言った。
「そうだ、ネモも覚えておけ。何かあった時の避難場所だと考えてくれればいい」
私は置物の魔石にそっと触れて確認した。
ダーゼンの工房とイメージする。
Dだとダナンの家になっちゃうから、DAにでもするかな?
「私はここで作業しているから、ご自由に」
ご自由にと言われても……。
ウォロが「ありがとうダーゼン」と言って私の手を引き、部屋を出て階段を見つけて上がる。
工房の上の方が資料や本がある図書室になっていて、向かい側が客間がふたつ。ウォルフライトに多く見られる両側から使えるバストイレが、ふたつの部屋の真ん中にある造りだ。
どちらも覗いてみるときれいで、ウォロが階段より奥の部屋に入った。
「ネモ……」
名前を呼ばれて覚悟を決めた。
ミーア大使館やアリステラ辺境伯爵家の屋敷より、ダーゼンひとりに知られてるぐらいの方が気持ち的に楽ではある、か。
ウォロに抱きしめられ、キスされる。
今はウォロだけを見つめて、ウォロとのことを考えよう。
確かに……、レオが生まれてから、こんなに本当にふたりっきりは久々かも。
時々、短い時間で何回か慌ただしく抱き合ったことはあったけれど、頭の片隅にレオの所に早く戻らなくっちゃという気持ちがあって。
今は昼を過ぎたところ。夜までけっこう時間がある。
ウォロのことだけ考えても大丈夫だよね。
「……お風呂、一緒に入ろうか?」
私が小さな声で言うと、ウォロはにっこり笑ってくれた。
◇ ◇ ◇
ダーゼンにお礼を伝えてから、あわてて王城に転移した。
夜になったばかりだけど、思ってたより遅くなった。
離宮に行くとレオ達は夕食を食べているところだった。
「ただいま! レオ! 遅くなってごめんね! カノン、ランスありがとう!」
「おかーしゃ、おとーしゃ、おかえりなしゃーい!」
レオがうれしそうに『おかえりなさい』と言ってくれて安心する。
ん、ノアがいない?
「ノアは? 庭を散歩?」
ランスが笑った。
「レオはアンドリューとよく遊んでたよ。
で、ノアはアンドリューに気に入られて、エドワードも一緒にいたいとなり、今は王城にいる」
あ、そうなの。
明日は結婚式だから、サーシャとエドワードは王城か!
ノアがいい感じに緊張をほぐしているといいけど。
カノンもレオの食事を手伝いながら言ってくれた。
「すっごくいい子だったよ」
「レオ、すっごくいいこだった! たのしかった!」
レオからも腕を振り回しての報告があった。
私とウォロは微笑んで夕食に合流。
王城の庭を散歩して孤児院や教会の周辺を歩き、下町の魔道具工房に行って、その後レストランで食事したことなど話した。
ダーゼンや、セレナとライトともばったり出会って、一緒に食事したこともね。
ランスとカノンとレオも「行きたい!」となったので「じゃあ、帰る前にもう一度みんなで行こうね!」と約束した。
レオは大満足な1日だったらしく、すぐ寝てしまった。ミレイユに部屋で見守りを頼んで、私は隣の客間にいたカノンの所へ行った。
「今日はありがとう。
久しぶりにウォロとふたりっきりで過ごせる時間が取れて、良かったよ」
カノンが微笑んだ。
「私も楽しかったよ。
最初、ランスと何話していいいか困ったけれど、レオがいたから、話しやすかったし」
「困った?
子どもの頃はランスと仲良かったし、普通に話してなかった?」
カノンが苦笑いする。
「ああ……、だから、今、お互いに戸惑っているような……」
「戸惑う?」
「ランスはウォルフライトの子爵だよね……。
私は、結婚できたり、する?」
「……そういう話になっているの?」
カノンは首を振る。
「ううん、ランスは……、戸惑っている感じ。
私をまだ子どもの様に扱おうとして、でも、時々ちゃんと大人の女性に対するみたいに……。
もしって、考えちゃったのは私の方……」
マイベルがウォルフライトの伯爵家へだから……。
皇女がふたりとも他国へということになるけれど、ダイゴとウォロがいて、もうどっちも子どもがいるし、もう皇太子はウォロと決まっているし、ミーアとしては大丈夫なのでは?
あ、ランスの子爵という貴族的な階級に何か言われるかもしれないけど、本人達の気持ちがあるなら、いいのでは、と私は思う。
「ランスの気持ちか……」
私が呟くとカノンが言った。
「うん、ランス、人には素直になれとかいうけど、ランスは全然素直じゃないよね。
明日、私、自分の気持ちを話してみる。はぐらかされるかもしれないけれど、ちゃんと話してみる!
ランスが素直に自分の気持ちを言ってくれるまで、私にはまだまだ時間はたっぷりあるからね!」
私はカノンを抱きしめた。
素敵! ランスは9歳か10歳上ぐらい?
マキシムさんが頭に浮かんだ。
あ、前例いたじゃん!
きっと、大丈夫、うまくいくような気がする。
今日はエドワードとサーシャの結婚式!!
白いウォルフライト王家の騎士風な礼装に、白いドレスのふたり。
サーシャのドレスは少し古風な感じだけど上品で細身なシルエット。
スタイルの良いサーシャの美しさを際立たせている!
金色のティアラには緑の石がキラキラ輝いている。エドワードの瞳の色だな。
素敵!
私は両手を打ち合わせて叫んでしまう。
「わー!! サーシャ! とってもきれい!
エドワードも王子様って感じ! ふたりとも素敵!」
「感じ? 俺は本当に王子なんだよっ!」
エドワードが目を細めて言った。
あ、イラつくことを言ってしまったか?
ウォロに抱っこされてたレオが「おでめとー!!」と叫ぶと、エドワードがふっと笑顔になり、サーシャも「ありがとう!」と言ってくれた。
エドワードもカノンが抱っこしているノアの頭を撫でてくれたりと和やかになった。
陛下と王妃様。
ギーマ先生とカトレア先生。
ティエルノとエリザベス。
ライトとセレナ。
レイモンドとマイベル。
ネイサンとアルテイシア。
ジョシュア兄様とマリアとティーナ。
アンドレアスとアリスとアンドリュー。
アポロと奥様も出席されてる。
それから、ダリル、ミカ、トーマ、ダーゼン。
ランスとノアを抱っこしたカノン。
それにお父様とダーゼン、そこにサーシャを引き取り結婚を後押ししてくれたモーディル伯爵御夫婦と、サーシャの義兄のギュスターヴ。
教会の担当者としてライアンもいた!
オードリーがここにいないのが本当に残念!
今度絶対、一緒に来たいな!
私とウォロとレオは式の後、馬車に乗り込むふたりから離れると庭へ出て、花びらの舞を上空に打ちあげ、私の風魔法で桃色の花びらをふんわり広げて降らせる。
レオが「はなまちゅり!!」と笑う。
あれ? 花祭りの話、聞かせたことあったっけ?
「ネモ! レオ! 次は裏に回るぞ!」
ウォロがレオの右手を握ったので、私はレオの左手を握る。
「「それ~!!」」
ふたりでレオを持ち上げるように小走りで走り出す。
「キャーオ!!」
レオが喜びの声を上げ、私とウォロは顔を見合わせて笑った。
王城の反対側に出る。
ウォロが馬車のタイミングを見て花びらの舞を発動させようとした時、レオも一緒に手を挙げた。
「「花びらの舞!!」」
ふたりの声が揃って、いつもなら桃色の花びらなのに……。
私が風魔法の竜巻をぶつけると、色とりどりの花びらが上空から降り注いできた。
「すっげー! レオ!」
ウォロがその光景を見て驚いている。
レオはニコニコだ。
あれ? レオって……。
ウォロがレオをひょいと抱っこし、私は寄り添う。
エドワードとサーシャの馬車に3人で手を振る。
エドワードに『花びらどうやったんだ?!』って聞かれるだろうなと、思いつつ微笑んだ。
最後まで読んで頂き、どうもありがとうございます!
カノンとランスは数年後、結婚します。
書き上げる前はミカっていう線もあったのよね。
ミカ、かっこよくなっているし。
トーマとミカは、トーマの義妹になったマイとメイのことは妹のようにしか思えなかったよう。
ダリルはこれからきっと素敵な女性に出会って、恋していくんだろうな。
クルトは魔法学校で成長し、医師を目指すと思います。
この後、エドワード達に神聖ホウエン王国に新婚旅行に連れて行けと言われて……。
頭の中ではお話が続いていますが、みんな大人になりどたばたわちゃわちゃも落ち着いてきたので、ここらで完結としようと思います。
アンドリュー、レオ、ティーナ、ルチアが大きくなったら魔法学校に入りそうだな。
アリスのとこには女の子ちゃんが産まれ、今回のことでネモは第2子を懐妊します。
エドワードとサーシャの子と第2子が同学年になりそうじゃね?
そういうことを考えるととても楽しいです。
おめでたいわ!
カイエンとエメリー。ランスとカノン。
歳の差のあるふたりも、きっと幸せになれると思います!
こんな長い話にお付き合いいただき、本当に本当にありがとうございました!
感謝です!
読み終えて頂くだけでも感謝感激なぐらい大長編になってしまいましたが、ぜひ読んだ記念に評価をして頂けたらとてもうれしいです。どうぞよろしくお願いします!




