エピローグ ただできることだけを(サンマチネス視点)
最終話というか、エピローグになります。
ここまで長くお付き合いいただいた皆様、本当にどうもありがとうございます。
ネモを守ろうと熊魔獣と対決し、その身体の中の禍々しい強い力の魔石を中和したところで、儂の魔力というか生命力は尽きたのだと思っていた。
気がつくと、白い光が満ちた不思議な、この世とは隔絶された感覚のする部屋にいた。
「ここは……」
儂は起きて自分の身体の感覚があることに驚いた。
手の感じを見て、顔を髪を触って確認する。
皺もなくがっちりしていて、髪も長い……。
これは20代後半くらいの私の身体か?!
そこへ小さな、光る子どもが音もなく現れた。
金色の髪がふわっと揺れてその子が私をじっと見た。
金色の瞳の光を見ると、こちらの気持ちが小さくなるというか畏怖を感じた。
その子が口を開く。
「もう少し、ネモフィラとデルフィニウムを守ってもらうつもりだったんだけど……。
仕方ないね。
思っていたよりエーテリアの浄化システムを越える汚染が進んでしまっていたから……」
その声に聞き覚えがあった。
「……創造神様?」
「やっぱり君はすごいね」
創造神様は肯定も否定もせず、表情も変えずにそう言った。
「君に頼みがある。
また、エーテリアの世界に転生……、つまり生まれ変わって、デルフィニウムとネモフィラの助けとなって欲しい」
「それは願ったり叶ったり。
私も彼らには深い愛情を感じている……」
特にネモはルチアの魂の生まれ変わりでもあるし。
ルチアのことはずっと忘れていない。
ベリネ王国が滅んだことは後で聞いたが、エヴァンスが革命のリーダーとなっているようだし、ルチアは生きていると思っていた。
ルチアが暴徒化した民に殺されたことが革命のきっかけになったことを、数年後の夏、遠い国で聞いた時には、目の前が真っ暗になる感覚に初めて襲われた。
なんとしても彼女を連れ出すべきだったんだ。
彼女に嫌がられても、嫌われても、無理やりにでも連れ出すべきだった。
愛していたなら、そうすべきだった。
その時、ふと暗闇の中から彼女の黄色い光魔法の温かさを感じた。
私の視界に夏の日の光が戻って来て、気づくと夏の青空に向かうように向日葵の花が咲いていることに気がついた。
ルチアの光に似ている……。
私はその時から、向日葵を私の印にすることにした。
ルチアを忘れないように……。
光る球体が創造神様と私の前に出現した。
ネモとウォロが懐かしい魔法学校で過ごしている様子が見えた。
「今、デルフィニウムとネモフィラは4年生になったところ。
ジュニアとメイリンが起こした事件の被害者を少しでも救おうと頑張っているよ。
そうそう、16歳になった時点で、結婚して夫婦になっている」
「そうか、無事に結婚できたんだな」
「卒業したらミーアに戻り、人のためにできることをするそうだ」
「ああ、ネモらしい……。
ウォロはたぶん、まだそこまで考えていなそうだがな……」
「よくわかっているな。
デルフィニウムのこと」
「それは、ウォロの魂の成長を見てきたからだ」
真っ白い自分のことしか知らない魂が、人間としての初めての感情や愛に戸惑い、たったひとりの女性の愛を求め、そしてその女性に愛されることを通して周囲の存在に気づき、神から人間として生まれ変わっていく魂の成長を……、見てきたから……。
また球体を覗き込むと、学校の魔法対戦でウォロとライトが戦っていた。
「5年の魔法対戦だな」
創造神様が教えてくれる。
ライトも立派になって……。
本来なら、時が来た時に、私は私の血筋であるライトの守護霊となり彼を導くことになっていたのではないかと思うことがあった。
ウォロと戦うその姿は、私の少年時代を思わせた。
「ウォロと戦いたい、勝ちたいという思いが、ライトやエドワードやアンドレアスやレイモンド……。
彼らをより強くした。
そういう指導法もあるのだな……」
創造神様の言葉を聞きながら頷くが、私には少し違う意見もあり、小さな声で呟いた。
「……指導というより、仲間で共鳴し合うとでもいうのでしょうか……」
「そうだな。
ネモフィラ、デルフィニウム、ユーチャリス……。
この3人がイレギュラーにエーテリアに揃って同時期に転生したことが、結局、この世界を救うことになった。
私は、この世界を終わらせたくない……。
もう少し、見ていたい。
そこでサンマチネス、あなたにその使命を託したいと思う」
球体をまた覗き込むとミーア帝国でネモとウォロの結婚式が行われようとしていた。
艶やかな光沢のある真珠のような白いドレスを着たネモはとても美しい。
銀色のミーアの式服を着て、ネモを守るように立つウォロはとても幸せそうだ。
私は思わずにっこり微笑んだ。
「では頼むよ。
エーテリアの世界が少しでも長く続くように、頑張ってくれ」
創造神様がそう言って、何やら空中に向かっていろいろな画面というか表示を出し、何やら書きこむような動きをしてから、その中のひとつを私の方へグイっと差し出した。
読む間もなく、その表示に引きずり込まれ、私は流れ星のようにエーテリアに向かって落ちて行った。
私が目を開けるとそこはあたたかな光とどこか懐かしい香りに満ちた空間だった。
「レオ、おはよう」
私を優しく見ているのはネモだ。
そして私を抱き上げる……って、どうなってる?
どうやら、私は小さな赤子になっているようだ。
創造神様……。
ネモとウォロの子どもに、私を転生させたのかっ?!
ウォロが部屋に入ってきた。
「ネモ、おはよう」
ネモの頬にキスしてから私を見て「レオもおはよう」と言った。
うん、安定のネモファーストだな。
私がふたりをじっと見つめているのに気づいたウォロが言う。
「あ、だいぶはっきり見えるようになってきたんじゃない?
そんな感じがする」
「そうだね。
世界は広いよ! レオ!」
ネモがにっこり微笑みかけてくれた。
まあ……、こんなのもいいかな。
「レオの話、早く聞きたいな」
ウォロがわくわくした様子で言った。
「えっ?
気が早いなー」
「だって贈名持ちだよ。
絶対、前世の記憶持ってるだろ?」
「……そうだね。
でも、今世では私達の大切な大切なレオンハルトだよ」
そこへノアがやって来た。
ネモが私をそっとベッドに戻す。
ノアがベッドに上がってきて、私のそばに来て、見つめてくる。
ノアの思考が頭に流れ込んできた。
『人間とは本当に面白いものだな。
命を、思いを、このように繋いでいくところが本当に面白い。
ネモとウォロがやっていることは、長い目で見れば、無駄になってしまうのではと思うこともあったが……。
もうしばらくは楽しめそうだな……』
『それはどういうことだ?!』
私は呼びかけた。
ノアがびくっとして身繕いしようとして身体を舐めようとした動きを止めた。
聞こえているのか?
『私はマチネス。
敬称をつけてサンマチネスと呼ばれていたこともある。
前にネモとウォロがマッちゃんと呼んでいた存在だ。
前世は古代の魔法剣士だ』
『……そうか。
それは心強い。
それにしてもお前は強いな。
聖獣である私と、思念会話できるとは!!』
『そうだ、私はウォロよりもっと大きく強い!』
ノアがふっと笑った。
『それはどうかな?
未来は変わるものだ。
過去ばかり見ていないで、今、できることをしていくんだな……。
ネモとウォロはそうやってこの世界を良くしようとしている……。
未来では何があるかわからない、また聖石が浄化できない危機が来ることもあるだろうし、国と国の諍いや自然災害だってあるだろう。
そのように積み上げてきたものが一瞬にしてひっくり返されることもあるだろう……。
それまで積み上げてきたものを無駄と思うか、思わないか……。
それでも、きっと、ネモとウォロはそんな時にでも、ただできることだけをしていくんだろうな……』
ただできることだけを……。
自分の人生を大切にしながらも、できることをしていく……。
いいね。
今世もなかなかに楽しめそうだ。
読んで下さりありがとうございます。
長い物語になりましたが、無事に完結しました!!
最後までお付き合いしていただけて、ありがとうございます。
タイトル通りのスタートで、最初の段階は設定など考えてましたが、途中からは大まかな目標に向かってゆるゆる進んでました。
ちょっと笑いを入れながら、少年少女の成長が書きたかったので、長い年数を書き出すことになり、学校が舞台になり……。
登場人物多すぎ問題が発生。
次回作は短い期間、登場人物は少なく、魔法なしにすっぞ! とかなり反動がきています。
ただ、書いているうちにどんどん登場人物達が好きになり、とても楽しく書けました。
最初はアリスの卒業あたりまでかなと思っていたのに全然終わらず、ネモの卒業までだなと腹をくくりました。
ただ、最終目標はあったので、そこまで起きたことを書けばいいという感じでした。
だけどそうするとまた登場人物が増えるんだってば……。
誰の視点でおしまいにするかいろいろ考えましたが、最後はマッちゃんにお願いしました。
時間を前後に重ねることで、マッちゃんの思いも伝わったかなと思います。
ブックマークをして長い時間お付き合いして下さった皆様。
ありがとうございます。
最後に感想や評価を頂けたらとてもうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。




