308 あなたのやってみたいことは?
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
後2話で完結です。
最後までお付き合い、どうぞよろしくお願いします。
「おかーしゃ! おかーしゃ!」
そろそろ3歳になる息子のレオが出かけようとしている私のところに走ってくる。
私はしゃがみこんでレオを待つと抱きしめた。
「おかーしゃま!」
「どうしたの、レオ?」
「あのね、レオもいっしょ、いくの!」
「あら、さっきはノアとお留守番してるって言ってたのに?」
「ちがうの! いっしょ、いくの!」
ひしっと抱きついてくるレオを抱っこして立ち上がる。
「いいわよ。一緒に行きましょう。
今日はカイエン達も来るから楽しいわよって、……それ言ったら行かないってなったんだっけ?」
私はちょっとからかうような口調で言った。
「キースもミチュルも?」
「ええ、来るわよ」
「ミチュル、おかーしゃまのこと、とらない?」
「私はレオのお母さんだから、それは誰にもとられないわよ。大丈夫」
レオを安心させるように背中を優しくとんとんする。
ミレイユが荷物を持ってくれて、そのまま馬車に乗り込んだ。
レオがすぐ窓ににじり寄り、馬車の外を見て「わあ……」と歓声を上げる。
ウォロと同じ銀色の瞳が輝やいている。
「レオ、窓をすこし開けましょう」
馬車の窓を少し開ける。
入り込んできた爽やかな風が、私にそっくりな金色の髪を優しく乱していく。
「ああ、きもちいいーね!」
レオのかわいい声を聞きながら、笑顔で頷く。
結婚式の夜。
カノンの薬をウォロと覚悟を決めて飲んだ。
身体に害がないことは確認したけれど、それ以上に謎の効能だったから。
調べてもよくわかんなかったんだよね……。
特に変なことはなかったんだけど……。
その日初めて、避妊をしないで……。
まあ、ことに及んだわけですが……。
2か月生理が来ず……。
みごとに妊娠してました!
結婚式の夜かどうかは確認しようがないから。
だって、薬を飲んでいない日の……、ということもあり得るでしょ?
カノンの薬がすごいのか、ウォロがすごいのか、もうよくわからない結果に、笑うしかなかったけれど。
次の年の4月末に男の子を産んだ。
レオンハルトとウォロが名前を付けた。
「どういう意味?」
「エドワードより長くて、王子っぽい名前にした」
「あ、ウォロの皇族名のモーリオンより長いか。
アンドレアスとは同じだな」
「アンドレアスと一緒なのは、まあ、いいかな」
「……いいんだ」
将来、由来とか聞かれたら、なんて教えよう……。
そのレオが、今度の4月で3歳になる。
家族3人、4月生まれ。
だから、4月の誕生月会は盛大にやるのが我が家流。
『誰でも学べる学校』に到着して、レオと手を繋いで歩いて中へ入る。
オードリーが「ネモ! レオ! おはよう!」と声を掛けてくれる。
「この~、レオ!
甘えん坊さんだな?!」
オードリーがレオのあごの下をくすぐりレオが高い声で笑う。
「オードリー、無理しないでね。
休み休み仕事するのよ」
私はオードリーの目立ってきたお腹を見て言い、近くにいたシーラに確認するように頷いた。
「大丈夫、私はネモみたいに無理しないから!」
「……私ももう無理しないよ!
レオのためにも元気でいなきゃだもんね。
このまま、小さい子のクラスに一度入っちゃうね!」
「はーい、後でセレナに伝える!」
セレナは卒業後、王城でメイドや使用人に勉強やマナーを教える仕事をしていたが、2年間したところで退職しライトと結婚した。
ちょうどその頃、ライトがウォルフライト王国の魔法研究所からミーア帝国担当として、週に2日間ぐらい来るようになっていて。
その時に一緒に来て、ライトはウォロと魔道具研究所で仕事をし、セレナはこの学校を手伝ってくれているってわけ。
クラウス先生とキャサリン先生はもうウォルフライト王国に戻った。
キャサリン先生にはミーアにいる間、布ナプキンの開発に協力してもらった。
ミーアの方がいろいろな素材の布があって、それは良かったんだけど。
肝心の私の生理が来なくなって……。
自分で試すことができないのは残念だったけど……。
キャサリン先生が病院で、私は王城で、働く女性に使ってもらってアンケートを取ったりできた。
おかげで出産前に完成して、ミーアの女性に喜んでもらえている!
キャサリン先生とカトレア先生で、ウォルフライト王国の避妊具の会社にアイデアを売り込んでくれて、そっちでも作ることになり……。
避妊具のほかに布ナプキンのアイデア料の一部も私の口座に入れてもらえることになった!
学校の運営資金、ゲットだぜ!!
エドワードとサーシャも今年で研究所の博士課程が終わるので、夏になったらウォルフライト王国に戻り、結婚式を挙げることになっている。
「ネモ!」
ミルスマリア伯爵家の甘えん坊、末っ子のミツルが私に抱きついてくる。
もう7歳なのに、6歳の時のカイエンとは大違いだ。
「だめ!
ネモはレオとウォロのだから、だめ!」
レオがミツルを引っ張って怒っている。
カイエンが来て「こら、ミツル! レオを泣かすな!」言うと、しぶしぶミツルは私から離れた。
カイエンがというより、レオがちょっと怖いのだろう。
いつもは私のことをお母様(本人の口が回らなくて、おかーしゃまになっちゃうけどね)と呼ぶのに、本気で怒る時はネモと呼ぶ。
だいたい怒る時は私絡みで他の人に怒ることが多いので……。
最初、ウォロの真似なのかと思ったこともあったけど、ちょっと違う感じがする。
実はレオは全属性、聖魔法、そして贈名まで持っている。
すでに属性魔法がけっこう使えることがわかっていて、加減して攻撃することすらできる。
この歳でここまでコントロールできるのは、なかなかすごいというか、かなり珍しい……。
そして現在の名前は『ギベオン・レオンハルト・ジェンテン・イル・ミーア』となっている。
そう、皇族名のギベオンと皇家直系のイルまでついているということは……。
……ウォロは皇太子になってしまったのだ!!
ちなみにギベオンは隕石のことだそう。
隕鉄で銀色らしいんだけど。
隕石は貴石……なのか?
金属じゃね?
つけてくれたのは皇帝陛下。
……なんか圧が強そうな名前だよね……。
ジェンテンという花に思い当たりがなくて戸惑ったんだけど、リンドウのことだった。
知った時は、同じ青い花だ! とうれしくなった。
ウォロにはダイゴにダンテにミクラにマキシムにとたくさんの補佐してくれる人がいる。
本当にありがたいことだ。
エディも国立学校を卒業し、研究所で政治経済を学びながらウォロの文官みたいな仕事もしてくれてる。
それにトーマが父親の商会のミーア支社長になり、ユーリを連れて来ている。
文通している神聖ホウエン王国のサンもそろそろハイレディン商会に就職を考える頃なはず。
就職してハイレディンとミーアに来たら、ウォロ=モーリオン皇太子だとサプライズでばらすんだとウォロはとても楽しみにしている。
そのハイレディンもカイオーを引き連れてよく来ている。
貿易の方も盛んになり、おかげで3国は景気も良いようだ。
私は小さな子どものクラスで、来ている子ども達の個人カードを確認しながらそれぞれに次の課題のプリントを渡していく。
公文式方式というの?
私は経験者じゃないんだけど、たくさんの人に対応するにはいい方法だと思って。
プリントをくり返しというぐらいの知識しかなかったんだけど、本当に最初の字を覚えたり練習したり、簡単な計算をくり返しやったり、少しずつ新しいことを知るにはいい方法だと思う。
カイエンぐらい大きくなれば、参考書兼問題集みたいなドリルを自分のペースで進めて、わからないことを周囲の大人に聞くという形に移行していくけれど。
レオ、ミツル、キースに今日のプリントを渡す。
「これが終わって、ミレイユに丸もらえたら、図書室に行っていいわよ」
そう伝えると、子ども達がにっこりした。
子ども向け、少年少女向け、そしてオドワルト先生を筆頭に恋愛小説や楽しんで読める本、そう皇宮の図書館では置いてないような本を集めて貸し出しもしている図書室もある。
「おかーしゃまは?」
「シニアクラスの様子を見て来るわ。
レオ、その後で私も図書室に行くから、そこで待ち合わせね!」
「うん、まちあーせ」
レオがうれしそうに答えて、プリントを抱きしめてぴょんぴょんする。
それから私はシニアクラスに顔を出し、初めて来たというおばあさまに声を掛けた。
ミーアには字を覚える機会もないまま大人にならざるをえなかった方がかなりいる。
何歳になっても勉強したいという人には、その機会があればと思ったのだ。
心を助ける。
それがこの学校のしていることだと思う。
病院や神殿での身体の治療も大事だけど、心も大事。
自分を大切にできて、夢を持てることが大事。
そのおばあさまもこの学校の話を友人に聞いたそうで、小さな孫を連れて来ていた。
初めての子ども達を集めて学校ツアーに出発しようとしていたセレナとマイベルにお孫さんは預けた。
そう、レイモンドも今、ミーアの大使館に来てるんだよね!
なのでマイベルもミーアで私の手伝いをしてくれてる。
初等学校をミーア帝国の各地へ! というのはまだ2校ぐらいしか実現できていない。
でも、今、できることを無理なく、し続けられたら、と思っている。
私はおばあさまに向き合う。
「あなたの学びたいこと、やってみたいことはなんですか?
こんなことをできるようになりたいという夢があったら教えて下さい!」
読んで下さりありがとうございます。
次の話がエピローグとなります。
明日は午前中に仕事があり、帰宅してからじっくり考えて後書きを書き、夕方には投稿したいと思っています。
完結までお付き合いいただけるとうれしいです!
どうぞよろしくお願いします。




