31 アリスが、なんで?
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますが、お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
みんなで一緒に孤児院に慰問に行く日になった。
王家の馬車に乗せてもらって、ミクラとジュンの家に向かう。
家の庭に馬車を2台も(しかも王家と公爵家のでかい馬車)置くスペースはなく、12時半に迎えに来てもらうことにした。
私とオードリーはクッキーを作り、ジュンとセレナとライトはサンドイッチを作る。
クッキーが焼けると私はオードリーに後は頼んで、庭でやっている剣の練習に参加させてもらった。
選手の3人が最初から練習してたのだ。ミクラとふたりの従者も一緒に参加してる。
私が行くとウォロが話しておいてくれたのかミクラがすぐ来てくれたので、木剣と教本を見せてみた。
確かにミーア帝国でも使われている剣と型だそう。
動きにスピードはあるが少し非力な人でも扱える、防御と攻撃を兼ね備えた接近戦向きの型だそう。
「先生がネモにこれを勧めたとなると、その先生、なかなか実力者だね」
ミクラが先生を褒めてる!
剣の持ち方を見てもらって、素振りの仕方を教えてもらう。
片方ずつというより、一緒に動かした方がいいそう。
実際に攻撃を受け止め払う、受け止め払うをイメージして動かすように言われた。
なるほど。
ここまでわかれば素振りを自主練して、また教えてもらおう。
しかし、この3人、練習に夢中になりすぎじゃないか?
これから出かけるのに、汗だくになってますけど……。
エドワードがちょうど近くにいたので声をかける。
「着替えとか持ってるの?
みんなすごい汗だけど……」
「あ……、俺は馬車にあると思う。
ティエルノはどうだろう?」
「ウォロはミクラから借りてもいいけど……」
エドワードの髪先から汗が雫になって垂れ、額からも汗がつーっと流れる。
気持ち悪くないの?!
思わずハンカチを出して「少しは拭きなよ!」とごしごししてしまった。
ウォロ達の汗を拭くものも持って来よう。
「それで拭いてなね!」
エドワードに言って、家の中に入りジュンに話してタオルを出してもらった。
汗を拭いて、ミクラとウォロはシャワーを浴びて、ミクラの服を借りて着替えた。
エドワードとティエルノは馬車に着替えがあると言うのだが、汗をかいたままというわけにはいかないのでシャワーを浴びてもらい、ミクラの部屋着をとりあえず着ていてもらうことにした。
ふたりの従者は指導するのが主だったため、そこまで汗をかいていなかったので、今回は拭くだけで何とか大丈夫そうとのこと。
昼食を食べていると馬車が来たので、エドワードとティエルノはそれぞれの服に着替えた。
汗をかいたみんなの服もこのまま置いていくことになった。
また練習に来たいと言われたからだ。
「ごめんねジュン、仕事増やしちゃって……」
私は学校に戻ってしまうからこの大量の洗濯を手伝えない。
「大丈夫ですよ。ミクラも楽しそうですし!」
せめてと思い私のハンカチを探すがタオルのとこにない。
あれ?
まだエドワードが持ってるのか?
「エドワード、私のハンカチ知らない?
タオルのとこに出してない?」
「借りたものだから洗って帰すよ」
「そんなのいいのに。……うん、わかった」
ジュンが洗濯する方に入ってなければいいか!
返してもらっても汗だらけじゃ使えないもんね……。
私はジュンに代わりのハンカチを借りに行った。
何とか仕度が出来て、ミクラとジュンの乗った馬車を入れると3台で孤児院に到着。
今回は人数も多いので幼児部と児童部に分かれることにした。
私とウォロとエドワードとセレナ、ミクラが児童部。
ティエルノとライトとオードリー、ジュン、シーラが幼児部。
庭にテーブルを出し、クッキーやお茶を用意して、食べに来る子に振舞う。
しばらくするとティエルノがエドワードを呼びに来た。
「エドワード! アンドレアス第1王子とアリス達が来たんだけど!」
「えっ? なんで?」」
エドワードの表情が曇った。
ミクラが児童部の方にこのままいてくれると言うので幼児部の庭へ行ってみると、私達の差し入れたものはテーブルの脇に寄せられ、買ってきたお菓子が4-1寮の4年生の手で並べられているところだった。
「これは?」
私は驚いて声を上げてしまった。
「慰問のお菓子よ。一流の菓子店で揃えたの」
アリスがニコニコしながら言った。
「兄様、今日は俺達が来ていることを知っているのにどうして?」
エドワードがアンドレアスに話しかけた。
「アリスに話をしたら、素晴らしいことだから行きたいという話になったんだ」
「別の日に4年生だけで来ればいいだろ?!」
「いや、どうせなら一緒にとアリスが……」
子ども達がテーブルのお菓子の包みにどんどん手を伸ばして持って行っている。
大丈夫だと思うけれど、何があるんだろう?
紙に包まれているお菓子が多いので中身がよくわからない。
「アリス、小さい子でも食べられるお菓子だよね?」
私が聞くとアリスはイラっとしたようで言い返してくる。
「お店で子どもが好きな物を揃えてもらったの!
間違いないはずよ!
手作りお菓子よりずっとおいしいはず!」
「年齢も伝えた? ここはすごく小さな子もいるから……」
アンドレアスが教えてくれた。
「孤児院に慰問でと言ったら、店の者が日持ちのする物を中心に揃えてくれたようだ」
「日持ちする物……?」
なんだか嫌な予感がする。
「飴とか入ってないですよね?!」
「飴?」
「お菓子を食べ慣れていない子も多いし、ここは幼児が多いので飴は危険なんです。
まだ児童部なら大丈夫だと思いますが……」
シスターが来てくれたので一緒にお菓子を確認する。
大玉の飴があった。
「これは……」
シスターの表情も曇る。
「大きな飴だけ回収して児童部に移動させましょう!
せっかくの差し入れだもの!」
シスターとライトも手伝ってくれ、大玉の飴の包み紙を確認し、手早く探し出して袋に回収し始める。
「何してるの!
私のお菓子に触らないで!」
アリスが怒って叫んでくる。
「私のお菓子の方が人気があるからって嫌ね!」
「違うのアリス! 幼児部の子には飴はまだ早いから!
取り分けて児童部の子どもに差し入れさせてくれない?
ね、お願い!」
こんなところで揉めてる場合じゃない!
早く回収しないと!
「ふーん、あなたがお願いしてくるなんて珍しい……。
でも嫌よ。私達が用意したお菓子なんだから、誰にあげるかは私達が決めるわ!」
「アリス!」
「みんな~、この意地悪なお姉さんがみんなのお菓子を取ろうとしてるわよ! 本当に意地悪よね!
取られないうちに早く食べた方がいいわよ!」
「アリス、お願いだから話を聞いて!
子どもに食べるのを急がせないで!」
アンドレアスもシスターから説明を聞いたようで、アリスの所に行き話しをしようとしてくれていた。
その時、アリスのそばで少し大きな女の子が悲鳴を上げた。
「お姉さん! この子苦しそう!」
アリスのスカートにしがみついて訴える。
その子の横に3歳くらいの男の子が座り込み、苦しそうにのどや口に手を当ててゼイゼイしていた。
男の子も必死に手を伸ばしアリスのスカートにつかまろうとした。
アリスは男の子の手も、しがみついていた女の子も突き飛ばすように払って、アンドレスの後ろに隠れた。
「嫌! 何?」
女の子は転んで泣き出す。
私は男の子のところに駆けつけた。
その手に飴の包み紙が握られていて、血の気が引いた。
急いで吐き出させないと!!
男の子のお腹を抱えて頭を下にさせて肩甲骨の間を叩く。
「ごめん、吐き出せるように叩くよ!
吐き出して! 頑張れ!」
その様子を見て、あわててジュンとウォロとシスターが来てくれた。
ウォロが男の子を抱え、口の方が閉じないように確保するのをシスターとジュンが手伝ってくれる。
「頑張れ! 頑張れ! 大丈夫だからね!
頑張って吐き出して!」
私は男の子の身体に触れながら励まし、背中を手のひら全体で叩く。
何度叩いても出てこない!!
「お願い! 出て!」
ウォロが抱え直そうとお腹をぐっと持ち上げた時と私が叩いたタイミングが一緒になった。
「出ました!」
シスターの手の上に溶けかけた大きな飴玉があった。
男の子は大きな声で泣き始めた。
良かった……。
涙とよだれだらけで抱きついてくる。私はぎゅっと抱きしめて座りこんで、頭をよしよしした。
「苦しかったね。よく頑張ったよ……」
転んで泣いていた女の子はオードリーとセレナが慰めてくれていた。
「この包み紙の飴は今は食べないでね!
大きい子は小さい子が持ってないか見てあげて!」
私が言うとエドワードとティエルノが子ども達の間を確認してくれ、子ども達が持っていた飴も集めてくれ、集めた袋を持ってアンドレアスとアリスの所に行った。
「兄様、アリス、これを持って児童部の方へ行ってくれないか。
児童部でも気を付けてゆっくり食べるように話をしてから食べさせるように!」
エドワードがアリスに袋を渡そうとするとアリスが拒んだ。
仕方がないのでアンドレアスに渡して、エドワードがこちらに来た。
「怖い苦しい思いをさせてごめんね」
男の子の頭をやさしく撫でてくれた。
アンドレアスに促されて、アリスが幼児部から出て行った。
4-1寮の人達も一緒に出て行った。
「シスター、ごめんなさい。
こんな事故を起こしてしまって……」
「あなた方のせいじゃないですよ!
むしろあなた方がいてくれて本当に良かった!」
私は男の子を抱っこしたまま立ち上がった。
「この子を休ませてあげないと」
シスターと一緒に奥の部屋に向かい、男の子が落ち着いているのを確認して顔をきれいにして服を着替えさせる。
水をゆっくり飲ませると少ししみるようだ。
でも、飲めているので安心した。
「今日はのどがイガイガチクチクするかもね。
ゆっくり休めばすぐ治るよ」
男の子がこっくり頷く。
本当に助けられて良かった。
「あなたの服、どうしましょう?」
シスターがおろおろしながら言った。
着ていたワンピースの胸の辺りが涙とよだれでぐっしょり濡れていた。
「大丈夫です! 洗濯すればきれいになりますし!」
「でも、冷たいでしょう!」
「誰か着替えを持ってないか聞いてみます」
エドワードかティエルノならもう一式くらい着替えあるかも?
聞いてみるとエドワードがまだ馬車にあると言い、持って来てくれた。
胸の部分だけ濡らしたタオルで拭いて着替えたが、女性用の下着ではないので、胸の辺りが頼りなく変な感じだ。透けたりしてないよな?!
ジュンに来てもらって確認してもらう。
「生地も厚めのシャツなので、大丈夫ですね。
この服も家で洗っておきますね!」
ジュンの仕事また増やしちゃったよ。
庭に戻るとお菓子は片付けられていて、一度シスターが確認してから子ども達に渡すことにしたそうだ。
良かった。それなら安心!
また来ることを約束して、孤児院を出て学校に戻った。
疲れているだろうからとみんなに言われて王家の馬車に乗せられたけど。
馬車の中でほっと安心すると手がぶるぶる震えているのに気が付いた。
隣に座っていたウォロが気づいてぎゅっと抱きしめてくれた。
エドワードとセレナが驚いていたので「ごめん、ほっとしたら今頃怖くなって震えが来て……」と震え声で説明したら「大丈夫だからもうしゃべるな」とウォロに言われて頭を抱えるようにして胸に押しつけられた。
何も見えなくなる。
でも、話すのをやめられない。
「うん……、でも、とても怖かった。
助けられなかったらと思ったら、すごく怖かったよ……」
「うん、怖かったな。助けられて本当に良かった」
学校に到着して、私が泣き顔でウォロと一緒に馬車から降りてくると、ティエルノ達が驚いていた。
ティエルノにウォロが話しかけた。
「自分の荷物とネモの荷物頼んでいい?
先にネモと寮に戻ってるから、みんなは食堂で夕食選んできなよ」
「何でネモ泣いてるの?」
オードリーが聞いてきたので私が答えようとすると、ウォロが私を横抱きに抱えてさっさと歩き出した。
オードリーが追いかけてこようとして、セレナが止めていたのが見えた。
エドワードとセレナが説明してくれるかな……。
寮に着くとまっすぐ私の部屋に連れてってくれた。
「ウォロ、ありがとう」
「みんなといると、ネモ、無理するから。
どう落ち着いた?」
「うん、お風呂入って着替えるよ」
「そうだな、リビングにいるから、何かあったら遠慮なく言えよ」
「ありがとう」
お風呂に入って着替えたら、だいぶすっきりした。
そうだよね。怒りや怖いという気持ちを我慢するのもよくないんだろうな……。
みんな帰ってくるのが遅くて、リビングでウォロとお茶を飲んでいたら、やっと戻ってきた。
今日は休みの日なので、みんなは食堂で食べてきて、私とウォロの分を持ち帰りにしてくれてた。
「ありがとう!」
私とウォロが食べ始めると、みんなは自分の部屋に戻った。そのうち、いつの間にかいつもの休みの日の夜の感じになって、みんなで話したり笑ったりできた。
次の日の夕方。
とんでもない噂を聞いた。
ウォロがエドワードを横抱きにして歩いてた。そのまま寮に入っていった……!
あのふたりも怪しい……!
あ、私、エドワードの服着てたし、髪も同じ金髪だし。
抱っこされてる時、ポニーテールの部分がウォロの腕や肩で隠れて見えたのかも。
夕食の時、その噂を聞いたエドワードがすっごく怒ってて、セレナがおろおろしてた。
でも、他のみんなは大爆笑した。
ウォロも大爆笑してたよ。
読んで下さりありがとうございます。
今回は長めの話になったので、午後の投稿はお休みします。
どうぞよろしくお願いします。