305 最後の魔法対戦(前)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
セレナがまたお気に入りの小説を貸してくれる。
この前の歴史小説の著者の新刊だそう。
今度は思いっきり恋愛小説だそう。
時代設定は古代と現代で生まれ変わりを絡めて、悲恋と溺愛をうまく表現していて1冊でどちらも味わえるという……。
盛りだくさんだね。
勉強や薬作りの合間に少しずつ読んでいたんだけど……。
なんか……、あれ?
「セレナ、前に借りた同じ著者の歴史小説、もう一度貸してくれる?」
私は気になったページをパラパラ出して、もう一度読み直す。
舞台はダナンを思わせる国境あたりで、ミーア帝国とウォルフライト王国の交流の歴史の一時代を取り上げている。
それに……、このウォルフライト王国の王女が輿入れするミーアの皇帝が、性格がウォロっぽいというか、時々ウォロみたいなこと言うんだよ。
恋愛の描写も、なんか、聖女と王子の劇と似ているとこがあったり……。
私は新しい方の恋愛小説をまた見てみる。
古代のパートは聖女と魔法騎士の悲恋で……。
現代がそのふたりが生まれ変わってまた恋人になるみたいな感じで……。
こっちもなんか男性がエドワードのいいとこどりっぽいんだよな。
なんか、知ってる展開だったりして……。
私は著者の名を確認する。
オドワルト・ルチル
ルチル……、ダイゴの皇族名だ。
なんとなくピンと来てしまった。
「セレナ、この人ってまだこの2作だけ?」
「うん、そうだよ。
謎の新人作家なの!
けっこう注目されてるよ!
ロマンチックだよね。
私は好きだな、世界観。
文章も読みやすいし!
それに、なんか1作目の主人公がネモとウォロみたいじゃない?」
「えっ、皇帝はウォロっぽいなとは思ったけど……。
主人公……、境遇は似てるかな?
側室の子で、王城でいじめられてたよね。
最初の方がちょっと辛い描写もあったし」
「でも、だんだん皇帝と心を通わせて、幸せになるんだから、良かったでしょ」
「うん、でも、凛としているとことか、マリアを脳内イメージで当てはめて読んでたわ」
私はラボでオードリーとふたりきりになる時を狙っていた。
オードリーが何か書きものに夢中になっている。
私はそっと忍び足でオードリーの背後に回り、手元を覗き込んだ。
やっぱり……。
レポートというより小説っぽい字面だ……。
だって鍵かっこのセリフが多いんだもん。
「オドワルト先生、新作ですか?」
私の背後からの言葉に、オードリーがすっごく動揺して跳び上がった。
「えっ?
ネモ?
いつからそこに?
見たの?!」
「……謎の新人作家……がオードリーだったとは!」
「えっ……、なんのこと?」
目が泳いでますよ……。
「別にやめさせたりしないけど……。
うーん、1作目の皇帝なんか、ウォロっぽいよね?!
2作目はエドワードっぽい?」
「誰にも……」
「言わないよ。
セレナにも言ってない。
オードリーのやりたいことだと思うから、自分で言える時が来たらセレナに教えてあげて。
ファンだって言ってるから、喜ぶと思うよ」
私は自分が座っていた椅子まで戻りながら言った。
「ネモ、ありがとう……」
「うん、でも、やっぱりオードリー、文才あるね。
面白いよ、この2冊の本。
時々、あれ? ってデジャブみたいな時があるけど、それは私だけなんだろうか?」
「……ごめん。
ちょっとモデルにしてる………」
今、書いている3作目の作品もレポートとして提出することにしたそうだ。
「卒業レポート、もうできちゃったのよね。
だから……」
「うん、いいんじゃない?
前世でも卒論で小説書く学部が確かあったと思う。
芸術学部系かな?
卒業制作で作品を提出すればいいんだから」
「うん、だから、卒業する時にカミングアウトしようかと……」
「わかった。頑張って!」
「いいの?」
「ん?」
「えっ?」
「3作目って何の話なの? 私が許可するような……話?」
「えっ? その……」
「……いいや!
読むの楽しみにしてる。
自由に書いてみてよ」
「うん、ありがとう」
魔法対戦大会当日。
去年は途中で閉会しちゃったからね……。
今度は万全な会場の防犯体制を……。
今年もカノンとダイゴとダンテを招待した。
カノンはノアにやっと会えて大喜び。
「私が抱いていく!」
大きめの上着を持参してくるぐらい気合が入っていた。
私とウォロとエドワードは陛下に呼び出され、食堂の2階に挨拶に行った。
従者の中にユーリと、シルバーと呼ばれていた長身の男がいてびっくりする。
「私の新しい護衛だよ」
陛下が笑うので、私とウォロは顔を見合わせて、ため息をついた。
エドワードが「あれ、サボイ公爵の時の……」とユーリを見て言った。
「このふたりはすごいぞ。
ネモをまんまと攫った経験があるふたりだからな!」
「えっ、じゃあ、この男は去年の魔法対戦の時の?!
闇社会の?!」
エドワードも呆れたように言った。
実習場に戻りながら3人で話す。
「自分を襲った闇社会を味方につけて自分を守らすって……。
父親とはいえ、感覚がぶっ飛び過ぎてる……」
「……そうか?
ネモも近いところあると思うけど」
ウォロの言葉にエドワードがはっとする。
「そうだな?!」
「なに? 私と陛下が似てるとか勘弁してよ!」
1回戦が始まり、5年生は4人全員全員勝ち上がる。
うんうん、順調順調。
2回戦目もうまくばらけた。
5年同士は当たってない!
ネイサン、アルテイシア、エリザベス、サミュエル、ライアンも残っているけど、もう最後だし、5年生を応援する!
4年 ネイサン(火土) VS 5年 ミカ(火風)
3年 サミュエル(水風) VZ 5年 ライト(水風)
4年 アルテイシア(水火) VS 5年 エドワード(火風)
2年 ライアン(火土) VS 5年 ウォロ(火土)
2年 メルヴェ(火土) VS 4年 キョウ(火土)
おお、何か知ってる人ばかりだ……。
火土属性多いな!
第1試合。
属性だとミカの方がちょっと不利かな……。
ミカは魔法の展開スピードが早い。
魔法陣を展開、すぐにファイアボールを大量に増やして打ち出した。
ネイサンが防御壁を出している間に風魔法の小さな竜巻を回りこませるように襲う。
ネイサンがファイアでの爆風で竜巻を相殺したが、少しダメージが入った。すかさず、ミカが次の竜巻を魔法陣に入れ増やしたところに炎を入れ込んで、攻撃する。
しかし、ネイサンが土の防御壁を完成させていた。
あの土の防御壁、すごいな……。
崩すには強い水の力が必要かも……。
ミカが炎竜巻を練り合わせるように大きくして向かわせる。
その間に小さな竜巻をまた魔法陣に入れ防御壁にするみたいだ。
ネイサンは防御壁が完成したので、落ち着いたよう。
魔法陣を上の方に展開している。
土の防御壁があるからね。
そして上から、ストーンバレットの集中砲火!!
竜巻の防御壁では全部止めきれず、ミカが被弾した。
でも、ミカが放った大きな火竜巻はネイサンの防御壁にたどり着くとゴリゴリ音を立てて壁を削っている。
んー、時間かかりそう。
これ、エドワードのあの空気を固めたような風魔法なら壊せるかも。
ミカが防御壁を削り切るのが先か、ネイサンがミカを攻略するのが先か、みたいな感じ?!
ミカが魔法陣を使って竜巻の防御壁を再度展開。
打ち込まれた礫を巻き込んで、防御の力を上げている。
うん、ミカは冷静だ。
いいところが出てる!
ネイサンはストーンバレットを打ち続け、ミカが何とか防いでいる。
その合間にもゴリゴリと不気味な音が続いている。
ネイサンが焦った顔をして、ストーンバレットを礫から大きな石に変えた。
というか、思いがけず出た! という感じ。
これはミカも想定してなかったようで、竜巻では防ぎきれず、かなりのダメージを負ってしまった。
ネイサンが続けて巨大ストーンバレットを放ち、ミカが被弾とするのと同時に土の防御壁が削る音が止んでネイサンに炎竜巻が襲い掛かる。
ほぼ相打ち状態……。
センサーでの確認となり、ミカの方が先にダメージ定数を越えていたことが判明。
つまり、ほぼ相打ちなんだけど、ネイサンの勝ちだ。
相性が不利なのに、よくやったよミカ!
拍手が巻き起こる。
ネイサンの勝利を称えると同時に、ミカへの称賛の温かい拍手だった。
ネイサンとミカが握手した。
うん、ふたりともカッコイイ!!
第2試合。
これは同じ属性同士なので、パワーがあるライトが押し切った。
サミュエルも強いんだけど、攻撃のとっかかりというか有効打がなく、同じ技で押し返されが続き、時間内に試合が終わってしまった。
ちょっとライトが悪役っぽいけど、上級生だからね。
でも、ふたりとも最後は握手して、ライトがサミュエルに何か囁いてサミュエルが感激したように抱きついてた。
きっといいアドバイスを贈ったんだろう。
セレナが隣でほっとしていた。
うん、今まで決勝に進む前に優勝候補と当たってしまうことが続いていたからね。
最後の学年で決勝に残れて、本当に良かった。
第3試合。
アルテイシアが水をうまく使えればなんだけど……。
もうエドワードが決勝に備えてなのか、最初から強い風魔法を使ってきて、ねじ伏せたという感じになった。
あのエドワードの風魔法、本当に怖い。
あの堅さは空気とは思えない、本当に。
第4試合。
ライアンとウォロ、同じ火土属性だから。
サミュエルとライトの時と同じパターンだね。
しかも、ウォロは魔法陣も展開して、さらに増幅……。
一歩的な試合展開に、観ている方はちょっとかわいそうに思ってしまうけれど。
本気で対戦してくれているのが伝わるからか、対戦後の下級生の顔は晴れ晴れとしている。
うん、最上級生としてちゃんといいものを残せているな。
なんか羨ましい。
第5試合。
ここも同じ火土属性同士の戦い。
4年のキョウがちょっと時間がかかったが押し切った。
決勝の5人が出揃った。
くじ引きをする。
Aウォロ Bエドワード Cライト Dキョウ Eネイサン
うわぁー。
いきなりウォロとエドワード?!
私はサーシャと顔を見合わせ、ため息をついた。
読んで下さりありがとうございます。
完結まで書き終わりました。
今回を入れて、後7話でおしまいです。
もう少し、お付き合いよろしくお願いします。




