303 夏休みの過ごし方(後)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
次の日、学校で待ち合わせをしてトーマの家に行ったら、ダーゼンが来てた。
ウォロが「何で?!」と言うと「いくら友達の親の家とはいえ、ついこの間まで国と敵対していた闇社会のドンだった人物の家にネモを連れてのこのこ来る、ウォロの神経の方がわからん!」と怒られた。
「私が、誘われ、行きたいって……」
ダーゼンとウォロの間に慌てて入ると左手首を掴まれて、ブレスレットをしげしげと見られた。
「ウォロ……、またこんな効果をつけて……」
「えっ? 居場所がわかるとかじゃないの?」
「それもあるが……。
何に反応するんだ?」
「反応? なにか倍返しするとか?!」
「いや、ネモに何かすると拒絶するように軽い攻撃が入るみたいだな……」
「攻撃?!」
ウォロを見ると目を合わせない……。
「何?
攻撃って?!」
「油断しないで普通にしてれば大丈夫だよ。
それに攻撃も弱いから、少々痛みを感じるぐらいだよ」
「……何きっかけで発動するんですかって?」
ダーゼンも見ただけではそこまでわからないようだ。
まあ、後でじっくり聞き出そう……。
トーマのお父さんはトーマによく似ていた。
しっかり者で行動力がありそうな感じに見える。
マレーヌさんも元気そうだ。
今回、身分をきちんと王国で確認できたこともあり、正式にトーマのお父さんの妻になれたそう。良かったよ。
メイとマイも元気で「ネリーじゃなかった、ネモ!!」と抱きついてきた。
メイは頬にキスまでしてきた。
それからふたりはトーマとミカを見て照れたように笑う。
ん、お兄さん……というよりは……?
まあ、血はつながっていないのだから、それはありか?!
でも、もうそういうことは気にしないようにしないと……、私が挙動不審になるからね……。
ユーリも来た。
私はユーリに抱きつこうとするが、手で制される。
「魔道具の気配がする」
ダーゼンが「左手首だ」と一言。
「! あー。なるほど。
メイ、マイはネモに抱きついてたけど、何ともないか?」
ふたりともきょとんとしている。
「何ともなしか……。
男だけに発動するのか?」
はい?
ユーリは女だよね?
一緒に風呂入ったよね?
私はびっくりしてユーリを見た。
「あ……、私は自認は女性なんだ。
身体もほとんど女性に近いが……、男性としての特徴も微妙に残っている。
男女が混じった状態、モザイクという奴らしいな。
子どもの頃、そのせいで親から捨てられてひどい目に合いそうになったところを親方に助けられている」
「そうだったんだ……」
そう言ってウォロを見ると複雑そうな顔をしている。
「自認が女性ならいいんじゃない?」
「んー、それはどうだろな?」
「ネモの嫉妬深い夫には内緒にしておいた方が良かったか?!」
ユーリがダーゼンとトーマを見て言った。
それから笑って「まあこんなかわいい妻じゃ心配だよな」と私の頬にキスして、弾かれた様に離れて唇を押さえた。
「……キスか。
発動条件は夫以外の男性のキスみたいだな」
ダーゼンが笑った。
「しょうもない効果を付けたな……。
ミーアの皇子妃だよな。
各国の貴族と挨拶した時、手や頬にキスされることだってあるぞ!!
早く直しとけ!!」
「むー。
なら、どんな効果にすれば?」
ウォロが唸ってる。
「そんな効果付けないでよ。
これから、かわいいアンドリューからチューされることだってあると思う。
痛い思いさせたくないよ」
「むー」
「ウォロ……、大丈夫だから」
「大丈夫じゃないよ。
ネモはすぐ油断するから……」
「そうだな。
ネモはすぐ油断する」
ミカまで言い出すから……。
でも、本当に手や頬に儀礼としてキスを受けることはあるので、それは直してくれることになった。
手続きが面倒だとかぶつぶつは言ってたけどね……。
メイとマイも幸せそうで良かった。
お茶を飲んでいる時にユーリとふたりで話ができて、リーリエ様とミミに会った話をした。
「ミミが元気なら良かった。
そのまま伯爵家に仕えられたことは知っていたが、実際に会ったりできないしな。
気になっていたので良かったよ」
その時、ウォロが「あ、お前!」と叫ぶ声が聞こえた。
振り返って見ると、私を拉致した3人組のひとり、一番強くて指示出してた長身の男がいた。
「シルバー、逃げろ!
ウォロ、もう危害は加えないから!」
トーマがウォロを押さえている。
ミカや、他の人が制止する声も聞こえて……。
「ククッ、面白いふたりだな、本当に」
ユーリが面白そうに笑いながら言った。
大使館にダーゼンの馬車で送り届けられる。
そのままダーゼンが一緒に来るのでウォロが「なんで?」と言いかけるが「魔道具を直すまで見届ける」と言われて……。
ウォロの部屋で私のブレスレットから、夫以外の男性のキスにより攻撃を発動という条件を取り除いてもらう。
そのまま訂正の書類を書くところまで待たれ、その書類を持ってダーゼンが言った。
「このまま魔法研究所に提出して来てやるから。
もう、こんな面倒掛けるんじゃないぞ!
じゃあ、ネモ、またな!」
そう言って、部屋から出て行った。
私はウォロをちらりと見た。
ちょっと不満そうな表情をしている。
「大丈夫だよ。気をつけるから」
「うーん、心配だ……」
「私だって、さすがにそういう気持ちで、例えば襲われたりしたら、ちゃんと反撃するから」
「うーん。
それでもさあ……」
「じゃあ、もういっぱいウォロがキスしとけば?
気が済むまで」
「キスだけじゃ足りない……」
「……わかったよ。
そのかわり、明日から学校に戻ろう」
「えっ?
学校じゃ、その……」
「うん、しばらくふたりきりになったり、一緒に寝たりできないから。
寮に他に戻る人がいれば寮で、いなければ、先生のとこの空き部屋使わせてもらうから」
ノアも王城から連れて来なくちゃな。
「ネモが気が済むまでって言ったんだからな……」
その言葉に一気に不安になった。
「……やだってことはしないよね?」
◇ ◇ ◇
次の日、目が覚めたらもう朝遅い時間で愕然とした。
あれ、朝食は?
ものすごくお腹が空いた……。
とりあえず起きて、王城に行って、学校に戻ることを話してノアを連れて来なくちゃ。
ベッドから出ようとしたらお腹に腕を回されて後ろから抱きしめられて、ベッドに引き倒されたみたいになる。
「ウォロ、もうお腹空いた!」
私は訴える。
気が済むまでって条件が悪かった。
気が済まないって言い続けられたら、終わんない……。
ウォロが私の胸に顔を寄せて来て……『ぐ~っぎゅるる』すごいお腹の音がして、ウォロが胸に頬ずりするみたいに笑いだす。
「本当にお腹空いたんだからっ!」
私は情けない気持ちになった。
「わかったよ。
大切な奥さんに餓死されたら大変だからね」
ウォロがベッドから出て風呂へ向かった。
はあ、やめてくれて良かった……。
ベッドサイドにある水差しの水をグラスの注いで一気に飲む。
はあ。
ウォロがざっとシャワーを浴びて、すぐ出てきた。
「髪乾かすの手伝って」
ウォロが炎を作り、そこに私が風魔法を送り込んで温風を作った。
「ありがと。
お湯溜めてるから、風呂ゆっくり入りな。
着替えとか食事とか取ってくるから」
「うん、ありがとう」
ベッドから出ようとして、足がへにゃってなりそうになり驚く。
「あれ?」
思ってるより体力消耗というか、足腰が、あれ?
何とか風呂に行き、身体を流してからウォロが溜めてくれてたお湯に浸かる。
「はあー」
なんだか温かさが身体に沁みます……。
落ち着いたところで、髪を洗い、もう一度身体を洗った。
昨夜は途中から記憶がない。
寝ちゃったんだと思うけど……。
バスタオルで拭きながら部屋に戻ると、ウォロが戻っていて、着替えを渡してくれる。
それを身につけると、ソファに座らされ、食事を食べる。
ゆっくり食べるよう心掛けた。
本当はバクバク食べたかったけど、胃がおかしくなりそうだしね……。
だんだん元気が出てきた。
「王城に寄って、ノアを連れて来ないといけないし。
私達が寮に戻ると言えば、他にも戻る人がいるかもしれないよ」
ウォロにそう話しかける。
「今日はもう遅いから、明日ね」
えっ?
まだお昼だよ。
びっくりした顔をしたからか笑われる。
「エドワード達には連絡しておくよ。
明日、午前中に王城に寄ってノアを連れて学校に戻るって。
他に戻る人がいれば一緒にってさ」
うん、それならいいか……。
「今日はこれからミーアに行こう」
「ミーアに?!」
「遺跡を直す相談もしなきゃだろ?」
「あ、うん」
私はまた食べ始めた。
お腹いっぱいにしてから、自分に光魔法かけよ……。
何とか身体も気持ちもしゃっきりしたような気がする。
身支度を自分でできるくらい元気になり、いつものカバンを持って、ウォロと転移した。
ミーアのミニ神殿の皇宮の庭に出る。
ウォロが手を引いて歩き出そうとして立ち止まり、私を横抱きに抱え上げた。
「!! 歩けるよっ!」
無言で歩き出すウォロ。
「歩けるから降ろして」
私は再度お願いした。
「もう少し行ったら、まだ歩くのふらふらしてる」
それは、すみませんねぇ……。
誰のせいだよ……。
「じゃあ、ウォロも光魔法かけてよ」
「ダメ」
「なんで?」
「ネモの身体にも魂にも、自分のしたことを長く覚えててもらいたいから」
「なっ?」
昨日のことを思い出して真っ赤になる。
こんな状態で、あなたの親に会えと?!
皇宮が見えてきたところで降ろしてくれた。
そして光魔法をかけてくれる。
「無理させてごめん……」
「そう思うなら、無理させないでよ……」
「無理。
かわいいから……」
ウォロの光魔法のおかげで、だいぶ身体が軽くなった。
これなら話し合いもできそうか。
皇宮に着くとダイゴがすぐ迎えに出てきてくれ、皇帝陛下の都合を確認してくれた。
会えるとのことで執務室に向かうけど、皇宮の最上階だよね……。
陛下は元気そうだった。
挨拶をしようとすると、ウォロが邪魔する。
「もう、そんな儀礼的な挨拶する仲じゃないだろ」
親にまで……。
「今日は卒業後のことでちょっと相談があって、手短に済ませたいから」
ウォロが私のやりたいことと、自分が取り組みたいことを簡単に話してくれた。
そして、聖女の治療院の遺跡に手を入れて、誰でも来られる学びの場にしたいこと。
メイリンが亡くなった場所だからとネモが気にしていたが、あのまま閉め切りにしておく方が気持ちが辛くなるだけだと思うと。
陛下は頷いて、了承してくれた。
「手直しの計画や図面をダイゴにお願いできるか?
そこまで急がないけど、ネモと自分が卒業して戻ってきたらすぐに取り組みたいことなんで」
ダイゴが力強く頷いてくれた。
「わかった。
引き受ける。
それと神殿への根回しだな。
予算は話してた金額で大丈夫か?」
「ああ、カトレア先生が寄付してくれる金額と、もしオーバーしても、自分の貯金もあるから」
「国から出してもいいのだぞ」
陛下が言ってくれるがウォロが首を振る。
「国の予算はその次の初等教育を充実させるという時につけてもらうよ。
お願いします」
私もあわてて「お願いします」と一緒に頭を下げた。
執務室から出て歩きながらダイゴが言った。
「今日のネモ、なんかおとなしくない?」
ギクッ。
ウォロ、余計なこと言わないでよっ!
「あはは、夏バテかなー。
でも、回復してきてるから大丈夫!」
私は軽く笑って言った。
ダイゴの部屋で結婚式の話をされる。
卒業してミーアに戻ったら、一緒に結婚式を……。
え?
オードリーとダイゴも一緒に?
驚いてウォロを見る。
「ダイゴとオードリーの方が年上だし、先に挙げてよ。
ウォロ、私達はそんなに急がないから時期をずらそう」
「準備とか一度で済むよ」
ダイゴに言われる。
ウォロも頷いている。
えーと……。
「結婚式っていうのは花嫁にとって1回だよ。
オードリーにとって、1回しかないの。
オードリーだけを祝福してあげたい。
いくら仲が良くても、そこは分けてオードリーだけに祝福が向かうようにしてあげたい」
私の言葉にダイゴがはっとする。
「それもそうだな。
仲が良いから喜ぶかと思ったけれど……。
オードリーにも、ネモにも失礼だな」
わかって頂けてうれしい……。
私達はそこまで大きい式を挙げなくていいと思うし。
カノンが会いに来てくれて「ノアが一緒じゃない!!」と言われた。
「今度は連れて来るね!」と約束して、私達は浄化魔法を入れるための空の魔石とマリヤム宮の調合スパイスをお土産にミーア大使館に転移した。
次の日、王城に行く。
先にアリスとアンドリューの所へ遊びに行った。
アンドリューはまだポヤポヤしている赤ちゃんだけど、雰囲気がある感じで、さすが王子って感じ。
かわいい……。
アンドレアスみたいなかっこいい王子になるんだろうな~!
ティエルノとセレナが学校に戻る気だと聞かされた。
ライトは一回伯爵家に戻ってから寮に来るって。
明日はスパイスをお土産に下町のレストランに行くと話すと、みんな一緒に行きたいとなり……。
結局、エドワードとサーシャとダリルも学校に戻ることになった。
5-2寮の他の人はもうほとんど寮に戻っているそう。
ライトが「えー、それなら、僕も明日の朝には寮に戻るから、一緒にレストランに行く!」と言い出して……。
寮に戻ってからオードリーが教えてくれた。
ティエルノはエリザベスと学校でのほうが会いやすいから戻るとすぐ決めたそう。
オードリーもサーシャもエドワードもダリルもみんなでいられるならどっちでもいいし。
ライトがセレナとミュラー伯爵家に数日戻るようなことを言ったらしいが、セレナが「寮に戻る」と言い出したそう。
それで、ライトがちょっと引っ込みがつかなくなって、という感じだったらしい。
でも、下町のレストランのおかげで戻ると言い出せたなら、良かったかな。
読んで下さりありがとうございます。
もうそろそろ終わりに向けてと読み直しをしていたら、ひとりの登場人物の人生の流れに大変な間違いをおかしてましたっ!!
そこは直したんですが……。
とりあえず整合性は取れたと思います……。
気がついたら直してますので……、申し訳ありませんっ。
これからもどうぞよろしくお願いします。




