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303 夏休みの過ごし方(中)

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。

ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

 夕食を食堂で頂いてから、ウォロの部屋に戻り、真面目にミーアで私がやりたいことをノートを見せて相談しようとするとがっかりした表情をされた。


 ふたりきりになったら……、絶対しなきゃいけないわけでもないでしょ?!

 なんかウォロに悪いことしてるような気になるから、そういう表情はやめて欲しい……。


 私が相談をやめなかったのでウォロも渋々相談について考え始めてくれている。


 私はまず自分ですぐできることとして、誰でも、今まで学ぶ機会がなくこれからでも学びたいと思っている大人でも参加できる場を皇宮の敷地内に作りたいことを話した。


「神殿が協力してくれるんじゃないか?

 あ、聖女の遺跡、あそこに手を入れて新しくしたら?」

「……メイリンが亡くなった場所だけど……」

「お墓ってわけじゃないし、あのまま閉め切りで放置しておくよりもいいんじゃないか?

 ネモの浄化の力であそこに囚われていた魂達も解放されたんだもんな」

「ウォロも一緒に浄化したじゃない!

 そうだね。

 皇帝陛下が納得して下さればいいかも。

 遺跡だけど、建物はしっかりしてるしね。

 子どもも大人も学びたい人が来て、字とか計算とか初等教育的なことをその人のペースで学んでもらうってのはどうかな?

 それがうまくいき始めたら、貧しい家の子や使用人の家の子も通えるような初等学校を各地に作っていきたいな」


 ウォロが頷いた。

「いいと思うよ」

「ウォロは魔道具の方だね」

「ああ、こっちは卒業してからになるけど。

 遺跡を直すのは、皇帝陛下に許可を取ったら、すぐ始めればいい。

 時間がかかると思うし」

「うん、今度、一緒に話をしに行って下さい」

「わかった」

「じゃあ、おやすみ」

「えっ?」

「明日も学校に勉強に行くでしょ。

 早く寝ないとね。

 昨日は寝るの遅くなっちゃったし」

「……やっぱり、まだ怒ってる?」

「怒ってないよ」

「いや……、怒ってるんじゃ……」

「怒ってないってば!」

「じゃあ……」

「だから、今日は早く寝ないと」

「……わかった。

 早く寝られればいいんだよな」

 ウォロがちょっと怒ったように言う。


「うん、じゃあ、おやすみ」


 私は自分の客間に戻り、置いてもらってある下着や服を確認してから風呂に入った。


 寝不足気味だったから、もう眠い。

 明日、学校に行って時間があったら、カトレア先生に具体的な金額を教えてもらってもいいか……。


 そんなことを考えながら風呂から出てベッドに入ろうとしたらドアをノックされた。


 ドアを開けるとウォロだった。

「急ぎの要件?」

 頷かれるので部屋に入れた。


「風呂に入った?」

「うん、後はもう寝るだけ。

 ふわぁ……、ごめん、もうあくびが出る。眠い……」


「一緒に寝ちゃダメ?」

「……私、本当にすぐ寝ちゃうよ」

「うん、それでいいから」

「それでいいなら……」

 私は眠さもあって渋々頷いた。


 部屋の灯りを全部落とさずに少しだけつけておく。

「ウォロおやすみ」

 ベッドに潜りこむとウォロも慌てて入ってきた。

「……本当に眠かったんだ?!」

「本当だよ……」

 私はそう答えて目を閉じた。

 優しく抱き寄せられて頭を撫でられる。


「……ちょっと暑い。

 もう少し離れよう……」


 少し身体を離して、向き合って手を繋ぐみたいにした。

 これなら眠れそう……。

「おやすみ」

「うん、おやすみ、ネモ」

 ウォロがやさしい声で返してくれた。

 なんだか1年生の頃のことを思い出した。

 こうやって添い寝してくれてたっけ。


 私はにこっと笑って眠りについた。


 次の日の午前中、学校でミカとトーマと合流。

 図書館で勉強し、一緒に朝食を食べた。

 それから私とウォロはカトレア先生を訪ねた。

 

 研究室にいたカトレア先生だけど、居室の方に案内され、使える金額を教えてくれる。


 ……けっこうすごい金額だ。

「カトレア先生も会社とやり取りしたり書類を作ったり、アイデアを出したりしてるんですから、ご自分の取り分をしっかり取って下さいよ」

 私の言葉にカトレア先生が笑った。

「そうね、労働の分はちゃんと頂くわ」


 カトレア先生が提示した金額……、少ないんじゃない?!

「その倍で!!」

 

 その金額を引いた残りの額でもかなりある。

 半分にして、魔法学校とミーアで使うことにした。


 最初、私の名前でと言っていたカトレア先生だったが、ウォロに「カトレア先生とギーマ先生からの寄付ということに」と話をされて頷いてくれた。


「そうね。

 ミーア帝国からとなると、いろいろ面倒そうね……。

 わかったわ」

 了承してくれて良かった。


 残りの金額は私の名義で学校が作って管理している口座に入れてくれるという。

「私の口座?」

 私が聞き返す。

「ラボの薬の売り上げをもらっているんじゃないの?」

「? もらっていませんけど?

 材料費とか器具代とか学校持ちで、勉強というか練習みたいなところもあるし、ミーアの方にも無料で渡しているから……。

 私は何も受け取っていません」

 

 カトレア先生が『?』という表情をした。


「そうですよ。

 それならレイモンドやアルテイシア、メラニーだって口座持ってるんですかね?」


「あら? そんなことになってたの?!

 でも、薬を販売するとなった時に生徒代表としてネモの口座を作ってあるはずよ!」

「……知りません」


 口座へというのは先延ばしにして、カトレア先生が調べてくれることになった。

 薬を病院へ卸して、利益は学校へということになっていたよね?!


 でも、ミーアの方に寄付してもらえる金額だけでも遺跡の手直しはかなりできそうとウォロが教えてくれた。


「まだ卒業前だけど……。

 もうミーアで取り組むことを決めて準備しているなんてすごいわね」

「少しでもミーア帝国の人々が豊かに生きやすくなればと思います」

「ウォルフライト王国にも時々来てちょうだいね。

 私だけじゃなく、病院もまだまだ期待していると思うわよ」


 そうだな。

 薬作りは夏休みでちょっと休んじゃってるけど、再開させないと……。

 病院も行ける時に……。


 話を終えて庭に出ると、まだ2時くらいだった。

「ちょっと寄りたいところがあるんだけど、付き合ってくれる?」

 ウォロが言って、ふたりで歩いて学校を出た。

 流しの馬車に乗るのかな?


 私はウォロの腕に掴まり歩く。


 なんかふたりでこうやって外を歩くの、久しぶりだな。


 ウォロが停まっていた流しの馬車を見つけて乗り込むと「下町へ」と言った。


 え、ふたりだけで大丈夫?!


「離れないようにくっついていてよ」

 こっくり頷く。


 下町に入る前にウォロがマイクさんとヴェスさんの工房のある通りの名前を告げた。

 降りた所で1時間後にまた迎えに来て欲しいと頼んで、代金を支払う。


 工房に入るとマイクさんが「やっと来たね」と笑って、奥へ声を掛けた。

「アニキ! ウォロが来たよ。

 奥にいるよ。

 ネモはここでお茶でも飲んで」


 ウォロは奥へ行ってしまい、私はマイクさんとおしゃべりすることにした。


「ダナンの石はどうですか?」

「ああ、質が良くて使いやすいよ。

 最近は鉱山の方から産出される大きなものも注目されてるよ。

 数で取引される小さい物も値段が上がってきているけど、ネモのお父さんが優先的にこの工房に卸してくれてさ。

 本当に助かってる」

「最初にダナンの小さな石を王都で使ってくれたのがマイクさんとヴェスさんだしね」

「そういえば、この前の……と言っても半年も前か。

 下町であった大騒ぎになった事件。

 ネモとウォロが警備局に協力してたんだって?」

「あ、うん、少しね」

 どこからそんな話が……。


 その時、女性のふたり組が入って来て、私の姿に怪訝そうな顔をする。

 私もびっくりした。

 

 リーリエ様とミミだった。

 従者もいて、店の入り口に立っている。

 馬車は停められないから時間で戻ってくるようにしたみたい。


 リーリエ様とミミは私のネリーな姿しか知らないから、たぶん気がつかない。


「どなた?」

 リーリエ様がマイクさんに訪ねる。

「この子は身内みたいなもんで。

 取引のある腕のいい魔道具職人の奥様だよ」

 マイクさんの言葉にふたりは驚く。

「結婚されてるの? 若いのに?」

 リーリエ様の言葉にとりあえず自己紹介する。


「ミーア帝国のネモフィラと申します。

 ミーアは16歳で結婚できますので。

 マイクさん、どうぞ接客して差し上げて」

 

 マイクさんはふたりの注文を聞いて魔道具を選んだり、石を見せたりしている。

 私はカバンから本を取り出し読み始めた。


 セレナが貸してくれた恋愛小説だ。

 歴史小説でもあるが、だいぶフィクション部分が多く、ジャンル的には恋愛物だと思う。


 私の読んでいる本を見たミミが「あら、それ新作の恋愛物ね。面白いですか?」と声を掛けてきた。


「友人が薦めてくれて、貸してくれました。

 面白いですよ」

 その時、ウォロとヴェスさんが店の奥から出て来た。


「ネモ、お待たせ」

 私は本をカバンにしまって立ち上がる。


 ミミがカバンを見てはっとして、私の顔を見て、それから……ネックレスを見た。


 あ……、わかっちゃったかな?!


 私はマイクさんとヴェスさんに挨拶して、リーリエ様にも会釈した。

 ミミには……、迷って、でも、もう会えないかもしれないし。

 手を握り小さな声で言った。

「ミミ、お屋敷ではやさしくしてくれてありがとう。

 ネリーです。

 お元気そうで良かった」


 ミミが目を見開いたけど、ぎゅっと手を握り返してくれて頷いた。

「「お元気で」」


 お互い、一言でいろいろな気持ちを伝え合うことができた、ような気がする。


 リーリエ様が不思議そうな顔をしていたが、店を出る時に「すぐ気がつかなかったけれど、昔の知り合いでした」とミミが説明しているのが聞こえた。


 従者にも会釈して外に出るともうさっきの馬車が待っていたので乗り込む。


「知り合い?」

 ウォロに聞かれた。

「知り合いというか……。

 サボイ公爵家のメイドのミミ。

 優しくしてくれた。

 もうひとりが、若奥様だったリーリエ様だよ」


「そうなんだ!

 伯爵家に戻ったんだよな?!

 あの工房に買い物に来るなんて、魔道具に関しては目利きな家なのか?

 ライトなら知ってるかもな。

 でも、よく気がついたな?

 ネリーだったと」


「カバンとネックレスをメイド仲間で同室だと見てるしね……。

 でも、気になっていたから会えて良かったよ」

「ちゃんとごまかしてくれてたしな」

「そこはメイドの機転じゃない?!

 リーリエ様には知られない方がいいだろうし……」


 大使館に戻ると、ウォロがふたつの箱を取り出した。


「これ、遅くなったけど」

 渡された方の箱を開けると、美しい蔓草模様の金細工の部分に加工された色とりどりの魔石が嵌めこまれ、チェーンで繋いでいるブレスレットだった。

「ホウエンの石で作ってくれたの?!

 すごくきれい!!

 これウォロが?!」


 ウォロはちょっと笑った。

「全部は無理で……、ヴェスさんに手伝ってもらったんだよ」


 そしてもうひとつの箱を開けた。

 そちらには銀細工の同じモチーフの一回り大きな腕輪が入っていた。

「そっちがウォロのだね!

 すごい素敵なデザイン!

 ……魔道具なの?」

「そんな不安そうな顔しなくても……。

 大丈夫。

 ペアになるように作って、指輪の強化版みたいな感じ、かな。

 ただ魔石や聖石を組み合わせて種類を使ってるから、壊すのは難しいと思うよ」


「ありがとう。

 勉強で忙しいのに……」

「ああ、でも、オリジナルなデザインにしたかったから、金属の細工の方がやっぱり難しくてさ。

 そこだけヴェスさんにお願いしてあったんだ。

 昨日学校に来たら、出来上がったと連絡が届いてて」


 私は左手を差し出した。

「ウォロがつけてくれる?」


 長さのバランスを見ながら留め具をつけてくれた。

 

「これぐらいでいいかな?」

「うん、すごい、きれい! 

 ちょうどいいよ」

「ネモの手首が太かったらもっと石、増やせたんだけど」

 ウォロが言うから笑ってしまう。

「ううん、これぐらいがいい。

 この植物の、蔓草だよね、このデザイン素敵。

 本当にありがとう。ウォロ。

 ウォロもつけて!」


 私はウォロの左手に通したブレスレットの留め具を慎重に留める。


「お揃いだ。

 うれしいな」

 そう言ってから、なぜか涙が出て来た。

「ネモ?」


 ウォロが驚いて涙を指で拭ってくれる。

「どうした?」


「ううん、うれしくて。

 ウォロがくれた魔道具。

 取られて海に捨てられて絶望したりしたこともあって、失うのが怖いと思ったこともあるけど……。

 なんだか、こうやってウォロと新しい物を、思い出を積み重ねているんだなと思ったら、幸せで……」


「まだまだ、これぐらいじゃまだ足りないよ。

 今生だけじゃなく、次の生も、またその次の生も……、ずっと一緒だから」

「ウォロは、デルフィニウム様の記憶があるから、時間の概念が違うのかもね。

 ……本当にうれしいよ。

 こんなに幸せでいいのかと思う……」

読んで下さりありがとうございます。

投稿時間、ここから遅めの午後にしてみようかなと思っています。

そんなに大事件が起こらない夏休みです。

でも、なんだか最後の学年で忙しいようなゆっくりなような……。

これからもどうぞよろしくお願いします。



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