297 アリス、おめでとう!
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
王城の客間のひとつに目印になる聖石を置いて転移部屋にしてもらっているんだよね。
そこでコートを脱いでから、アリスの部屋に向かう。
アリスの部屋の続き間ではアンドレアスと陛下が、なんかオロオロしてる。
そこにウォロが加わった。
オロオロしてる人が増えるだけだった……。
「まだ時間がかかるから、座ってたほうがいいよ」
私はそれだけ言うと、アリスの部屋に入った。
王妃様がアリスの手を握って励ましている。
私はアリスに声を掛けてから、背中と腰をさすり始めた。
メイドにいつでもお茶を飲めるように、適温の物を用意しておいてもらうようにする。
痛みが和らぐ時間が定期的に来るので、その時にアリスの好きなパンや果物を1口、お茶を2口という感じに無理にならないように勧めた。
果物は気分転換に良かったみたい。
「不思議ね。
すごく痛いのに、今みたいにピタッと痛くなくなる時があるのよ……。
でも……、あ、くるっ!」
私はアリスの背中や腰をさする。
「もっと強くさすって」
アリスが言ってくれたので、けっこう力を入れてさすった。
アリスがふーふー言いながら痛みに耐えている。
しばらくすると痛みじゃない、変な感じがすると言い出して助産師がアリスの布団を持ち上げ、手を差し入れ確かめている。
「もういきんでいいですよ」
いきむって、出産の話で良く聞くけど、うーんって?
改めて思うとどうするのかわからなくなる。
するとアリスが「うーんっ!!」と身体に力を入れたかと思うと「ふーっ」と脱力してをくり返していたら、助産師が「破水しました。いいです、そのままいきんで! いきんで!」と言った。
私と王妃様も「「アリス、がんばって!」」と励まして、手を握る。
アリスが汗だくで「あーっ!!」と叫んで、また脱力。
「もう一度!!
目をしっかり開けて、おへその辺りを見ながらしっかり長くいきんでっ!!」
助産師にまるでしかりつけられるように言われて、私は『えっ?』と戸惑ったけど、アリスはもう必死だった。
「んーっ! んーっ!」
こんな必死なアリスは初めて見たかも……。
私も一緒に力が入って、息を止めてしまう。
「息を止めない!」
すかさず指導が入る。
えーっ、どうすりゃいいのよ?!
「あーーっ!」
大きく息を吐くようにアリスが叫んで「ああっ……」と小さく言ってから脱力した。
助産師の動きが慌ただしくなり、赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
産声っていうのだよね?!
ああ、産まれた。無事に産まれた!
すごいっ!
アリス、お母さんだよ。
「おめでとう、アリス!」
アリスが泣いていた。
私もそれを見たら涙腺が崩壊したみたいに涙が出てきて、そんな私を見てアリスがぎょっとしてから笑った。
赤ちゃんは男の子だった。
黒い髪がもうふさふさしていてびっくりした。
「やっと会えた……。
私の、私の……赤ちゃん……」
アリスが赤ちゃんを抱いて優しく呟く。
また涙がどばーっと出て、アリスと王妃様に笑われた。
王妃様だって泣いてたじゃんね。
とりあえずアンドレアスだけ部屋に入ってもらいアリスと赤ちゃんに会ってもらう。
胎盤とかその後の処置もあるので、アリスが医師の処置を受けている間に、アンドレアスと私は助産師に指導を受けながら赤ちゃんを産湯に入れ、産着を着せた。
アリスの元に戻り、赤ちゃんを抱っこしてもらい、やっと陛下とウォロと、後からオロオロ組に参加していたエドワードとお父様が入ってきて、赤ちゃんにご対面!!
ウォロはすごーくびっくりした顔で生まれたばかりの赤ちゃんを見ていた。
アリスとアンドレアスと赤ちゃんが、もうなんか、幸せオーラっていうか、満ちてる光がそこだけ違うっていうか……。
アンドレアスだけ残して、みんな部屋を出て、はーっとため息をついた。
今日はこのまま王城に泊ることになる。
もう明け方近いですし……。
準備された客間に向かいながらエドワードがしみじみ言った。
「出産って、こんなに大変なんだな。
あんなに時間かかるし、すごく痛がってたし……」
ウォロも頷いた。
「すごかった。
あのアリスの大きかったお腹に、本当に赤ちゃんが、命が育っていたんだな。
すごい、ことだよな……」
「そうだね。
何事もなくて良かったよ」
医師からは出産は自然なことでもあるので、今回はすぐに魔法で治療とかはせず、予後を見て体力を補うような補助的な魔法の使い方をしたらと助言されている。
明日、かけてあげよう。
本当におめでとう、アリス!!
私は次の日もアリスのそばにいたけれど、ウォロとエドワードは学校に戻った。
陛下と王妃様に呼ばれて、出産時の付き添いのお礼を言われた。
「いえ、大切な姉ですし!」
私はニコニコして言った。
生まれた赤ちゃんはアンドリューと名付けられた。
レイモンド、ギュスターブなど5年生の進路がどんどん決まっていき、学校内もだんだんにぎやかさを取り戻してきた。
4年生最後のテスト。
しっかり準備して臨んだ。
5年生の頑張りを見ていたからね。
なんかすっごくやらなきゃ! という気になった。
エドワードやティエルノはちょっと違う意味で、自分達が最上級生になるという気持ちが強かったようだけど。
とにかく4年生全体の意識がすごく勉強やテストに向いてた。
4寮のミカやトーマがすごく頑張っていて良い成績を取ったこともあるんだと思う。
テストが終わり、結果が出る前に卒業式。
マイベルは寂しそうだけど……。
レイモンドは無事に外交官見習いとして4月から王城で文官補佐をしながら1年間研修を受け、2年目から外交官としてデビューするそうだ。
今日はマイベルとたくさん話をして、安心させると言っていた。
やっぱりレイモンドは優しいし、余裕あるよな……。
サーシャは義兄のギュスターブが文官になるので、王城でいつでも会えると喜んでいた。
文官もいいけど……、マリアやランスを見ていると大変な気がするけどね。
終業式の前にマリアとジョシュア兄様の結婚式が王都の教会で挙げられた。
このまま新婚旅行で、ウォロに送ってもらってホウエンを1週間旅行してくるそう。
1週間後にウォロが迎えに行き、そのままダナンに転移する予定。
私もちょっとついて行っちゃおうかな。
結婚式当日、マリアのウエディングドレス姿はとてもきれいだった。
真っ白なドレスがとても上品でマリアに良く似合う。
「来年はネモの番ね!」
微笑んで言ってくれた。
アンドリューが生後1カ月になり教会の登録式があった。
全属性魔法持ちだそう!
それはすごい!
アリスの才能とアンドレアスの努力が一緒になったら、すごそうだ……。
そして4月になり私達は5年生になった。
そして、ウォロと私は17歳の誕生日を迎えた。
ウォロが「誕生日プレゼント、作ってるんだけど、なんだか時間がなくて……。
夏になっちゃうかも、ごめん」と言った。
あ、ホウエンの石でブレスレット作ってくれるとか言ってたよね。
「いいよ。卒業の時で。
今は最後の学校生活を楽しもう!」
そんなことを言っている私も、時間がなくて自分の薬の研究が進んでない……。
ウォロへのプレゼントも欲しいもの聞いたけど特にないと言われて、結局、下町で魔道具の買い物デートしたぐらいになった。
スパイスをお土産として渡してたレストランのマスターがやってくれた!
カレーを作ってくれた!
大好評で、ダーゼンにそのスパイスがまた手に入らないかと相談したそうで。
そこで父様がダナン経由でその輸入に携わることになったそう。
すごくスパイスが流行になり、学校の食堂でも揚げたジャガイモにまぶしたものがメニューに加わり大人気になってた。
そうそう、4年最後の成績は……、そんなにいつもと変わらなかったよ。
でも、平均点がとても高くて、この学年は全体的に優秀と言われた。
もう順位とかより、そう言われたのがうれしいかな。
(だって、もうウォロとエドワードとライトとミカには勝てそうもないんだもん……)
すぐに花祭り、最後の年にして初めて、付き添いしないで済んだ。
まあ、この学年まで付き添いしてたら、生徒会の力量が疑われるところだよね。
花の女神役はアルテイシアだった。
確かに、もうひとりの副会長のエリザベスはもう花の女神してるしな。
まあ順当と言っちゃそうなんだけど……。
なんか、ネイサンとアルテイシア、いい感じ?!
私はウォロとパレードの時の花びらを散らす役目を引き受けた。
花祭りでウォロとずっとふたり一緒に過ごすのはなんだか新鮮だ。
と思っていたら、ライアンが「古代魔法の『花びらの舞』教えて下さい!」とウォロに頼んできて……。
なんだかライアンとその友人達と一緒に回ることになって……。
花散らしが引き継がれるのはうれしいんだけど、最後くらい、ウォロとふたりで過ごしてみたかった気もしないではない……。
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




