294 到達
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
「無事にダーゼンが助けに入れたみたいね」
マリアの声がした。
全然、無事じゃねえ!
「マリア! 知ってたの?!」
「詳しいことまでは……。
でも、立ち会わない方がいいと言われて……」
「あ?! 陛下……。
この前の娼館のこと、根に持ってたんじゃ……」
「何のことかな?」
くー、絶対そうだ。
やっぱり信用できない……。
「安心しろ、ネモ。
時間もないし、奴は最後までネリーに手出しする気はなかったようだから、な」
ダーゼンが言った。
「私のこの格好のまま放置とか……、恥ずかしいだろが!」
ユーリがスカートは膝のあたりまで直してくれた。
その時、ドアがノックされた。
ダーゼンが舌打ちした。
まだ魔法が続いているようだ。
クレールが「私が対応します」と言ってドアの所へ行った。
ダーゼンが「ネモ叫べ、嫌だと」と言った。
「えっ? あっ!
やだ、やだ!
やめてー!
誰か、誰か、助けて!!」
クレールがドア越しに「取り込み中だから、そのままカルタロフ伯爵家にお前が届けてきてくれ」と言っているのが聞こえた。
「やだ! やー! やめてー!!」
「よし、映像として入れ込んだ!
ネモは服を直しながら泣いている振りをしていろ。
ネモと公爵が出発したら、私とエドワードがまたここに転移してきてマイ、メイ、セリーナ、メイリールと転移して王城で保護する」
ダーゼンが執務室の棚に何か聖石をひとつ置いたのが見えた。
「ウォロ達は、この屋敷から出る公爵が乗った馬車を追うために待機中だ。
ノアとの連絡を切らさないようにしろ、いいな」
ダーゼンの言葉に私は頷く。
ダーゼンが私の頬に手を触れ呟いた。
「こんなことが知れたら、アルテイシアとレイモンドに吊し上げられるな……」
ウォロにもね。
そう思ったけど言わなかった。
それから転移して行った。
公爵が頭に手を当てて起き出した。
かなりぼーっとしている様子。
私は慌てて服を直しながら公爵から顔を背け、泣いている振りをした。
本当に涙が出てきたよ。
アイリーンや他の養女達もこんな目に合っていたんだろう……。
公爵は部屋にユーリとクレールがいるのに驚いたような表情をしたが「あ、私が呼んだのか……。執事が来て……」と頭を振りながら言った。
公爵はユーリを呼び寄せると私の服を整えさせ、一緒に来るように言った。
従者ではなくユーリを一緒に連れて行く気になったようだ。
クレールが「執事は少し前にカルタロフの元へ出発しました」と伝える。
「急がなくてはな。
ユーリ、ネリーにコートを着せろ。
馬車の用意だ! 出る」
私はコートに手を通せないから羽織らされ、手枷が見えないように巻くタイプのマフを付けさせられた。
馬車に押し込められる。
「『クィーン』という酒場へやってくれ」
公爵が御者に指示を出す。
酒場、前に摘発させた『ミレニアム』だっけ?! によく似ている店構え……。
闇社会の支店のひとつか?
馬車から降ろされ、店の中へ。
そこで馬車を乗りかえた。
「旦那、久しぶりですね」
御者が懐かしそうに挨拶してきた。
「ああ、ここ3カ月ほど近づかないようにしていたからな。
今回は用事ができてね」
「……ああ、これはまたきれいな子ですね。
さっ、どうぞ!」
そうか、最近は陛下のチェックも厳しくなっていたこともあり、近づかないようにしてたのか……。
光で尾行していても何も出てこなかったはずだ……。
行先はわからないが、敢えて、遠回りをしているみたいだ。
時々馬車の外側の様子も視覚共有で伝える。
マリア達には伝わっても、ウォロ達にはどうつながるんだろう。
「ネモ、セリーナ達は保護し終わったわ。
エドワードがノアを連れて捜索に参加するから!
ダーゼンとクレールも一緒よ!
カルタロフ家に到着した執事と屋敷内にいた従者はそのまま拘束されたわ」
マリアの声が聞こえた。
『うん、わかった』
後はこのまま3人が閉じ込められている家に到着するだけだ……。
失敗は許されない。
私は不安気に馬車の中を見回す。
そんな私を見てサボイ公爵がニヤリと笑った。
「そうかそうか、不安だなあ。
そんな不安そうな顔をしていたら慰めてやらねばなるまいて……」
私の太腿をさすり始めて……。
気持ち悪ーーい!!
顔が強張るが、マフを巻かれた両手で公爵の手を払うように叩いた。
「ふふふ、痛くも痒くもないぞ。
かわいい反応だなあ」
ぞーーっ!!
「もう他人じゃないしな。
18になったら、すぐに私の子どもを産んでもらおう」
いやーー。
もう何も言わないでくれっ!!
鳥肌立つじゃないかっ!!
ユーリがやんわりと公爵を止めてくれる。
「旦那様、まだ往来の馬車の中です。
お戯れはほどほどに。
騒がれて暴れられたら面倒ですので……」
「お、そうだな。
屋敷に着いてからにしよう」
馬車が停まった。
私は馬車から降ろされびっくりした。
王都の下町! だと思う。
『下町?!』とエドワードの声が聞こえた。
ごちゃごちゃしている建物のドアを鍵を開けて中に入ると細く廊下が続いていて、その先にもまた鍵付きのドアがあり……。
ドアの向こうは中庭のようになっていた。
中庭の向こうには小さいながらも貴族の屋敷という雰囲気の家が建っている。
下町の周囲の建物をカムフラージュのように使って、中にそれなりの敷地が確保されている……。
私は光を放出して、上に打ちあげ、下を見下ろした。
うん、下町だ。
マイクさんとヴェスさん兄弟の魔道具工房より2本通りがずれている感じかな?
「ネモ、ドアがわかるようにしておいてくれるか?」
エドワードの言葉に私は通りに面したドアに光を使って△を描いた。
熱を発生させる方法で軽く焼きつけたみたいになった。
『これでわかる?』
「わかる、ありがとう。
ウォロ達と合流できた。
突入の準備している。
俺とウォロとカルタロフはそっちに転移するからな。
3人の無事を確認出来たら決行だ!」
『わかった』
ユーリに引っ張られながら屋敷に近づき、公爵が鍵を開け中に入る。
エントランスと居間が一緒になったような造りらしく、手に本を持っていたり、お茶を飲んでいたりとくつろいでいたであろう時間を邪魔されたように、緊張した表情でこちらを見ている3人の女性がいた。
3人とも少しずつ色味が違うが金髪と言える髪色をしている。
「公爵、どうしたんですか?!」
3人の後ろから年配の女性が出てきて驚いたように言った。
ここの管理人……、かな?
「新入りの養女を連れて来た。
ネリー、16歳だ。
魔法が得意らしくてな、この手枷で魔法を封じているから外すなよ」
私のことを3人の女性は痛ましそうな表情で見つめている。
「メイドとして連れてきてくれたのなら助かるよ」
私のメイド服を見て管理人は言った。
「いや、これでも男爵令嬢だ。
空いている部屋へ案内してくれ。
まあ、メイドとして使うのも一興かもな」
「その子……、ネリーに飲み物を!」
一番年上らしい女性が言ってくれ、残りのふたりも弾かれたように動き出して、私をテーブルの席に座らせてくれた。
ユーリがマフを外してくれ、私は手枷のついた両手でカップを受け取り、温かいお茶を飲むことができた。
気持ちがほっとする。
声を掛けてくれたのがアイリーンだろう。
私は3人を見回して涙ぐむ。
「どなたですか?」
私はおびえる風を装いながら、念のため確認する。
「かわいそうに……、こんなに怯えて……。
私はアイリーン。
こっちがミネルヴァ。
あの青い服がフィオナよ」
ビンゴ!!
到達したよ!!
『エドワード!
3人の無事を確認できた!』
「よし! 警備局と一緒にギーマ先生、ティエルノとランスがドアを破壊して進み始めた。
俺達はタイミングを見て、ネモの所に転移する。
そのまま、自分の周囲を見せていてくれ!」
エドワードの声が聞こえたのと、私が公爵に手枷を引っ張られて無理やり立ち上がらせられたのが同時だった。
私は「いやっ!」と抵抗しようとしたが、違う部屋に引きずって行かれそうになる。
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




