293 作戦
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
今回、ネモが襲われるシーンがあります。(助かりますが)
苦手な方はご注意ください。
ゆっくり書き進めています。
本当にここまで長くなるとは私自身も思っていませんでした。
魔法学校卒業まで後、約1年ですが、5年生なのでそんなにのんびりできないと思います。
展開は早そうだなと思っていますが……。
最後までお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
リーリエ様達が実家の伯爵家に帰省された。
良かったよ!!
ちょっとほっとした。
これで年末年始に警備局が踏み込んできたりすることになっても、リーリエ様達は巻き込まれずに済む。
メイドの半数、お針子さんなども解雇されることになった。
年末に大変な事になった……。
でも、今、ここから離れられる方が幸せかもしれない。
クレール様とメイド長が紹介状を書き、私もお針子さんにはお世話になったのでアリステア辺境伯爵家を訪ねてみるようにと伝えてもらって、メイド長が渡した紹介状に私からの手紙も忍ばせてもらった。
残ったメイド達で使わなくなった部屋を掃除して、家具に布をかけ、ドアに鍵を掛けて封鎖していく。
だいぶ屋敷の中が寂しくなった。
暖房の節約のため、食堂は使わず、厨房横の使用人の食堂でマイ様、メイ様、セリーナ様も一緒に食事する。
なんだか楽しそうな3人だった。
いつもマイ様とメイ様は客間でふたりきりで食事していたそう。
「こんな風にみんなで食事をするのは楽しいわ!」とマイ様が言うとメイ様も頷く。
「お姉様達と食事できて楽しい!
いつもポーリンに意地悪されるから、食事の時間が怖かったけれど、今はとっても楽しい!」
セリーナ様がニコニコしながら言った。
公爵は仕事の方が大変らしく屋敷にほとんど帰って来ない。
もしかしたら、謎の別邸へ? と光を付けて尾行しているが、そんな気配もない。
3人とも生きているんだよね……。
ちょっと不吉なことまで思ってしまった。
もうあと少しで年越しという日、クレール様とビルさんが帳簿からまとまった金額が毎月流れている先を見つけた。
お金の流れが少なくなったことで、やっと見つけられたとのこと。
「この金額と項目からすると、別邸を構えているとみてよいでしょう」
メイド長も数字を見て言った。
あとは場所か……。
「公爵が行かざるを得ない用事を作ればいいんだよな……」
ビルさんが呟いて私を見た。
クレール様がそんなビルさんを見て「ちょっと出てくる」と出かけて行った。
その日の夕方、私はいつものように定期連絡を入れた。
ホウエン、ミーアに続き、トーマとウィリアム(ビルさん)のおかげでウォルフライトの闇社会との交渉が一気に進んだそう。
マリアとランスもマレーヌと会うことができたそうだ。
そして闇社会というか、まあ表向きは普通の商会の商会長も国の方に着くことを承知したそうだ。
ただ、義理もあるので、裏の仕事は年末までに引き上げるが、特に正規の商売に関わるものは年明けから徐々に手を引くという話になったそう。
その日の夜、私は気分良く、ユーリが入れてくれたお茶をいつものように飲んで……。
なんだか、すぐに眠くなった。
「あれ? ユーリ? なんで……」
私はそのまま、気を失うように意識がなくなった。
頬をぴしぴし、軽く叩かれる感触に目が覚める。
サボイ公爵とクレール様とユーリが目の前にいた。
顔の違和感に手をやろうとすると、属性魔法を封じる魔道具の手枷が嵌められていて、両手で顔を触るがメガネがない。
手を動かした時に解かれていた髪の毛が手に引っかかって見えた。
金髪……。
ん?
変装が解けてる?!
指輪も取られた?!
私は思わず首元を押さえた。
メイド服で襟元がきっちりしているからか、ネックレスは外されていない。
「カルタロフめ、私を騙していたとは……」
サボイ公爵の言葉に何が起こっているんだとあらゆる事態を考える。
「カルタロフは気が付いていなかったようです。
ユーリのお手柄ですね」
クレール様の言葉に私はユーリを見た。
ユーリが、サボイ公爵側だったんだ!
クレール様は?
クレール様は私の視線に耐えられないように目を逸らした。
マジか……。どっちだ?
私には聖魔法といざという時に逃げられる転移魔法がある。
私が転移魔法を使えることは内緒にしていたから……。
もう少し様子を見ることにした。
あ、ノアに!!
私はノアに呼びかけた。
繋がった!
陛下とダーゼンがいるみたいだ。
『メイドのユーリが公爵側で、それにクレールの様子がおかしい……』
こちらの様子を見せて心の中で呼びかける。
ふたりは何も言わない。
『転移魔法が使えるから、これから逃げ』
「逃げるな」と陛下が言った。
なんですと?
「いいか、ネモ、逃げるな」
2回目言われましても……。
『えっ? でも』
「逃げないでそのまま耐えていてくれ。
いざという時、必ず助ける。
私を信じろ」
ダーゼンの言葉に私は動揺した。
『これ、何かの作戦なの?
……わかった。
ダーゼン、信じるから。
本当に……助けてね……』
「私には言い返して、カルタロフのことは信じるのか?!」
『陛下は信じられないけど、ダーゼンは信じられる』
「ひどいな」と陛下が呻き、ダーゼンは「それはうれしいな」と笑った。
「ネリー。
何故、この容姿を隠していたのだ?!」
サボイ公爵に言われて、急に我に返った。
ん? ネモフィラとは、ばれてない?
ネリーとして?
「母が……、亡くなる時に本当の容姿を隠して生きた方が自由になれると!!」
慌てて前から考えてた設定を口にする。
「そうか、それでカルタロフは気が付かず、その息子の方と……。
カルタロフにネリー・コービル男爵令嬢を養女として迎えると手紙を書いてすぐに届けろ」
執事が「はい」と返事して部屋を出ていく。
執事もいたんだ。
「その手紙が届けば、その例の息子が乗り込んでくるかもしれませんね」
クレールが言った。
もう、様付けてやんない!
公爵は思案していたが「お前はこのまま、この屋敷にいて事に当たるように」と返事した。
クレールは何か言いかけたが、頷いた。
サボイ公爵が私の拘束されている両手をぐっと引っ張る。
顔が近い、近い! やだ!!
「手紙が書き上がるまで、楽しませてもらおうか……」
「ネモ、もう少し耐えろ」
ダーゼンの声がする。
私は身体を緊張させ、ぎゅっと縮こまる。
私が抵抗できないと見たサボイ公爵はニヤリと笑って、クレールとユーリに「外へ出ていろ」と言った。
部屋にふたりきりになるとサボイ公爵は私の全身を何度も至近距離で眺め回した。
気持ち悪いんだよ!!
「なんて美しい金髪だ……。それにこの瞳。
目を閉じるな!」
髪を引っ張られる。
「見せろ……。
吸い込まれそうな素晴らしい青だ……」
いつまで耐えるんだ?!
もう無理かも!!
公爵の手が髪を離したのでほっとしたら、足をつかまれぎょっとする。
メイド服だからスカートだ。
私はソファの上に倒れるような体勢になってしまい、足を小さくだけど力強く蹴ってつかまれた手を振り払おうとした。
ダメだ、両手を前に拘束されて、体勢のせいか体重移動が上手く使えず、思ったより力が入らない!
たちまち両足を掴まれ、足を持ち上げられスカートが上まで捲り上がる感覚がした。
「嫌だ!! やだ! 離せ!」
私はせめて両膝をつけようともがく。
「いやだ! いやーっ!!!
助けて! ウォロ、助けて!!」
私は目を閉じて叫んでいた。
足をつかんでいた手の力が弱まり、目を開けたら公爵の背後から闇魔法をかけていたのは……。
ダーゼンだった。
「ダーゼン! 遅いよ!!」
私は涙目で叫んだ。
「いや、この後の作戦的には少しは……」
「作戦って何?!
私聞いていない!!」
それより、早くこの体勢と捲り上がったスカートを何とかしてくれ?!
「ネリーが金髪で青い瞳だと知った公爵はどうすると思う?」
「……養女にして、閉じ込める……?
アイリーン達と一緒に?!」
「そういうことだ。
だから……」
ユーリとクレールが部屋に入ってきた。
ユーリがダーゼンに対して頷き、私の服のボタンを外したり、引っ張って肩を出すように乱したりする。
「何?」
私はわけがわからず、ユーリを睨みつける。
「それぐらいでいいだろう」
ダーゼンが私の姿を見て目を細めてから、公爵の頭に手を当てて何か……光魔法か?!
「!! もしかして?!
私を襲っている映像を作って見せているんじゃないだろうな?!」
「その通り。
気持ちよくネモをアイリーン達の所へ連れて行ってもらうためにね」
読んで下さりありがとうございます。
こんなところでダーゼンの能力がいい意味で再び発揮されるなんて!
でも、ネモにとっちゃ災難か?!
これからもどうぞよろしくお願いします。




