290 見つけた糸口
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
夕方の休憩の時、メイド長の部屋に呼ばれた。
仕事の面談みたいな感じかな。
私は思い切ってセリーナ様のお母様のことをお聞きした。
「何故?」と聞き返された。
「何歳ぐらいまでお母様と御一緒に過ごされたのかとか……。
もし、何かお母様との楽しい思い出があるなら、そういうことを忘れずに思い出せるようなことをして差し上げたいと思いまして……」
これは本当に本心。
メイド長の厳しい表情が少し緩んだ。
「セリーナ様は3歳まで母親と過ごすことができました。
3歳の誕生日を機にこちらの屋敷におひとりで……」
「3歳ですか……。
でも、マイ様やメイ様がその時はすでにいらしたんですよね。
そこまで寂しくはなかったのかな……。
今はビルさんもとても気にかけて下さっていますし。
セリーナ様のお母様は今どこに?
会って頂ける機会があれば……」
「私もどこにいるか、わからないのです」
メイド長がため息をついた。
私は思い切って、言ってみることにした。
もうこんなふたりきりで話す機会はなかなか持てないかもしれないし!
「マレーヌ、メイリール、アイリーン、ミネルヴァ、フィオナ……。
この5人の中のどなたかが、セリーナ様のお母様ですか?」
「!! あなた! どこでそれを?!」
「この5人はサボイ公爵家に養女として迎えられて、その後の行方がわからない貴族女性です。
私は……、その5人を探しに来ました。
この屋敷に来て、保護しなくてはならない人が多くて驚きましたけど……」
「保護?」
「マイ様、メイ様、セリーナ様。
それにリーリエ様とポーリン様とアレク様。
みんなここにいたら幸せになれない。
一度、ここから離れた方がいいと思います。
見ていて辛くなる時があります」
「あなたは……誰?」
「私は……、陛下から頼まれたんです。
行方がわからない5人を探し出して欲しいと」
メイド長は目を見開いて呟いた。
「国からの助けが?! 本当に?」
「はい、本当です。
もし知っていたら教えて下さい。
私、セリーナ様を守りたいのです」
「でも、この屋敷から出ることは難しいわ!」
「……できますよ。
今すぐでも。
陛下には先にマイ様、メイ様、セリーナ様だけでも保護できないかと言ったのですが、それにより5人の養女が窮地に立たされたり害されたりするかもということで……」
「そんな、何かの罠?
いえ、公爵にそんなことは、できない……。
あなた本当に、誰なの?」
「私は……」
説明難しいな。
いいや陛下に話してもらおう。
ちょうど4時頃だし。
私はメイド長の手を握った。
「何を?!」
「私への依頼人、陛下に会わせます」
メイド長にもわかるように小さく声に出して呼びかけた。
「陛下、メイド長をご紹介します」
そして、ノアにつけている光から見える視覚に切り替えた。
メイド長が驚いた声を上げそうになり、口を片手で覆った。
「サボイ公爵家のメイド長だね。
私はウォルフライト王国国王だ」
「国が、私達を助けようとしてくれている?!
……なぜ、なぜ、もっと早く動いて下さらなかったのですか……」
メイド長が悲しみや怒りやそんな感情を押さえながら言った。
「……すまない。
サボイ公爵にはなかなか手を出せなくてな……。
私が対抗できる体制を整え、調べられるようになったのが3年ほど前からで……。
それ以前からずっと気にはなっていたんだが……」
メイド長はふーっとため息をついて、胸を押さえてから絞り出すような声で言った。
「メイリール……、私の本名はメイリールです」
「2番目の養女?!」
陛下の声は大きかったけれど、私とメイド長……、メイリールさんの頭の中にしか聞こえないから大丈夫。
「他の4人は……」
陛下の問いに「それは……」といいながら唇を嚙む。
本当に辛かったんだろう……。
私は昨日のクレール様やビルさんとのやり取りを思い出して言った。
「マレーヌさんの居場所は知っていますよね?」
頷くメイリールさん。
でもすぐに焦った表情で続けた。
「でも、後の3人が、まだどこかへ捕らえられていて!」
小さい声で、でも張り裂けそうな気持だということが伝わってきた。
「……ネリーは、魔法学校で唯一探索魔法が使える生徒でね。
今回の仕事を頼んだんだ。
良かった、まだ生きていてくれて、本当に良かった……」
陛下の声も少し涙声になっている。
「マレーヌの居場所は、知っている人を私は知っているので……。
でも、後の3人への手がかりが全くなくて……。
私達も探し続けているのですが……」
それがクレール様とビルさん……。
「協力者達とも話がしたい。
どうすればいい?」
メイド長が思案顔になる。
「それでは……、ネリー、今夜、また私の部屋に来てくれますか?
仕事のことで話があって呼ばれていると」
「はい、わかりました。
仕事が終わって寝る前になってしまいますが……。
夜の9時過ぎですね」
私は陛下にも時間を知らせようと確認のため言ってから、メイリールさんの手を離した。
「何てこと、本当に……」
メイド長が呟いて自分の身体を抱くようにしている。
「逃げ出すこともお手伝いできますから。
私の友達に数人を一緒に転移魔法が使える人がいるんです。
彼は私のところに転移してくることもできますし、屋敷に来てもらって、一緒に安全な王城などに転移することができます」
「……でもそれは、残りの3人の行方がわかり、一緒のタイミングでないといけないということね」
「はい、どちらかが先にとなると、残された方が監視が厳しくなったり、もしかしたら悪事の証拠を残すまいと、されたりすることも考えられますし……」
「そうね……」
夕食時、クレール様もサボイ公爵もいなかった。
また、ポーリン様がセリーナ様にちょっかいというか、もう攻撃よね……、しようとしてきて。
グラスの水を掛けようとした。
思わず風魔法を発動して、空中に広がった水を集めてグラスの中に戻しちゃったよ。
ポーリン様は目が点になってた。
セリーナ様には食事後、部屋に戻ってから質問攻めにされた。
遅れて戻ってきたマイ様とメイ様もセリーナ様からその話を聞いて「私も見たかった!」「そんなポーリンの顔、見たかったよ!!」と言って、大笑いしていた。
私がセリーナ様の寝る仕度を手伝い、部屋を出るとミミがいて声を掛けられた。
「ネリー、リーリエ様がお呼びよ」
なんだ?
リーリエ様の部屋に入る。
「ネリー、あなた魔法がとても上手に使えるのね」
前置きもなく言われた。
確かに、小さい魔法をコントロールするのはけっこう難しいんだよね。
私は曖昧に頷いた。
「セリーナ付きからポーリン付きになってちょうだい。
よろしく頼むわね」
「……まだセリーナ様と一緒に過ごして2日です。
もっと一緒にいて差し上げたいのですが……」
いつもほんわかしているリーリエ様の表情が強張った。
「……優秀なあなたにはポーリンについてもらいたいの。
愛人の子のセリーナではなく、正統な公爵令嬢になるポーリンにね」
「ポーリン様に私は嫌われています。
ポーリン様は喜ばれないと思います」
「そんなことは関係ないわ」
「いえ、関係あると思います。
セリーナ様の気持ちやポーリン様の気持ち。
どちらも大切です。
大変申し訳ありませんが、おふたりの気持ちを考えると、私はセリーナ様のおそばにいたいと思います」
私はそこまで言って、顔を上げた。
リーリエ様の表情を見て息を飲んだ。
アリシア夫人……。
父の正妻だったアリシア夫人の表情を思い出した。
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




