28 疑わしきは罰せず
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって書くことに挑戦しています。
今回は転生物です。
ゆっくりと書き進めていますので、進展が遅いかもしれませんが、少しでも面白いなと思ってお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
保健室に行くとセレナはベッドで横になっていたが目覚めていた。
私を見て起き上がろうとしながら「ネモ、無事でよかった! ごめんね、ごめんね……」と言った。
私はセレナの肩を支えるように手を添えて話しかけた。
「何にもなかったから大丈夫だよ。セレナのせいじゃないから、気にしないで!」
「私、私……、あの4年生が1寮の人じゃないと……」
その時、オーサム先生とギーマ先生が来た。
ギーマ先生がウォロと私だけを呼んで保健室前の廊下に出た。
「ウォロ、聞きたいことがある。4-3寮のことだが……」
ギーマ先生が言いかけている途中でウォロが言った。
「自分がやりましたけど、何か?」
「やっぱりお前しかいないよな。カトレアの薬は?」
「ここに。少し使いましたけど」
ウォロが懐から瓶を出した。
カトレア先生の薬って、私が飲んだ闇魔法の耐性の薬?
「何でこんなことを?」
「あいつらが嘘をついてネモを騙して傷つけようとしたから」
「それにしても……」
「自分と大切な人を守るためならば使用は許可されているとカトレア先生にお聞きしています。
あれがその結果です」
「……ああ、アリスと1年のセレナとネモの言った言葉は確認している。
今回の騒動の大体の話の流れはわかっている。
ただ眠っているあいつらからも話を聞かないといけない。
この薬はもらっていくぞ。
それで、なぜ眠らせるという手段に出た?
お前とエドワードなら、4年生の3人ぐらい普通の魔法でも圧倒できるだろう?」
「ネモが捕まってたから。
魔法で戦うと相手の方にいたネモも傷つく可能性があるし、自棄になった相手に傷つけられる恐れもあった。
寮を壊す騒ぎを起こして変な噂になるのもネモを守るために防ぎたかったし」
「なるほど……。わかった。
とりあえず寝ている奴らを起こして話を聞く。処分はそれからだ」
「処分って! 私もいけないんです。
ちゃんと確かめず、ついて行ってしまったから。
ウォロを処分するなら私も……」
「ギーマ先生、俺もその場にいてウォロを手伝いました」
突然、エドワードが近づきながら話しかけてきた。
「最初はなんて方法だと思ったけれど、今では一番賢いやり方だったと思ってる。
ウォロを処分するなら俺も同罪です」
「……やれやれ、第2王子までこっち側になっているとはね。
わかった。そうしよう。
今回の件のことがはっきり決まったら学校から話があるだろう」
ギーマ先生が立ち去るのを3人で見送ってからエドワードが言った。
「オーサム先生が全員に話があるって」
セレナのベッドのそばに行くと、オーサム先生が頷いて話し始めた。
「今回のことだが、学校が把握していることを確認するな。
まず、ネモ、4-1寮にイヤリングを取りに行くことをアリスから頼まれたな?」
「はい」
「そしてセレナはその時一緒にいた」
「はい」
「寮の場所がわからないという話になり、近くにいた4年男子が案内を買って出た。
その男子が自分で4-1寮の者だと言い、アリスは否定しなかった?」
「「はい」」
私とセレナの声が一緒になった。
「で、ネモは男子について行き、セレナは戻ったが、さっきの男子が4-1寮でないことに気が付き、1-1寮のみんなに伝え、ウォロとエドワードがネモを探しに行き、残ったみんなでアリスの所に話に行った」
「はい、そうです」
セレナが小さな声で言った。
「アリスはネモに何も頼んでないと言い、この騒ぎはセレナが起こしたのではと言い合いになり、セレナが体調を崩してしまった……でいいかな?」
「……少し違います。
ネモは4-1寮に行くことをウォロに伝えてと私に頼んだんですが、アリス様は伝えるなと言ったんです」
「なるほど、それで?」
「でも、4年の男子が4-1寮のメンバーではないことに気が付いて、ネモを行かせてしまったことがこわくなって、みんなに言いました」
「わかった。セレナも怖い思いをしたね。
アンドレアス第1王子がセレナの言葉も、戻ってきたネモの言葉も両方聞いてるから、それは証言してくれている。今確認したことは学校も把握できている。安心しなさい。
セレナが落ち着いたら全員で寮へ戻っているように」
私達はセレナと一緒に1-1寮に戻った。
着替えをしながらあったことを話すと、聞いたジュンが怒ってくれた。
私はそうか怒ってもよかったんだと気が付いた。
いかにうまくすり抜けるとかやり過ごすかということばかり考えていて、やられたことに怒るということを忘れていた。
「ジュン、私のために怒ってくれてありがとう」
ジュンとミクラが指示をして、従者達が食堂に料理を取りに行ってくれ、メイド達が夕食を整えてくれた。
そして、ジュンとミクラは帰宅し、みんなの従者とメイドも従者棟に引き上げた。
私達は夕食を食べながら、今日のことをやっと話し合うことができた。
ウォロとエドワードが私を探して4-3寮までたどり着き、ウォロが闇魔法で4年男子達を眠らせ、エドワードと協力して私を助け出したことを聞いた。
そんなことがあったんだ。
「私、寝ていたのによく薬飲ませることができたね。飲んだ記憶が全然ないんだけど。
口の中に薬の味が残ってて目が覚めた時びっくりしたよ」
エドワードが真っ赤になった。
ん?
ウォロを見たが何も言わない。
ん?
「確かに普通の魔法で戦う騒ぎになっていたら、もっと大ごとになり、生徒が避難するような大騒ぎになっていたかもな」
ティエルノが言った。
「アリスはその4年生男子と結託していたんでしょうか?」
オードリーが首をかしげる。
「うーん、そこが問題だな。
もし事前に依頼していて、それをセレナのせいにしようとしていたなら本当に許せない」
ライトが怒りを滲ませながら言った。
その時、ドアがノックされオーサム先生と学校長が寮に入ってきた。
ティエルノがあわてて自室から椅子を持ってくる。
ふたりは椅子に座ると、オーサム先生が話し出した。
「まず1年の処分を伝えるな。
ウォロ、エドワード、ネモの3人は明日より3日間、図書館の書庫整理の手伝いをすること、以上だ」
セレナが顔を上げる。
「私は? ネモを行かせてしまった私は?」
「闇魔法を使用し、その手助けをした3人だけ処分が下った」
「アリスと、4年男子は?」
エドワードが鋭く言った。
「まあ、順に説明するから。
まず4年男子は目覚めて話を聞いたが、ネモを案内する途中で4-3寮に立ち寄ったところで眠ってしまったと言っている」
「そんな、俺達はちょうど寮に入るところを見たけど、そんな感じじゃなかった!」
エドワードが声を荒げた。
「それにネモの案内を買って出たのも親切からだったとのことだ。
まあ、かわいい子だなと思って親しくなりたい気持ちもあったので、4-1寮だと嘘をついてしまったそうだ」
「じゃあ、アリスとは?」
私は思わず聞いてしまった。
「アリスとは無関係。本当に通りすがりだったとのことだ。
そして、アリスだが……、ネモが目立っていたのでちょっと懲らしめてやろうと替えのイヤリングを取りに行くようにお願いしたことは認めたよ。
ただ、ほんのちょっと困らせてやろうと思ったんだそうだ。
4-1寮に行ってもひとりでは寮の中に入れないから、困って戻って来るだろうと。
だから、4年の男子が案内すると言った時、どうせ1寮の者ではないから入れなくて困ることには変わりないと思って行かせたそうだ。
4年男子は闇魔法にかかり強制的に眠り込まされたことがすでに罰になっていると判断され、注意のみで処分は特になし。
アリスは1年生に対していたずらを仕掛けたことに対して、1日間謹慎ということになった」
みんな納得がいかない表情をしている。
学校長がみんなを見回しながら言った。
「あまり大ごとにはしたくないという君達の希望もあったと聞いている。
疑わしきは罰せずということで今回は穏便に済ませようと思う。
どうだろう、学校としてもこれから特に4年生達が1年に対して必要以上に関わらないように目を配るつもりだ」
「私も書庫整理一緒にやらせてください!」
セレナが思い切ったように言った。
それを聞いてティエルノ、オードリー、ライトも「一緒にやらせてください!」と口々に言った。
「7人でやれば1日で済みそうだな」
学校長がにっこり笑い、オーサム先生も頷いた。
「では、明日1日。放課後、図書館で書庫整理を1寮全員で行うこと。
これでいいか?」
オーサム先生の言葉に「はい!!」と7人全員が返事した。
次の日、私達は放課後、図書館に行き書庫整理をみんなでやった。
とても楽しかった。
全然罰になってない。
その次の日、アリスの謹慎が解けたあたりから、新しい噂が学校に流れた。
今度の噂は、私がセレナからエドワードを奪い、ウォロと二股かけてる『悪役令嬢』だと。
あー、どうやっても『悪役令嬢』からは離れられないんだな。
確かに、あの花祭りのステージ上でのダンスを見ていたら、そう噂されてもしょうがないかも……。
そうだよ、なんでエドワードはあんなところで頬にキスしてきたんだ?!
そして何もなかったようにウォロと仲良くなってるけどっ?!
読んで下さりありがとうございます。
アリスが3年間学校で築き上げてきたものやネモに対する噂や偏見もあり、花祭り事件(?)は大ごとにならず一気に形勢は逆転しませんが、少しずつ学校側やアリスの周囲がネモのことを見直すきっかけになったと思います。
次のアリスが仕掛けてくる学校外で起きた事件(?)は書き終えました。
さらに次の学校行事について今書いています。
どうぞよろしくお願いします。