281 友達の友達(トーマ視点)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
今回は時々入る他視点の話です。
どうぞよろしくお願いします。
「トーマ、これからネモと病院に行くけど、一緒に来るか?」
ミカに聞かれる。
俺は苦笑いして答える。
「なんで俺が……」
「ネモがトーマともっと仲良くなりたいって言ってたぞ」
ミカが真顔で言う。
俺は4寮の仲間の中でもミカのことは気に入っている。
1年の頃はおとなしくて目立たないが、正直で話してみると自分を持っているなというか頼れる奴というか、そういうことを感じさせるものを持っていたからだ。
2年になって、1寮のネモと剣術のペアになると、1寮の奴らと付き合うようになって、少しずつ前に出ることが増えて行った。
4寮だから……という諦めのようなものはなんとなくある。
何とか及第点を取れてればいいやという感覚。
ミカも少しそんな気持ちがあったと思う。
1寮の奴らが生まれつき頭が良く才能が豊か……なのではなく、人一倍努力してその成績を維持している、そういう強さなのだということに友達として関わり気が付き、同じことをするようにしたら、びっくりするほど何もかも成績が上がったそうだ。
もともと正直で、頑張って取り組むことが嫌いではなかったんだろう。
ミカにとってはとてもいい作用があったわけだ。
ウォロやエドワードやネモと一緒に、休みの日まで一緒に過ごすミカのことを『無理してる』『一緒にいることで得している』と言う奴らもいたけれど……。
ミカの性格的に、そういう関係じゃないんだろうと俺は感じていた。
ミーア帝国に里帰りするウォロやネモやオードリーにくっついて、エドワード達とも一緒に旅行に行った時は『タダ旅行できて良かったな』なんて露骨にいう奴もいて……。
でも、ミカは寂しそうに笑って、何も言わなかった。
3年の時かな?
初めて俺達4寮の仲間にお土産を買ってきたことがあった。
「ウォロ達に買って貰ったんだろ?」
ルートが受け取ってもいいのか、困りながら言った。
その時、初めてミカが反論した。
「いや、ミーアで働いて得た自分の金で買った」と。
「ミーアに出稼ぎに行ったのかよ?!」
なんて笑い話になっちゃったけど、俺は気になり、後でミカから詳しく話を聞いた。
ネモがミカに、他の人には気づかせないように仕事をさせてくれ、自由にできるお金を得られるようにしてくれたんだと教えてくれた。
1寮のウォロやエドワード達との旅行は確かに旅費や宿泊費などすべて国が出してくれることになるが、それ以外におこづかいがあるわけでもなく(あってもミカは受け取らないだろうが)、やはり自分の自由になるお金があればな……と思うこともあったそうだ。
何故か、そんな様子にネモは気がついて、欲しいものを言えとか買ってやるというのではなく、ふたりで行動する時は従者の仕事を依頼してくれ、ちゃんと相場の給料をくれたのだという。
それで、父親や寮の我々に、はじめてお土産を買うことができたと。
その話を聞いて、俺はネモにさらに興味を持った。
辺境伯爵家のお嬢様。
でも、母親が愛人だったことから辺境の地ダナンで幼少期を過ごし……。
王都で流れている噂は……。
入学して出会った時、貴族令嬢らしからぬ少年のような姿の少女だったことに驚いたし、噂とは全く真逆で……。
それなのに、学校内外で流されるとんでもない噂だけがくり返しくり返し、流れる……。
そんな少女が、同い年のミカにそこまで気がついて配慮をしたことに驚いた。
政略的な婚約だと噂になっていたが、全くそうは見えなかったし、4年生で結婚したのも驚いた。
結婚しても態度や行動に全く変化もなく……。
よくわからない女だ……と思っていた。
ミカはネモとのことを俺に話したことで、話しやすくなったのか、時々ネモのことを話してくれることがあった、
実は、ネモとウォロに2年生の時、将来ふたりの従者として仕えたいと言ったことがあったそうだ。
その後、自分の成績がぐんぐん上がり、他の職業や学校に進学希望が出せるようになると、違う夢ができた。
でも、ネモとウォロに約束したし……と悩んでいたら、ネモに気づかれ、自分のなりたいものになるのを応援すると言われたと。
なんか……、すっげえネモっていい奴なんじゃないの?!
4年の野営実習では、ミカが緊急連絡の魔法を打ち上げたのを見て心配して駆け付けたら、怪我をしたのは3寮のコーディで、ミカとネモと3寮のケイオスが集結して事に当たっていた。
またネモだ。
俺は見ていたが、光魔法を使用してコーディの健康状態をしっかり維持管理し、コーディの心理面までケアしていた。
的確に細かく指示を出し、ギーマ先生が合流するまでみんなを励まし頑張っていた。
これは、ミカが尊敬し、守りたいと思うのがわかるわ。
そして、夫であるウォロが本当にネモを大切に思い、愛しているかもよくわかった。
だから……、父からの指示で魔法対戦大会の日に見張りをしていた時、ネモに会って、内心跳び上がるほど驚いた。
話をすると行先は食堂でなかったのでほっとしたが、変な顔をしたネモは何故か食堂の方へ走って行き、俺は慌てて追いかけた。
このままではネモがファミリーの襲撃に巻き込まれてしまう!
食堂の階段下でタイガがジョニーを抱えて下りてくるのに出会った。
まだ上に一番凄腕のシルバーがいるはず。
階段を上るとネモが「「トーマ! 逃げて行く、ふたり組見なかった?」と話しかけてきた。
シルバーが音もなくドアから出てくるとネモの背後から手を振り上げた。
「ネモ! 止めろ!」
俺は叫んで駆け寄ったが、ネモの首に手刀が見事に入り、気を失ってシルバーに抱き止められる。
「そいつは王子や国王のお気に入りの令嬢だ」
俺が囁いた言葉に「それは好都合」とシルバーが微笑む。
「指輪とネックレスが魔道具で、追跡されるから!
学校内に置いていったほうがいい!
それから俺のことも気絶させてくれ、疑われないように!」
ネモもここに転がして置いて行けと言ったつもりだったんだが……。
気が付いたら、ネモは攫われていて……。
シルバーなりに任務について考え、俺の指示を誤解したのか……。
結果的に魔道具の拠点がひとつ、警備隊に見つかることになってしまったが、シルバー達は無事に逃げ切れたようだ。
ネモが無事に戻ってきて、俺は観念していた。
楽しかった学生生活もこれでおしまいか……。
後1年半。
できれば卒業したかった……と思っていたら……。
ネモがウォロと来た。
今日、自分が感じたことは誰にも言うつもりはないと。
そして、一緒に卒業しようと。
何と最後に抱きしめられて、ウォロから殺気を隠さない視線で見られることになったが、なんだか、それも楽しかった。
父には無事に卒業するため、しばらくファミリーの仕事に関わらないことを伝えた。
今回のことで少し怪しまれているかもしれないと説明した。
父も卒業して欲しいと思ってくれたようだ。
『わかった』と返事が来た。
とりあえず、今はファミリーのことや父が請け負った仕事のことなどは忘れて、学生生活を楽しもうと思う。
「そうだな……。
帰りにネモのおごりでお茶、ご馳走してくれるんなら行ってもいいな」
ミカが笑って「自分で言えよ!」と言った。
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




