275 4年の野営実習(後)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
「違う違う。
元気になるようにってこと。
普段話していることでいいよ。気が紛れるようなこと!」
ケイオスが困った顔で言った。
「普段、話していること……。
ちょっと……、ネモがいるとこでは……」
「……いつもどんな話してるんだよ?!」
私の言葉にコーディが笑った。
大丈夫そうだな。
「身体がしびれたりとか、ここが辛いとかない?」
「ん、わからないけど、力が入りにくい、少し寒い」
雨で濡れてるから体温下がってるよな。
でも、ここでは脱がせられないし着替えもできないから、今は毛布でくるんで保温するしかない。
「身体が濡れて寒いんだろうね」
私は右手の発光をやめて、コーディの頬に当てた。
「……温かい」
コーディが呟く。
私は身体を巡らせる光を多くした。
怪我の治療は後回しにして体温を維持できる方に重点を置く。
「コーディ、光魔法で体力を補っているから。
コーディの身体の中に私の光が入っていってるから」
「うん、温かいものが流れてくるのがわかる」
「大丈夫だからね」
「いいなあ、ネモに看病してもらえて」とケイオス。
「いひひ、うらやましがれ」とコーディ。
コーディ、元気が出てきて良かった。
火魔法が3回打ちあがる。
ミカだ。
風魔法を使い、かなり高く打ち上げている。
ベースキャンプから先生が向かっているにしても、かなり時間はかかるだろう……。
たぶん、私達の1時間後に出発した武器なし組の辺りを中心に見回っているだろうし、そこからさらに1時間以上かかるし、今の時間だと暗さもある。
転移魔法って、本当に災害救助とかに有用だよな。
ウォロと連絡が取れれば、ネックレスが禁止じゃなきゃ、ここに来てもらえるのに……。
その時、足音が近づいてくる音がして、ミカが立ち上がりそちらを窺う。
「何かあったのか?」
この声は?!
ミカが叫んだ。
「トーマ!
来てくれたのか!」
「ああ、あの魔法の緊急連絡、ミカの魔法だろう」
4寮のトーマだった。
ミカの隣の東だったそう。
「トーマ、来てくれてありがとう……。
火を絶やさないように焚き木をもっと集めたいんだ。手伝ってくれるか?」
ミカが言って、ふたりで焚き木を集めに行ってくれた。
すごいな。
困っていそうだと判断して助けに駆けつけてくれる……。
私はさっき、心配しながらも動かなかったことを思い出した。
ケイオスが言った。
「すぐに緊急連絡打ち上げれば良かったよ。
そうしたら、ネモももっと早く気がついてくれたよな……」
それは確かに……。
「でも、間に合って良かったよ。
コーディ、のど、乾いてない?」
「……乾いた」
焚火のそばにいるしな。
私はさっきと同じように水球を焚火に近づけ、お湯を作り、ケイオスにコーディのカバンからのカップを取り出してもらい、入れた。
ケイオスと協力して、コーディの半身を起こし、お湯を飲んでもらう。
コーディの身体の下に、上に掛かっていた私の毛布を移動させ、その上に座ってもらう。
また横になる時に足元の方にも敷き入れて、縦に畳んだ毛布の上に寝れるようにした。
「あ、寝やすいよ。寒くないし」
「良かった」
焚き木を拾って戻ってきたミカに提案してみる。
「ミカ、火魔法と風魔法組み合わせて暖かい風出して服乾かすとかできない?」
「んー、できるかな?」
ミカが調節しながらコーディのズボンの方に温風をかけてみる。
「いい感じに暖かい」
コーディーの感想だといい感じじゃない?!
身体も温めているし、外からの温風のおかげでだいぶコーディの服や身体の濡れや湿気はなくなった。
トーマが、自分の毛布を取り出し、私の背中に掛けてくれた。
「じっとしてると冷えるだろう」
「ありがとう」
「もう一度、緊急連絡打ち上げてくれる?
最初の連絡で先生達が向かっているとしたら、そろそろ近くまで来ているんじゃないかと」
私の言葉に、ミカとトーマが頷いて、少し離れた所からまた火魔法を打ち上げた。
まもなく、ギーマ先生が現れた。
「遅くなってすまん!」
私達はほっとしたけれど、ギーマ先生ひとりだけだ。
ギーマ先生はコーディの様子を見て「落ち着いてるな。明るくなってからベースキャンプに向かおう」と言った。
「ギーマ先生ひとりだけということは、他にもトラブルが?」
私の言葉にギーマ先生が苦笑する。
「ああ。
あの急な荒天で、女子の方でリタイアが数人出てな……。
そちらの対応をしている時に、こっちの緊急連絡が打ちあがって……。
とりあえず、私だけ、こちらに向かうことになったんだよ」
ギーマ先生は光魔法を上空に打ち上げた。
合流できたという合図だそう。
ケイオスとミカが落雷とともに叫び声を聞いて、コーディの元に駆けつけ、応急処置をしたこと。
慌ててしまい、ベースキャンプに知らせに行くより、近くにいるはずのネモに来てもらおうとなり、探しに行ったこと。
私に言われて、慌てて緊急連絡の魔法を打ち上げたことなど話した。
「だいぶ顔色も良さそうだ。
ネモ、もう光魔法はやめておけ。
ネモまで倒れたら大変だからな」
私は頷いて、コーディの右手を離そうとするが、ぎゅっと握られて「ありがとう」と言われる。
「うん、どういたしまして」
ギーマ先生が額の怪我の応急処置をするのを手伝ってから、コーディから離れる。
ミカが、焚火のそばの座れるスペースに誘導してくれた。
少しずつだけど、長時間かけ続けていたから、ちょっと疲れた。
ミカが隣に座ってくれる。
私はトーマの毛布を広げて、ミカも一緒にくるまった。
「ネモ、かなり身体冷えてるね」
「じっとして、光魔法使い続けてたからかな……」
あくびがでた。
「寄っかかっていいから少し寝たら」
「うん、でもお腹空いた。
残ってるパン食べたら、少し寝させてもらおうかな……」
私は残りのパンをカバンから取り出し、カップに水をいれて飲もうとした。
「カップ、貸して」
ミカがカップを手に持ち、火魔法を軽くかけてお湯にしてくれた。
「ああ! 火だとそういう使い方もできるのか! ありがとう」
温かいお湯を飲み、パンを食べ終えると、私はミカに寄りかかってうとうとした。
目が覚めると周囲が少し明るくなってきている。
ケイオスとトーマもお互いもたれ掛かるようにして寝ていた。
ふたりも毛布を掛けていて、安心する。
ミカを起こさないようにそっと毛布から出る。
水を飲んでから、コーディの方へ行き様子を見る。
うん、落ち着いて寝ている。
ギーマ先生が「もう少ししたら出発しよう」と言った。
私は頷いて、少し離れて水を出して顔を洗い、髪を結び直した。
それから、ミカを起こした。
「ミカ、おはよう」
「……おはよう、ネモ。もう仕度したの?」
「うん、顔洗うなら、水出すけど」
「あ、頼もうかな」
みんなから少し離れ、水を出し顔を洗ってもらう。
「タオルがなかった……」
「私のこっち側なら使えるよ」
片方の端っこはコーディの血を拭いてしまったんだよね。
「借りていい? ありがとう」
ミカが遠慮がちに私のタオルを使って顔を拭く。
「みんな朝ごはんとか食べるのかな?
私、果物だけ残してあるけど」
「どうだろう?
俺も果物は取ってある。
食べちゃった奴もいるかもだし、先に食べちゃう?」
ミカが笑った。
ふたりで果物の朝食を食べてから、ケイオスとトーマを起こした。
ふたりも顔を洗い、トーマは果物を残していたが、ケイオスは昨日のうちに全部食べてしまったということだった。
トーマとミカで少し離れてこっそり食べてきてもらう。
ギーマ先生が非常食みたいなものをもぐもぐしながら、コーディにも食べさせていた。
食べられてるみたいだ。
自力で歩けるかな。
ケイオスだけ何も食べてない。
ちょっとかわいそうだけど、しょうがない。
ギーマ先生のそばに集まる。
コーディは支えてもらえれば歩けそうとのことだ。
ベースキャンプにみんなで戻ることになる。
私はトーマに毛布を返した。
「毛布ありがとう、助かった!」
私は地面に敷いていた自分の毛布をバサバサして畳んだ。
ちょっとしっとりしているが、濡れてるというほどではない。
ミカ、ケイオス、トーマ、私と交代しながらコーディに両側から肩を貸し、歩いた。
ギーマ先生の誘導で、まっすぐにベースキャンプに戻ることができ、2時間半ほどで戻ってくることができた。
女子とライトはみんなベースキャンプに戻っていて、ライトとユリアン先生が途中まで迎えに来てくれた。
ベースキャンプについてしまえば、ウォロと合流できるし安心。
私はギーマ先生と一緒にコーディの額の怪我の魔法治療をした。
ウォロやエドワード、ティエルノらが続々と戻り始めた。
私はウォロに抱きついて出迎えた。
「魔法が東の方で何度か打ち上がっていたけど、何かあったの?」
「うん、3寮のコーディが怪我してね……」
ウォロに抱きついていたら安心して眠くなってきた。
「おい、ネモ?!」
「夜中から光魔法を長い時間使い続けだったし、少ししか寝てないし。
歩いて戻って、さっきまで治療してたし、疲れてるんだと思う」
ミカが説明してくれてる言葉がふわふわと聞こえた。
「ネモ、どうしたんだ?」
エドワードの声も聞こえた。
「……エドワード、昨夜は怒ってくれてありがとう」
「なんのことだ?」
訝し気なエドワードの声。
「……私が弱気になると、小さなエドワードが出てきて、怒るから……。
頑張んなきゃって頑張れた……」
私はそのまま寝てしまった。
気がついたら、寮の自分の部屋のベッドで寝ていて、ウォロに添い寝されてた。
「えっ?
ちょっと、寮では離れてないと!」
「大丈夫。
まだみんな山から戻ってないから」
ウォロによると、ウォロの転移魔法で私とコーディ、リタイアした女子(3寮の女子がふたり、4寮の女子がひとり)、養護の先生が先に学校に転移してきたんだと。
「えっ?
転移魔法見せちゃってよかったの?!」
「まあ、ギーマ先生とは発表の準備をしているところだったし……。
それに、ネモは疲れて寝ちゃってたし……」
「……そうなんだ。
それは申し訳ない……」
「で、小さなエドワードって何?」
「は?」
「……ネモが言ってたんだよ。
昨夜、小さなエドワードが来たって……」
「あ、ああ!
そうそう、私が弱気になると、……ちょっと怖いなとかね。
そうすると頭の中に出てきて『怖がってるのらしくない』だったかな、そんなこと言って怒るというか説教するので、なんだよ! って頑張れたというか……」
「へー……。
エドワードなんだ」
「そうだね。なんで? と思ったけど。
エドワードだったね」
あれ、ウォロ、なんか機嫌悪い?
「ウォロ?」
「……エドワードのこと、好きなのか?」
「は?
そういうのじゃないけど。
ウォロのことをいっぱい考えてたよ……。
どうしてるかな。雨に濡れてないかな。
いつもそばにいてくれて、安心させてくれてるんだな、とか。
いろいろ考えたし、気がついた。
だから、会った時、すぐ抱きついて安心したら、気が抜けちゃった……」
「……本当?」
「本当だよ。
後、ウォロにしか言えないけど、今、生理の終わりかけで……。
それも疲れやすかったのかもしれない……」
「そっか。
変なこと聞いてごめん……」
ウォロの声からトゲトゲした雰囲気が消えた。
「私も、変なこと言ってごめん。
ちゃんと説明してから言えば良かったね……。
あ、ミカにもお世話になった。
ギーマ先生が来て、光魔法かけ続けるのやめることができて、トーマが毛布貸してくれて、ミカが一緒に寝てくれた」
「えっ?」
あ?
またトゲトゲしてきた?!
読んで下さりありがとうございます。
昨日で無事に研修終わりました!
来週から仕事が始まります。
平日は午前投稿。
休日は書き進めたストックと相談しながら、午前投稿とたまに午後投稿もできたらいいなとは思ってます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




