26 私の気持ち(セレナ視点)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ここから2話、ネモ視点ではない話が続きます。
どうぞよろしくお願いします。
魔法学校に入学が決まり本当にうれしかった。
幼馴染であるエドワード様とティエルノも一緒で心強い。
入学前に同じ寮だとわかったし、もうひとりのライトはティエルノの友達で会ったこともあるので安心。
入学式で転びそうになった時に助けてくれたかっこいい女の子が同じ寮だとわかった時は驚いた。
アリス様の妹なら1寮になるのはありえないことじゃないけれど、あの噂の『悪役令嬢』だったから。
しかも婚約者はミーア帝国第3皇子で政略的な婚約だったはず。
一緒に入学してくるなんて、普通じゃ考えられない。
エドワード様もみんなも最初は仲が良くなるのはきっと無理だろうと話していた。
でも、ネモは全然そんなことはなくて、かっこよくてやさしい金髪のきれいな女の子だった。
ネモの婚約者のウォロも見た目は怖そうだけどやさしい男の子だし、オードリーもかわいくてやさしかった。
私はネモの金髪が羨ましかった。
私は薄い茶色の髪。
瞳は薄い青で、メガネをかけている。
薄いというのが私のイメージだと思う。
ぼんやり、存在感がない……。
アンドレアス第1王子とアリス様は入学する時に婚約が決まった。
もしかして私もと期待は……してた、けど、王家から話はなかった。
ずっと候補のまま、幼馴染のまま、でも、もしかしたら夫となる方かもしれないとエドワード様に対する気持ちも私の居場所もなんだか不安定。
ネモはまっすぐで明るくて見ていると楽しくなる。
人を巻き込む力がある。
いきなりエドワード様に「はい、後はエドワードがやって」と木ベラを突きつけた時はびっくりした。
エドワード様も受け取って鍋をかき混ぜ始めたので、さらにびっくりした。
すぐにミーア帝国のふたりもどんどん寮に馴染んで、お互いに名前で呼び合うようになって……。
気が付くと、私だけエドワード様と呼び続けていて、変化するきっかけを見失っていた。
寮の仲間として結束していくみんなの中で私とエドワード様だけ変われない感じ。
でも、気が付いてしまった。エドワード様はネモのことを気にしている。
アリス様から聞いていた話と噂と……。
あまりにかけ離れているネモを知って目が離せなくなっている。
ティエルノから、噂とは違ってウォロがネモを好きになり婚約を申し込んだこと、婚約を急いだのは入学テストで魔力が多いとわかるとアリス様のように婚約を決められてしまうかもしれないからだったことを聞いた。
もしかしたら、エドワード様と婚約していたのはネモだったかもしれない。
ダンスの練習の時、私はエドワード様に嫌われたくなくて、意見することができなかった。
なのにネモは自分の思ったことを素直にぶつけ、エドワード様と衝突した。
羨ましいという気持ちと嫌われてしまえばいいという気持ちとふたつの気持ちが私の中にあった。
実習場を飛び出して行ったふたりを追って、私とウォロが追いかけた。
ふたりが言い合いをしていた。
私は思わずウォロを止めて隠れてしまった。
「好きなだけ言い合いをさせた方がすっきりして落ち着くかも」
ウォロは心配そうな表情だったけれど、頷いて一緒に見守ってくれた。
ふたりはすごい勢いで言い合いをしていたけれど、だんだんエドワード様の口調が変化してきた。
「……じゃあ、お……、ネモの言うこと聞いて直したらパーティーで俺とダンス踊ってくれるか?」
エドワード様がそう言った時、わかってしまった。
心が苦しい。
エドワード様とネモが練習を始め、ふたりが笑顔になった時、ウォロが「もういいんじゃない」と言って出て行ったのであわてて追いかけた。
実習室に戻り、私とエドワード様が踊った時、驚いた。
こんなに変わるんだ。
エドワード様を成長させることができるのはネモ。
私にはできない。
それからはエドワード様の様子をいつもより気にするようになってしまった。
ネモがウォロと仲良くしているとエドワード様は機嫌が悪くなる。
それが小さい男の子のようでかわいく感じたりもしたが、ふと、私の立場を考えるとどうしたらいいのだろうと思う。
婚約者、恋人にもなれず、候補という立場で仲間や友達にもなれない中途半端な私。
ネモは、婚約者で恋人で友達で仲間というような素敵な関係をウォロと築いている。
ふたりの間のゆるぎない信頼関係。
見ていて羨ましくなる。
でも、私にはまねすらできない。
休みの日の午後、ダンスの練習前に食堂でネモが自分のことを話してくれた。
その時、私は血の気が引いた。
『お茶会で水たまりに突き倒されてぼんやりしているから転んだと言われたこともあったな』
それで思い出した。
それは私の家でのお茶会だ。エドワード様もいた。
そして、お茶会の後、エドワード様に会った時、こう聞かれたのだ。
「泥だらけになった女の子いなかった?
もう一度会いたいんだけど、名前もわからないんだ」
そんなことを聞かれたのはあの1回きりだった。
私は調べておくと言って、結局、調べなかった。
そう、あの子は金髪で濃いきれいな青い目の女の子だった。
エドワード様も何かに気が付いたようで考え込んでいる。
みんなの笑い声に条件反射的に一緒に笑ってしまったけれど、エドワード様は笑わず、私も笑うのをやめてしまった。
私が調べなかったことまではわかるはずがない。
そうわかってはいるが、エドワード様に『あの時、ちゃんと調べてくれたの?』と聞かれたらどうしようと考えるととても不安になった。
4年生がダンスを見てくれると言った時も、不安が大きくていつもより緊張してしまっていた。
そんな私を見てエドワード様は労わってくれたけれど、ネモに私の代わりをお願いした。
なんで! ネモなの?
ネモはずるい……。
ネモは強いのに、さらにみんなから大切にされて……。
花祭り当日。
ネモはハズレ役と言われている付き添いだったのに、多くの人を魅了した。
寮のみんなからダンスに誘われ、ウォロはもちろん、エドワード様とのダンスでもステージに上がりエドワード様がネモの頬にキスまでした。
エドワード様はきっと探していた泥だらけの女の子がネモだと気が付いたんだ。
私が調べると言って、調べないで「わからなかった」と答えたことにも気が付いてしまうんだ……。
ネモを待っている時、アリス様に声をかけられた。
「あなたもエミリアが嫌いになったでしょう?」と。
アリス様はネモが来ると4-1寮への用事を頼んだ。
場所がわからないとネモは困っていた。
そこに通りかかった4年の男子がネモを案内しようと言った。
「そうね。お願いするわ! 1寮まで連れて行ってあげて!」
アリスはそう言ったが、私は知っていた。
この人は4-1寮ではない。
「ウォロに伝えておいて」とネモに頼まれたが、ネモが行ってしまうと「言わないように」とアリスに言われた。
頭がくらくらした。
言わなくてもいいの?
ネモがひどい目に合えばいい?
そんなのダメ。
どうしたらいい?
私ひとりでみんなの所に戻った。
みんな私の様子を心配してくれた。
やっぱり言わなくちゃ!
「ネモがアリス様に4-1寮にあるイヤリングを取ってくるように言われて。
場所がわからないと言ったら近くの4年生男子が案内すると言ってきて。
アリス様は彼に頼んだのだけど、その人4-1じゃない!
どうしよう! ネモを行かせちゃった!」
私の言葉にエドワード様とウォロがホールを飛び出して行った。
私はティエルノ、ライト、オードリーについてきてもらって、アリス様の所に話をしに行った。
「アリス様、さっきの4年の男子、4-1寮の人じゃあないですよね!
アリス様のお使いで4-1寮にイヤリングを取りに行くネモを連れて行ってしまったけれど、ネモはどこに?」
私の必死な問いかけにアリス様は平然とした様子で答えた。
「なんのこと? 私、エミリアに何も頼んでないけど!
あなたがエミリアに何かしたのを私のせいにしようとしているんでしょう!」
アンドレアス第1王子もそばにいたけれど、私はアリス様に叫んだ。
「私はネモが好き。苦しいこともあるけれど、ネモが好きです!
アリス様にネモが嫌いならみんなに黙ってろと言われたけれど、無理! 友達だもの!」
ああ、私、ネモが好きだったんだ。
ごめんね、ネモ。
自分の言葉で気が付いた。
そして私は気を失った。
読んで下さりありがとうございます。
次もネモ視点ではない話になります。
その後に花祭り後のことがあって、また話が続いてます。
長くお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。