274 最後まで
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
夕方、仕事が終わると、珍しくサンとルイがダイさんを迎えに来た。
「ウォロさんから伝言です。
今日は遅くなるから、僕達と先に帰っていて欲しいと。
一緒に帰りましょう」
サンが伝えてくれて、ダイさん達と一緒に帰ることにする。
4人で帰りながら、サンからホウエンの学校のことを聞く。
今、サンとルイが通っているのが初級学校(6~12歳)。
まあ小学校だね。
その上の中級学校(13~15歳)に進むのは全体の半分ぐらい。(地域差があるだろうが、この地域ではということ)
半分は職人に弟子入りしたり、職業学校とかへ進むそう。
中級学校まで出るとその次の進路としては神官学校や医学校が考えられ、就職だと国や街などの役所、商会や大きな店の事務職などに決まることが多いという。
うーん、中学~高校レベルって感じかな?
そして、研究職などを目指す子が行くのが一番上の上級学校。
研究所や大学って感じなのかな? と想像する。
他に初級と中級がくっついている、貴族が多く通う私学的な学校があったりするらしい。
んー、ウォルフライトの魔法学校は中級~上級前半みたいな感じかな?
サンは中級学校に進学予定だという。
そうしたらダイさんみたいハイレディン商会に就職して、貿易関係の事務や他国の支店の仕事などしてみたいそうだ。
ダイさんはニコニコ話を聞いている。
「今日も勉強を聞きに行っていいですか?」
サンに聞かれて「大丈夫だよ」と頷く。
「僕も!」とルイが言って……。
こうなるともれなくレーナとラーナもついてくるんだっけ……。
ダイさんを見ると苦笑いしている。
「レーナとラーナも行きたがると思うが、いいかい?」
「はい、責任もってお預かりします。
絵本持ってくるように言って下さい」
ドアの前でノアが待っていた。
「ノア、お待たせ。ただいま」
「ニア」
ドアを開けるなり隙間に身体をねじ込むように中に入っていくノア。
私は干していったハイレディンが使った布団を取り込んで片付けた。
今日はご飯を炊いて、塩むすびと、おかず何にしよう。
豚肉の薄切り肉があるから生姜焼きとかもいいかも。
生姜と玉ねぎはあったはず。
大葉も前に摘んだのが魔法陣の箱に残っているはずだし。
子ども達の軽食におむすび作ってもいいかも、少し多めに研いで水を吸わせておく。
ドアをノックされ、サンかと思ってドアを開けたらハイレディンでびっくりした。
「びっくりした!!」
「びっくりしたのはこっちだよ!!
話を聞いて慌てて来たんだ。
出航中じゃなくて、本当に良かったよ」
「これから隣の子達が勉強しに来るけど、一緒で大丈夫?」
「ああ、一緒に巻き込まれた子達だろ?
話もしたいし」
今日は護衛の人、ひとりだけ。
昨日お世話になったこの護衛の人は、この地域の警備を任されているマツバさんというそう。
ウォロの上司なのに、初めて名前知った……。
マツバさんとハイレディンに中に入ってもらい、お茶を出す。
その時、ウォロとサンとルイとレーナとラーナが家ににぎやかに入ってきた。
「お客様?」とサンとルイが立ち止まり「えっと、後で?」と言う。
「大丈夫、みんなとも話がしたいんだって。
こちらは警備のマツバさん、で、こちらがハイレディン」
「ハイレディンって、あのハイレディン様?!
この前、ここに泊ったって聞いたけど、本当に?!」
ルイがびっくりしたように叫んだ。
「ハイレディン、まだ10日目じゃないだろ?」
ウォロが怪訝そうに言った。
「昨日の事件のこと、防げなくて申し訳なかった!
巻き込まれた女の子は……」
私はラーナの後ろに立った。
「ラーナです。
ノアを守ってくれたんです」
そう紹介した。
本当はノアはひとりでも大丈夫なはずで、ノアの方がラーナを守っていたわけなんだけど、まあ、ラーナの心意気はそうだったわけで、ね。
ハイレディンはラーナの手を取り、片膝をついて視線を合わせた。
「ラーナ、私の友人ネモの家族であるノアを守ってくれて本当にありがとう。
今回のことを予防できなくて申し訳なかった」
「よぼう?」
ラーナはきょとんとして言った。
「起こらないようにすることだよ」
サンが説明してあげている。
「はい!
悪い人をちゃんとこらしめて下さい!」
ラーナがハイレディンに言うと、ハイレディンは頷いた。
立ち上がりウォロに向かって「少し話があるのだが……」と言って、マツバさんも一緒に3人で外へ出て行った。
「さあ、みんなはお茶を入れてあげるから手を洗っておいで」
私が促すと洗面台へにぎやかに移動して、戻ってきた。
お茶を飲んでいるとウォロだけ戻ってきた。
「ハイレディンは帰ったの?」
「いや、このまま詰所で過ごして自分達が帰る時、一緒に帰るってさ」
「お疲れ様。
大丈夫なら、お茶飲んで勉強見てあげて」
私はウォロのお茶を入れた。
夕食前の時間にダイさんが迎えに来た。
せっかく多めに作ったのでおむすびだけ、お持ち帰りしてもらった。
「へー、米をこんな風にするのは初めて見たよ。
ミーアの料理?」
ダイさんに聞かれるが、これはこの星の料理では……。
「ミーアには味のついている米料理でこうすることがあるけれど、白いご飯で大葉を巻くのはネモのアイデアだ」
ウォロが答えてくれた。
ダイさん達を見送って、生姜焼きを手早く作り、夕食を食べながら話を聞く。
「他にこの地域に潜り込んでいそうな旧大神官派の人物はいなかったそうだ。
捕まったふたりは王都に送られ、ハイルから直接取り調べを受けているそうだよ。
まあ、国に対する不穏な動きを早期に掴めたことは良かったよな。
自分とネモは10日間、きっちり最後までここにいていいって。
ダイさんのところには、ハイレディンから心配をかけたお詫びの品を、なんか菓子って言ってたけど届けたそうだ」
「それは子ども達も喜びそうだね」
「……のんびりふたりきりで過ごせるのも今日、明日くらいかな」
「そう?」
「うん、10日目の夜は最後だからってサーブやスニフが、ここでまた宴会しようって……」
「えーっ?! またー!!」
次の日、王都に戻るカオル先生とさようならをした。
「次はどこの職場に行くの?」
「……まだ、どこに行くかは。
少しハイレディンの屋敷で働くかもしれません」
そう答えた。
「この治療院付けで送ってくれれば届くから、手紙ちょうだいね!」
「はい、カオル先生も医師試験、頑張ってください!」
最後の10日目になった。
仕事は今日まで。
明日の朝、家を片付けて引き渡ししたら、ハイレディンと一緒に王都に戻ることになっている。
テオさんや足を骨折した子の家族や、私が魔法治療した人達が挨拶に来てくれてびっくりした。
でも、うれしい。
昼にはローラ先生とダイさんがお昼を御馳走してくれ、ささやかなお別れ会を開いてくれた。
「面白い10日間だったよ。
ネモ、ありがとう」
ネモちゃんじゃなくなった。
ちょっと寂しいような……。
「こちらこそとても勉強になった10日間でした。
お世話になり、ありがとうございました」
ローラ先生はじっと私を見つめた。
「やっぱり……、姉さんに良く似ている……。
……私の姉だったんだよ、結婚の約束をしてた人もいてね……。
本当に、幸せだったのに……。突然それが断ち切られて……。
伯父と父が治療を望む人から金を取っていて……、それを姉も私も知らなかった……。
10日間という短期間だけでも、姉のようにはならないで欲しいと、ちょっと厳しくし過ぎたかね。
伝えたいことは伝えた。
後は、自分の人生を大切に生きなさい」
そうか、お姉さんだったんだ。
お姉さんを助けたかったという強い気持ちで、ローラ先生は医師になったんだな……。
当時はまだ女性で医師になるのは難しかったんじゃないかな……。
夕方、全部の仕事を終えて私はローラ先生と握手をして別れを惜しんだ。
で、そのまま大葉を摘みに来たというわけ。
あー、宴会、うちじゃなくてウォロがサーブさんの所に行くとかすればいいじゃん!!
家に帰るとアーニャさんとレジオさんがもう帰ってきていた。
「10日間ありがとうございます」
お礼を言われた。
「いえいえ、楽しい休暇を過ごせたようで良かったです」
ウォロが帰ってきた。
「サーブさん達、いつ来るの?」
「来ないって」
「えっ? 宴会なくなったの?」
「レジオさんが開くって。
家を片付けなきゃいけない人の家でやるもんじゃねえだろって言ってくれて。
少し顔出しなって言われたから、料理でも持って行ってみる?」
「そうだね!」
大葉巻きおむすびと鶏のから揚げを作り持って行った。
ウォロには酒はやめておいて、片付けもあるから! と言っておいたので、頑張って飲まないでいてくれた。
スニフさんには「ネモちゃんの尻に敷かれてる」とか言われたけど、レジオさんが「それが夫婦円満。幸せってこと!!」と言ってくれて、みんなで笑った。
ここを去る朝が来た。
昨夜のうちにほとんど片づけはできていて、ちょっと早起きして、最後に寝室と台所を片づけた。
残っていた食材は魔法陣の箱に移し、冷蔵庫のアイスファイアも取り出してウォロに中和してもらった。
ノアもなんだそわそわしている。
10日間、楽しかったんだろうな。
家の管理をしている人とハイレディンとマツバさんと護衛ふたりが来て、家の中のチェックをしてもらう。
引き渡し完了ということでほっとする。
学校へ行く前のサンとルイが挨拶に来てくれてウォロに手紙を渡している。
サンに「文通して下さい!!」と言われてびっくりするウォロ。
私は笑ってしまった。
でも、いいんじゃない!
レーナとラーナが山で咲いている花で作った小さな花束をくれた。
「とても素敵だね。ありがとう」
私はふたりにお礼を言った。
ラーナは私の上着の中抱っこをしているノアにちゅっとキスしてくれた。
馬車の中から、山を名残惜しそうに眺めながら王都へ戻る。
「素敵な面白い新婚旅行だったよ。
ウォロ、ありがとう」
私はそっとウォロに囁いた。
読んで下さりありがとうございます。
夏休みも終わりです。
またウォルフライト王国の学校生活に戻ります!
今日は午後投稿お休みします。
これからもどうぞよろしくお願いします。




