257 反転治癒の代償
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
博士達の研究熱心さというか、我儘というか、付き合っていたら滞在時間が終わってしまい、私は林の方とか全然行けなかった。
村長の息子さん達は狩りをできたみたいで、久しぶりに元の生活らしいことができて喜んでいた。
畑も行ったけれど、やはり荒れていたらしい。
少しずつ、元に戻せたらと話していた。
「ネモ、大丈夫か?」
ウォロが疲れている様子の私を心配する。
「大丈夫、薬も持ってきたし!」
私はカバンから薬のポーチを出して、体力を補う効果の薬を飲んだ。
ふーっ。少し落ち着いた。
しかし、昨日作った薬を、今日、自分で飲むとは……。
「魔獣の魔石、いつ浄化に行っていいですか?」
私は生物学博士に声をかけた。
「明日は今回の観察したものをまとめているから研究室にいるはずだ」
「なら、明日の午後伺っていいですか?」
「わかった。待っている」
これで魔獣魔石の浄化もできれば、この件は一段落なのかな。
ジュニアの生死が気になるところだけど……。
みんなで馬で帰る。
また、さっきの場所を通るけど、今度は泣かなかった。
たぶん、ここを通る度にマッちゃんのことを思い出すだろうけど、楽しいことを思い出せた。
今はどこにいるんだろう。
天国かな?
それとも、私みたいに転生の間にいたりして。
◇ ◇ ◇
次の日、私とウォロは研究所の生物学研究室に行った。
カノンとノアは工房でお留守番。
マイベルとレイモンドは図書館に行った。
オードリーとダイゴ、サーシャとエドワード、ライトとセレナ、ティエルノとダリルとミカは神殿や図書館を観光に行き、その後に仕事で出てたランスと合流して、クラウス先生の部屋に押しかけるそう。
私とウォロも後で合流しないかと言われたけど……。
どうしようか考えていたら「用事があるから、遠慮する」とウォロが言ってしまった。
用事?
また、遺跡でも見に行くのか?
まあ、ウォロとならどこに行っても楽しいから、いいか!
午前中はマリヤム宮に行くことにした。
エメリーのことが気になっていたし。
エメリーとエディは、無事に執事長夫妻の養子になれることが決まったそう!
ミルスマリア伯爵家の方も、本人達の希望ならと言ってくれたそう。
良かったよ。
でも、そのかわり、ミルスマリア伯爵家にウォロと私が挨拶に行くようにと言われた。
わー、親戚回り、緊張するなぁ……。
でも、伯爵家のお祖父ちゃんは前にも会ったことあるし、面白い人だったから、大丈夫か!
ウォロの叔父さん家族には会ったことないのよね……。
昼食をと言うマリヤム様に予約しているからとウォロが言って皇都に連れ出してくれた。
研究所のある北部の方にいいレストランがあるそう!
ふふ、デートみたい!
研究所の近くの見晴らしのいい所にレストランがあり、景色が素敵!
テラス席でのんびり頂いた料理もおいしかった!!
私がニコニコしているので、ウォロもうれしそうだ。
「昨日はお疲れ様。
それから、10日間が過ぎたら、ミーアから自分達だけ、旅行に行くことを計画してるから……。
みんなには内緒な」
「どこに行くの?」
「夏休みはゆっくりふたりきりで……と言いながら、1年の時以外、ずっと行けてないもんな。
行先は任せて」
「……うん」
「なんか不安?」
「ううん、大丈夫。
それにしても、こんな素敵なレストラン、よく知ってたね。
調べたの?」
「マキシムが教えてくれて、予約までしてくれた」
えっ?! なぜにマキシムさんが?
マキシムさんがピースサインをしてウインクしている姿が頭に浮かび、いつもの姿とのギャップにぶんぶん頭を振った。
「ネモ?」
「いや、マキシムさんを思い出して、意外だなあ……と」
「婚約者とよく来るらしいよ」
「へー」
それから研究所に行き、ばったり歴史学の学生に会ってしまった。
「ネモフィラ姫!!
お久しぶりです! お会いできてうれしいです!
この前いらしていなかったので残念に思っていたんです!」
この前って、エドワード達が来た時かな?
ウォロが「今日は生物学教室に用事があってきて、時間が決まっているので!」と言って、私の肩を抱くように歩き出す。
握手される前で良かったよ。
「では、失礼します」と微笑んでおいた。
「ネモフィラ妃だろ!」とウォロがぶつぶつ言っている。
いや、まだ結婚式挙げてないから、結婚したこと気がついてない人多いと思うよ。
生物学研究室に行くと博士がいて迎えてくれた。
博士が研究室にいたふたりの学生に「1時間休憩にしよう」と、研究室の外に出てくるように伝えた。
「一応、魔石が気がついていない身体の不調に反応してしまったりしないように、用心のために」
そう言いながら保管庫から箱を取り出した。
魔法陣の箱だ!
「魔法陣の箱ですね!」
「魔石の効果を遮断するにはこれが一番いい」
私は箱の回りを浄化の光で包んだ。
「一応、箱ごと浄化の光で覆いました」
私の言葉に博士が頷いて箱を開けた。
最初見た時より赤色が薄くなっている気がする。
それでも暗い赤が血を思わせる液体のような光を放っている。
そのまま浄化を始める。
やはりなかなか浄化が進まない。
浄化魔法がどんどん相殺されていく感じで、こちらの力が消耗していく。
ウォロもその様子を見て、一緒にかけてくれる。
やっと浄化の力の方が優勢になって、浄化が進んできた感じがした。
私は力の量を上げた。
目に見えて石の色が薄くなり、外から崩れて小さくなってきた……。
最後に中心の部分の赤黒い光がなかなか消えない。
ウォロも力を上げたのがわかった。
魔石は形がなくなり、赤黒い光だけになり……、そして消えた。
30分ぐらいかかったかな。
でも完全に浄化できた。
魔石だと最後まで浄化できるのに、魔石の影響を受けた人間は完全に治療できないのはなんでだろう?
カモシカは浄化できた。
あれは瘴気に触れて魔獣化し、身体の中に石が作られてなかったから?!
私はミレイユの母のことを思い出した。
そうだ、肝臓だ。
魔獣の魔石の影響は、人間の肝臓の中に新たな魔石を作らせようとしているのか?!
「博士は大丈夫ですか?」
私は心配になって、博士の手を取ろうとした。
博士は微笑んで、私の手を押し返した。
「大丈夫だ。
私の中の魔石の芽のようなものは……、周囲に影響を及ぼすようなものではないようだ」
「!!
魔石の反転治癒をうけてしまったのですか?!
できる限り浄化すれば!!」
「……不思議なことに人間は魔獣化したりしない。
そのかわり、この魔石の芽、私はまるで種の様だと思ったのでこう呼んでいるんだが……。
この芽は人間の命を喰らいつくすことを目的としているようだ。
魔石による反転治癒の効果を受けたものは、この種を植え付けられて、それが芽吹き、命を失う。
浄化薬が進行を遅くすることができるが、完全浄化は難しい」
「自分自身で試されているのですか?」
私は信じられない気持ちで言った。
「ああ、知らぬ間に病を得ていて、反転治癒の効果を受けてしまっていたらしい。
他にも神殿で病気の治療を受けた友人が何人かいて、すでに亡くなっている。
まあ個人差があり、怪我の治療を受けた者は病気の者より少し長く生きることができているようだ。
私は亡くなる直前の友人に話をして……、死後、解剖させてもらうことができ、まあ数例だが……確認した。
この反転治癒の効果はその人間だけ限定して起きる症状で、周囲には影響を与えていない。
そこは幸いというか……」
「浄化薬で進行を食い止められるなら、直接魔法をかけた方が強いです」
私はそう言って博士の手を再度取ろうとした。
博士はまた私の手を押し戻す。
「いいんだ。
魔石を浄化して、新たな犠牲者が増えるのを阻止できただけでもいいと思いなさい。
それに、私だけ、助かろうとは思わない。
全員を救おうとしたら、確実に君や聖魔法使い達が無理をして、命を削ることになるだろう」
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




