255 お互いの気持ち(後)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
馬車の中ではランスが今日出かけた病院の話をしてくれた。
キャサリン先生は頑張っているそう。
そして9月に新しくもうひとり王国から派遣されてくる医師がいるそうで、その人のための下宿先を探していたそう。
クラウス先生とキャサリン先生の部屋のそばにいい物件が見つかったとのこと。
「クラウスの所が空いていればベストだったんだけどな」
エルメス宮に到着し、エルメス様に挨拶した。
大喜びで迎えてくれたよ。
それから明日のハラル山調査にマイベルも行くことになったと伝えると、やっぱり心配される。
「大丈夫!
私もウォロも、それに学校で一緒の王国の友人達もたくさん行きますから!!」
そう説明すると「よろしくお願いします」と言われた。
明日の準備があると私達はカノンの部屋に行った。
「……自分だけ、どこにいればいい?」
ウォロが言うので私はカノンを見た。
「あ、ここで、本でも読んでいて」
やっぱりウォロはNGなんだ……。
ウォロだけカノンの部屋に残し、マイベルの部屋に移動した。
カノンは大きく深呼吸してから言った。
「マイベル、今日はごめんなさい。
レイモンドの馬に乗せてって言ったりして。
自分でも……、ううん、なんでかはわかってる。
私、マイベルがずっと羨ましかったの。
私は病気のマイベルと守らないといけないってずっと思ってて……。
でも、マイベルが元気になって魔法学校に行って、私の知らないところで、ネモやウォロ兄さん、ランス、エドワード、ミカや……、みんなと楽しく過ごしていると思ったら、すごくマイベルのことが妬ましくなった……。
去年の夏にみんながミーアに来てくれて、私と過ごしてくれた楽しい思い出も……。マイベルが王国でみんなと楽しく過ごしていたって話を聞く度に、なんだかもっと楽しいことしてたんだよって言われているみたいに感じて……。
それで、マイベルがレイモンドのことが好きそうだなって気がついたら、その、なんか、ああいう態度を………。
自分のしたことに後から恥ずかしくなったし、自分が嫌いになった……。
ごめんなさい、マイベル」
マイベルがびっくりした顔をしている。
「カノン……、その……、謝らなくてはならないのは、私の方……。
私は、カノンが羨ましかったの。
健康で明るくて、誰にでもかわいがられて。
それに自分の思うことをすぐに話せちゃう、カノンがね。
私の自慢の妹なの。
でも、羨ましいって気持ちの中に妬む気持ちもあって……。
それは我慢しなきゃって、ダメなことだと言い聞かせてた、自分に。
魔法学校に行ってから、楽しくて、毎日が忙しくて……。
私、カノンのことを忘れていることが多くなった。
そして思ったの。
自分が病気で弱っている時、そばにいてくれたカノンを……、私は自分が元気になったとたんに忘れることができる、なんて薄情な姉なんだろうって。
だから、カノンがレイモンドの馬に乗りたいって言った時、私、……。
カノンがレイモンドに断られるのを期待してた……。
ひどいでしょ、私……」
カノンがマイベルに抱きついた。
「なーんだ!
私達、お互いに羨ましがってたんだ!!
そして、お互いに何も言わないで、自分が我慢すればいいって、全部溜め込んでたんだ!!
あー、すっきりした!
マイベル、話してくれてありがとう!
ネモ、ランス、ノア!
一緒に話を聞いてくれてありがとう!」
カノンはすっきりしたみたいだけど、マイベルはまだすっきりしてないみたいだな?!
「私、我儘言ってない?
かわいい妹の不幸せを願ってしまうような、そんな悪役令嬢みたいな……」
マイベルが呟くように言った。
あー、マイベルもなんか小説の登場人物に自分を重ねちゃってるな?!
「マイベルは悪役令嬢なんかじゃない!
私も姉の好きな人を奪おうとする残念な妹じゃない!
うん、私は私。マイベルはマイベル。
そういうことだよね! ネモ!」
私は頷いた。
ランスが笑って言った。
「マイベルが悪役令嬢?
ずいぶんとかわいい悪役令嬢だな。
全然怖くないぞ。
それに、カノンが姉の恋人を奪おうとする残念令嬢?
レイモンドに話しかけてたところを見ていないから何とも言えないが……。
カノンが恋だの略奪だの言うには早すぎるって!!」
「はーい!!」
カノンが返事をして、ぺろりと舌を出す。
そしてマイベルに向き合う。
「レイモンドのこと、好きなんだよね?
私もいいと思う! がんばって!
マイベルすぐ引いちゃうから、弱気になっちゃだめだよ!!」
カノンらしいエールだな。
マイベルが泣きそうな表情で頷く。
「いいのかな?
こんな私がレイモンドのこと好きでも……」
「「こんな私じゃないよ!!」」
私とカノンの言葉が一緒に響いた。
マイベルがびっくりしている。
「マイベルは優しくて頭が良くて素敵な姉です!」とカノン。
「マイベルは上品で皇女としての強さと優しさを持ち合わせてる素敵な女の子だよ」
私が言うと、マイベルは涙を溢れさせた。
ランスが語りだした。
「そうだよ。
悪役令嬢って言うのはな……。
寮の男子を侍らせてだな、贅沢三昧、ドレスも新調しまくり。
ミーア皇子の婚約者がいるのに、王国のふたりの王子との婚約話が持ち上がったり、しかも王子のひとりは姉の婚約者で……とかいうことを平気でするような令嬢のことを言うんだよ!」
「は? それって私が流されてた噂じゃん!!
もうやめてよ!」
私が慌てて否定すると、カノンが目を丸くして叫んだ。
「何、その話、聞きたい!!」
「じゃあ、カノンはウォロのところへ戻ろう」
ランスがカノンとノアを連れて部屋を出て行ってしまう。
「もう変なことカノンに吹き込まないでよ!!」
私はそう叫んで見送ってからマイベルを見た。
マイベルと目が合って、お互い笑ってしまう。
「ネモの噂は、ちょっとだけだけど、私も聞いたわ」
「あー、そうだね。
私はウォルフライト王国ではずっと悪役令嬢って言われてたし、ミーアでも、まあ、そんなに歓迎されてない……。
でも、だからって自分のこと、本当に悪役令嬢だとは思ってないよ」
マイベルが頷いた。
「ええ、私もそう思う」
「まあ、本当の悪役令嬢も自分のことを悪役令嬢だとは思ってないんだろうけどね」
「そうね……、私もそう思う」
「なら、マイベルは悪役令嬢じゃないね!」
「!! そうね。
私は悪役令嬢じゃないし、なりたくない」
マイベルの青い瞳に力強さが戻ってきた。
「レイモンドと話はできたの?」
大きく頷くマイベル。
そして赤くなる。
「レイモンドが魔法学校を卒業して、仕事を始めたら……、正式に婚約を申し込むからって。
それまで待っていて欲しいって……」
「おめでとう、マイベル!」
私はマイベルを抱きしめた。
「ありがとう、ネモ……」
エルメス宮からの帰りの馬車の中でランスが言った。
「俺が仕事で忙しくしている時に、なんだかいろいろ面白そうなことが起きてるのな~。
そうそう、ネモもぶっ倒れたんだろ?
ウォロがまたみんなの前でキスしたんだってな」
ウォロが触れて欲しくなさそうな嫌そうな顔をする。
私は苦笑いしてランスに言った。
「もう謝ってくれて、許したから」
「今回は頭突きしなかったのな?」
読んで下さりありがとうございます。
今日は午後投稿お休みします。
これからもどうぞよろしくお願いします。




