255 お互いの気持ち(前)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
カノンが落ち着いたので、私はお茶を入れた。
ノアはカノンから離れ、いつもの工房の定位置に陣取るとこちらを見ながらも寝そべった。
ふたりでお茶を飲みながら話をする。
「カノン、思っていることマイベルと話してみたら?」
「えーっ? 言えないよ……」
「でもさ、このまま変な感じのままってのも……」
「それは嫌だけど……」
カノンがしょんぼりする。
「あー、なんで私、あんなこと言っちゃったんだろう……。
レイモンドも困ってたよね。
あれはマイベルのこと好きだよね?!
私、姉の恋人にちょっかい出す頭の悪い妹みたいだったよね?!」
「……カノン、そういう本読んでるの?」
「うん、マイベルの読んでた本がたくさんあるから……」
私は笑ってしまった。
「もう、ネモ! 笑わないで!!」
「ごめんごめん。
マイベルもカノンも読書経験がたくさんあって、いろいろな登場人物を知っているから考え過ぎちゃうのかもね」
「ネモは違うの?」
「うーん、そうだな。
こういう風に感じる人もいるんだなぐらいかな。
私とウォロ、ちょっと変わってるし……」
「確かに……」
「ちょっと! 確かに! って言ったねー!」
「わー、ごめんなさい!」
カノンが笑って言った。
「マイベルもマイベルで自分のことを何かの登場人物に重ねて考えているかもしれないよ?
話してみたら?」
「でも……、嫌われないかな?
本当はずっと羨ましいと思ってて、マイベルの好きな人に変なこと言っちゃったりして……」
「……うーん、私にも姉がいるけどね。
私、姉に嫌われてたの。
だから、私も姉が大嫌いでさ。
でも、学校で一緒で……。
まあ、いろいろあって、ケンカしたり、姉にやり返したりしたこともあったな。
言いたいことも言ったし。
アリスは……、姉の名前ね。
アリスは自分自身で過去を振り返ってくれて、謝ってくれた。
それで仲直りできたよ。
まあ、ひとつのケースだけどね。
でも、お互いに言いたいことを言い合った方がすっきりするかもよ」
「私は言えるかもだけど……、マイベルは言ってくれないかも……。
だって、いつも自分の気持ち言ってくれないし」
「マイベルも学校でいろいろ体験して変わってきているよ。
それにさっき自分で行くって言えたよ。
以前の外に出られなかった時のマイベルとは違う。
カノンの気持ちを伝えても大丈夫だと思うな」
カノンは考え込んでいる。
「……マイベルに言えなかったら、他の人に言ってみる?
私でもいいし、ランスでもいいし」
「……なんでランス?」
カノンが不思議そうに言う。
「ランス、学校でそういう仕事しているの。
困ってるけど誰にも言えないこととか、友達や先生には言いにくいこととか……、相談に乗ってくれる仕事ね。
私も相談したことあるよ。
マイベルもしているんじゃないかな?」
カノンが目を見開いた。
「マイベルとランスが?!」
あれ、これちょっとまずかったかな?
でも、もうランスのことはカノン気にしてなかったしな?
「そうなんだ……。
じゃあ、ネモとランスに一緒にいてもらいたい。
マイベルと話をする時……」
「わかった。
今日、ウォロとエルメス宮に挨拶に行こうって言ってたの。
その時、一緒にランスも誘うよ」
「ウォロ兄さんは!!
その……、ウォロ兄さんには話を聞かれたくない……」
「その時に席を外してもらう。
それでいい?」
カノンは頷いた。
「ニア」とノアが鳴いた。
「ノアも一緒に」
カノンが呟いた。
その後、カノンと私はダンテの所に行き、明日、カノンはダンテの馬に乗せてもらうことにしたと話す。
ダンテが笑って頷き、カノンの頭を撫でた。
カノンの目の回りが赤くなっていることに気がついているけど、言わないでくれている。
私とカノンはランスの部屋に行ってみることにした。
レイモンドと同室だけどね……。
ノアが一緒についてきている。
レイモンドは部屋に戻っていて明日の準備をしているところだった。
レイモンドはカノンを見て申し訳なさそうな顔をした。
「レイモンド……、さっきは変な態度で困らせてごめんなさい。
ダンテ兄様の馬に乗せてもらうことにしました」
カノンが謝った。
「いや、こちらこそ……、すまなかった……。
その……、私はマイベルを乗せていくことに……」
レイモンドがその先を口ごもる。
「うん、わかった。
マイベルのこと、よろしくお願いします」
カノンはレイモンドに向かって頭を下げると歩き出す。
私は「ランスが戻ってきたら私とカノンが探してたって伝えて!!」と急いで言うと、カノンを追いかけた。
私がカノンに追いつくと「よかった」と一言呟いたのが聞こえた。
私達はサーシャの部屋に行ってみた。
マイベルもいて、セレナにシャツやワイドパンツなど借りて着てみているところだった。
「カノン……」
申し訳なさそうな表情のマイベル。
「サイズも良さそうだね! セレナ、ありがとう!」
私は明るく言った。
「カノン……、私……」
マイベルが言いかけるが黙ってしまう。
カノンが言った。
「ダンテに馬に乗せてって頼んできた。
それから、ランスが戻ってきたら、ウォロ兄さんとネモが一緒にエルメス宮に挨拶に来てくれるって!
後でね!」
そして、マイベルの返事を待たずに部屋を出た。
「なんだか、居場所がない……」
私は私とウォロの部屋にカノンを連れて行った。
ノックするとウォロがドアを開けてくれ、ノアが真っ先にするりと入り込み、ベッドの上に跳び乗ったのが見えた。
ウォロも明日の準備をしていたみたいだ。
「カノン、もう落ち着いたのか?」
ウォロが言うと、カノンが頷いた。
「後でマイベルとカノンがエルメス宮に帰る時、ランスと一緒に送って行こう」
私がそう言うと「なんでランス?」と返される。
「えーと、カノンがマイベルと話をしたいんだって……。
その時、私とランスに一緒にいてもらいたいってことで……」
「自分は?」
「……ウォロ兄さんは恥ずかしいから、嫌だ」
カノンの言葉に、ウォロはショックを受けたよう。
「えっ?! ランスが良くて、自分はダメ?」
私はウォロに言った。
「ウォロには自分の不安定な気持ちとかそういう面を見せたくないんだってさ。
本当にウォロが大好きなんだよ、カノンは」
まもなく皇宮に戻ってきたランスが私達の部屋を訪ねてきてくれて、カノンの希望を伝えると頷いてくれた。
私はひとりでサーシャ達の部屋に行き「ランスもカノンも私達の部屋にいるから、帰る仕度ができたら声をかけてね!」とマイベルに伝えた。
「カノンは大丈夫?」
セレナが心配そうに言った。
「泣いたんだよね、目の回りが赤かったから……」
「うん、泣いたけど……、大丈夫、落ち着いたし、自分が何をしたかもわかって、後悔って言うか……、してたから。
じゃあ、マイベル、帰りに!」
マイベルが慌てて立ち上がり言った。
「もう帰るわ!
セレナ、お洋服お借りします。
ありがとうございます」
服を入れた大きめの袋と自分のバッグを持ちこちらに駆け寄ってきた。
私はマイベルと並んで歩きながら言った。
「カノンがマイベルと話がしたいって。
それで、ランスと私と、ノアにその時一緒にいてもらいたいって言うの。
マイベルもそれで大丈夫?」
マイベルは緊張した表情で頷いた。
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




