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3 赤ちゃんから

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなり挑戦しています。

今回は転生物に挑戦しています。

どうぞよろしくお願いします。



 気が付くと私はどこかの部屋の天井を見上げて寝転がっていた。

 ん? 身体が動かしにくい。


 手を頑張って持ち上げると、あれ、ムチムチ小さい。

 あ、赤ちゃん?

 ここからなんだ!


 その時、ドアが開く音がしたと思ったら、きれいな女の人が近づいてきて私の顔を覗き込む。

 なんだかここんとこ、顔を覗き込まれてばかりだな……。


 黒く長い髪にとても鮮やかな濃い青の瞳。

 彼女は私をやさしく抱きあげる。


「かわいい私の娘、エミリア。贈名『ネモフィラ』を持つ神の愛し子。

 あなたの髪の色は父親から金色を。

 あなたの瞳の色は母親から青色を。

 あなたが幸せになれますように……」


 とても優しい声で歌うように言うと、私の頭に唇を寄せすりすりしてくれる。


 私は前世の家族を思い出した。

 学生のまま、親孝行もできないまま死んでしまってごめんなさい。

 だから、今生では家族を大切にして生きようと誓った。


『お母さん!!』

 

 私はお母様ににっこり笑いかけた。




   ◇ ◇ ◇




 私はお母様と執事ハロルド、メイドのジュンにかわいがられ、すくすく大きくなった。

 そして時々家を訪ねてくるお父様にもかわいがられた。

 

 3歳ぐらいになると、だんだん、この世界のことと自分の状況がわかってきた。


 この国の名前はウォルフライト王国。

 前世の感覚だと中世から近代の西洋風な感じで魔法ありの世界。


 私の父はローベルト・アリステラ辺境伯爵。貴族だ。

 私がいる所は辺境伯爵領の一番大きな街ダナン。


 父には正妻アリシア・アリステラ辺境伯爵夫人がいて、私より3歳年上のアリス・ユーチャリス・アリステラ辺境伯爵令嬢がいる。


 私の母はエレオノーラ・ダルトン男爵令嬢。

 父の愛人ということになる。この世界だとよくあることらしいけれど……。

 私は父親の娘と認知されていて、エミリア・ネモフィラ・アリステラ辺境伯爵令嬢ということらしい。


 母は男爵令嬢であるが、家が没落し、職業女優として舞台に立っていた。

 美しさと演技力で有名な女優となったが、父と恋に落ち、私を身籠り、舞台を降りた。


 辺境伯爵領には大きなお屋敷や砦のような城もあるが、母は正妻が入る場所を使うことは遠慮し、街のはずれに小さな家を用意してもらうとそこで私を産んで育てた。


 豊かな自然の中、物知りで腕っぷしも強いハロルドに勉強や魔法、馬の乗り方、剣の扱い方など、私はたくさんのことを教えてもらった。

 ジュンからは料理や縫物、洗濯、掃除、植木の手入れや野菜の栽培など家事のことを教えてもらった。


 つまり、辺境伯爵令嬢というよりはかなり自由に、自分の身の回りのことをできるように育てられていたと言える。


 貴族令嬢としてのマナーや教養は母が教えてくれた。

 特に母の詩の暗唱はとても素晴らしく、私も一生懸命に練習した。


 そんな風に楽しくのびのびと愛されて育った私の生活が変わったのは8歳の時。


 母と街の中心部に出かけた時、乗っていた馬車の車軸が壊れ横転する事故に合ってしまった。

 横転する馬車の中で私を抱えて守った母が大怪我をしてしまい……。

 そして1か月後、治療の甲斐もなく、亡くなった……。


 私と父は悲しみに暮れた。

 特に私は、母が自分を守ろうとしたから、私がいなければ母は自分自身を守れたのではないかという思いがどうしても……。

 父、そしてハロルドもジュンも、みんな、そんな私を心配してくれた。


 それでも父は王都の屋敷に帰らねばならない。

 父は環境が変わればと考えたようで、私を一緒に連れて王都に戻ることにした。


 私は王都のアリステラ辺境伯爵家の屋敷に引き取られたが、そこで待ち構えていたのは父の正妻アリシア夫人と異母姉アリスだった。


 アリスはユーチャリス、私はネモフィラと、神の愛し子の贈名を持っていたが、私が贈名を持っていることが気に食わないふたりからいじめられた。


 贈名自体がとても珍しい。

 約70年前にひとり(これは現王のお母様)、25年前にひとり(魔法使いだそうだ)、その次はアリスだった。

 それなのに3年後生まれた私も持っていたのだから、姉妹で持つことも、こんな短い周期で出現することも、同じ家から出ることも、珍しいことだらけだったらしい。


 贈名がどのようにわかるかというと、生まれて1か月の時に名前を教会に登録に行く。

 その時、親がつけてくれた名前と姓を登録するわけだが、なぜかふたつ目の名前(花にちなんだ名前)が出現することが本当にごく稀にあるそう。

 私を例外とすると25~50年ごとにひとりくらいかな?


 アリシア夫人は茶色の髪に緑の瞳。

 アリスは緑の瞳で、そして変わった髪色をしていた。

 地球だとピンクブロンドとでもいうのかな? 

 ピンクがかった金髪で、ピンクの色味が強めに出ている。

 ヒロインだからなのか?


 ふたりはお客様の前では私に優しくするが、陰では私のことを悪い子で反抗してくる子どもだと吹聴していた。

 物が壊れていると私のせいにされ、謝らない強情な子だと言われた。

 壊れかけている食器でお客様への給仕をさせられ、結局、私が食器を確認していない、乱暴に扱ったからだとねちねちお客様の前でいびられたり、アリスが急に泣き出して、私に意地悪されたと言い出したり……。

 そのことをずっとおしゃべりのネタにされたりした。


 私の愛する母が王都の社交界では父を誘惑した没落悪役令嬢として語られていたり、その娘である私も成長したら立派な悪役令嬢になるだろうと噂されていたらしい。

 

 アリスのおまけとしてお茶会に参加させられると、大人からも子どもからもじろじろ見られ、母のことを私の前で言われ、私の悪口で盛り上がる。


 それを私の前でみんなで言うのってどうなの?

 きっとこの怒りが運命的に悪役令嬢へのスイッチでもあるのだろう。


 前世が中高女子校で大学でも地味なほうだったし。

 恋人いない歴=年齢だったし。

 小学生の時に憧れてた男の子とか、テレビで観てかっこいいなと思う俳優さんとかはいたけど、どちらかというと男っぽくてガサツな性格(女子校の反動か?)と言われ、恋愛とは無縁でのほほんと楽しく趣味に生きていた私。

 今世で急に美人になったとしても、そんな男を誘惑する悪女とかおとなしい令嬢をいじめる悪役令嬢とかになれるわけがない。


 それより、アリス。あなた元神様だよね。神様としての記憶も持っているんだよね? 

 ヒロインがこれって……、普通なら可哀そうな異母妹に優しくするのがヒロインでないかい?

 私が前世の記憶持ちで、しかも高野恵実だとわかると面倒だと思い、何も言わないようにしていたが……。


 あれ、私、家族を大切にすると誓ったんじゃなかったっけ?

 この状況じゃ、そんなのムリだよ~!


 そんな生活が半年ほど続き、私は9歳、アリスが12歳になって2月を迎えた。


 アリスに王都にある魔法学校の入学テストの招待状が届いた。

 そのテストで全属性魔法と聖魔法が使えることがはっきりすると、すぐにアンドレアス第1王子との婚約が決まった。


 ヒロイン枠の効果か、アンドレス第1王子も同じ12歳だったのだ。


 王家との婚約が決まると得意になった義母と異母姉からの風当たりもますます強くなり、私の悪口を吹き込まれ本気にした王家から、異母妹を家から出してはどうかと忠告が届いたほどだ。


 アリスは4月から魔法学校の寮生活で家にいなくなるのだが、私もこの家に居続けるのはかなりつらくなってきていた。


 父だけは私のことを信じてかわいがってくれていたので、相談すると、私を守るために一芝居打ってくれることになった。


 名目は王子の婚約者のアリスを守るためとして、辺境伯爵領の小さな家に私を戻すことにしてくれたのだ。


 父からはアリシア夫人とアリスに疑念を抱かせないために辛い言葉を掛けるとは聞いていたが、初めて父から怒鳴られ、私は泣いてしまった。

 

 その姿を見てふたりはとても喜んだ。

 父と私の芝居は成功したようだ。


 次の日には辺境伯爵領の小さな家に追い出されるように向かい、父が手配してくれていたので、執事のハロルドとメイドのジュンが迎えに来てくれて、半年以上経っていたが、ようやく懐かしい我が家に戻ることができた。

 

 母はもういないけれど、母のお墓参りにいつでも好きな時に行ける。

 母の悪口を言う人もいない。


 そして王都の約半年間でかなり傷ついた私の心も身体も、懐かしい小さな家での楽しい思い出の中で癒され、まもなく元の明るく好奇心旺盛な私に戻ることができた。


 母への思いも、様々な経験をしたこの1年間を経て、助けてくれた感謝へと変わっていった。

 母ならこんな時どうするか? そう考えることが増え、それは私の気持ちをとても強くしてくれた、と思う。

読んで下さりありがとうございます。

次も頑張ります!

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