22 ミクラとジュン(中)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
読んでいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
月曜日の朝、ウォロもティエルノも早めにリビングに出てきたので驚いた。
4人で食堂に行くため歩きながらティエルノに言われた。
「今回は見逃したけど、次はないと思え。ルール厳守!」
言い返す言葉もございません……。
「はい」と私。
「気をつけます……」とウォロ。
「噂だと政略婚約と聞いていたけど……。
やっぱり本当は違うんだな」
「政略? 全然違うけど、やっぱりそんな噂になってるんだ。
どんな噂なの? 知りたい」
ティエルノがちょっと考えてから言った。
「ぼかして言ってもしようがないからそのまま言うな。
この国の厄介者である悪役令嬢を辺境伯と王家の力で国と国の親交として早めに隣国に押し付けた」
「へー、そんな話になってたんだ。
アリスと第1王子に入学テストの直後に婚約について聞かれたから説明したら『嘘つき』と言われたから、確かに全然違うや!」
「自分から婚約申し込んだんだけどな。
それに婚約を急いだ理由も全く違うし」
ウォロが笑いながら言うとティエルノがびっくりして聞いてきた。
「どんな理由だ?」
「入学テストだよ。
入学テストでネモに魔力が多いことがわかると国内の貴族と政略婚約させられる可能性があるからとネモの兄さんが心配してさ。
それを聞いて、それならすぐ婚約しようとなったわけ。
そして、ネモをひとりでひどい噂のある学校にはやれないから、自分も入学したんだよ」
「……すげーな、お前」
ティエルノが感心している。
「確かに、あのネモの魔法の力を見たら、入学テストで何かしら国からの干渉を受けるという話もわかる……。
じゃあ、魔法の力目当てって言うわけでもなく……。
悪い、今までのふたりを見てたらわかるな。そういうことじゃないって」
「そうです! おふたりは愛し合って婚約したんですよ!」
オードリーが口を挟んできた。
ちょっと恥ずかしいから、もうやめて!
「ネモが赤くなってる!」
ティエルノが驚いたように言った。
「ほら食堂に着いたから、もうその話やめて……」
「ネモの弱み発見だな」
ティエルノがにやりと笑った。
◇ ◇ ◇
週の半ばに聖魔法の初めての授業があった。
放課後、指定の教室に行くと聖魔法持ちの生徒が集まっていた。
新入生の私達を入れて5人だから、やっぱり少ないんだな。
最上級である5年生、マリア・ウォーターライト公爵令嬢(公爵だけどティエルノとは違う家)。
4年生にアリス。
3年生が不在。
2年生にレイモンド・カルタロフ伯爵令息。
1年生が私とウォロだ。
先生は魔法の実習でも一緒のギーマ先生と聖魔法使い&研究者のカトレア先生のふたりが担当だ。
カトレア先生のフルネームはシエナ・カトレア・エッシャー男爵令嬢。
『カトレア』の贈名持ちなのだが、ちょうど同年代の王族男子がいなかったこともあり、高位貴族からの婚約や結婚申し込みもあったが、本人の希望でそのまま魔法学校に残り聖魔法の研究をしているのだそう。その時は王命はなかったんだな。でも、国内に残る様に何かしらあったのかも。
シエナではなくカトレアと呼んで欲しいと言われた。
自己紹介の中で私も贈名のネモフィラからネモと呼んで下さいとお願いした。
その後、学校に慣れたかなど話を聞かれたりする中で、私に対してマリアが中立な感じ、レイモンドが敵意を見せてきて、アリスはなんだか私の機嫌を取ろうとしているような変な感じだった。
私もウォロも初めての聖魔法の授業を楽しみにしていて、アリスのことは全然気にしていなかったのだけれど。
アリスだけが、私の『学校は楽しい』『寮のみんなもいい仲間になれそう』という言葉に変に反応して涙ぐんだり微笑んだりしていて面白かった。
「アリス様はこんな妹でも心配していて、本当にお優しいんですね!」とレイモンドがぼそっと言ったの時、ギーマ先生、カトレア先生とマリアの動きが一瞬止まったような気がした。
「まあ、レイモンド、エミリアは私のかわいい妹なのよ!」
アリスがレイモンドを軽く咎めるように、でも満足そうに言った。
「アリス、ありがとう。
でも、いいの。
何故か王都では私のひどい噂が流れてるようで、それを姉様であるアリスが否定してくれてるのはうれしいです。
でも、それでアリスが周囲から責められたら困るし、私のことはやさしく見守って頂けたらうれしいです」
にっこり微笑みながら言うと、アリスは一瞬真顔になったが、微笑み返してくる。
カトレア先生が聖魔法についての教科書を私とウォロに渡してくれる。
聖魔法は光と闇の2種属性と考えるそうだ。
光の方が有名だが、光を打ち消し中和作用のある闇も同じ聖魔法と考えられ、聖魔法持ちならばどちらも使えるはずなのだそう。
光魔法は現在、治癒、浄化などに特化しているが工夫次第ではまだまだ発展性があると思うというのがカトレア先生の研究課題なのだそう。
闇魔法は眠りや暗闇などの異常状態を引き起こすことができ、また魔道具とも相性がいいそうで、探索や記録、護身具などに使えるという。
説明を聞いた感じだと……、前の世界だとGPSとかカメラとかかな?
だから調査とかスパイ活動、国家間の情報戦など影の活動によく使われるし、世間的にダークな印象がついてしまっているみたい。
「もっと工夫して使うことができたら子どもを事故や犯罪から守ることに使えそうですよね」
私が言うとカトレア先生が頷く。
「そうなのよ。この学校の警備などにも実は闇魔法の魔道具が多く使われているわ。
例えば、寮の窓があるでしょう。あれ、防災の観点から内側からは出られるけれど、外からは侵入できないようになってるの。
侵入されそうになるとすぐに知らせが学校に来るわ!」
そ、そんな機能があったとは!
この前、窓から自分の部屋に入るとか……、しなくて良かった……。
内心、焦ったけれど「それは……すごい機能ですね!」となんとか返事した。
次の授業からは上級生と一緒に実技を交えながらの講義になるので、しっかり本を読んでくるようにギーマ先生に言われた。
2週間に1回なので月に2回のペースだな。
うん、まず教科書をよく読もう。
教室をウォロと出ようとするとアリスが話しかけてきた。
「エミリア、お願いがあるの」
嫌だとは言えないので、とりあえず立ち止まり話を聞く。
「5月初旬の花祭り、私の付き添いをお願いしたいの」
「花祭り?」
「毎年学校で開催される春のお祭りなのよ。
今年は花の女神役を私がやるの。
付き添いの女性を6人選ばないといけなくて、エミリアにもお願いしたいの」
「アリス、花祭りが初めての1年生をわざわざ選ばなくてもいいのでは?」
マリア様が意見してくれた。
確かに何をやるのかわからないのに引き受けるのは……。
「アリス、私、初めてのお祭りでわからないので、今は返事できない。
マリア様、花祭りのこと詳しく教えて下さいますか?」
アリスに聞くより最上級生のマリア様に聞いた方がよくわかりそう。
マリア様はちょっと驚いたようだが、楽しそうな表情になると「では、食堂でおしゃべりしましょう。皆様ごきげんよう」とアリスとレイモンドに口を挟ませずに私とウォロを教室から連れ出してくれた。
花祭りは新入生歓迎も兼ねている祭りでもあり、女子生徒は好きな花をイメージした服やドレスを着ることを許され、春を祝いながら、生徒同士の親睦を深める狙いがあるそう。
同じ学年に婚約者や恋人がいる者ばかりではないから、その日は他学年の婚約者、恋人同士で過ごしたりできる貴重な日なのだそうだ。
もちろん決まった相手がいない者にとっては出会いのチャンスでもある。
そしてアリスが言う付き添いの6人はその年の花の女神に選ばれた女性の周囲にいる役目で、女神を引き立てるために白いドレスと緑の葉の冠と着られる服が決まってしまっているのだそう。
まあ、好きな服を着ておしゃれできる日なのに白しか着られない、花飾りもつけられないので、どちらかと言えば不人気のハズレ役ということだ。
「ずっとアリスのそばにいなくてはいけない役目なのでしょうか?」
「いいえ、入場前のパレードからだからダンスが始まるまでの……1時間くらいかしら。
でも、服は着替えられないわよ。
ダンスが終り、最後の退場の時にまた女神のそばに戻らないといけないから。
だから歓迎される立場の1年生にはお願いしないのよね……。
私も、去年、女神をしたけれど、仲の良い同学年の友人に頼み込んでお願いしたくらいよ」
「断っても平気そうじゃないか?」
一緒に話を聞いていたウォロも言った。
「やるわ! 付き添い」
私の言葉にウォロはびっくりし、マリア様は微笑んだ。
「あなた、強いわね。気に入ったわ、ネモと呼んでいいかしら?
私のこともマリアと呼んで!」
「ありがとうございます。
断ったらまた噂のネタにされるよ。
きっちり努めてやろうじゃないの付き添いとやらを!
マリア、教えてくれてありがとうございます。
あともう1点、教えて下さい。
白いドレスは自分で用意するんですよね? 葉の飾りとやらも?」
「そう、自分で用意した方がいいわね。
アリスは……用意すると言うかもだけど、私から聞いてもう手配したということにした方がいいかも」
マリアがウインクした。
◇ ◇ ◇
休みの日になり、私とウォロはミクラとジュンに付き添いを頼み、迎えに来てくれたお父様と一緒に馬車に乗った。
オードリーはセレナに誘われ、ティエルノとライトと一緒に図書館に行くことになった。
私達もティエルノに誘われたのだが、私の父が迎えに来て用事があると伝えていた。
エドワードも王家の方の用事で外出することになったそう。
馬車の中でお父様に花祭りのドレスのことで知っていることがあるか聞いてみる。
アリスはもう1年前から自分のドレスをデザインしていて作成中、それに合わせてアクセサリーも作ってあるとのこと。
気合入ってるな。
そこで付き添いを頼まれたことを話して、白いドレスと葉の冠とやらを用意しなければならないことを相談した。
「何でアリスはエミリアに付き添いを?」
不思議そうな顔をするお父様。
「付き添いは白いドレスしか着られないので人気のないハズレ役なんだそうです。
しかも、普通は歓迎される立場である1年にはお願いしないそうです」
ウォロが代わりに答えてくれた。
「……嫌がらせか?
それをわかっていて引き受けたのか?」
「はい、あの後、1年の担任を通してまで再度お願いされましたから、受けました。
きっちり努めて、それに対してはなんの文句も言わせないようにするつもり。
私のことをわかってくれる人も増えてきてるし、断っていろいろ言われるよりはやってみるよ!
それで、白いドレスをアリスがいろいろ言い出す前にお父様に用意していただきたいんだ。
お願いします」
「わかった。今日見に行ってみよう」
「ありがとう!」
馬車が王都に入ってすぐの住宅街に入り、1軒の家の庭に乗り入れた。
「ダナンの家に似てる!」と私はジュンに言った。
「本当ですね! でもここは?」
不思議そうなジュンと一緒に馬車を降りる時、お父様が鍵を渡してくれたので、先に家の中を見に行くことにした。
家の中はきれいで使いやすそう。設備も最新式ではないけれど、そこまで古くもなく、本当にダナンの小さな家とよく似ている。
お父様とミクラ、ウォロの話が終わったようで、3人が家の中に入ってくる。
リビングでミクラがジュンの手を取って言った。
「ジュン、結婚して下さい。
そして、この家で俺と暮らしてほしい」
びっくりするジュン。
「でも、私はメイドの仕事が……」
私とウォロがそれぞれ説明する。
「ジュン、学校では私ひとりでやって行けると思うんだ。
だけど、きっとジュンに頼みたいこともあると思う。
だからね、ここの家に住んで、私がお願いした時だけ学校に来てくれるとうれしい。
どうかな?」
「自分もミクラに頼むのは外出する時ぐらいだ。
朝もだいぶひとりで仕度できるようになってきてるし。
ミクラにミーア帝国やネモのお父さんの仕事を頼みたい。
そして自分やネモが外出する時は従者をして欲しいと思うんだ。
この家はミクラとジュンの家だよ。
どうだろう?」
ジュンはミクラに向き合うと抱きついた。
きゃー! ドキドキする!
ちょっと寂しい気もするけど、すっごくうれしいよ!
読んで下さりありがとうございます。
アリスがちょっかい出してきましたよ~!
次も頑張ります!