165 野営実習での出会い(後)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
時間になりエドワードとオードリーを起こす。
黒猫は頭を上げ、キョロキョロしている。
「この子どうしたの?」
オードリーが気がついて言った。
「光魔法でかまどの方を警戒してたら、出会って、どうやら聖魔法持っているみたいで……。
このままついてきたら、保護しようかと……」
私の言葉にエドワードが黒猫を撫でようとしてひょいと避けられた。
「なんだよ。人に慣れてないのか?」
「猫はあんまり人に慣れないよ。
こっちから行くと逃げるし、じっとしていると寄ってくるし……、という感じかな?」
私は言った。
「光魔法、このまま飛ばしておくね」
「それはちゃんと休めるのか?」
エドワードが心配してくれる。
「うん、大丈夫。
何かあったら光が知らせてくれる……はず?!」
「はず?」
「そーいえば、寝ちゃったことないからわかんないや。ごめん!」
「なんだよそれ?」
「今のところは変な気配はないから大丈夫と思うけど。
何かあったら遠慮なく起こしてね」
そしてウォロと横になると、黒猫が近寄ってきて私達の回りを1周し、見張るように足元にごろんと横になった。
私は思わず小さく笑った。
「どうした?」
ウォロが聞いた。
「なんだろう、心配してるのか、獲物として狙ってるのか。面白いね、なんか」
ウォロはちらっと黒猫を見て「まあ、見定めてんだろな」と言った。
その後起こされることなく、朝まで寝ることができた。
起きてから光魔法を確認したけど、まだ浮いてた。
一応、頼んだことはやり続けてくれるみたいだけど、ずっとは無理だろうな。
放っておくといつの間にか消えちゃうと思うけど……。
ありがとう、と心の中で声をかけると慌てたように集まって来て私の中に戻った。
黒猫は座って私の動きを目で追っている。
私が朝の仕度をしようと少し離れた所に行き、水魔法で水を出したのを見て急いでこちらに来た。
地面にこぼれた水の匂いを嗅いでいるので、手のひらに水を出し差し出すとそれを舐めるようにして飲んだ。
ウォロとエドワードとティエルノが来ると、黒猫は慌ててさっき座っていたところに戻った。
頼まれて顔を洗う水を出す。
セレナとライトとオードリーは向こうで仕度していた。
シチューの残りを温め、パンと目玉焼きと野草を炒めた物。
ハムを焼いてチーズと一緒にパンに挟んでサンドイッチも作り果物と一緒に包む、それは昼のお弁当にする。
朝食を食べ始めると黒猫が近づいてきたので、シチューは味あるけど、牛乳だし大丈夫かなと思い、パンをちぎって浸したものを差し出してみると食べた。
それを見てライトが少し牛乳を私のコップに入れてくれたので、それにパンを浸して食べさせた。
私も食べてしまい、各自食器を洗いしまう。
鍋やフライパンも洗いライトがしまった。
残った食材は確認しながらみんなで分けて運ぶ。
氷が必要なものはライトと私で足す。
土魔法で作った階段とかまどを元に戻し、炭化した焚き木や灰も水をかけて土に埋めて安全に処理した。
「なんか天気が悪くなりそうだね」
黒い雲が空に広がってきている。
森の中を北へ進んでいく。
道がないので方向を見失わないように、時々、ティエルノが確認しつつ、ゆっくり進む。
小雨が降ってきた。
森の中なので、木の下にいればまあまあしのげるが、移動もしないとだし、だんだん服がしっとりしてきた。
「もうそろそろ西へ出ようか」
ティエルノの指示で今度は西へ進もうとするが、やはり道がないため苦労する。
セレナ、オードリー、ライトが疲れてきている。
早めに休憩にする。
黒猫も身体についた雫を時々振り払いながら、私達の後をついてきている。
「ネモ、光魔法でこの辺の探索できるか?」
ウォロと話していたティエルノに言われる。
「うん、何を確認すればいい?」
「今いる場所と方向、森を抜けるのにあとどれくらいか?
他の寮が近くにいるか? ぐらいかな」
「了解!」
私は光を少しだけ放出して、そのうちのひとつに空に上って行ってもらう。
高いところから見下ろす。
「もう十分北に来ている。このまま西に進んで特に障害物はなさそうだけど……」
光の視界をずらして昨夜、野営した場所を確認する。
それを基準に森の厚みを考えると………。
「昨日野営した場所より、東側に、森の側に入ってきている。
だから、西に出るのに昨日より時間はかかるね。
見た感じ1.5倍くらいの森の厚さかな」
「それは上から見て?」とエドワード。
「うん、森の木があるから上から見てる。
このまま西の方に少し進むと道がある。
周囲に人の気配はない」
その道は北へ伸びていて、時々木々に隠れている。
「西の方の道、北に延びていて……。
とりあえずそこに行ったらまた探索していい?」
「道の所まで案内できるか?」
ティエルノに聞かれて、頷く。
「うん、こっち」
空が明るくなり雨が止んだ。
私とウォロが先頭に立ち歩き始めた。
道に出たところでまた休憩する。
私は上空の光で見ていた道に出たことを確認し、違う光に道なりに北西へ進んでもらう。
それを上空からの光の視界と重ね合わせて考える。
曲がりくねって北西の方へ向かっているから、最短距離ではないが、北の平原には出られる。
他の寮もいない。
それを報告すると、ティエルノがエドワードと顔を見合わせ「迷う方が怖いか」「そうだな」と会話してから、「なら道なりに進もう!」と指示した。
そこからは焚き木を集めながら進む。
次に休憩した時、まだ森の中だが昼食にすることにした。
サンドイッチと水。
ウォロが「今夜食べようと思ってたけど、今食べてもいいよな」と魔法陣の箱を取り出し開けた。
新鮮なものを洗ったばかりという感じのみずみずしいイチゴが現れた。
みんなで食べる。
「おいしい!」「洗ったばかりみたい! ちょっとひんやりしてる」
「その箱の中に丸2日入ってたんだよな?! すごいな鮮度が落ちてない!」
みんな元気が出た様子。
ライトがまた牛乳を少しくれて、私はサンドイッチのパンを半分ぐらいちぎって浸して黒猫にあげた。
ウォロも少しパンをちぎってくれた。ありがとう。
食べ終えると道を進み、森を抜けたが、もう少し平原の中まで進んで設営しないといけない。
まだここだとかなり東寄りだから。
良さそうなところまでくると、もう日はだいぶ傾いていた。
私達は急いでかまどや焚火の用意をし、野営の準備を始める。
何とか夕暮れまでに準備できほっとしたが、長く歩いたためみんな疲れている。
もう最後の夜だし、平原なのでかまどのそばにも焚火を作り、食事作りの明かりを確保した。
森の中で焚き木を集めてきて本当に良かった。ちょっと湿ってたし、持って歩くの大変だったんだけどね……。火付きは少々時間がかかるがないよりは全然いい。
残りの食材でライトがクリームパスタを作ってくれ、少し残った牛乳は私に瓶ごとくれた。
堅パンも1枚くれた。
「猫に。食材は足りてるから大丈夫だよ。でもこれで牛乳最後だから、明日まで持たせてね」
「ありがとう、ライト」
私は両方の食材とも、半分を自分のコツプに入れ、残りは自分の荷物に大切にしまった。
堅パンは柔らかくなるまで少し時間がかかったが、美味しかったみたいで黒猫もよく食べていた。
「明日、朝食を食べ、北口に昼までにたどり着けばいい」
ティエルノがほっとしたように言った。
「なんかそれほど大変じゃなかったな」とエドワード。
「いや、ライトの料理スキル、ネモの光魔法での探索、それに属性魔法の上位魔法が使えるメンバーが揃ってる1寮だから……だと思う。
それでも森を抜けるのに苦労したし。
他の寮はもっと過酷になっていると思うぞ」
セレナがとても疲れている。
光魔法をかけようとしたけれど、当番から外れて休ませてもらうから大丈夫と言われた。
ライトとエドワードが最初の当番。
次がウォロと私。
最後がティエルノとオードリー。
「ネモは大丈夫か?」
エドワードが心配してくれる。
「うん、まだ大丈夫。今日はかまどの警戒もしなくて良さそうだしね」
足元に座る黒猫に声をかける。
「パンばっかりで飽きない?
何か獲物を取りに行ってもいいんだよ」
黒猫はあくびをし、座る体勢からごろんと横になり、尻尾をパタンパタンと2回地面に打ちつけた。
「ネモから離れる気、なさそうだな」
ティエルノが笑った。
私が横になると、黒猫は背中の方に来て、自分の背中を預けるようにして丸くなる。
今日はたくさん歩いて、さすがに足が疲れた。
寝たと思ったら、エドワードに起こされる。
寝足りない……。けど起きなきゃ!
あくびをして伸びをして動き出すと、黒猫も一緒に起きてきて焚火の方へ来た。
「ふふ、君は寝てていいのに」
緑の目をまん丸くして私をじっと見ている。
あ、のどが渇いたのね。
なんとなくわかり、手から水を少し出すと、近づいてきて飲んだ。
私は焚火のやかんに水を足し、お茶を入れた。
エドワードはお茶を飲んでから寝ると言い、ライトはすぐ横になった。
エドワードとウォロで剣術大会や自主練の進め方などどうやろうかと話をしている。
私はなんとなく黒猫と目を合わせた。
頭を撫でようとして手を止め、手のひらを広げて下にする。
黒猫の方から近づいてきて、頭をぐいぐい押しつけるようにしてくる。
額や耳の後ろをくしくし掻いてあげるとうっとりと目を細めた。
私の足元にごろんとしたので背中も撫でる、とその右手をばっと抱え込まれて甘噛みされる。
「ちょっと痛いな」と言うと、手を離してくれるが、また背中を撫でるとばっと抱え込まれる。
遊んでるのか?!
爪は立てないし、甘噛みだから……、でも血が出ないほどの軽いひっかき傷がたくさんでき、ひりひりする。
「痛いから、もうおしまいね」
そう言うと、座る私の足に身体を何度も擦り付けてくる。
「明日、私達、学校に戻るの。
君はどうする? 一緒に来る?」
「ナウ」
返事……したよね?
「馬車に乗るけど、抱っこさせてくれる?」
すると足に擦りつきながら膝に乗ってきて、ぐるぐる言い始めた。
「いいんだね。じゃあ、明日は一緒に馬車乗ろうね」
頭や首のあたりをくしくし掻いてあげた。
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。