163 ネモへの思い(サーシャ視点)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
今回は他視点の話です。
どうぞよろしくお願いします。
ネモに好きだと言ってしまった。
ずっと隠していくつもりだったのに。
言うつもりはなかったのに、私の言葉で私に嫌われたくないと泣くネモの顔を見ていたら思わずキスしてしまい、拒絶され、思いを全部ぶちまけてしまった。
しかも、なんか強がって見せたりしちゃって……。
私は自分に自信がない。
でも、それを認めたくない気持ちがあり、つい強がってしまう。
自分でもバカだなと思うことがある。
魔法学校に入学して、少し息苦しかった子爵家の生活から離れることができたのに、未だに両親の『貴族令嬢らしく』『良い結婚相手を見つけること』『それが家の、あなたの幸せ』という言葉に縛られている私。
初めてネモに会った時、ドキドキした。
噂とは全然違う。
強いところも弱いところも全部隠さないそのしなやかで自然な姿に、そして、周りから奇異な目で見られても自分を曲げない、生き生きと自分を楽しんでいる生き方に。
ひとりで強がるのではなく、周囲の人達と自然に協力しあっている。
いつの間にか目を離せなくなって、たぶん恋、していたのだと思う。
女子なのに剣も魔法も強くて、隣国ミーア帝国の第3皇子の婚約者、そしてこの国の第2王子とも親しく、かっこいい上級生とも対等に話していつも笑っている。
こんな素敵な……、かっこいい、かわいい女の子が同じ学年に存在しているなんて、近くで見られるなんて、本当にありがとう!!
夏休みの後、学校にネモの姿がなかった。
休学しているという。
婚約者のウォロも、上級生のランスもいない。
2-1寮のみんなもそのことになると何を聞かれても答えない。
何が起きているの?
1年生のアルテイシアが、今回のことを知っているという話を聞いた。
私は話を聞きに行った。
アルテイシアの話によるとネモはウォロとランスと一緒にいるそう。
なんでそんなことを彼女が知っているのかというと、ミーア帝国と縁続きなのだそう。
ミーア帝国の方からの情報なのね。
それにアルテイシアもその兄のレイモンドも聖魔法使いで、ネモとウォロと同じ聖魔法クラスだし……。
ネモとは仲があまり良いようには見えなかったけれど。
他の子からアルテイシアの父のカルタロフ伯爵がミーア帝国で問題を起こしたらしいことは聞いたけれど詳しいことはわからなかった。
でも、ミーア帝国と縁があるということは確かよね。
エドワード王子がネモに恋してしまい、ウォロが怒ってネモをミーア帝国に連れ帰ってしまったという噂があり、なんだか納得できてしまった。
確かに前からエドワード様はネモを見る目が怪しいと思っていたのよね。
隠すなら私の様に上手に隠さないと!
エドワード様の失敗が原因なら……。
私の前からネモを奪ったのはエドワード様のせいじゃん!!
私は真実が知りたくて、2-1寮と仲の良い同寮のダリルに聞いたけれど「詳しいことは言えないけど違うから」と言われた。
詳しいこと、なんであんたが知ってんのよ! 教えろ! と思って、自分はネモのことが好きなことまで打ち明けていた。
結局教えてくれなかったけれど、私がネモを好きということを知っている人が、私以外にいるという事実がなんだかうれしかった。
好きな人を好きと言えるのがこんなに楽しいなんて!
ネモが学校に帰って来た。ウォロもランスも一緒に。
しかも聖魔法関係の先生達もその時期ふたりぐらいいなかったみたいだし。
2-1寮のみんなもネモも何も言わない。そのまま、何もなかったように以前の学校生活に戻った……わけじゃなかった。
エドワード様がネモを見ていることが以前より増えている。確実に!
さすがに周囲の女子達もそれに気がつき、ネモに対して文句を言うようになってきた。
ネモが悪く言われるのは嫌なんだけど……、私は両親からエドワード様に近付くようにそしてできれば婚約者になれ! と夏休みの間ずっと言われていた。
その時、ひらめいてしまったのだ。
そうよ、本当に私がエドワード様の婚約者になれれば、2-1寮にも自由に出入りできるし、ネモとも親しくなれる。
もしかしたら、いつも一緒にいるあのオードリーみたいな友人になれるかもしれない。
そうしたら……。
そう考えたら、ネモよりエドワード様に近付く方がよっぽど簡単に思えた。
私はエドワード様を狙っていてネモの悪口を言っている令嬢達に近付き情報を収集した。
そんな時、ネモ達が孤児院で聖女様の劇をやるという話を聞いた。
なにそれ観たい!!
エドワード様が勇者の役で、ネモが聖女。恋人の役ですって!!
何それ!!
情報源はアルテイシア。
彼女の兄がネモと最近親しく、聖魔法の薬作りでつながりがあるのだそう。
しかも、彼女は兄と一緒に病院でも上演された劇を見たとか!!
むー、ずるい!!
そんな時、エドワード様が2学期の終業式の前日に、1、2年生を集めて昼食会を開いてくれることになった。しかも場所は王城!!
何かネモに関する真実がわかるかも、劇を観せてくれちゃったり……はないか、5年生は忙しい時期だしね。
でも、このことがきっかけでネモにも話かけることができたし、それはそれで楽しみと思っていたら、とんでもなかった。
本当のことがわかったのは良かったけど、アルテイシアがネモに対してとんでもないことを企んで動いていたことがわかったから。
私も知らずにそれに加担していたわけで……。
でも、もっと衝撃だったのはネモの休学の理由だった。
まさか王城から誘拐されていたなんて!!
ウォロもエドワード様も、オードリーも、何してたのよ!!
私だったら、ネモをそんな目に合わさせないわ!
私はエドワード様に近付くためのアプローチを頑張ることにした。
それが……、ネモに思いをぶちまけるきっかけになってしまうだなんてね。
でも、もう告白したら後には退けない。
そうしたら、休学していたアルテイシアが少しずつ復学することになり、教育係にネモがなった。
どういうこと?
ネモもアルテイシアもお互い嫌い合っていたんじゃないの?
王城からスクールカウンセラーとして派遣されてきたランスの入れ知恵ね!
ネモに嫌なことをさせるんじゃないわよ!
でも、私の心配やネモを思っていることはなかなかネモに届かない。
エドワード様やランスに働きかけても訴えてもまるで手ごたえがない。
ネモが花祭りで付き添いか女神をするのでは? という噂があり、私は付き添いを引き受けた。
それなのにネモはどちらもしないという。
いいわ、そっちがその気なら、私がアルテイシアを追い出してやるから。
火曜日、ネモ達と2-1寮の3人がランチを一緒に食べていた。
アルテイシアを復学させようとみんな必死なのね。
アルテイシアの化けの皮を剥がして退学させてやる。
水曜日、私は昼休みに生徒会室に行き、付き添いの辞退を申し出た。
花祭りまであと3日ですもの、大問題になること間違いなし。
引き留められたけど、できないと突っぱねて生徒会室を出た。
これで役員は緊急招集されるでしょ。
アルテイシアがひとりになる隙ができるはず。
放課後、役員達が駆けずり回り招集をかけているのが見えた。
ネモ達にも伝えられ、こちらを見る。
でも、誰も話かけては来ない。
ネモ達はいつもの様に2年の教室に向かい、アルテイシアを連れて教職員棟に戻ってきた。
カトレア先生の部屋に行くと、思った通りネモとミカとオードリーだけ出て来て、生徒会室に向かう様子。
思った通り。
私はカトレア先生の部屋のドアをノックして「ネモからの伝言を預かってきた」と伝える。
アルテイシアがドアを開け、私を見て息を飲んだ。
私は部屋の中に強引に入り、ドアを閉めた。
「アルテイシア、お久しぶり」
「サーシャ……、あの時はごめんなさい」
アルテイシアが殊勝に謝ってくる。
調子狂うな。でも、これが化けの皮だと思えば……。
「ネモのこと嫌ってたのに、ずいぶん懐いてるみたいね。
でも、ネモはあんたのこと嫌いだから!
早く学校をやめてくれない?!」
私の言葉に驚いたような表情をするアルテイシア。
「前の私は確かに嫌われてた……。でも、今はやり直してるの。
ネモのことが好き。姉様みたいに思ってる」
「あなたが思っていてもね。ネモは未だに許してないと思うけど」
「そんなことない!」
「考えて見なさいよ。
あなた、戻って来てから、ウォロやエドワードと話しさせてもらえてないんじゃない?」
「えっ?」
「そうでしょ。ネモ、あなたがウォロに近付くのをすごく嫌がってた。まだそれを引きずってるのよ。
あなたの教育係をしているけど、あなたのことはまだ心の底から許せていない……」
アルテイシアが動揺した。
「あ、……でも、そういういろいろな感情が複雑なのが人間だから。ネモだって、私だって……」
「ネモとあんたを一緒にするんじゃないわよ」
「えっ? ネモを? サーシャ、あなた何をしたいの?」
アルテイシアに本心を見抜かれそうになり、私の方が慌ててしまう。
「とにかく、ネモのためにも退学して」
「嫌よ。それはネモの言葉じゃない!」
「ネモはあんたのこと嫌ってるのよ。婚約者のウォロに未だにあんたを近づけようとしないのがその証拠。
許してたら、ミカじゃなくて、ウォロが一緒に教育係やってるはずでしょ!」
「……それはそうだけど……」
「ネモはあんたを騙しているのよ」
「そんなことない! ネモは私のこと、心配して、許そうとしてくれてる!!」
「自分でもわかってるでしょ? 自分がしたこと、ひどいことばかりだって、花祭りの魔道具、ネモに対する噂、そして病院の子ど……」
「やめて! やめて! 思い出させないで!」
うん、いい感じ。これで私を魔法で攻撃してくれたら。
私が攻撃を受けて怪我をすれば、大問題になり、アルテイシアは確実に退学になる。
「病院の子どもを傷つけて……。ひどいわよね、死んだ母親のこと言ってさ。
ネモ、すごく怒ってたわよね」
「いや、もう言わないで!」
アルテイシアが水魔法を発動しようとする気配がした。
さあ、こい!
「アルテイシア!」
ドアが開いてネモが飛び込んで来た。
ウォロとオードリーとミカが来て私を連れ出そうとする。
私は連れ出されながら見た。
ネモがアルテイシアの水魔法を光魔法で包み込むように抑えてしまったのを。
「あと少しだったのに」
私の言葉にウォロが言った。
「次からは容赦しないと言ったろ」
「あんた性格悪すぎ」とミカがぼそっと言った。
性格が悪い?
「ネモが好きなだけなんだけど、な」
私の呟きにオードリーが顔を歪めた。
「好きだから、何してもいいわけじゃないでしょ。
ネモがしてきた努力を、サーシャは壊すところだったんだよ!!」
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