159 嫉妬の行方
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
月曜日からアルテイシアの教育係が始まった。
朝はカトレア先生ち朝食を食べ、ランスと教室へ。
午前授業を受ける。先生方が交代で見守り。
昼休みになると私とオードリーとミカで2年生の教室に迎えに行き、食堂に向かう。
「ネモ、手を繋いでいい?」
アルテイシアに言われて、ちょっとたじろぐが「いいよ」と手を繋ぐ。
「ネモの手、気持ちいい!」
ありゃ、アルテイシアまで変な方向に……じゃないよね?
「ネモみたいな姉様がいたら、私も寂しくなかったのかな……」
「レイモンドもいいお兄さんでしょ?」
「兄様は……小さい時はもっと冷たい感じだったから……」
あー、妹をかわいがるけど、ややこしくなると面倒くさいと思っていた系な兄か?!
以前のレイモンドの感じを思い出すと、なんとなくわかる。
育て直しか……。メイド長もマリアも最初は大変だったんだろうな。
小さい子に接するような気持でいないとな。うん。
食堂に入り、席を探しているとウォロとエドワードとティエルノがテラス席の隣のテーブル席を取っておいてくれていた。
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
アルテイシアがぺこりとお辞儀した。
3人が「……おお」という感じで頷く。
オードリーとミカに先に取りに行ってもらう。
その間、アルテイシアは私と手を繋いでじっとしていた。
まあ、周りから見られてるのもあり、緊張していたのかも。
「授業はどうだった?
わからないところがあったら放課後教えるからね」
「ありがとう。あの、なんで、こんなに優しくしてくれるの?」
「えっ、教育係だし。……アルテイシアと仲良くなれれば……なりたいし」
それは本当。
以前あったアレルギー並みの嫌悪感みたいなのはだいぶ薄れている。
でも、まだウォロには近づいて欲しくない……。
「私、昨日ひどいこと言ったのに……。あの後、また考えたの。
私、ネモに負けたくないって思っていたことに気がついた。
ミーアにもウォルフライトにも。
なんであんなに負けたくないって思っていたのか……、今、考えてもよくわからない………」
「負けたくないって気持ちは普通のことだけど。
相手を貶めるために攻撃することにはならないよね。
負けたくない相手には正々堂々挑んだ方が、勝った時もうれしいし自信になるんじゃない?
負けても相手を認められると思うよ」
「そうね……。考えてみる」
オードリー達が戻って来たので、私とアルテイシアが受け取りに行く。
なんとなく、ウォロとエドワードが離れて付いて来ているのがわかった。
アルテイシアは気がついていない様子。
同じメニューにすると言うので、日替わり定食にして紅茶を受け取り、一緒に席に戻る。
ミカとオードリーは食べ始めていてくれた。
「先に食べてたよ! ごめんね!」
オードリーの言葉に「いいよいいよ。ミカのクラスは次、実習場でしょ?」と答える。
「先に食べるのはいけないこと?」
アルテイシアが聞くので説明する。
「初めて誘い合って食事をするような友達だったらみんなが揃うまで待っているというマナーがあるかな。
でも、私達は知り合いだし、それにお互いの時間割もわかってる。急ぎたいのか、余裕あるのか。
急ぎの時には先に食べ始めたほうがいいよね。
オードリーみたいに一言ごめんねと言ってくれれば、お互い気持ちもいいでしょ?」
「はい、わかります」
「うん、じゃあ頂きます!」「頂きます!」
4人で食事をして、アルテイシアの授業の先生の名前を聞いて、先生の話題で盛りあがったりした。
ミカが「ごめん、実習場なので抜けさせてもらう! じゃ、アルテイシア、放課後な!」と言って席を立った。
「後でね! 実習頑張れ!」と見送る。
「彼は、ミカは4寮ですよね。その……平民?」
「うん、そうだけど。ここではそういうことは関係ないよ。
友達として好きになったのがミカだから。身分は関係ない」
「あ、ごめんなさい……」
「責めてるわけじゃないよ。アルテイシアも身分とかにこだわらず、気の合ういい友達と出会えるといいね」
頷くアルテイシア。
「王城でも……。王城でも仲よくしてくれるメイド仲間は平民の子が多くて……」
「うん」
「その、昔の私は……、ひどいこと考えてたな、と」
「うん。気づけたならいいんじゃない。
食べ終わったら、教室まで送るよ」
「はい!」
教室まで送り、次の見守りのクラウス先生に引継ぎする。
「じゃあ放課後、迎えに来ます」
「よろしく頼む」
「じゃ、アルテイシア、後でね!」
アルテイシアが小さく手を振るので、こちらも手を挙げて応えた
「なんか、アルテイシア、ずいぶん変わったね」
オードリーが歩きながら言った。
「うん、メイド長ってすごい人なんだね?!」
「そうだね。昨日はまだつんつんしてたけど、今日はずいぶん素直じゃない?!」
私達は1、2寮で受ける座学の教室に行った。
ウォロ達はもう来ていて、私達は隣に滑り込むように座る。
「間に合ったな。ちょっとハラハラしてた」
ティエルノが前の席から振り向いて言った。
こちらを見ていたサーシャが立ち上がりかけるのが見えたが、先生が入って来て、私達は前を見た。
5時間目が終わり、6時間目までの短い休み時間。
サーシャがこちらに来た。
「ネモ、アルテイシアの教育係になったって本当?」
「うん、本当」
「外してもらうように先生に言おうか?」
「なんで? アルテイシア、すごく変わったよ」
オードリーも言った。
「すごく素直な感じになってた。
ネモと手を繋ぎたがってさ。ネモの手、気持ちいいんだって!」
うん? オードリー、なんか煽ってない?!
前に意地悪されたことへの仕返しか?!
「手を?」
サーシャが私の手を見てくる。
「ネモがお姉様だったらみたいなことも言ってた。
心配してくれてるようなことはなさそう。大丈夫よ」
にこやかに言うオードリーに無表情のサーシャ……。
チャイムが鳴り、先生が戻ってきた。
「オードリー、絡まない方がいいって!」
私が小さい声で言うと、唇を突き出してきた。
授業が終わり、アルテイシアを迎えに行かないといけない!!
立ち上がるとウォロが軽く抱きしめてきて、頬にキスしてきた。
「頑張れ、自分も我慢しているから」
そう囁かれて、笑ってしまう。
「後でね」
囁き返して頬にキスし返した。
教室を出る時、サーシャがエドワードに何か話しかけているのが見えた、が気にせず離れる。
エドワードにティエルノ、ウォロ頑張れ!
アルテイシアを迎えに行き、カトレア先生の部屋で、勉強を見ているとミカが来てくれた。
ミカとオードリーに任せて、ラボの方に行かせてもらう。
「ちょっと自分の研究で離れるけど、30分ほどで戻るから!」
ラボに行くとレイモンドがいて私を待っていた。
「ネモ! その、アルテイシアの……」
「うん、アルテイシアの教育係始めたよ。
今はカトレア先生の部屋でオードリーとミカが一緒に勉強してくれてる。
だいぶ、変わってたよ。素直になってるし」
「私も会って平気だろうか?」
うーん、さっきの話からだと、もう少し離れてた方がいいかな?
「子どもの頃のこととか話し出してるから、もう少し期間を置いた方がいいかも?」
「子どもの頃? 僕のことを?」
レイモンドが慌てて一人称が僕になってる!!
「レイモンドって慌てたりすると、僕になる人なんだね!!」
レイモンドが赤くなる。
「ごめん、私の兄様も僕から私に移行した人で、ちょっと懐かしくて!
アルテイシア、子どもの頃、寂しかったって言ってるから、もう少し心の中のことを吐き出させたほうがいいかも。
大丈夫だと思えたら、レイモンドにも知らせるよ」
「うん、ありがとう。よろしく頼む」
「レイモンドも生徒会があるでしょ?
ベース薬の確認だけでもしちゃおう!」
ふたりで確認して、ラボは閉めた。
カトレア先生の部屋に戻り、カトレア先生が戻ってきたら、私達は寮に帰る。
「じゃ、また明日の昼にね!」
「ネモ、オードリー、ミカ! 今日はありがとうございました」
アルテイシアがペコリとお辞儀してくれ、カトレア先生がびっくりしていた。
歩きながらミカが言った。
「ネモがいない時も全然態度変わらなかったよ。
まあ、初日だからかも、だけど」
「こっちはサーシャがどう動いてたかだね。ミカ、1寮寄っていきなよ。
弱ってるエドワード見れるかもよ」
オードリーの言葉に笑うミカ。
「何それ?」
寮に入ると、本当にエドワードが弱って、ソファに座りこんでいた。
ティエルノやウォロの話を聞くと、いきなりサーシャがエドワードに、ネモがアルテイシアの教育係をするのは納得がいかない! と話しかけてきたのだという。
ティエルノが俺が寮長だから、話は俺にと言ったが、聞かずにエドワードにネモがかわいそうだ、王家はいつもそうだ、ネモに負担をかけて! みたいに責めてきたという。
エドワードがはっとしたように叫んだ。
「ウォロとネモが授業終わりにいちゃつくからだぞ!」
オードリーも煽ってましたけど……。
「セレナとライトは?」
私が聞くとウォロが答えた。
「図書館で勉強してくるって。
あのふたりは本当にマイペースだよな~」
「ま、それがいいんじゃない。
みんなどうしようって?! ってなってて穏やかじゃない寮じゃ、心が癒されないもん」
「俺だけ大変な気がする……」
エドワードがぶつぶつ言う。
私がため息をつき、エドワードの隣に座って手を握り光魔法をかけ始めると、ウォロの部屋からランスが現れた。
「!! ラボ閉めたのに!」
「カトレア先生に鍵借りた。
ネモ、次は俺にもかけて!」
「ウォロ、頼んだ」
私の声にウォロが苦笑いしながらランスの手を取る。
「またお前かよ!!」
読んで下さりありがとうございます。
ランスの「またお前かよ!!」が書けてうれしい……。
今日は、夕方にも投稿する予定です。
これからもどうぞよろしくお願いします。