151 大切な人(レイモンド視点)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
最初は敵意しかなかった。
アリス様に意地悪く暴力的な異母妹と聞いていたし、噂もそれを裏付けるものばかりだったからだ。
父が恨みを持つミーアの皇子の婚約者でもあるし……。
会ってしばらくすると噂とはかなり違うな……とは思ったものの、自分を引き立ててくれていたアリス様の敵なのだと思い、聖魔法の授業ではできるだけアリス様から離れないようにしていた。
ミーアへの恨みならばウォロの方に向ければよかったのに、アリス様のことがあるとはいえネモの動向の方が気になったのは確か。
アリス様が自分を見失うように周囲からの信頼を失っていく中、ネモもウォロも楽しそうに学校生活を楽しんでいる。
逞しいというか、自然体というか……。
その飾らなさに自分が抱いていた敵対心は戸惑いになり……。
夏休み後、アリス様が学校へ来なくなると私は自分の居場所を見失いそうになった。
そんな中でも、ネモとウォロは変わらず。
そんなふたりにイラついたりすることもあったが、2年生の中で自分の居場所を守ることに私は専念していた。
剣術でも、魔法対戦でもウォロ達1年生は強かった。
特にウォロとネモの活躍が目立ち、彼女がいるからウォロは頑張れるのだろうという姿を何度も見せられた。
そんな話をつい父にしてしまっていた。
父はミーア帝国の皇室の血を引いているが故に、ミーアに長年縛り付けられ苦しんだ過去がある。
ミーアの皇子とその婚約者の話をすれば、父がこのふたりを、特に皇子であるウォロの弱味ともいえるネモを狙うことはわかっていたように思う。
なんだろう、そのときはネモに対して、かなり複雑な気持ちを抱いていたのだと思う。
魔法対戦大会ではこっそり大会を見に来ていたアリス様を見つけ出し、アンドレアス王子の所まで連れて行ったネモ。
それがきっかけでアリス様は学校に戻ることができた。
私は恥ずかしくなった。
アリス様のことを心配していながらも、何もしていなかったことを突きつけられているような気がした。
私はアリス様とも距離を取ることにした。
なんだかいろいろな事やものの価値観がひっくり返ったような……。
その中でもネモだけが変わらなかった。
傷ついても微笑んで、ウォロと周囲の人々と協力して乗り越えていく。
年度が替わり私の妹アルテイシアが入学すると、私は自分の悩みどころではなくなった。
アルテイシアは問題児だった。
3歳で母を亡くし、我儘に育ててきてしまったと思う。
父も私も甘やかし、彼女が嫌な思いをすることがないように、嫌な相手への処し方を……、処し方というよりは戦い方を教えてしまっていたかもしれない。
そうした方が楽だったということもあったと思う。
そのしっぺ返しというか……。
アルテイシアが入学してから私はその報いを受けることになった。
アルテイシアが問題を起こさないように……というか、起こした問題の尻拭いというか……。
そんなことに始終追われるようになった。
エドワード王子を追いかけていたアルテイシアにネモはすっかり嫌われ、敵認定されてしまったようだ。
ウォロもミーア帝国皇子ということで興味を引いてしまい……。
花祭りでは父にねだった魔道具を使い大事件を起こし、その場に国王陛下もいたことから、父が学校へ呼ばれることになった。
そこで父もウォロを攻撃するより、ネモを狙った方が効果があると判断したようだ。
私はどうすることもできず、とりあえずアルテイシアがこれ以上問題を起こさないように見ているだけしかできなかった。
とうとう父が大きな事件を起こし行方をくらました。
逆に私はほっとしていた。
父が失敗したことに。
祖父の願いで何とか家名は存続できることになったが、アルテイシアも私も寮を出て先生の監視付きとなったが学校生活を続けることができた。
私はむしろ、アルテイシアを追いかけ回さなくて済むようになったので、楽になった。
夏休みに入り、ネモやウォロ、エドワード王子達がミーアへ旅行に行ったと思ったら、父がミーアで事件を起こし捕えられたと知らせがあった。
私達は夏休みも家に帰れず、学校の中で過ごしていたが、父が捕らえられたことで、逆に家に帰宅を許され、夏休み後は寮に戻れることになった。
そして夏休みの終わりに、ネモが誘拐され、ウォルフライト王国とミーア帝国の両陛下からネモを助けるよう父が依頼されたことを知った。
父が会いに来るので、話をするようにカトレア先生に言われていた。
私はネモを助けてくれるように心からそう思って話をした。
「そうか、お前もネモフィラを好きなのか?」
そう問われ、一瞬にして複雑な気持ちの、今までのことが思い出された。
「それはわからないけど……、学校に入学して2年生の時にネモとウォロが入学してきた。
僕はふたりにつらく当たった。なんでかというと、父様が怒っていたミーアの皇子だし、その婚約者だし、アリス様とも仲が良くないと聞いていたからだ。
でも、違うんだ。あのふたりは、本当に。いい奴なんだ。一緒に過ごすとわかる。
父様もずっと狙っているうちに……、本当はふたりのこと好きになったんじゃない?
そういうふたりなんだよ。国とかそういうのじゃなく!!」
父の表情が柔らかくなった。
私の気持ちが伝わったと思った。
「わかった、努力してみよう」
父はネモがさらわれたという国へ向かってくれた。
日数は掛かったが、父はウォロ達と協力してネモを救い出すことに成功し、帰国してから王城で過ごしていた。
ネモは学校生活に戻り、聖魔法の授業や放課後を使って魔法薬の研究と作成を始めた。
私も興味があり、申し出て一緒にさせてもらえることになった。
私自身の聖魔法、これをどう生かしたらいいのか、悩んでいた。
ネモやウォロの様に戦いで使えるほど私の聖魔法の力は強くない。
たぶん魔道具作りだと父を超えることはできないだろう。
そう思いながら、興味を持てないまま取り組むよりも……、違う道ではどうだろう。
そこにネモが『魔法薬』という道を示してくれたのだ。
ネモとの薬作りは楽しかった。
アルテイシアがまた1、2年生の女子の間で何かやっているようだったが、トラブルになっている様子もなかったので油断していた。
むしろ、友人と過ごすアルテイシアを見て、改心してくれているとすら思っていた。
そのため、ネモとの薬作りに誘えないかと、病院へも連れて行ったりしていたのだ。
しかし、ネモを貶めるような噂を流そうとしたり、病院の医師の子どもを傷つけるようなことをしていたとは……。
ネモ達に知らされ、私は父を説得し、アルテイシアに改心してもらうために、1、2年生全員の前での断罪に賛成した。
しかし、あそこまでアルテイシアが非を認めないとは……。
魔法を発動させ暴れ始めたので、私は飛び出して行ったのだが、さらに魔法で攻撃を続けようとしてきた。
私はネモを助けようとして魔法攻撃に巻き込まれた。
魔法の実際の攻撃をくらったのは初めてで、私は意識が飛びそうになった。
ネモがひとりでアルテイシアに向かっていくのが見えた。
そして、気がついたらアルテイシアは取り押さえられ、ネモがそばに来てくれた。
その時、エドワード王子に言われた。
「レイモンドがかばって抱きしめなければ、ネモはあんな水魔法打ち返せてたんだよ」
「えっ?」
私は間抜けな声を出してしまった。
そうだ、ネモは1年の時から魔法対戦大会に出場するほどの属性魔法の使い手でもあった。
情けない……。
私は思わず、すまないという気持ちを込めてネモを見た。
「うん、でも、あわてて打ち返してたら離宮もアルテイシアも無事かどうかだったから、まあ、いいんじゃない。
レイモンド、背中見ようか」
ネモはそれだけ言うと私の手を握り、治療をしてくれた。
そうか、彼女は対戦ではない魔法の攻撃を受けたことがあるから、そこまで考えてくれていたんだ。
「打ち身のあざがこれから出るかもね。少し治療したけど、命に別状はない症状だから、これぐらいにしておくね。痛みがひどかったら、また言って」
私のせいで一緒に魔法に巻き込まれたのに、私を労わってくれて責めることなく普通に接してくれた。
今のネモは私にとって……。
一言でいうなら『大切な人』だ。
守りたいと思うし、そばにいると良い方向に進んで行けるよう、な。
ウォロのことは羨ましく思うが、恋人にしたいとか……、そういう好きではない。
家族とか妹のようでもない。友達とも違うような……。
なんと言っていいかわからないが……、今の私にとって、ネモは大切な人だ。
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