145 突きつけられた事実
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
アルテイシアが言った。
「私はそんなこと話していないです」
サーシャが慌てて叫ぶように言う。
「エドワード王子がネモのことを気に入っている……って話してたじゃない!!」
「はい、私が言ったのはそれだけです。後はあなたが作った噂でしょう」
「なんですって?!」
1ー2の女子が手を挙げて答える。
「私はアルテイシアから2-1のウォロとネモは一緒にいるのだと聞いていました。
でも、今の話だと、ネモは誘拐されていて、探していたんだから、一緒ではないですよね?」
「同じ国にいれば一緒でしょ!」
アルテイシアが噛みつくように言う。
「でも、ミーア帝国じゃないでしょ?」
「私、ミーア帝国だなんて言ってないわよ!」
「えっ、だって……」
「それもあなたが勝手にそう思って、他の人に話したんでしょ!!」
その1年女子の顔が青ざめて、すとんと座りこんで泣き始める。周りの女子が慰めている。
アルテイシアが隣の席の女子に言った。
「いやねぇ。自分達で噂をでっちあげてるのに私のせいにしようとするなんて!!」
言われた女子は引き攣ったような笑みを浮かべ、椅子をずらしてアルテイシアから少しでも距離を取ろうとしているように見えた。
それが気に障ったのかアルテイシアがその女子の手を乱暴につかんだ。
「私達は親友でしょ?!」
手をつかまれた女子は泣き出した。
「手を離してやれよ。嫌がってるじゃないか!」
同じ寮の男子が言うがアルテイシアに睨まれ怯む。
「嫌がってるってなによ!!
いつも私のそばにいられてうれしいって言ってるのよ!
都合が悪くなると逃げようとするなんて、ひどくない?!」
泣いている女子がびっくりした顔をした。
「私、アルテイシアがかわいそうで……、そばにいたけど……」
「かわいそう? あなたごときが何を言っているの?!
あなたは私に憧れてそばにいたんでしょ!
聖魔法持ちで、伯爵令嬢で、情報通な私のことをいつも褒めていたじゃない!!」
「それは、いつもひとりでかわいそうだから……」
「そうね、ルーシーはいつもアルテイシアと一緒にいたわよね」
1-1の違う女子が急に話し出した。
「いつも一緒じゃないわ!」
ルーシーと呼ばれた子がアルテイシアの手を払って叫んだ。
「そう? 私達にしてみれば、私達に相手にされないから、ぼっちのふたりでくっついていると思っていたけど」
わ、すごい毒舌だけど、本音で話しているところは好きかも。
「私が相手にされてないって……、逆よ!
私達があなた達を相手にしていなかったのよ!!」
アルテイシアが言い返す。
1-1の女子……、すげーなー。
周囲の男子も引いている。
1-2寮のさっきとは違う女子が手を挙げ発言する。
「私はランス先輩がいないのもネモとトラブルがあったからだとアルテイシアから聞きました。
その時、1、2年の女子が何人か一緒にいました」
「その場に私もいたわ!」と2年のサーシャが立ち上がる。
「それも嘘だったってことね!」
どんどん女子同士の言い争いが起こりそうになりティエルノが慌てて止めた。
「わかった! 1、2年の女子がしていた噂の元になったのは1-1のアルテイシアの言動ということで間違いなさそうだな!」
女子達が大きく頷く。こわー。
アルテイシアがイライラしたようにルーシーを見た。
ルーシーが怯える。
そこにさっきのボッチ発言の令嬢が助け舟を出した。
「ネイサン、ルーシーと席を代わってあげて」
ネイサンと呼ばれた男子が立ち上がりルーシーを立たせてそこに座る。
ルーシーはネイサンの席、つまり令嬢の隣に座った。
「あのままそばにいたら、あなたのせいにさせられていたかもよ」
令嬢の言葉にルーシーの肩がびくっと大きく震えた。
私は隣の席のセレナに聞いた。
「彼女は?」
「あの冷静な感じの令嬢?」
「うん」
「あの方はエーデル辺境伯爵令嬢のエリザベス様よ」
へー。私と同じ辺境伯爵令嬢か。
エドワードが言った。
「アルテイシア、他の女子の話を聞くと、君が嘘の情報を流したことによって、さまざまなひどい噂が流れたように見えるが……」
「ひどいわ! 私は何もしていません! 信じて!」
「信じてと言われても……。
俺は君を信じられない。花祭りの時の魔道具のことを覚えているか?」
「魔道具?」「花祭りの時って?」「花祭りの時いなかったよね?!」と周囲がざわざわする。
「食堂で、俺達を魔道具で脅かしたよな。
陛下の侍従も魔道具の効果で傷つけて……」
「脅かしていません! お願いしたんです!
それなのにネモが邪魔して!!
そう、いつだって、ネモが私の邪魔をして!!
ネモこそ悪役令嬢です!!」
エリザベスが「どっちが悪役令嬢なんだか?!」とぼそっと言った。
小さな声だったのに、シーンとしていた会場中にその声は響いた。
「あら失礼」
エリザベスが茶目っ気のある様子で謝る。
アルテイシアが怒りと恥ずかしさで真っ赤になりながら立ち上がり叫ぶ。
「私が悪役令嬢なわけないでしょう?!」
ティエルノが気を取り直して言った。
「アルテイシア、君は病院でも小さな子どもにひどいことを言ったね」
アルテイシアが一瞬動揺した。
「何のことでしょう? これ以上私を貶めようとするなら、お父様を呼んで!!」
「貶めようとなんかしていない。ただ真実を明らかにしたいだけだ」
エドワードが合図すると、ドアが開けられマーリン先生とクルト、キャサリン先生、クラウス先生、カトレア先生が入ってきた。
クルトがたくさんの人を前にして怯えた表情を見せる。
私は立ち上がろうとしてウォロに止められた。
「クルト、ネモのために頑張っているんだ。かっこいいとこ見ていてやれ」
クラウス先生が説明を始めた。
「我が校の生徒が先日、病院でこの小さなクルトにひどいことを言ったそうだ。
クルトは今年の夏に母親を亡くしている。
そのクルトに、ネモは病気を治す力を持っているのに隠していて、ウォルフライト王国の国民を助けるつもりがない、クルトの母親も助けられたのに助けなかった……というような、ひどいことを言ったそうだ。
クルト、君にそう言った人はここにいるかな?」
クルトは真剣な表情でたくさんのテーブルを見回して、アルテイシアを見つけた。
「あのお姉さんだよ!! ネモに頼まれて薬を届けに来たって! 仲良しだって言ってた!」
クルトの必死な声にみんな言葉をなくしてアルテイシアを見る。
「嘘よ! その子は嘘をついているんだわ! それともネモに頼まれて、私を貶める手伝いをしているのよ! きっとそう! ね! そうよ!!」
誰も何も答えない。
怒りや憐れみや、呆れ果てたような……様々な表情でアルテイシアをただ見つめるばかりだ。
アルテイシアは椅子から立ち上がり後ろへ下がる。
「何? なんで私が責められるの?
だってネモが悪いのよ!
私の邪魔ばかりして、エドワード様もウォロ様もネモの事ばかり見て、私の話を聞いてくれないし!
こうでもしなきゃ、ネモを学校からこの国から排除できないと思ったのよ!」
私はクルトに駆け寄り抱きしめて「ありがとう、クルト」と言って、マーリン先生とキャサリン先生と一緒に大広間から出てもらった。
こんなところ、もうクルトに見せたくなかったから。
「ほら見て! ネモがあの子を外に出したわ!
これ以上話をさせるとぼろが出るからでしょう!
このすました顔して! 悪役令嬢のくせに聖女の役なんかやるんじゃないわよ!!」
「あなたが私を憎んでいることはよくわかったわ!!
だけど、そのために周囲の仲間や全然関係のない小さな子どもを巻き込んで利用して傷つけたこと、まだわかんないの?!」
私は叫んだ。
「傷つける? 何それ!
私を傷つけているのは悪役令嬢のあなたでしょ!」
アルテイシアがルーシーを見る。
「私がルーシーを利用してた? いいえ、ルーシーが私を利用していたのよ。
私がいろいろなことを知っていると、みんなから注目されて、それを利用してくっついていたのはルーシー。私の方が利用されてた!」
ルーシーが立ち上がりこちらに逃げてこようとする。
「待ちなさい!」
アルテイシアの声とともに火魔法が発動した。
ルーシーを追いかけるように火の玉が打ち出される。
私はルーシーに駆け寄りながら火魔法の範囲内をアイスファイアで覆って防御する。
ライトが私の後ろからアイスファイアの防御壁をさらに展開して、アルテイシアを壁際まで追いつめる。
ランスとミカとダリルが攻撃に巻き込まれそうな人を誘導して安全なところに逃がしてくれた。
「なんで、私ばかりいじめるの!」
アルテイシアの悲痛な声が響く。
「なんで?! あなたが先に仕掛けてきているんでしょ?
私達はそれを防いだり、やり返したりしているだけ!
あなたはいじめられてる、利用されている、傷つけられ、貶められてると言う。
あなたは先に私や他の人にそれをしてきているのよ!
まだわからない?!」
「だって、私は正しいから。
私がしたいようにするのが正しいことだから!
それにより人が傷つくのは当たり前の事じゃない!!」
話が通じない?!
読んで下さりありがとうございます。
午後投稿する予定です。
これからもどうぞよろしくお願いします。




