130 創造神様
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
ウォロが緊張した表情で、アリスを抱きしめている私をさらに上から抱きしめる。
『ユーチャリス、本当に消えたいの?』
声だけが光の中から響いてくる。
私にはあどけない子どもの声に聞こえた。
ユーチャリスが身体を震わせた。
『本気じゃないことは言わないでくれる。
心の中は未練だらけじゃない、アンドレアスへの。
それに、君が消えたら、今のアンドレアスも消えるから』
アリスが驚いて顔を上げた。
『当然でしょ?
あの世界の君が関わった人達は消えて、別の人物になると思って。
それでも本当に消えたいなら、最後に願いを叶えるけど』
アリスの目から涙が零れる。
「いや……、アンドレアスが消えるなんて、いなくなるなんて。
あんなに王子としているために、私のために、努力して守ろうとしてくれてたアンドレアスがいなくなるなんて、ダメ!!」
良かった。
これがアリスの、ユーチャリスの本心だろう。
私はほっとした。
『デルフィニウムも本当にこのままでいいの?
もし神に戻りたいなら、これが最後のチャンスだよ。今しか戻れないけど?』
「はい、私は……、自分はこのままネモフィラと一緒に人間として生きて行きます」
ウォロの声が私の頭や背中に温かく響く。
『そうか……。それは寂しいけれど。
恵実、何度も大変な人生を歩ませてすまない。
今なら、君には最初から幸せで豊かな人生も用意できるけど、どうする?』
「いや! 私はこのままがいいです。
ウォロと一緒に生きて行きたい。それにこれからも一緒に生きて行きたい大切な人達ばかりです!」
『わかったよ。デルフィニウムが転生の許可を取りに来た時から、こんなことになるんじゃないかと思っていたんだけど……。
もし戻りたいとなってもそれはいい経験かなと思ったからさ。
わかった。
ユーチャリス、デルフィニウム。
もう神には戻れないが、それでいいんだね?』
「「はい!」」
ふたりが力強く返事をして、アリスが私をぎゅっと抱きしめてくる。
周囲の様子が黒く変わった。
アリスの瘴気混じりの闇の力が引いて行き、私を真ん中に抱きしめているアリスとウォロの姿がみんなに見えるようになったのだと思う。
「アリス!」
アンドレアスの声がすぐ近くで聞こえた。
私はアンドレアスの姿を確認し、アリスから手を離した。
アリスがアンドレアスに抱きつき、大泣きして抱きしめられている。
私はウォロに向き直るとウォロの頬に手を当てて、じっと見つめてから微笑んだ。
「ありがとう。愛してる」
「自分も」
アリスは泣きながらアンドレアスに抱っこされ連れて行かれ、私はウォロと練習場を離れて校庭の奥の方のベンチにふたりで腰かけていた。
「そういやマッちゃん大丈夫?」
私の声かけにマッちゃんの声が聞こえた。
『いや……。かなりびびったぞ……。あの光と声は創造神様か?』
「ああ、創造神様だ。きっと今でもこちらを見ていることだろう」
ウォロが静かな声で答えた。
「ウォロ、創造神様が言ってたけれど、私これからもいろいろ大変なことに巻き込まれるのかな?」
「あー、なんかそんなようなことを。でも、自分が付いているからきっと大丈夫」
『ウォロの方が大変かもな。アリスの言っていたヒロインはネモ……ということ、あながち間違いではないと思うぞ。
ネモだってわかっただろ?
ハイルもハイレディンもネモに惚れてたのが?』
ウォロが驚いて私を見る。
「どういうこと?!」
「え、ハイルは私のこと婚約者にするって言ってたでしょ?
あれ、本気だったみたいで……。
後、ハイレディンも治療して成長してきたら、なんかウォロみたいに私の頬に触ってきて、ウォロだとこのままキスする流れだと思ったから、ちょっとふざけてはぐらかしてみたり……があったけど……」
「何でそんなことになるの?!」
「私だってわかんないよ!」
「いや、ネモが油断しすぎなんだ!!」
「油断してないってば!」
「最近はレイモンドが怪しいよな……」
「えっ?」
「なんだかんだいってランスもエドワードもまだ怪しいし……」
「ウォロ? 大丈夫だよ。ねっ、マッちゃん!
私、ウォロしか見ていないし、みんなにちゃんとそう言ってるよね!!」
『ああ、ネモはウォロが大好きといつも言っている。
でもそれで相手を怒らせてしまうことも……』
マッちゃん、なんてこと言うんだ!!
「やっぱり……。ネモ、結婚できるようになったら、すぐ結婚しよう。
在学中でも何でもいいから!
それから今度の休み、最後に取っておいた、ひとつ絶対言うこと聞く権利使うから!!」
「なんで?! 魔法対戦の練習でしょ?!」
「魔法対戦より、ネモの方が大事!!」
私は笑ってしまった。
ウォロが抱きしめてくるのでその腕の中で言った。
「私もウォロの方が何より大事だけど……。
魔法対戦、悔いが残らないように頑張って取り組んで欲しいな」
「じゃあさ、絶対ひとつ言うこときく権利の3回目。魔法対戦で優勝したら約束して」
「えー、なんでそんなに回数溜めようとするかな?」
「1回しかないとなんか使うのもったいない……」
「わかったよ……。魔法対戦で優勝したら、ひとつ、言うこときくよ」
『そういえば、男を知っているのかとハイルに聞かれて、聞き返してたな?』
マッちゃん?!
せっかく落ち着いたのに、なにひっくり返してんねん!!
「あれは……、そのウォロとミーアの最後の晩に、途中だった言うこときく権利使いたいと言われて、あれは嫌なことは断わっていいって制限付きだったけど、その、けっこう、そのさ………。もう、恥ずかしいこと言わせんな!!」
私は自分の顔が赤くなってきたことを自覚しながら続けた。
「その、私的には、かなり頑張って、ウォロのことけっこう知ったんじゃないかと……」
『全然だな』
「なんでマッちゃんが答えるんだよ!!」
マッちゃんに言い返してウォロを見ると真っ赤になっている。
「ネモ、頑張ってくれてたの……」
「うん。ウォロのこと好きだから……、いやって言わないように……、頑張ったよ」
ふたりで真っ赤になって沈黙してしまった。
「おーい! ネモ、ウォロ! 寮に帰るぞ!!」
遠目からティエルノに声かけられて助かった。
次の日の昼休み、アンドレアスに生徒会室に呼ばれた。
私とウォロが行くと、カトレア先生とクラウス先生もいて、昨日のことを聞かれた。
アリスからも聞いたという。
「特に何も。ネモに負けた悔しさから闇魔法が暴走しかけて、ふたりで光魔法で中和しただけです」
ウォロが答えてくれた。
私も頷く。
「アリスは大丈夫?」
私はアンドレアスに聞いた。
「ちょっと落ち込んでいるが、元気だ。ありがとうネモ。
でも、あんなに強いのに魔法対戦代表落ちでいいのか?」
「うん、私の属性魔法は……、エドワードやウォロ、ライトやティエルノにも負けちゃうかな。
アリスとも属性魔法だけだったら負けてたよ、きっと」
「そうか。うん、わかった。でもその聖魔法の強さのおかげでアリスは助かったんだな。ありがとう」
本当はアリスとアンドレアスの愛の強さのおかげなんだけど……。
私は曖昧に頷いた。
「ネモ、カトレア先生から、ネモの光魔法についての考察を聞いたんだ。
今度、ゆっくり話せるか?
後、前から医療に光魔法のしびれる力を使えないかと言っていたよな。
病院の医師が話を聞きたいそうだ」
クラウス先生に言われた。
「あ、はい。いつでも大丈夫です!
病院に行くなら、薬も持って行きたいです。
レイモンドも一緒にいいですか?」
「クラウス先生、自分も行きます!」
ウォロが慌てて言った。
「ああ、じゃあ魔法対戦が終わったらにしよう」
クラウス先生はウォロを見て微笑んだ。
読んで下さりありがとうございます。
まだまだ続きます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




